名前をつけてからにしよう
最後の方にリリーナとフランのステータスを載せてます、スルー可。
大した進展はありません。ステータス回?
「はい。私はゼン様の眷属ということになります。たとえどれほどの月日が流れようが、どれほどの距離があろうが、私とゼン様は繋がりがあります。ですから今回のようなことが可能、ということでもありますね」
ゼンが残した2つの爆弾。「独立」と「眷属」というワードは、ソルやヴィーにこれ以上ない衝撃を与えた。
「いや待て待て待て。眷族ってアレだろ?神の使徒みてぇなモンだろ?」
「ゼンはそうは言ってなかったわよ?使徒と眷属は違うものだって。私からしても、違いはよく分からなかったのだけれど」
どちらかといえば「独立」の方が衝撃が大きい筈だったのだが、「眷属」というワードに食いついたのはヴィー。
一般的な世間の評価として、「眷属」という存在は、相当大きな意味がある。
御伽噺や神話に出てくる「眷族」は、いずれも強大な力を持ち、天から使わされた人類の希望とされている話もあれば、邪神の部下としてこの世を地獄に陥れる存在でもある。
直近の「勇者」シツネ・ミナモにしても、「神の使徒」であったとされている。
「――それを、「眷属」であると証明する根拠は、何かあるのか?」
「ないこともありません。この首輪が[契約]の証です。しかし、外して皆様に触らせようとは思いませんし、この場で触れれば、そちらに危害を加える仕組みになっておりますので、お勧めはしません」
「私もやめといた方がいいと思うわね。[契約]の瞬間に立ち会った身としては、あのチョーカーは異常な魔道具だもの」
ソルが「眷属」であるという証拠を欲しがったが、ネリーはやんわりと拒絶し、シャレットも話に突っ込みすぎないように釘を差した。
それでも話を聞いただけでは信じられまいと思ったシャレットが、それなりの証になるものを提案する。
「ま、この際、ステータスくらいは教えてもいいんじゃない?」
「あまり意味があるとは思いませんが、それで気が済むのなら」
少々席を外します、と告げてからネリーが一旦部屋を出る。ステータスボードは肌身離さず持ち歩く者も多くいるが、ネリーは<厄災級>討伐以来、あまり持ち歩くことがなくなった。
特に遠出をするわけでもなければ、フィナール領の英雄であるネリーは、大概の場所は顔パスで済む上に、これ以上ステータスボードの更新は意味をなさなくなったからだ。
その理由は言うまでもなく、パラメータがカンストしているから。「S」という表記は、それ以上変化することは無い。
【解析】することで数値化出来ることから、ゼンは「S」といってもピンキリだと知っているが、一般常識としては「S」は最高クラスの能力保持者の証明である。
ゼンからの許可もあり、【擬態】は既に解除済だ。特殊能力の【百獣王化】と、固有能力の【咆哮】も隠していない。
その場にいた目撃者の半数以上は殺してしまったが、運よく生き延びた者もいる。ならば隠す必要はないと、ゼンからも言われている。
ネリーは2~3分もしないうちに部屋に戻ると、その場でステータスボードを開示してみせた。
「……なんと……」
「怪物、ってのも、間違いじゃあ、ねえなあ。それと、確かに、「眷属」って書いてあらあな」
ソルは顔を引き攣らせ、ヴィーは脂汗を流しながら、何とか言葉を紡ぐ。
能力値がオールSだったことは確かに驚きだ。しかし、それはある意味想定の範疇にあった。
<厄災級>の単独討伐ともなれば、それくらいのステータスは当然だろう。問題は職業欄とスキル欄、そして資質にあった。
名前 ネリー
年齢 16歳
種族 獣人種猫人族
職業 なし(眷属[主:ゼン・カノー/従:ネリー])
筋力:S (S)
器用さ:S (S)
素早さ:S (S)
魔力:S (S)
精神力:S (S)
スキル:【百獣王化】
【咆哮】
「ちなみにステータスボードの更新は、フィナールの町で冒険者ギルド長ナハト殿、フィナール領領主ギース殿の前で、私が[鑑定]した結果よ。精度は保障するし、偽装なんてもちろんしてないわよ?意味ないもの」
シャレットの魔力は、そこらの鑑定官を遥かに越える。そんな彼女が使う[鑑定]は、ステータスだけで言えば[人物鑑定]より正確といえる。
SSクラス冒険者の「賢王」シャレットの[鑑定]結果にケチをつけられるような人物は、世界広しといえど、ゼンくらいなものである。
更新の際に、立会人のナハトは立ち眩み、ギースも顔色を悪くしていたが。
なお、ゾークとシャレットのステータスボードは、開示こそされていないものの、フィナールの町の冒険者ギルドで、既にステータスが「オールS」であることが知られている。
そのため、「史上最強の冒険者」と呼ばれているのだが、本人達は否定こそしないものの、たいそう居心地が悪い。
何しろゼンは自分達と比較にならないほど強く、ネリーにしろ今の「Aクラス冒険者」という肩書きはクラス詐欺に近い。その2人を差し置いて「最強」などと言えるはずもない。
「……本物、だな」
引き攣らせながらも、食い入るようにステータスボードを見つめていたソルがそう呟く。
カルローゼ王国の直系王族には、固有能力ではないが、高レベルの【直感】を持つ者が産まれやすい。
汎用能力という存在が知られていないため、「勘が鋭く、真偽を見通す力に長ける」程度の認識なのだが、ゼンの【完全解析】の数値にすると、ソルは【直感6】、イアンも【直感6】となっている。リリーナの【直感8】ともなると、王族にしても高すぎるレベルなのだが。
ちなみにネリーは【直感9】。勘が鋭いとかそういう次元ではなくなっている。
「ああ、違いねえな……ってこたぁ、ゼン・カノーってのは、本当に何者なんだよ、って話になるんだが……」
「さあ?私も全て知ってるわけじゃないわ。ただの先祖返りじゃない、ってことだけは確かだけどね」
ヴィーも【直感5】という汎用能力を所持しているだけに、このステータスボードが偽者だとは思っていない。
だが、ゼン・カノーとは何者か、という疑念は深まるばかりだが……。
「ウチのフランがあれだけ惹かれてる理由が、何となく理解出来ちまったなぁ」
その呟きに、ソルも僅かに頷いた。
それから先のことは、2人のトップが上の空のまま行われたため、とりあえず「不可侵協定」の合意は成った、というだけに留まった。
もう一つの爆弾、「フィナール領とナジュール領の合併独立」については、あまり深く話されなかった。というより、ソルとヴィーが胸のうちに仕舞っておいた。
今すぐ決められることではないうえに、ゼンが「首尾よく物事が進めば」という前提条件を置いたから、という理由もあるが、これ以上厄介事を考えたくなかった、ということもある。
愛娘との会話でも、ゼンへの悪意は全く感じなかったうえに、「楽しい」という感情がよく伝わってきた。
いずれにせよ、3人とも欠けることなく無事に帰ってきて欲しい、ということだけは、その場にいた全員の共通事項であった。
シャレットとネリーは、ゼンについては、これっぽっちも心配はしていなかったが。
◆◆◆
「あんまり時間取れなくて悪かったな。ちょっとばかり無理がある方法だったから、長い時間話すのは、ネリーに負担がかかりすぎる」
なんだかんだで30分を少し過ぎてしまったようで、ネリーには随分と負担をかけてしまった。
……はずなのだが、その後にちょっと【思考対話】で話した感じ、あんまり疲れた様子はなかった。でもめっさ不機嫌だった。
(ゼン様成分が不足しています)なんて言われても困る。そりゃ身体的な繋がりはないけども、毎晩【思考対話】してるじゃないですか、ネリーさん。
しかし、想定以上にネリーは成長しまくってたりするんかな?聞いた話によると、冒険者ギルドの討伐や駆除依頼を定期的に受けているらしいけど。
[契約]の効果でリンクは繋いであるにしろ、ネリーを直接視認しているわけじゃないから、【完全解析】はかけられないんだよな。
「何言ってるのゼン様!【念話】にこんな使い方があるなんてすごすぎるでしょ!」
「久々に父上と話が出来て満足なのだ!しかし、【念話】とはすごいものなのだな!」
それでもリリーナとフランは概ね満足したようだ。フランはちょっと勘違いしてるけど。
「ゼン様の【念話】は普通じゃないからね?私こんなこと出来ないからね?」
「うん。リリーナの方が正しい。俺の【念話】は普通の【念話】じゃないからな」
「ふむぅ……しかし、【念話】は微妙なスキルと聞いておったが、使い方によっては有用なのではないか?」
「そうなの?」
フランは【念話】の有用性に気付きかかっているようだ。リリーナが問いかけるように俺を見てくる。
実際のところ、俺の【思考対話】は流石に別物だとしても、【念話】は割と使い道がある。
精霊に声をかけられるというのも大きいが、要は【念話】というスキルの仕様を、どれだけ理解出来ているか。というところがポイントだ。
「俺もよく知らんのだけどな。昔は【念話】持ちのことを[念話者]なんて呼ばれていたそうだ。重宝されたらしいぞ?」
例えばの話、【念話】持ちが2人いたとする。初めて会った頃の俺とリリーナの関係がそれだ。
この2人は、互いの魔力が届く範囲でなら、いつでも連絡が取れる、ということになる。これは情報伝達方法として、最速の手段となりうるわけで、フランの言いたいところがコレに当てはまるだろう。
いくつか制約はあるだろうが、【念話】という固有能力は、所持する人数がいればいるほど、情報を早くキャッチ出来る、「使い勝手のいい」スキルのはずなのだ。
首都から離れた場所に人員を配置して、伝達に使う。戦場の斥候として出ては、リアルタイムに通達する。いくらでも使い道はある。
それにもかかわらず、精霊の存在が確認出来なくなってからどれくらい経つのか分からないが、【念話】が軽視されがちな固有能力であるという。
スキルの使い道として、こういった使い方を想定していない。あるいは、【念話】を所持する人数が減り、方法が廃れてしまった。どちらかだろうと思う。
自身の魔力が届く範囲さえ掴めれば、単独でも誰かに【念話】を届ければ済む話なので、それを物事を知る立場にある王族のリリーナが所持している、というのは大きな意味がある。
……と思うんだけどなぁ。その有用性を教えていいものかどうかは、ちょっと悩ましいんだよなあ。
「まあ【念話】のことはとりあえず置いとこう。んじゃ、だいたいの準備は整ったし、明日から行動開始だ。2人とも常々言っていることだが――」
「分かってるよ。ゼン様から離れないように、だよね?」
「基本的には妾はリリーナを守れば良いのだな?任せるのだ!」
森の調査はそれなりに進んでいるが、違和感のある場所にはまだ向かっていないし、2人とも近づかないように言い含めてある。
迷いの森で、違和感のある場所。そこを進むのは危険度が高い。だから今までは近づかないようにしてきた。
出来る準備は十分にしたつもりだし、いつまでもこの森に住み着くわけにもいかない。いい加減リスクを背負って、行動を開始することにした。
あの先に「隠し里」があるということは予想が付く。そこでどう転ぶかは俺も読めない部分になるが、2人とも自衛するだけならば十分可能なレベルになったと思う。
基準が両親やネリーなのは自分でもちょっとおかしいと思うけど、森にいる動物の強さがおかしい以上、そこは妥協出来ないラインだった、というわけだ。
今このタイミングで動き出すのは、いくつか理由がある。
その中で極めて自己都合に近いのが、俺の年齢。色々な意味で、この世界において「10歳」は一つの節目と言える。
基本的に「洗礼」を受ける年齢でもあり、冒険者ギルドの年齢制限解除の歳でもある。学園都市に入学出来る、最年少でもある。
成長の早い人類種は、10歳は成人として見なされるケースもあるのだという。遅くとも15歳は「成人」と見なされる。
混血種である俺は、15歳くらいから更に成長期があるそうなので、実際に体が完成するのはあと7~8年かかるだろうが、15歳程度の見た目になるという言葉を信じるのであれば、「成人」といってもおかしくはあるまい。
となれば、そろそろ俺の「本来の目的」に向かって、動き始めるべきだと思う。
世界の救済。
生涯を費やして、なお足りそうもない。途方もない目的。
今の生活が無駄なものとは思わないが、「実績作り」を始めるならば、それなりに早いほうがいい。
「じゃあ、明日にはここを出る。帰ってこられるかどうかは分からんから、荷物はこれを入れるといい」
2人には専用の[空間箱]を付与した魔道具、[次元袋]を手渡す。
以前父さんに見せてもらった古代道具を参考に作った、俺のオリジナルだ。いつか使う機会があると思って、試作品を[空間箱]に入れておいた。
術式は教えたものの、2人には[空間魔術]という概念があまり理解出来なかったようで、[空間箱]は使えない。
色々自分達で作ったものもある。それをただ置いていくのは忍びないだろうし、俺が持っていくにしても、プライベートなものもあるだろう。ということで、試作品を改良して作っておいた。
「これって、[宝物庫]?やっぱりゼン様持ってたんだ」
「いや、ゼンは[空間魔術]を使って物の出し入れをしていると聞いておったのだ。よもや……」
「持ってたっていうか、今初めて名前を聞いたな。確かに参考にしたのは魔法の袋だけど、持ってたっていうか、最近俺が作った」
2人ともあの魔法の袋は知ってるらしい。[宝物庫]か。うん、これもそう名付けよう。
ちょっと仕様が違うけど、まあ大した違いはない。入る量の基準を変えているだけの話だ。
「参考にした、って……」
「これも自作なのだな……」
「魔法で作る魔道具がどんなものか知らんけど、魔術で魔道具作らせたら、俺ってちょっと凄いと思うんだ」
「「知ってる(のだ)」」
ため息混じりの2人にハモられた。呆れられてるというのはよく分かる。
もう今更なんだから、いい加減慣れて欲しいもんだ。
ちなみにあの魔法の袋は、何でも入る分、自力で収納出来る重さである、という前提があった。
俺が作った[宝物庫]は、一見すると「ただの布」なのだが、これに魔力を通すことにより、生物以外なら面積やら重さやら、全部無視して出し入れ出来る。
極端な話をすると、この家ごと[宝物庫]に入れることも可能だ。取り出しも自分が入れたものを把握していれば、意識すればちゃんと出てくるようになっている。これは完全に[空間箱]の仕様そのものだが、1つだけ魔法の袋との違いがある。
それは、持ち運び出来る容量や重さが、使用者の魔力によって異なる、ということ。
今のこの2人なら、自分の部屋にあるもの全てを持っていくにしろ、許容量的には半分も行かないだろう。逆に魔力の低い、それこそFとかともなれば、服1枚出し入れするのが精一杯だろう。
これは[空間箱]という空間魔術の仕様でもあるのだが、[空間箱]の容量というのは、「自身の持つ魔力値を乗じた分」という、魔力が上がれば上がるほど、飛躍的に性能が向上する、というのが理由だ。
となると、微妙に使い勝手の悪い魔道具とも言えるのだが、俺はあくまで2人のためだけに[宝物庫]を用意しただけだ。2人が使えれば、それで問題はないだろう。
「簡単に言えば、空間魔術の[空間箱]をそれで使えるようにしてるだけだからな。それに魔力通して被せれば、タンスごと持っていけるから。あとすぐに使いそうなものは、それに入れずに身に付けておくように。慌てると取り出しが難しいからな。布に糸をつけてあるから、それで袋みたいな形にすると、持ち運びしやすいと思う」
「[空間箱]かぁ……魔術ってすっごい難しいけど、空間魔術は難しすぎるもんねー」
「アレを説明するのは無理なのだ。[座標確認]がこの森では意味をなさぬ。仕方ないのだ」
そう、2人が空間魔術を理解しきれなかったのは、環境も悪かった。
同じ理由で召喚魔術や精霊魔術といった、空間魔術の初歩である[座標確認]が使えない以上、概念を説明する程度に留まった。
一応、【念話】を持つリリーナは、精霊魔術を[座標確認]なしでも行使は可能なのだが、精霊魔術は実演するにも俺が使えない、という難儀なこともある。
俺が使ってるのは【精霊魔法】だからなあ……。
それでもこの2人は、およそ一年、よく魔術について勉強したと思う。
フランは原始法術の火・水・風・土法術について、「上級レベル」に達している。雷法術だけは今一つ理解しにくいようで、中級レベルに留まっているにせよ、術式理解も高い。もう立派な魔術使いと言えるだろう。
リリーナはやはりというか、魔法の概念が邪魔をして、各法術ともに初級~中級レベルでしか使えないようだ。しかし、魔法の影響も悪いことばかりではなく、治癒魔術については上級レベルというか、治癒魔法との合わせ技でかなりの回復力を持つようになった。
魔術の発動はフランの方が圧倒的に早い。脳内で術式を組み立てる速度が極めて高いということだろう。
精確さで言えば、リリーナの方が若干上を行く。特に治癒魔術が顕著なのだが、そもそも上級レベルの魔術というのは、かなり複雑な術式を組む必要がある以上、精確さというのは必要なものだ。
結論を言えば、2人なりに魔術に対しての理解は十分に出来た、と評価出来る。
まだまだ工夫出来るレベルにはないものの、基礎的なところは十分抑えてある。普通に魔術を行使する分には、特に問題はないだろう。
ちなみに俺も魔法習得にチャレンジしていたのだが、これについては断念することにした。
そんなに時間が取れなかったこともあるのだが、それなりに理由はある。少なくとも、火魔法やら水魔法やらは、俺には使えないと分かってしまったからだ。他の魔法に関してはまだ分からないが、少なくとも【精霊魔法】で応用が利く範囲では使えないらしい。
精霊神を通して、魔術神に聞いた結果だから、多分間違いないだろう。ちょっと、残念だ。
もっとも、【精霊魔法】がだいたいの魔法より格上なもんだから、他が使えないってだけの話。[鑑定]なんかも【完全解析】があるし、うん、やっぱり覚える必要はないんじゃね。
く、悔しくなんか、ないんだからねっ!
◆◆
「一応家はこのままにしていこう。ベッドはまぁ、置いていくか」
出立の際、2人に忘れ物がないか確認しつつ、作り上げた家はそのままにしていくことにした。
実際のところ、戻ってこれる可能性というか、調査の成果が芳しくない場合、一度帰還するということも有り得る。
あるいは迷い人がこの家に辿り着く可能性もゼロではない。もし人類種がこの家を見つけた時のために、何種類かの文字を使って、書置きも残してある。
「この家を見つけた方へ。好きに使って下さい。保存食も腐ってなければご自由に。ゼン・カノー」
賊の根城なんかにされると困るのだが、この家で住める人数はたかが知れている。残してある食料も、1人換算でいいとこ1年といったところだろう。
リリーナの家庭菜園というか、ちょっとした畑なんかもあるが、永遠に実がなり続けるわけじゃないし。
それでも1人2人くらいなら、手入れしてやれば住めんこともないだろうけど、それ以前にここに辿り着けるかどうかって話なので、あくまで「万が一」程度のものだ。
だからそういう人のために、ベッドくらい残して行こうと、俺は思ったのだが。
「えー、持って行くよー」
「このふかふか感は捨て難いのだ」
『柔らかさは正義ですぜ旦那!』
『こんなキモチイイ寝床、置いてくわけにはいかないね!』
2人はおろか、[三頭犬]や[大戦猫]にも反対されてしまった。解せぬ。
特に後の2匹はいつからベッドを寝床にしてたんだ。夜は警戒で外に出てただろーが。
『あー、嬢ちゃん達の昼寝に、ちょっとねぇ。見てるとこっちも眠くなるっつーか……』
「そんな弁解、精霊獣から聞きとうなかった。精霊体だから寝なくてもいいんじゃね?」
『いや、あっしら、精霊体っつっても完全ってわけじゃあ、ねえですから』
「言い訳乙」
半分は生き物だから言い訳ってわけでもないだろうが、睡眠も食事も不要な2匹のはずだ。ペット乙と言わざるを得ない。
なんだかんだ言って、この2匹には助けられたけどなー。結局「損傷中」が完治しなかった俺に代わって、周囲の索敵から2人の護衛まで、幅広く活躍してくれたし。
結局【召喚魔法】で呼んでから、一度も[帰還]させなかったし、2人も大分意思疎通が図れるようになったみたいだし。
「そうだ。いい加減お前たちにも名前を付けようか」
いつまでも[三頭犬]と[大戦猫]という呼び名でいるのも限界だ。1年以上一緒にいるのに、犬と猫って呼んでるのと変わりがないってのもアレだしな。
そんな軽い気持ちだったのだが。
『だ、旦那。そいつぁ、ちと、恐れ多いっていうか……』
『ア、アタイらを[固有名]にするってのかい!?』
「いやもう実際お前ら2人のペットみたいなもんだろ。この場合名付けは……」
ものすごく恐縮している2匹を無視して、名前を考える。
飼い主は[三頭犬]がフランで、[大戦猫]がリリーナだろう。となると、それぞれ2人に考えてもらおうか、と思ったのだが、そこは2人に反対された。
「元々ゼン様が召喚したんだよね?責任はゼン様にあると思うんだ」
「妾たちが名前を付けても、大した[固有名]にはならぬのだ。ゼンが決めるべきなのだ」
「その理屈はよく分からないんだが……」
精霊獣に名前を付けるのに、何か資格でもいるんかいな?
確かに俺が呼んだものだから、こいつらの親は俺、という理屈は成り立たなくもないけど。
「じゃあ、[三頭犬]はこれから『ガルム』と呼ぶことにしよう。[大戦猫]は『リュタン』でどうだ」
一応2匹とも高位の精霊獣なので、それっぽい名前を適当に付けた。
いや、本当にあくまで軽い気持ちで名前をつけたつもりだったのだが。
次の瞬間、俺は軽い虚脱感を覚え、二匹の精霊獣が眩い光を灯し出す。
それほどの時間はかからなかったが、光が収まると、標準サイズである人型程度の大きさに戻った二匹が、厳かに告げてくる。
『――我が名はガルム。ゼン・カノーに召喚されし[三頭犬]。生涯フラン・ニス・アルバリシアの守護するもの』
『――我が名はリュタン。ゼン・カノーに召喚されし[大戦猫]。この身、リリーナ・シュア・カルローゼと共にあらん』
パッと見では姿形は変わらない。しかしどうにも雰囲気が違う。
名前をつけた[三頭犬]と[大戦猫]から流れ出た神聖な言霊は、どうやら2人にもハッキリと伝わったようだ。
ってか明らかに名前が付いた瞬間、俺から力を持って行ったよね?やけに強くなってない?
「うわぁ……やっぱりこれって、あれだよね」
「うむ、ゼンが[名付け]する以上、予想は出来たことなのだ」
「2人で話を完結させずに、説明プリーズ」
「「知らなかったの(だ)!?」」
いや、本当に知らなかったんだが、どうやら魔物や使い魔が名前を持つことは、特別な意味があるそうで。
前者は人が付けるわけではなく、個体の中でも特に強大な力を持つものは、[固有名]と呼ばれるらしく、最低でも<災害級>の力を持つ特別な個体であるらしい。
昔母さんにも聞いた覚えがある話なのだが、どうやら使い魔といった存在に名前を付けることは、使役する側の力を与える、という意味があるようだ。
使い魔=精霊獣とは限らないが、どうやら今回の軽い気持ちで行った[名付け]は、それぞれ[三頭犬]や[大戦猫]という「種」から「個」への変貌を遂げてしまった、ということだろう。多分。
理屈は分かったけど、名前付けただけでこんなことが起こるのか。
いや、まあ、【召喚魔法】で呼んだものだし、相当長い間召喚してたから、名付けする前から素質みたいなもんはあったんだろーなぁ。
『最初だからアッシらもそれっぽくやりやしたが』
『儀式みたいなもんだからね』
中身の江戸っ子とレディースは変化しなかった模様。いきなり厳かになってたからちょっと安心。
「すごーい!リュタンが喋ってる!ガルムも何か言ってるっぽーい!」
「妾にもガルムの声が聞こえるぞ!リュタンの方は何となくしか分からんが」
んでもって、フランはガルムの声が聞こえるようになって、リリーナもリュタンの声が聞こえるけど、逆ははっきりとしない、と。
つまりあれか。声が聞こえるのはそれぞれの飼い主だけってことか。
『あの、一応守護獣になったんで、ペット扱いは勘弁願いてぇんですが』
ガルムの戯言はスルーして、【完全解析】をガルムに使ってみる。
名前 ガルム
年齢 1歳
種族 精霊種半神獣/半精霊獣
職業 守護獣(主:ゼン・カノー/守護:フラン・ニス・アルバリシア)
称号 偉大なる三頭犬
状態 健康/不死/眷属(主:ゼン・カノー/従:ガルム)
Lv:なし
生命力:9221/9221
魔力量:4063/4063
筋力:4122
器用さ:3123
素早さ:4318
魔力:2023
精神力:3011
運:1000
魅力:3310
経験値:なし
特殊能力:【守護者】
固有能力:【念話】【咆哮】
汎用能力:【体術8】【爪術8】【格闘術7】【風魔法7】【水魔法6】【気配察知7】【魔力感知7】【直感7】
なんかものすごく強くなってる。
しかも特殊能力と固有能力が追加されてる。
種族も変わってる。しれっと「半神獣」って書いてある。
パラメータも3倍くらい高まってるし、魔法が使えるようになってる。
てかあれだよね、この【守護者】ってスキル、特殊能力の欄にあるってことは、ヤバい系だよね。
【守護者】
称号能力
スキルの所有者は、主人及び守護対象に危害を与えられない。
また、所有者の能力は、主人及び守護対象のレベルに依存する。
主人及び守護対象が死亡しない限り、不死状態が維持される。
主人及び守護対象に限り、状態不問で意思疎通が可能。
やっぱりヤバい系じゃないですかやだー。
要するにアレでしょ、主人(俺)か守護対象が死なない限り、ガルムも死なないし、レベルや経験値の概念はなくても強くなっていくってことでしょコレ。
しれっと俺の眷属にもなってるし。[契約]した覚えないんだけど。
『そりゃあ、アタイらを召喚したのはダンナだからねぇ。それで[名付け]までされりゃ、当然ってもんさ』
しゃあしゃあと述べるリュタン。まあ確かに、言われてみればそうなんだが。
リュタンもやっぱり相当強い。
名前 リュタン
年齢 1歳
種族 精霊種半神獣/半精霊獣
職業 守護獣(主:ゼン・カノー/守護:リリーナ・シュア・カルローゼ)
称号 最強の大戦猫
状態 健康/不死/眷属(主:ゼン・カノー/従:リュタン)
Lv:なし
生命力:8400/8400
魔力量:6112/6112
筋力:3955
器用さ:4522
素早さ:5033
魔力:3994
精神力:3521
運:1000
魅力:4014
経験値:なし
特殊能力:【守護者】
固有能力:【念話】【威圧】【隠蔽】
汎用能力:【体術8】【爪術7】【格闘術8】【火魔法8】【雷魔法7】【気配察知9】【魔力感知8】【直感7】
心なし……っつーか、そこら辺の一般冒険者じゃもう強さの次元が違いすぎて、どっちが強いかなんて分からんと思うが、ちょっとだけガルムよりリュタンの方が強いっぽい。
しれっと固有能力も3つある。元々の[三頭犬]と[大戦猫]の格の違いかなぁ。
称号名のちょっとした違いとかも、関係あるのかな。【守護者】のスキルを見る限りでは、フランよりややレベルが低いリリーナの守護者だとすると、リュタンの方がステータス的には下になりそうなもんだが。
『アッシも詳しいこたぁ分かりやせんが、フラン嬢が元々強い分、最初の強さに差が出ちまったのかもしれやせん』
『アタイらが「ガルム」と「リュタン」として産まれたのは、ダンナが[名付け]した今だからねぇ』
疑問に思っていると、そんな【念話】が飛んできた。ああ、こいつら俺の眷属だから、考えてることが何となく分かるのか。
なるほど、今持っているステータスは、守護者として必要な分…にしては、過剰すぎると思うけど、あくまで「ガルム」と「リュタン」はまだ生まれたて、ということになるのか。
【守護者】による成長は、まだこれから、と。なるほどなるほど。
――やっぱヤバイんじゃね。俺やらかしちゃったんじゃね?
「ゼン様ってやっぱ自重知らずだよね。私が言うことじゃないけど、常識って大事だと思うんだ」
リリーナの容赦ないツッコミが俺の心を抉る。
そういえば俺って、転生してからこの世界の常識について、あんま知らねぇな……。
「人付き合いが苦手、というわけではなさそうなのだがなぁ。ゼンはもっと、世間を知るべきだと思うのだ。あ、ガルムのことは感謝しているのだ!」
フランの後付のフォローが無理矢理感が否めない。
しゃあねえだろ。こっちゃ人付き合いとかする前に、やることが多すぎたんだよ。俺だって友達の1人やふた……やべえ思いつかねぇ。
仕事で人付き合いはしても、同世代の友達どころか、知り合いすらいねえ。
「――ともかく、ガルムとリュタンがいっそう強くなったのは悪いことじゃないだろ。さ、行くぞ」
心中を誤魔化して強引に話を打ち切り、さっさと支度を済ませて、出発する。
「俺、この森から出たら、友達作るんだ――」
「それって「ふらぐ」ってやつだよね」
「うむ、「ふらぐ」だな」
『旦那、逆フラグなんて狙って立てても意味ありやせんぜ』
『アタイらがいるじゃないか。気にしちゃいけないよ!』
無駄にフラグを立ててみた独り言を拾われて、しかもガルムには逆フラグ立てだとバレた。
泣きたい。
――――――――――――――――
名前 リリーナ・シュア・カルローゼ
年齢 9歳
種族 人類種人間族
職業 なし
称号 変わり物の王女
状態 健康
Lv:25
生命力:1022/1022 (30)
魔力量:1531/1531 (35)
筋力:620 <9999> (25)
器用さ:759 <9999> (25)
素早さ:531 <9999> (25)
魔力:802 <9999> (30)
精神力:932 <9999> (30)
運:350
魅力:854 <∞> (30)
経験値:3321/10800
固有能力:【念話】【早期栽培】
汎用能力
戦闘系:【体術6】【弓術4】【短剣術4】【銃術6】【剣術4】【斧術4】
魔法系:【魔力操作6】【魔力感知5】【火魔法5】【土魔法4】【治癒魔法6】【解呪魔法5】
【術式理解5】【火法術4】【土法術4】【風法術4】【治癒魔術5】
職業系:【裁縫7】【料理7】【目利き4】【革細工5】【彫金5】
採集系:【農業6】【土木6】【採集5】【解体5】
その他:【家事7】【礼儀6】【直感8】【算術6】【分析6】
名前 フラン・ニス・アルバリシア
年齢 9歳
種族 人類種魔人族
職業 なし
称号 帝国の天才
状態 健康
Lv:32
生命力:2014/2014 (40)
魔力量:2234/2234 (40)
筋力:941 <∞> (30)
器用さ:1011 <∞> (30)
素早さ:934 <∞> (30)
魔力:1315 <∞> (35)
精神力:1023 <∞> (35)
運:320
魅力:954 <∞> (30)
経験値:4532/22400
特殊能力:【無限成長】
固有能力:【武士】【闘気】
汎用能力
戦闘系:【体術8】【槍術7】【弓術6】【剣術7】【短剣術5】
魔法系:【魔力操作7】【魔力感知6】【術式理解6】【火法術7】【水法術7】【土法術7】【風法術7】【雷法術5】
職業系:【裁縫7】【料理5】【調合5】
採集系:【解体6】【採集5】【土木4】
その他:【家事6】【礼儀4】【生存術5】【直感6】
【早期栽培】
発動能力
対象の植物の成長を早める。
その効果はスキルの熟練度に比例する。
使用者の精神力が及ぶ範囲で適応が可能。
更なる進化が可能。
【武士】
発動能力
使用者の筋力・器用さ・素早さを一時的に上昇させる。
その効果と時間はスキルの熟練度に比例する。
更なる進化が可能。
【闘気】
発動能力
使用者の魔力・精神力を一時的に上昇させる。
その効果はスキルの熟練度に比例する。
効果時間中は魔力量が減少する。
更なる進化が可能。
ゼンの思ってる以上にネリーさんは強くなってます。
どのくらいかはまたの機会に。




