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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第三章 幼年期 ~迷いの森編~
54/84

隠れ里

 森の主は、張っていた結界から侵入者達が抜けてきたことに気付いた。

 元より外から強引に入って来た者達だ、それくらいはしてのけるだろうと思っていた。

 結局何をしにきたのかはよく分からないままだ。元々イレギュラーだったのだろうか?そう考えるには、侵入者の力がありすぎた。


 結界から抜けてきたということは、目的を既に果たしたのかとも思った。

 しかし、痕跡からして特に何か悪しき力を及ぼした形跡はない。住居を構え、森の生活を続けてきた。どうも、それだけのようだ。

 守護する森の民と大して変わりはなかった。ならば森の民に会わせてみるのも一興か。


 だが、気になることがあった。侵入者の傍に、どうにも自分と似たような存在を感じる。

 補佐するものとして、気に入ったものを眷属にしたことがあるが、その眷属に気配がよく似ている。

 高位の精霊獣が召喚されたことは知っていたが、果たして何があったのか。

 警戒を強めながら、ただひたすらに待つ。


(主様。お待たせしました)


 森の主の前に、自身と同じく銀色の毛並みをした、一匹の狼が現れる。

 自身が最初に眷属にしたもので、名付けはしているものの、人類種の言葉では言い表せない名前だ。

 この森にいる限り、この狼が他のものから察知されることはまずない。主に代わり、目となり足となる、そんな存在。


(あの[三頭犬(ケルベロス)]と[大戦猫(ワーキャット)]は、どうやら我らと同じ、眷属に当たるようですが、我らより高位のものと思われます。主様と同じ存在かと)

(我と同じ、とな?)

(恐らくは。全く同じとは申し上げませんが)


 眷属でありながら、森の主と同じ存在。

 つまり、その主であるはずの侵入者は、そういったものを眷属にするだけの力を持つ。あるいは、引き上げるだけの力を持つ。

 いずれにしても強大な力を秘めた、過去最強の侵入者であることは間違いない。


 森の主は、遥か昔のことを思い出す。


 神話と呼ばれた時代、「勇者」とされたあの者に頼みごとをされた。

 どうかこの森で魔物から人類を守って欲しいと。それから東は自分が人類を守ってみせると。

 勇者は宣言通り、森から東の大陸を守って見せた。称号に恥じない働きだった。


 古代神話と呼ばれた時代、「魔王」とされたあの者と戦った。

 結果は痛み分け、といったところだ。あの者は強かった、あれほど心躍る戦いは今でもはっきり思い出せる。

 魔王は今回は引き分けだと言って、西に帰った。結局再戦は叶わなかったが。


 他にも数人、「覇王」や「聖者」といった、時代の寵児と会って、時には会話し、時には戦ってきた。


 だが今回は違う。そんな予感が森の主にはあった。


 本来なら、神族である自身ならば、傷を負うことはあっても、死ぬことはない。

 しかし同格――例えば、戦う相手が同じ神獣だとしたら、自身の命を失うことも十分に有り得る。

 それほどの存在と相対する。これは自身が神獣となった時以来のこと。


 森の主は、密かに笑う。


 いつまでも外敵から守れるわけではない。いつか人類種が反攻する時が来ることを願い、今まで待ち続けた。

 だがそれは、森を境界とする守護者として、背反する願いでもあった。

 人類も魔物も通さない。それが課せられた使命。


 侵入者は魔物などではない。少なくとも人類種であることは間違いない。

 人類最後の希望とも呼べる、そんな存在なのかもしれない。

 だとしたら、自身の役目の終わりを告げる者。そんな存在なのかもしれない。


 森の主は、牙を研ぐ。


 自身最後の戦いは近い。

 予測は、確信に変わった。

 最後は獣らしく、足掻いてみせよう。


 さあ、我が屍を越えてみよ――。



◆◆◆



 思った以上に、すんなりとループを抜けられた。と、確信を持って言えたのは、出発から2日後のこと。


『今、何か、通りすぎやしたね』

「うん、今何かそれっぽかったな」


 先頭を歩くガルムが、結界を抜けたことに気付いたようだ。

 この辺りの感覚は後方に位置するリュタンも同じようで、『間違いないね』と言っている。


 道らしい道というものがないこの森の中、どういう方向で進んでいるか。

 進むべき方向のヒントは、「川」にあった。


 森の中に川がある、それ自体は特別珍しいことでも何でもない。

 俺が違和感を感じたのは、自然に妖精達が俺の元に集まる中で、やけに水属性の精霊が多いにも関わらず、周辺を調査しても川らしき場所が見つからなかったこと。

 それがループ突破の鍵になるだろうと思っていた。


 精霊が集まりやすい場所、というものが存在する。

 人と自然が調和された場所、というと非常に曖昧に感じるのだが、例えば水属性の精霊であれば、人が日々の生活に使う川に集まりやすい。

 基本的に精霊は人が好きなので、人類がいない場所には、あまりいない。逆に言えば、精霊がいる場所に人がいない、ということもあまりない。全くない、ってことでもないが。

 となれば、川さえ見つけられれば、人里には辿り着くのではないか。これは割と早い段階から気付いていたことだ。


 だが、これほど強い獣たちが闊歩する中の人里だ。何かあるというか、何事もなくすんなり入れるとは思ってない。

 だからこそ2人の成長を待ち、俺も色々と準備をしてきたわけだが……。


「進んでいるかどうかは分からぬのだが、襲ってくるようなものも現れぬなぁ」

「いいことだと思うんだけどね。多分進んでるんじゃないかなー、って気がするし」


 俺の両隣に位置するフランとリリーナがそれぞれ感想を述べる。

 そう、何事もない。なさすぎるほどに。


「誘われている、って感じでもないんだけどな。何か変な感じはするよなあ」


 強烈な戦闘力を持つ二匹の守護獣を前方と後方に配置して、俺はリリーナとフランの傍から離れずに進む。

 獣道とも言えないような、歩ける程度の森をひたすら進んでいるが、足元を取られたりするようなことはない。ガルムが風魔法で草を刈り取りをしながら進んでいるからだ。

 魔力の無駄使いといえなくもないが、元々ガルムは魔法タイプって感じじゃないし、魔力量が減っても行動に差し支えることはないようだ。

 どちらかといえばリュタンの方が魔法を得意にしている感じだが、どちらも「獣」であることには違いなく、基本的には肉体派だろう。


『魔法ってのは便利なもんでさぁ。あっしが進もうとすると、先に草が切れやがりますぜ』

「何となく察してたけど、お前無意識に魔法使ってるのな」


 詠唱も入れずにイメージだけで使ってるかと思いきや、まさかの無意識。厳密には「そうなるといいな」程度は思ってるらしいが、それで発動するならクッソ便利だよな、それ。

 どうでもいいが、[三頭犬(ケルベロス)]のイメージに合わない、風魔法と水魔法使いなんだよなこいつ。一応火魔法も使えるらしいけど。

 しかも頭が3つあるせいか、3つまで同時に魔法が使えるのだとか。何それ超便利。頭が3つあるから俺の「平行思考」と同じ理屈?

 ちなみにリュタンも2つ同時に使えるらしい。[三頭犬]と同じ理屈なら、見た目が2匹の猫のニコイチだから分からんでもない。


『ダンナがくだらないこと考えてる間に、どうやら目的地に着いたようだよ』


 一番後方にいるくせに、一番目がいいリュタンが、どうやら目的の川を最初に見つけたようだ。

 流石に木々が生い茂ってる森から、ピンポイントで[遠視]は使いづらい。双眼鏡みたいなもんだから、ある程度視界の開けた場所じゃないと使いにくいんだよ。

 元が[大戦猫]だからか、水はあまり好きではないようだが、視覚的にはこの中で一番優れているのはリュタンだ。

 とりあえず開けた場所に出られるのは有り難い。やはり森の中で野営はちょっと厳しいものがある。

 あとは川沿いを歩いていけば、隠れ里に出られそうだ。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。



◆◆



 川辺まで辿り着いたところで、日が暮れ始めたため、野営準備に入る。

 テントは改良済で、天幕式のコテージをあらかじめ準備しておいた。この辺りの素材は、周りの木々や獣の皮を加工して作ったものだ。

 ちなみに糸や布は、こっそり【五穀豊穣】で作り出した綿花などの使えそうな種を、リリーナに育てさせて回収した。


 フランもそうだが、リリーナにいつのまにか固有能力(ユニークスキル)が増えてたので、ちょっと焦った。

 でもネリーという前例があるし、【変化之理】を使った以上、こういうことは有り得ると思ってたので、スキルが増えていることは2人に伝えてある。【早期栽培】や【武士】などのスキルの仕様も説明済だ。


 もっとも、増えた本人には、あまり驚きがなかったようで。


「後天的にスキルが増えるというのは聞いたことがあるのだ。妾もリリーナも、異常なほどステータスが伸びておるのは実感しているのだ、今更驚くことでもないのだ」

「だよねー。【早期栽培(グロウアップ)】ってのは、聞いたことなかったけど。コレ便利だねー」


 とまあ、あっさり受け入れてしまった。君たちも十分非常識な存在になっていることは自覚しとるかね?

 帰ったらどうするのか、ってことは全く考えてない。強いて言えば【変化之理】で素質をいじるかどうか、ということだが、どうも一度上げた数値を下げるのは、やめておいた方が無難に思う。

 本来あるべき理を曲げて使用しているものだし、程々の数値ならば上げても問題なく成長する、ということはネリーで実証済みだが、下げた時にどんな悪影響が出るか分からない。

 一国の姫君相手に、実験ってわけにもいかないし、今でもかなり成長速度は早まっている感じがする。

 今更元に戻して、成長が止まったりしたら目にも当てられないし。

 まあ、ちょっと強くしすぎた感もあるけど、足りないよりいいよね?


「ところで、さっき誘われてる、って言ってたよね。誰に?」


 コテージの中でくつろいでると、リリーナが尋ねてきた。よく聞いてたな。


「誰に、って言うわけでもないけどな。まあ、強いて言えば、この森の主とか」

「森の主といえば……神獣フェンリルのことか?」


 おや?フランは神獣の存在を知ってるのか。

 でもリリーナは首を傾げている。


「一応カルローゼ王国の第三王女だから、シツネ・ミナモ様のお話に出てくる存在を、疑うってわけじゃないんだけど……」

「なるほど、御伽噺で神獣フェンリル、ってのが出てくるのか」


 御伽噺となれば、神話のことだ。

 確かカルローゼ王国は、勇者シツネ・ミナモの子孫が作った国、って言われてるんだっけ。だったらリリーナは立場上、否定はしにくいのかね。

 意外とリリーナは現実主義者(リアリスト)な部分を持ってるなぁ。なんだろう、現実的な楽天家って感じ。


「そうなのだ。妾はどちらかといえば、実際におるものだと思っておるのだ。神獣というものがおるのかどうかは知らぬが、このような森が自然にあるのはおかしいのだ」

『一応、アタイら、半分くらい神獣なんだけどねェ』

「リュタンはリュタンじゃない?なんか、神獣って言われてもピンとこないなー」


 フランは神獣というより、迷いの森の不可思議さを説明するに当たって、主たる存在がいる、と考えているようだ。

 そしてリュタンのぼやきを拾ったリリーナの気持ちはよく分かる。俺もこいつらはペットにしか見えん。

 実際戦わせれば凄いんだけど、普段の人並みサイズからスケールダウンして、普通の猫サイズのリュタンは、どう見ても変り種の猫だ。ニコイチなので、ちょっと不吉な感じはするが。


 ガルムが外で警戒に当たっているが、家を出てから3日、ほとんど獣と遭遇していない。

 斥候ついでに[黒豹]を放ったりしているものの、周囲には気配がほとんどしないようだ。

 逆に来た方向に戻させるつもりがないのか、来た道には再度結界が張られたようで、そちら方向には進めないらしい。

 ま、それならそれで分かりやすいってもんだけどな。


 それに――


(ダンナ、気付いてるかい?アタイやガルムが言うまでもないと思うけど……)

(まぁ、それくらいはな。何をしてくるってわけでもないから、今はいい。このタイミングで付けてくるってことは、だいたい想像が付くからな)

(多分ダンナの思ってる通りだよ。間違いなく「神獣」の眷属だね)


 ガルムやリュタンは、ちゃんと気付いている。

 家を出てからずっと、俺達を見ている「監視役」がいるってことくらい。



◆◆



 やはりと言うべきか、何事もなく一夜明けて、今度は川を下るように進んでいく。

 上るか下るかの二択だったのだが、妖精にお願いして人の気配がする方向を教えてもらった結果だ。まあ間違いはないだろう。

 ただし、下ったあとで、もう一度上ることも検討している。どうも上った先にもそれらしい気配があったらしい。

 とりあえずは確実な方から攻めてみよう、ってことだ。


 川辺に出てから、下ること半日。ひとまずは「当たり」だったようだ。


『ダンナ、お嬢。そろそろあっしらは……』


 明らかに人里だと分かる集落が見えてきたところで、ガルムが忠告するように言ってきた。


「そうだな。初対面の人類種に、お前のサイズとビジュアルは、ちょっときついな」

「すまんのだガルム」

「ってことは、リュタンもかなー」

『仕方ないね。アタイとガルムは、夜のサイズになっておくよ』


 デキる守護獣は違うということか、ガルムやリュタンは警戒させないように、自分から犬猫サイズに変化する。

 見慣れるとただの犬と猫なんだけど、さすがに人並みにデカい犬猫なんざそう居らんし、特に[三頭犬]は頭が3つの異形だ。

 それじゃサイズが変わっても意味ないじゃないか、って話にもなるんだけど、変り種生物くらいで済ませられるだろう。きっと、多分。

 ちなみに守護獣となった瞬間から、[帰還]は使えなくなっている。試したわけじゃないが、少なくとも召喚獣扱いではなくなっているということは分かる。


 サイズを変えたところで、ガルムとリュタンを集合させて、固まって歩く。ここから先頭は俺だ。

 遠目から見た感じだが、この人里、どうやら「俺の同族」の集落らしい。

 まだ確信はしていないが。恐らくは。



「客人とは珍しい。どこから来なさった?いや……もしや我らと同族か!?」

「よもや外界から戻ってくる同族がいるとは……どなたの子になられるか!?」


 久しぶりの姫様方以外の人類種との出会いは、集落から出てきた2人の若き男性エルフだった。

 よく考えたら純粋なエルフを見たのは初めてだし、ハーフにしろシェラと母さんしか見たことがない。エルフ♂を見るのはこれが初めてだ。

 すっごいイケメンだけど、見た目じゃエルフって、年齢がよくわからんのよな。一応武装はしているが、それほど警戒されている感じはしない。

 こっちは武器一つ持ってない。フランは腰に短剣、リリーナも銃を腰に下げているが、俺は敢えて武器一つ持たずに近づき、一つ名乗りを上げる。


「私の名前はゼン・カノー。ハーフエルフであるシャレットの子になります。母であるシャレットは、エルフであるエリーゼの子、と聞き及んでおります。祖母と直接面識はございません」


 そう告げると、2人の警戒心が一気に下がったようだ。


「そうかそうか!エリーゼ殿のお孫さんか!」

「エリーゼ殿は上手く魔族の男と駆け落ち出来たのか!それは何よりだ!」


 爽やかな笑顔でポンポンと俺の肩を叩いて来る。すっごい友好的なんですけど。

 婆ちゃんは既に他界していることを教えると、「それは仕方あるまい」とあっさりしたものだった。


「何しろエリーゼ殿は、駆け落ちした年が、既に50を越えておったからな。あれから50年近く経つ、天命というものよ」

「我々がまだ駆け出しだった頃の話だ。そのお孫さんが里帰りしたとなれば、それは我々にとって、とてもとても喜ばしいことだ」


 いったい何歳なんだろう、このイケメン2人。

 駆け出しってのが何歳か分からんけど、10歳くらいの頃だとしても、今は60を越えててもおかしくないんだけど……あるぇー?


「あの、一応お尋ねしますが、私は「クォーターエルフ」ということになりますが……」

「それがどうした?例えエルフでなくとも、その耳を見れば、エルフの血が近くに混じっていることが分かる」

「ならば、君の種族なんぞどうでもいい。間違いなく君は我が同族!さあ、長老の元へ案内しようではないか!」


 とりあえずすっごい歓迎されていることが分かった。

 え、何なのこれ。俺の準備期間、もしかして無駄だった?

 俺が軽く呆然としていると、リリーナがつんつん、と俺の腕をつついて、小声で囁く。


「えっとね、ゼン様。私も聞いたことがあるだけなんだけどね」


 リリーナによると、エルフは同族意識が極めて高いらしく、混血種であっても同族をとても大事にするのだという。これは母さんからも聞いた覚えがなくもない。この辺りは獣人族に似ているのかもしれない。

 純血種のエルフは、既に人類種の中でも、絶滅寸前とされており、こうやって隠し里に住む人々と、外界に出た数十人しか残っていないとされている。


 これは純血種のエルフが、繁殖力が極めて低いことが理由とされている。

 エルフの特徴として、極めて高い魔力を持ち、成長は早く、衰えは緩やか。そして長寿である。

 ぶっちゃけいいとこ取りの優遇種族だ。そりゃあプライドも高かろう……とか思っていたのだが、リリーナの話によると、エルフ同士で子を成すのがかなり難しいらしく、純血種のエルフは減少する一方であるという。


 そんな話、知識神(シェラ)から聞いた覚えがないんだが、「世界の滅び」と何か関係があるのだろうか?

 そんなことを疑問に思いながら、リリーナが続ける。


「それでね。あの、ちょっと、私も言いにくいことなんだけどね。その、ゼン様って、クォーターエルフだよね?」

「そうなるな、それがどうした?」

「……ちょっと、耳、貸して」


 ごにょごにょとリリーナが俺に「エルフの繁殖事情」というものを伝えてきた。実はリリーナはムッツリ、じゃなくて、耳年増だった、ということにしておく。

 だとしたら今の状況は、ちょっと、勘違いされてるのかもしれない。

 さあさあと俺を連れて行く2人のエルフにこれだけは伝えておく。


「あの、私、性別的には男性でして。10歳を少々過ぎた程度なのですが……」

「はっはっは、何を言っているんだね。発育もいいし、きっと良い子が産めるであろう」

「そうだな。もう少し時間は置いたほうがいいが、是非とも力を貸していただきたい。何、天井の染みを数える程度の話だよ」


 前言撤回。ここやっぱりヤバい場所だった。

 どうせ後で分かることだけど、また勘違いされてる系だこれ。てか俺今すげーピンチなんじゃね。

 嫌 な 予 感 し か し な い 。


(まあ、諦めも肝心ですぜ。エルフは美形揃いでさぁ)

(据え膳食わねば、って言うからねぇ。まあ頑張んなよ)


 ガルムとリュタン、俺の切羽詰った状況を理解してやがる。マジか、マジで危険がデンジャラスか。こんな危機は想定外だ。


「――ところで妾たちはどうすればよいのだ?」


 フランは1人、状況に付いていけず、蚊帳の外だった。

 すまんフラン。今は俺の貞操のピンチだから、ちょっと待っててくれ。



◆◆



 長老、と呼ばれたからには、てっきり老エルフだと思ったのだが、なんてことはない。見た感じ、母さんと大して変わらない年齢に見える。しかもめっちゃ美人。

 スタイル的には、ちょっと凹凸に欠けるかもしれんけど、緑色の髪を床まで流した、和服美人って感じだ。

 着ている服が着流しっぽいからか、余計そんな感じがする。なんやろう、見た感じちょっとエロいけど、そういう気分にはならないというか。

 強いて言えば、シェラや母さんより、気持ち耳が長い気がする。俺の記憶が正しければ、だけども。


 さっきから【完全解析】を使わないのは、俺の精神的防御(メンタルブロック)の一環だと思っていただきたい。

 他人相手にあまり迂闊に使用すると、本人以外、知りえない情報も混じることがある。

 感知系とか持ってたら気付かれるかもしれないし、極力人には使わないようにしているだけだ。

 この森に住んでいるならば、それ相応のステータスを持ち合わせているとは思うが、あとでこっそり確かめればいいだろう。


「わしの歳か?356歳になるようじゃな。ステータスに書いておるだけじゃから、わしもようわからんがの」

「いや、別にそれを聞きたかったわけじゃないんですが」

「ほうかのう。聞きたそうにしとったように見えたがのう」


 なんともやりにくい感じだ。何か魔眼系スキルでも持ってんのかな?


 ちなみにあの後、集落の真ん中に、他の建屋よりちょっと大きいかな?という程度の屋敷があり、2人の青年風肉食系男子エルフに連れてこられて、今に至る。

 なんで肉食系かって?さっきから俺を見る目が尋常じゃないからだよ!

 さっきからずーっと男だって言ってるのに、信じやしねえ!


「黒髪のエルフは、基本的に希少女性種じゃからのう。ジルとディースが見間違うのも、無理はなかろうて」

「なんですと長老!?」

「こんなに可愛い娘が男の娘なわけがない!」


 言っちゃったよ。男の娘って言っちゃったよこの残念イケメン。見た目だけだっつーの!

 でもちょっと気になること言ったな、今。


「あの、黒髪のエルフというのは、珍しいのですか?」

「珍しいというかのぅ、わしの知っておる限りでは、過去に数人しかおらんでな。全員、わしと同じく、希少種(ハイエルフ)であったそうじゃ」

「ハイエルフ、ですか……」


 そのワードで、知識神(シェラ)の言ってたことを思い出して、背筋に冷たい汗が流れる。


『エルフ族には、稀に希少種(ハイエルフ)と呼ばれるものが産まれることがあります。中身はほとんどエルフと変わりがないのですが、いくつか一般的なエルフより優れた点がございまして――』


 曰く、元々長寿であるエルフ族の中でも更に長寿であり、500年程度は余裕で生きる。

 曰く、極めて健康な身体を持ち、病気には滅多にかからず、ほとんどの毒も受け付けない。

 曰く、これが一番大事なのですが、と前置きしたところで言ったシェラのセリフを思い出した。


「ハイエルフは子沢山じゃからのう。おぬしが男なのは、里に住む男衆は残念じゃろうて」


 ぶっちゃけたよこの人。

 そう、ハイエルフはどういう理屈か、優れた子孫を産みやすく、なおかつ女性であれば受胎出来る期間も長いのだ。

 その辺りの理屈は、【世界之理】にも書いてないらしく、本当に「世界の神秘」の一つであるそうな。

 実際のところ、俺はハイエルフではないのだが……。


「でもそうなると、エルフ族の女の人からすると、ゼン様って、その」

「リリーナよ、ゼンならば種族は関係ないのだ。雄として英でているから、英雄というのだ。そこは妾らも考えておかねばならんのだ」

「そこの娘っ子は、ようわかっとるでな。おんしゃ、英雄かどうかは知らんがのぅ」

「いや、そうじゃない。そうじゃなくてだな」


 とりあえず付いてきたリリーナやフランも、後ろで勝手なこと言いやがって。

 フランもその余裕というか、物分りのいい感じ、何なの?ネリーと思考タイプが同じなの?


「おんしゃ、後ろの娘っ子は、番じゃないのかえ?」

「お願いですから、一回そこら辺から離れてくれませんかね。ところで、そろそろお名前を頂いても?案内頂いたお二方の名前もまだなのですが」

「おお、そうであった。わしも長老としか呼ばれんからのぅ。他人に名乗るのは久方ぶりじゃのう」


 長老が、コホンと一つわざとらしく咳払いをして、名乗りをあげた。


「わしの名前はエルリナーゼ=シュレイン=アーヴィアス・アルティメット。長いからエルか長老でええぞえ」

「何か名前が長いのは、理由が?」

「純血種のエルフ族はこんなもんじゃ。そこにいるジルとディースも、似たようなもんじゃぞ」


 ジルと呼ばれたイケメンの片割れが補足してくる。


「基本的にエルフ族というのは、先祖の名を連ねることにより、真の名を隠すものなのだよ」

「家名も母方の方を引き継ぐようにしているんだ。まあ、我々にはあまり意味がないものだけどね」

「……ってことは、長老の家名は、母方の方が「アルティメット」だったのですか?」


 ディースというらしいイケメンの紡いだ言葉に違和感。

 どこかで聞いた覚えのある、っていうかインパクトが強くてよく覚えてる家名だ。研究神(げいにん)の家名がアルティメットだった。

 しかもあの感じだと、アインが初代っぽいんだよなぁ。となると、この長老は、どこかで魔族の血が混じることになるのだが。

 んー、と考えながら、長老が返答してきた。年齢とポーズが合わねぇ。


「家系図が残っておるわけではないからのぅ。母方の家名であるのは確かじゃが……おんしゃ、わしの母方の一族を知っておるのかえ?」

「あ、いや。知っているというか、聞いたことがあるな、という程度ですが」

「そうかのう。まあ、そもそもエルフの純血種など、本当はおらんと思うがのぅ」

「はい?」


 今までの説明から、180度ターンを決めてきた長老の言葉に、思わず声が出てしまった。

 じゃあ今までの振りはなんだったんだ。リリーナやフランも目が点になっている。


「そも、エルフ族に限った話ではないがのう。純粋な純血種など、わしはおらんものと思うておる。純血種というのは、だいたい両親が純血種であればそう言われとるようだし、[遺伝鑑定(ブラッドチェック)]でもそう出るようになっとる。だからといって、どこまで遡っても同じ人種とは限らんじゃろう?あるいは、元々1つの種族が、それぞれに枝分かれしたかもしれん。やはり同じ一族であれば、大事に思うが、それだけじゃのう」


 何というか、深い話というか。少なくともこの長老は、シェラから聞いてたエルフ族のイメージとはかけ離れた価値観を持っているらしい。

 生前のシェラの時代から、それだけ長い時間が流れている、ということなのだろうか。

 いずれにせよ、俺としては好ましい考え方をしているように思う。うん、人は人だよな。

 どうやら今始めて話したことでもないらしく、ジルやディースも頷いている。フランも頷いてるのは、魔族にはあまり人種に拘りがないんだろう。

 自分を純粋な人間族だと思っていたリリーナには、思うところがあったのかもしれない。何やら考え込んでいる。


「そこの嬢は、よもや聖国の人間かえ?」

「へっ?あ、私はカルローゼ王国の第三王女になるんだけど」


 少々剣呑な声で長老が問いかけたためか、慌ててリリーナが返答する。それ言っちゃっていいのか。


「かの王国ならば、差別することはなかろうなあ。ならばよし」


 何だろう。長老から聖国というワードに怒りのニュアンスを感じる。

 聖国、といえば、俺の中では1つしかない。アジェーラ聖国のことだろう。


「新しく出来た帝国も、わしは思うところはない。じゃが、聖国は気をつけぇ。きゃつらすべて、悪、言うわけじゃないがのう。わしらとは相容れぬようじゃからの……おんしゃ、名は、なんじゃったかの?」


 俺を見てそう長老が言ってきた。そう言えば俺はまだ長老に名を告げてないな。


「先に名を頂いたのにお返しせず、失礼しました。私の名前はゼン・カノーと申します。祖母エリーゼがこの里の出身と聞いております」

「ゼン、か。先祖返りかの?」

「よく聞かれますが、私は称名(ミドルネーム)は持っていても、カノーたる先祖を持ちません。親から頂いた名はゼン。カノーは後から付いてきただけ、ということです」


 俺の返答に、カラカラと笑う長老。


「もうそのような堅苦しい言葉、必要なかろうて。そも、祖母にあたるエリーゼは、わしの直系じゃから、わしとおんしゃ、血の繋がりがあるのじゃからのう」

「マジで!?」


 衝撃の事実だったので、思いっきり素で返してしまった。見た目は母さんと変わらんだけに、インパクトがハンパじゃない。


「エリーゼの名前は、正しくは、エリーナルゼ=ラドゥール=オーレリアという名じゃ。何か気付かんか?」

「ふむ、長老の名前と重なるところはないが……エルリナーゼ、という響きが似ておるのだ」


 よく気付いたなフラン。


「然り。真名はわしが付けたわけではないがの。これでもエルフ族の命名の法則に従っておるのじゃよ」

「文字にすれば分かりやすいのだが、エルフ文字は流石に学んでおるまい?」

「あ、多分それは読めると思う。俺母さんから文字はいくつか学んだし」

「俺っ娘……そういうのもあるのか!」


 2人のイメケンはどちらも残念系っぽいが、ディースの方がやや残念度が高い、と今決めた。

 もしかしたら、と思ったので、ジルに長老と祖母の名前を文字にして書いてみてもらうと、ある意味予想通りだった。


「なるほど。法則は、文字の組み換えか」


 所謂アナグラム、というやつだ。

 英語圏とかだと割とメジャーな話なのだが、例えばペンネームなど、本名や有名人のアルファベットを置き換えて付けることがある。

 いしのなかに、とかいうトラウマ系ゲームのボスの名前が、そうだったかな。


「察しが良いのう。英雄というには若すぎると思うたが、おんしゃ、本物かもしれんのう。ジル、あれを持ってきてもらえんかの?」

「アレというと、シツネ殿でも抜けなかったという、アレですか?」

「そうじゃ。結局シツネ殿は、わしらまで手が回らんかった。わしの「目」でも、ゼン・カノーは本物の英雄と見た。可能性はあるじゃろう」


 やはり、何かを見抜かれていたようだ。

 長老は何かしらの魔眼系スキル、あるいは鑑定系スキルを所持している可能性大だな。


「気を悪くせんでもらえるかのぅ。同族なのは疑ってはおらなんだが、里の長として、おんしゃをある程度見極める責務があるのじゃよ」

「そこはあまり気にしなくてもいいよ。どこまで遡るか分かんないけど、俺にとっては婆ちゃんだし。一応聞くけど、後ろの2人は見てないよね?」

「わしもおんしゃが何代先の孫か、よう覚えんが、その番の娘っ子まで見ることはせんよ。信じてもらうしかないがのう」


 2人には【擬態】を使ってない。魔眼系なら見破られるかもしれないが、嘘を言っている気はしないので、それでよしとする。


「ちなみに、どんなものが見えるのか、教えてもらっても?」

「ええぞい。わしは固有能力(ユニークスキル)で特殊な【鑑定(チェック)】が使えるのじゃ。普通の[鑑定(チェック)]と違って、ちっとばかし、変わったところが見えるでな。おんしゃが年齢に合わず、異様なほど強力な力を持っておるでな」

「それはどんな風に見えるものなの?」

「格位、という形で分かるのじゃがな。正直に言うて、おんしゃの力は、わしの【鑑定】では完全な見極めが不可能じゃった。何しろ【神格】と表記されるでな。これ以上の格位は見たことがないから、恐らく最高級の評価だろうて」


 今ので察するとすると、恐らく「格位」というのは、レベルのことではないだろうか。

 ステータスには存在しない事項だが、俺の【完全解析】には映る項目になっているから、固有能力(ユニークスキル)で[鑑定]が使えるならば見えてもおかしくはない。

 どんな段階表記になっているか知らないが、俺のレベルは既に3桁に突入している。恐らく人類種では到達出来ないレベルだろう。【神格】という評価も納得出来る。

 そんなことを話していると、ジルが「あれ」とやらを持ってきた。


 ――まあ、予感はしてた。

 勇者シツネにして「抜けなかった」というそれは、「短剣」。

 どうやら破損はしていないらしく、神具としての機能は維持されているようだ。

 ジルが持ってきたのは、そう、俺が神界で作った短剣。


「ここにあったのは「コアブレイク」だったか。そりゃまあ、抜けんだろうさ」

「おおう?おんしゃ、何故その名を知っておる?」

「そこはちょっと、説明しづらいんだけども……」


 ジルから受け取ったコアブレイクを、あっさり鞘から抜く。

 長老含むエルフ3人の目が驚愕に見開いたのが分かる。


「元々これは「俺のもの」だからな。勇者とかそういうのは関係なく、俺にしか抜けないようになってるんだわ」



◆◆



 俺がコアブレイクを抜いたことで、長老は平伏してしまった。何ゆえ?

 ジルとディースは超ダッシュでどっか行った。こっちもなんか嫌な予感がするなあ。


「まさか「天の武器」の使い手が本当に存在するとは……ありがたやありがたや」


 天の武具?なんのこっちゃ、ってまあ、だいたい想像つくけども。


「ゼン様って物知りだけど、変なところが疎いよねー。私も実物を見るのは、初めてなんだけど」


 リリーナ曰く、古代道具(アーティファクト)と思しき道具の中には、厳重な封印がされているものが存在する。

 それが「天の武器」と呼ばれるものであり、一見して凄まじい武器であるのだが、触れた者には雷撃を加えたり、重すぎて誰にも持てなかったりするそうだ。

 過去に使おうとしたものは多数いるが、今まで誰1人として、それらの武器を使えたことはない。


「私も呪いのことや、[鑑定]の練習をしてきたから、なんとなく分かるだけなんだけど……多分、「ブロックガン」と同じものだよね?」

「まあ、そうだな。ってかその「天の武器」とやらは、あといくつあるんだ」

「いくつあるかまでは知らないけど、1つはアジェーラ聖国にあるらしいよ?すっごい長い包丁みたいな形って聞いてるけど」


 それ「デスハチェット」だよね。俺の長刀、もとい長鉈だよね。

 多分雷撃を加えてくるのって、それだろうな。所有者認定、まだ生きてるのか。

 重すぎて誰にも持てない、ってのもピンと来る。多分「ピッケルハマー」だ。


 ある場所が分かってるなら、いつか回収に行かなきゃいかんだろうなあ。国が管理しているとなると、面倒な予感しかしないけども。

 このタイミングでコアブレイクが回収出来た事は喜ばしい……のだろうか?

 どうにも何かフラグが立った気がしてならない。


「いい加減頭上げてつかーさい。俺より10倍以上目上の人からそうされてるのは、居心地が悪すぎますわ」

「そうかえ?てっきり慣れておると思うたがのう。こんな武器の使い手が、ただの人であるわけがなかろうて」


 頭を下げて拝むようにしていた長老が、あっさり姿勢を正しながら言う。

 否定はしにくいけどな。確かに「ただの人」というカテゴリに入るとは思ってないし。


「あの2人はどこいったの?」

「そりゃ勿論、宴の用意じゃよ。同族が里帰りしただけでも喜ばしいというのに、その同族が「天の武器」の使い手となればのう。わしらを守護してくださっておる、主様もお喜びになるじゃろう」

「主様ねぇ……もう少し、詳しく聞いても?」


 長老から聞く「主様」とは、普段は姿を見せないが、この森に住むエルフ族やフェアリー族を守護してくれる、文字通り「守り神」である、というものだった。

 元々この2つの種族は、森と共に生きる民であり、森から出ることはほとんどない。

 この森に魔物が出ないのは、「守り神」さまの恩恵であり、獣が襲ってくることがないのも、「守り神」さまのおかげだという。

 特にフェアリー族は、特殊な能力を持っているものの、戦闘力が皆無に等しく、本来獣に襲われればひとたまりもない。

 「守り神」さまの許可なく森を出ることは適わないが、元々出ようとするものはごく僅かであり、外界から他の人類種が入れないようにしてあるのだという。


 何故外界から他の人類種を入れないか。

 そこの理由ははっきりしないが、エルフ族にしろ、フェアリー族にしろ、希少であり、優秀な能力を持ち、麗しい見た目も相まって、とにかく他の人類種に利用されがちだった、という時代背景があるようだ。

 母さんを見てると、そんな感じはまったくしないのだが、そういう時代もあった、ということなのだと思う。

 シェラもそれっぽいことを言っていたが、この辺りは微妙に食い違う箇所があるなぁ。


 しかし、全く外界から人が来ないかというと、そうではないらしい。

 何でも、やむを得ない事情を持つ者であったり、悪意なき迷い人であったりした場合、「守り神」さまの力により、この隠れ里にやって来るのだという。

 それが俺の祖父である魔族の男であり、それと共に外界へ赴く許可を「守り神」さまに得たのが、祖母エリーゼだった、ということらしい。


 正直、色々と突っ込みどころのある話だ。

 エルフ族やフェアリー族のことも気になるが、「守り神」、というのは「神獣」のことで間違いないだろう。名前が本当にフェンリルなのかまでは知らないが。

 長老の話を総括すると、俺達はどうしても「神獣」に会わなければならない。それと同時に、出入りするための条件も、一応確定した。


 要するに、「神獣」が許した存在以外は、この森では「外敵」扱いされる、ということだろう。

 多分そうじゃないかとは思っていたが、今の話で裏付けが取れた。


「その主様と話が出来る機会なんかは、あったりするのかな?」

「年に1度、主様の使いが集落に来てくださるのぅ。そろそろ今年も、時期が近いゆえ、その時にお願いすれば、話くらいは聞いてくれると思うぞえ」


 使い、ね。


(まず、ダンナの思う通りだと思いやすぜ)


 フランの膝の上にいるガルムから【念話(テレパシー)】が飛んできた。

 姿は見えないが、ガルムの嗅覚では、今でも近くに「監視」している存在がいるらしい。

 多分「使い」ってのは、「神獣」の眷属か、あるいは使徒か、どちらかだろう。


(アタイらが負ける相手とは思わないけどねェ。アッチの方が芸達者なようだし、戦いになれば、それなりに覚悟キメてかないと、お嬢が危ういね)

(出来れば戦いたくはないけどな。最悪そういうことも、考えておくべき、だろうな)

(旦那としちゃあそうでしょうが、あちらさんはどうでしょうかねぇ)


 ガルムやリュタンは、「神獣」と戦うことになる予感がビンビンなようだ。

 正直言えば、俺もそうなる可能性は高いだろうと思っている。

 あちらから俺達に接触しようと思えば、タイミングはいくらでもあったはずだ。だが、直接的なアプローチは今まで一度もなかった。

 やはり「神獣」は、俺達を「敵」と見なしている可能性が高い。

 今回は円満に森から出られればそれでよし、という妥協点を持って出発したのだが。


(戦うだけなら、まだマシなんだがな。色々な意味で「神獣」と敵対はしたくないけども)


 さっき受け取ったコアブレイクを手に取り、眺める。

 最悪、こいつの力を使うことになるのかねえ……。

 諸事情を考えると、こいつは出来れば使いたくないんだがなぁ。

実はエルフだけが繁殖力が低下しているわけではなく、全体的に低下している中で特にエルフが顕著という話。

ハーフまでならそれなりに産まれるので、この里のようにエルフだけで構成された社会はないにしろ、世界的には比率は低いだけの、「珍しい」程度の認識。

数が減っていることをちゃんと分かっているのは、人口比率を知れる立場にある人々くらいなものです。

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