【1】第一幕:異世界転生しました。
蒼海の奏者
家の近くにある偏差値そこそこの高等学校なら勉強しなくても入れそうで、特に考えるでもなくそこに入学した。
中学生の頃仲が良かった子はもちろん、高校生になって友達は増えた。
運動部で活躍する先輩に憧れ、友達の家に泊まりで遊びに行き、難易度が跳ね上がったように感じる勉強に悩み、でも何もかもが楽しかった。
将来への漠然とした夢も抱かず、今ある心地良さに浸って、浸って、浸って、安心していた。
だからだろうか。
1年も経たずにその場所からいなくなるなんて、考えてもいなかった。
ピー ポー
ピー ポー
陳腐な音だが、聞けば目を向けてしまう。
赤く光るランプが回るように光り、音が響いて、ああ…うるさい。光も音も近過ぎる。
目を開けたくないのに、開けて文句でも言わなければ気がすまないのに、視界は真っ暗なままで。
「ーー…!きー……すか!」
そんなに叫ばなくても聞こえ……ない。
「ー ーーー …ー!」
手と足の先から、どんどん冷たくなるような感触がじわじわと侵食してくる。目を開けたいのに、声を出したいのに、どう足掻いても動いてくれない。このままでは、冷たさが広がるだけじゃないか!
目を開いてないはずなのに、赤い光が暗闇の中で瞬いた。
「ッ!!!」
「きゃっ!?」
次の瞬間、私は寝台の上にいた。
布団を吹き飛ばすように勢いよく起き上がり、荒く息を吐いた。ゼイゼイと荒い息にシーツを握る感触、冷や汗と形容出来る不快な湿気。
ああなんだ、夢か。
「お、お嬢様…」
ベッドの横で青褪めた顔でこちらを見るメイド服を着た女性。
「な、何かございましたか?夢見が悪かったのですか?それとも起こし方が悪かったのですか?」
メイド服。……メイド服!?と、目を見開くと女性は弾け飛んだように後退り、地面へと膝をつけたかと思えば懺悔するように手を組んでポーズをとる。んん?
「お、おゆるしください、なにとぞ、ご慈悲を…!」
若干呂律が回ってなくて聞きづらかったが、女性はすごく恐怖している。何故?というかメイド服の女性がいるのが何故?
というかベッド違う。こんなに大きくないしシーツもこんなにサラサラしていない。
そして気付く、自分の手の大きさの違いに。
ふた回りは細いであろう腕。最近サイズが上がったはずの胸。
そして、肩にかかる青みがかった銀髪。
「 」
女性らしからぬ悲鳴を上げたのも、許して欲しい。
そして土下座し続ける女性の謝罪の声と混ざり合って、警備が駆けつけるような状況になったのも許して欲しい。
いや、許さなくていいからこの状況を説明して下さい。




