【8】
久々に家族4人揃っての食事は話も弾み、賑やかに進んでいった。
領地の事や水質の件に触れない事に違和感を感じたけれど、もう少しで学園の新学期が始まる事もあってその話題が中心だった。
そうだ、そろそろ学園の事も考えなければ。
「それでは灯りを消しますね。おやすみなさいませ、お嬢様」
「おやすみなさい、ナタリー」
一礼して灯りを消し、ナタリーは部屋を出て行った。暗くなった室内でベッドに寝転がったままこの後について考える。
あと数日、一週間もない内に新学期が始まってしまう。初等部5年生になる訳だが、去年までの学園風景を思い出せば気も重くなる。メイルーンのせいでもあるが、色々と問題があり同級生の仲の悪さが異常なのだ。まず懸念の1つは、
「アーバハン……って、やっぱりミレイユ・アーバハンの事だよね…」
ミレイユ・アーバハン。
2年後に帝国を救うアーバハン男爵家の少女。外見を思い起こしてみるとゲームに出て来る主人公の外見と似ていて、アーバハン家で同年代の女の子は他にいないので確定だろう。同級生でありクラスこそ4年生の時は別であったが、諸々の理由からメイルーンは彼女を敵視していて前年度、ばっちり虐めてしまっている。
下っ端の悪役令嬢をけしかけ、授業を妨害し、実際に手を出した事もある。ゲーム本編では立場が違うが、ふふふ…と乾いた笑いが出るくらい現時点で結構やらかしている。子供って悪意なく虐めが出来るから凄いよね。いやメイルーンに悪意はあるんだけども。
また懸念のもう1つ。
彼女を敵視している諸々の事情と繋がっているのだが、皇室のゴタゴタと関係している。
「第一皇太子アインルーガ、第二皇太子ロンギヌス…2人の皇太子は派閥は対立し凌ぎを削っている」
端的に言えばメイルーンは婚約者であるアインルーガ側であり、ミレイユはロンギヌス側なのだ。双方は学園内でも派閥があり、クラス対抗の行事があれば荒れるくらい対立する。
メイルーンがアインルーガ側なのはしょうがない所もあった。皇帝陛下からの縁談を断れる貴族はいない。ちなみにアインルーガは第一皇太子だが出自が複雑な上、メイルーンと婚約者だったせいで2年後に皇位継承権を剥奪されるのだ。
ミレイユはロンギヌス側である理由は簡単で、第二皇太子ロンギヌスは攻略キャラの1人でもあり、本編を知っている私は彼が次期皇帝になると知っている。
皇室の問題に、主人公との関係性。初等部5年生にして、なかなか完成してしまっている。
枕元のランプを点灯し、日記を手繰り寄せる。思い出した事を書き出し、更に読み返す。
目下の目標は、クラスメイトとの関係性の解消。
そして何より、闇の魔法に手を出さない事。
前者はメイルーンの態度が改まった場合、多少は好転するだろうが皇室の問題は根深い。
後者はメイルーンのみの問題なので簡単…なはずだ。そして闇の魔法の手引きは、隣国である王国が裏で糸を引いていた。王国の接触をアインルーガに報告すれば、彼の功績にもなるはずだ。
そこまで日記に書き加えて、手を止める。
私は破滅したくない。お父様やお母様に死んで欲しくないし、ファクトヒルデ家の領民に迷惑をかけたくない。
でも2年後の古代海魔の復活を阻止するという事は、ゲームの根幹を破壊するに等しい。
主人公…ミレイユはウンディーネの名を戴く事が出来ないし、アインルーガが皇位継承権を失わないから更に皇室問題は激化する。
それに、2年後の古代海魔の封印の解除は弱体化による一時的なものでしかない。本当の封印の消滅は、7年後…ゲーム本編中にやってくるのだ。そして古代海魔を封印、もしくは倒した事により、ゲームの主人公は救国の聖女の名声を得る。
それが、蒼海の奏者のエンディングの1つ。
そしてプレイした全員が見たであろうバッドエンド。古代海魔を封印、もしくは倒す事が出来なかった場合、
帝国の全てが海に沈む。
そのエンディングに向かってしまうのではないかと、恐れている。
眠気を訴える体とは裏腹に、頭の中ではいつまでも最悪の未来を想像してしまうのだった。




