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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第三章 幼年期 ~迷いの森編~
49/84

召喚魔法と状態異常

 作業中、そういえば、と思うことがあったので、聞いてみた。


「なして君たち、それなりに仲良さげなん?」


 助かるっちゃあ助かるんやけどね。君たちの仲がそんなに悪くないのは。ただ何故に?という疑問はある。

 この「君たち」というのは、当然リリーナとフランのことだ。元々面識があった、ということは聞いてない。第三王女と帝国第四席、何かしら接点があったりしたのだろうか?

 わざわざ聞かなくても【完全解析】をかければ分かるかもしれんが、こういうことは直接聞くべきことだろう、と率直に尋ねてみたのだが。


「妾たちの仲が良いというか、なあ?リリーナ」

「そうだねー。なんか、ちょっと違う気がする」


 とまあ、何とも意味深な回答が返ってきた。うーん、察することしか出来んけども、何かしら協定を結んだってことかいな?

 それだけにしちゃあ打ち解けすぎている気がせんでもないのだが。

 決して悪いことではなく、むしろいいことだし、あまり気にしなくていいこと、なのかねえ。



 さて、今何をしているかというと、家作りである。ハウジングである。

 別に言い方を変えたってやることには変わりは無いが、ともあれ拠点を作ろうと思った次第。

 森に何時まで滞在するか見通しは不明にしろ、長期間テント暮らしというのも、2人の年齢的に考えて、負担が大きすぎるだろう。

 フランは大丈夫な気がせんでもないが、リリーナはそうも行かない。気丈にはしてるけど、やっぱりお嬢様には違いない。

 元々そうしようと思っていたし、現在進行形でログハウス的な何かを作っているところである。


 この作業、ぶっちゃけ1人でもそんなに困らない。前世でも経験があれば、神界でも経験があり、ゼン・カノーとしても通った道。

 俺は割と家作りが得意だったりする。普通に設計図引けるし。今なら腕力半端ないし。ノコギリ無しで木も切れるし。

 強いていえば釘があんまし無いくらいだが、木材の合わせなぞ大したことはない。

 だから2人には召喚した[三頭犬]や[大戦猫]と戯れていてもらおうと思ったのだが、「手伝う!」と主張して譲らなかったので、ならばと素直に手伝ってもらっている。



 てかね、聞いてよ。いや、誰に言ってるのかって話なんだけどさ。


『アッシらは手伝えませんで、申し訳ねぇっす』

『アタイらは戦い専門だからね』


「何いきなり話しかけてきてるワケ?」


 こんなことがあったわけよ。いや、何言ってるのか分かんないと思うんだけどさ。呼び出した[三頭犬(ケルベロス)]と[大戦猫(ワーキャット)]がなんか唐突に喋り出したワケ。

 いやね、なんでこうなったか、大体分かってるんだ。召喚魔術がね、進化したの。【召喚魔法】にさ。固有能力(ユニークスキル)になったわけだ。ある意味召喚魔術より便利には、なった。のか?

 多分切っ掛けは[鷹(ホーク)]と【思考対話(テレフォン)】を繋げた時だと思うけども。


【召喚魔法】

発動能力(パッシブスキル)

使用者は対象を召喚し、使役出来る。

この対象は使用者の理解が及ぶ範囲で適用される。

選ばれた対象は対象の意思により使役者に従う。

召喚可能な対象は使用者の魔力に依存する。


 これが【完全解析】で出た結果。微妙にファジーなのはもうしょうがないでしょコレ。

 今までの召喚魔術と何が違うかというと、召喚(サモン)帰還(リコール)、そのやり方自体は同じ。

 問題は対象、まあこの場合[三頭犬]と[大戦猫]なわけだが、この2体はそれなりに意思を持っているということ。

 それが問題になるかどうかは、まだ良く分からんことになるのだが、意思を持っているというのは、俺にとって結構意味が大きい。

 なんだかんだで【完全翻訳】と【思考対話(テレフォン)】を持つ俺は、意思と知性さえあれば、どんな相手だろうと意思疎通が出来たりするわけで。

 だから[三頭犬]と[大戦猫]が喋りかけて来たときは本当にびっくりした。マジで。しかも江戸っ子とレディース的な感じで喋ってきた。なんなのこれ?


『アッシらは旦那に尽くしますぜ?』

『アタイらにも任せときな!』

「何なのもう……いや、助かるっちゃあ、助かるけどさ」


 当たり前、と言うべきかは分からんが、リリーナとフランには「がう」とか「にゃー」とかにしか聞こえんようだ。

 ついでに言うと、[黒豹(クロヒョウ)]が何言っているかよく分からなかった。どうも上級クラスの召喚獣じゃないと、これほど流暢には喋れんようだ。

 その[黒豹]にしても、本当に普通の猫というか、物凄く人懐っこい猫化してしまったので、もう完ッ全にペットですわコレ。

 何で完全にペットなのかというと、[三頭犬]と[大戦猫]はもちろん、[黒豹]まで、ある程度人語が理解出来ているらしい。

 普通にリリーナとフランの言っていることが理解出来ている模様。便利は便利だけど、それでいいのか召喚獣。

 などと思ったものだが、[大戦猫]がこんなことを言い出したので、そういうものかと無理矢理納得した。


『アタイらもその辺の精霊とおんなじだからね。一匹は全部。人様の役に立てりゃそれでいいのさ』


 要するに、精霊と召喚魔術で呼ぶ対象は、その本能的なところで言えば、そう変わりがない。ついでに在り方もあまり変わらない。

 この[大戦猫]が特別なわけではなく、[大戦猫]全てが同じ思考を共有するようで、なんというか、獣の形をした精霊、とでも言えばいいのだろうか。

 召喚魔術で呼んでいた召喚獣は総じて同じようで、どうも「精霊獣」とでも呼ぶのが正しいようだ。結構衝撃的な事実だったわ。いや、マジで。

 都合よく使われることに抵抗はないわけ?と聞いてみると、[三頭犬]もこんなこと言い出した。


『旦那、人様のお役に立つのに、何か理由がいるんですかい?』


 男前過ぎるだろお前。

 でもこの思考は確かに普段話をしている妖精とあんまし変わらんものだ。

 というわけで、便宜上今後は【召喚魔法】で呼び出したものは「精霊獣」と呼ぶことにする。


 この【召喚魔法】についてのメリット、いや俺の場合メリットになるかどうかは微妙なんだが、必要になる魔力量は「召喚時のみ」っぽい点にある。

 具体的には、今こうして呼んでいるわけだが、魔力の消費、ゼロである。何かさせるにしろ、消費なし。召喚魔術の部分がもう召喚時と帰還時にしかない件。

 一応召喚魔術に対してデメリットがないこともない。

 一つは術式にさせることを刻んでも、あまり意味が無いということ。具体的に何をさせるかは適時しっかり伝える必要がある。ただこれは逆に、ファジーな命令でもだいたいその通りに動いてくれる、というメリットでもある。何しろ意思があるわけだし。

 もう一つのデメリットは、精霊獣とは「人類を襲うのは嫌い」なことだ。いや、これもデメリットなのかどうか悩ましいのだが。


『まぁ旦那の命令とありゃあ、やりやすが、気は進まねぇでさぁ』

『アタイらはあんまし人は襲いたくないねぇ。守る分には容赦するつもりないけどさ』

「お前ら義理人情ありすぎるだろ」


 これである。なんなのこれ。


 ついでに言うと、やはり、というべきなのか分からないが、召喚出来る数に制限が無い。なんなのこれ。

 ただし、『一応、アタイらも精霊みたいなもんだから、それなりに固まってないと、本来の強さは持てないよ?』という[大戦猫]の談である。

 要するに同種の頭数をあまり多く呼ぶと、1体当たりの個体の力が弱まるようだ。そこは召喚魔術と違う最大のデメリット、かと思いきや、それが違う。

 この今いる[三頭犬]と[大戦猫]、かつて呼んだことのある同じものより、遥かに強い。ちょこっと強さを見せてもらったのだが、何なのお前というくらい強かった。<厄災級>なんかよりよっぽど強いと思われる。

 これは傍に居る妖精の仕様とよく似てて、ここにいる[三頭犬]は[三頭犬]という個体の固まりである、ということなのだろう。少なくとも[大戦猫]はそれっぽいこと言ってた。なんなのこれ。何度でも言いたくなる。


 今考えると、精霊魔術と召喚魔術は、実はとても良く似たものだったのではなかろうか。

 結局精霊魔術を行使したことはないし、これから使えるようになることもないから比較のしようがないのだが、精霊魔術が精霊の力を借りて魔術を撃ち出すものに対して、召喚魔術は精霊獣の力を借りて精霊獣に何かをしてもらう。

 本来術式というもので、その力をある程度制限するわけだが、そこの限定が無くなった。それが【精霊魔法】であり【召喚魔法】なのだろう。


 折角なので、かねてからの疑問を聞いてみた。

 そもそも、精霊獣の肉体とはどうなっているのか。呼び出した時にはもう肉体を持っているわけだが、どこからそれが出てくるのか。

 一つ得られた回答としては、『半分くらいは精霊体でさぁ』という。じゃああと半分は、というとこれは良く分からないらしい、持ってるものを説明しろと言われてもと首を傾げられてしまった。

 そこで【完全解析】を使ってみたのだが、納得は出来た。出てきた種族が「半精霊体半生命体」という表記なのだ。

 ついでに普段はどこにいるのか、ということも聞いてみたのだが、『アタシらは気付いたらここにいるからねぇ』という回答につき、これは諦めた。


 実のところこの2体、しっかりステータスがあったりする。多分、俺の【完全解析】でしか知りようが無い情報だと思うのだが。

 汎用能力(スキル)はほとんど持ってない、【体術8】とか【気配察知7】くらいしか無いのだが、それも高くね?

 見せてもらった強さ通り、というかそれ以上に高すぎる数値にびっくりした。父さん以上ネリー以下といったところだ、具体的には1000前後が並ぶステータス。馬鹿じゃないの?

 しかも生命力や魔力量は0だった。半精霊体だからか、神界に居た頃の俺と似たようなもんだろう。傷は付いても簡単に死にはしそうにない。

 経験値だけは存在しなかったので、成長することは多分無いと思うのだが……いや俺のスキルで呼べたものだし、決め付けはやめとこう。我ながら俺って常識外の存在だもんな。


 出しっぱなしにしているのは勿論2人の護衛のためなのだが、意思を持っちゃった以上、なかなか帰しにくいという心情的な問題もある。

 気にするなと言われても、割と楽しそうな[三頭犬]や[大戦猫]を見ていると、帰還させるのが何となく忍びない。

 半分は何かしらの生命体ならば、食事も必要だろうと思ったのが、魔素があれば問題ないらしい。お前らは仙人か。



 それはさておき、今は家作りの話だ。

 まずは敷地の確保と必要な木材を確保するべく木を切り倒している。

 保護団体とかから怒られそうな勢いで切り倒してはいるが、こっちも命がかかってる、勘弁願いたい。

 てか、手伝えなくて申し訳ないという[三頭犬]と[大戦猫]なのだが。


 フツーに手伝えるやん?むしろ何でそんなこと出来るん?


 というのも、フランが[風刃]で切った木を、器用に背中に乗せて運んでくれるのだ。

 重量も全く苦にしている様子が無い。強いていえばバランス取るのが難しいらしいが、普通の犬猫には絶対出来ないからソレ。

 切った後の切り株もリリーナにワイヤーをかけてもらって、それを引いて株を抜く。お前ら牛か何か?牛よりややデカいけど。

 流石に家組みまで手伝ってもらおうとは思わんが、それだけ出来れば十分過ぎる。

 戦ってよし、手伝ってよし。物凄くハイスペックなペットだ……。


『ペットって言われるのは心外でさぁ』

「いや、確実にペットだよなお前ら」

『一応アタシらは獣になるんだけどねぇ』

「そんなことゴロゴロと喉鳴らしてリリーナに撫でられて言われてもな……」


「うむう、会話が出来ているようで少々羨ましいのだ」

「私たちもお話出来ればいいのにー」


 なんだかんだでリリーナもフランもどことなく楽しそうだ。

 国王の娘と帝王の娘。年頃の子供らしいことなんてしたことないかもしれん。

 決していい状況ではないけれど、こういうひと時も人生の途中、あってもいいんじゃないかな。

 俺も寄り道をするつもりはないけれど、道中はやっぱり楽しい方がいいに決まってる。


 なんつーか、平和だなー。



◆◆



 とりあえず家作りの敷地を確保し終えたその日の夜のこと。

 テントの入り口側に一番近い場所で寝ていた俺に、脳内に響く声。


(旦那、来ましたぜ)

(了解だ。出るぞ)


 【召喚魔法】のもう一つのメリット。呼んだ精霊獣と魂のリンクが成されること。

 精霊獣は【念話(テレパシー)】が使えるわけではないが、リンクを通して俺を呼びかけることが出来るらしい。

 いずれはネリーにも出来るようになるのではないかと思っているが、それはまた検証が必要になりそうだ。距離とかも関係しそうだしな。


 俺は静かに外に出て、テントから離れる。テントの守りは[大戦猫]に任せている。夜目が利くから守りに置くには最適だからな。

 さて、[三頭犬]が伝えてきた「来た」という存在。それは、この森に住む獣達のこと。

 狼や熊、猪といった野生動物で、常に凶暴というわけではない。だが、どうにも俺たちのことを「外部者」として見ている節がある。

 たまにこうして、夜中に見計らって、徒党を組んで襲ってくるのだ。


 すなわち、「敵」ということになる。


 そしてこの獣達は、強い。その辺のA級魔物並か、ちょっと上かもしれん。

 見た目としてはちょっと変わった色をしてたりするが、普通の野生動物と変わらない。だが、その動き、その膂力、その知性。何もかも普通ではない。

 毎晩襲撃してくるわけじゃない、初日は襲ってこなかったし、頻度もそこまで多くない、5日に1回といったところだ。

 シェラが言っていたのは、このことだ。「混血種が強くなることは、野生の獣の方が余程理解していた」と言っていた。

 恐らくはこの森に住む動物は、長い間、ひたすらに自らを進化させていたのだろう。


 この「普通サイズ」というのは逆に戦いづらいというか、あまり俺が慣れてない。

 A級魔物、あるいはそれより上の<災害級>や<厄災級>というのは、基本的にサイズが大きい。

 これはこれで戦いにくいのだが、敏捷と言えど、サイズの大きさが逆にネックになる。

 強いイコール大きいとは限らないし、逆もまた然り。

 何より神界ではひたすら擬似魔物との戦いを続けてきた身だ、余計にやりにくい。

 [黒豹]にはテントの周囲に近づかせないように指示、[三頭犬]は俺の死角をカバーするように伝えて、刀を取り出して戦闘態勢に入る。


 ここで刀を使うのは理由がある。更地は作ったが、獣は平地に入り込んでくるような真似はしてこない。

 だからといって放っておけば、確実に数を増やして、森から一気にまとめて来るだろう。増えすぎる前に対処する必要があると考えた。

 森の中では、魔術が非常に使いづらい。火系はまずアウト、土系や雷系も効果が薄い。水は効きにくい。となれば風だが、これも無闇に森を破壊することになりかねない。

 つまり、原始魔術は牽制程度にしか使えない、というより使わない方がいいだろうと思っている。


 迷いの森の魔素はかなり濃い。その分獣に耐性があるのか、あるいは結界による特性なのか分からないが、とにかく直接攻撃するような魔術が効きにくいのだ。

 森を破壊しないように出力を抑える、これは難しくない。だがそれで獣が倒せてくれるほどヤワではない。

 ということで、物理攻撃をメインにせざるを得ない。場所の問題で長刀は使いにくいし、弓もそうだ。飛び道具全般がそうなるが、補充の効く環境はまだ整っていない。

 刀とて小回りが利くほど便利ではないが、短剣ではリーチが短すぎる。だからこそ、刀と暗器に頼るしかない。流石に素手で倒そうとは思わない。


 もう一つ問題がある。俺は一応人類種エルフ族であって、夜目が利くわけではない。

 天法術はかなり多くの強化系魔術があるのだが、残念ながら夜目について強化する術式はない。

 夜目の利く[梟(オウル)]でも呼んで視界共有するのも手だが、残念ながら呼べなかった。もっともそれで戦うのは相当苦労するだろう。


 簡易的な灯りとして、雷法術による、[雷光(ライトニング)]の出力をなるべく絞り、行使する。

 本来の[雷光]は雷そのものによる攻撃魔術の一つなのだが、光をともなうため、「設置」しておくことで、光魔法のような使い方も可能だ。

 これが初級の[雷球]だと火花程度しか出ないので、仕方なく使っている面もある。

 それでもあまり多く設置するわけにはいかない、リリーナたちが起きてしまうかもしれない。なるべく森側に「設置」して、場所を探る。


(ダンナ、アタイからも見えた。[黒豹]は交戦を開始したらしいぜ)

(分かった。お前はテントから戦況を確認して、守備に専念しろ)


 俺も狼の一団を確認した。数ははっきり分からん、20くらいか?

 [三頭犬]を連れて、こちらから先制攻撃をかける。

 物音を立てずに接近したつもりだったが、狼に先に気付かれたようだ。

 俊敏な動きで俺を包囲するようにしてきた。知恵が回りすぎだっての。


(旦那の背後は、あっしが)

(任せた)


 俺は【威圧】をかけて僅かに怯んだ狼に、障害物を避けて素早く近づき、一太刀。

 流石に力量差は相当あるもので、1体程度は瞬殺出来る。だが、視界に映るのは素早く連携して襲ってくる3体。

 そこまでの脅威では無いが、結構面倒だ。


(俺の死角を頼む)

(任せてくだせぇ)


 3体は同時にではなく、しっかり時間差で襲ってきた。連携バッチリだな。

 ならば相応の速さで対応する。刀を三度振り、それで斬り捨てるのみ。

 同時に襲ってきたのは2体。飛びかかる狼を袈裟切りに一度振り、切り返して二度目。これは倒した、手応えがあった。

 その一瞬の攻防の後にもう1体。これに対応したつもりだったが、三度目を空振りしてしまった。

 狼の噛み付きの狙いは、正確に喉を狙ってきたようだ。そこは守る。

 防御のために強引に左腕で払おうとしたところ、その左腕に噛み付かれた。痛ェな、牙鋭すぎるだろう。

 この程度で怯みはしない。むしろ利用すべく【精霊魔法】で噛み付いてきた口を通して電撃を放つ。流石に身体の内側からも魔力が通らないということはない。


 少しばかり身体の反応が鈍い。痛くはないが、これは「毒」だな。この感覚は既に神界で味わっている。

 慌てず[解毒]を行使して、次の相手に備える。[三頭犬]もこの間に2体ほど倒したようだ。


「アオーン」


 1体の狼が遠吠えをあげる。撤退の合図のような気がするが、油断はしない。深追いは避けるが、構えはまだ解かない。

 予想通り撤退だったらしく、そのまま狼たちは消えていった。[三頭犬]も他の気配は感じないようだ。

 しかし、戦いはまだ終わっていない。今度は[黒豹]の元に急ぐ。


 こちらに居たのは10体ほどの熊。[黒豹]は集団戦を得意とする精霊獣だが、集団戦対集団戦となると、連携と個々の力がより必要になる。

 速さでは[黒豹]が上だが、どうも熊パワーで押されているようだ。そもそも[黒豹]とて5体、数で既に負けている。

 [三頭犬]には[黒豹]の助けをするように告げて、俺は1体ずつ暗器で屠ることにした。


 見える範囲にいた1体の熊に向けて、玉鋼製ワイヤーを放ち、巻きつける。

 そのまま断ち切るつもりでワイヤーを引いたのだが、皮膚が相当硬いのか、一瞬とまでは行かなかった。だが力を込めると断ち切れた。

 同じ方法で2体屠ったのだが、その間隙を狙われて、俺の側面から熊が爪で俺を攻撃してきたのが見えた。

 それを見て熊に[縛止]を行使。対象の足を止める冥法術で動きを封じたところを狙い、素早く短剣を抜き、頭に突き立てた。


 ここでようやく熊も撤収して行った。

 まだ油断出来るわけではないが、一段落、といったところか。

 思わず一息吐く。この獣たちに少々苦戦しているのは事実だ。

 相手が強いということもあるにはあるが、こちら側にも少々理由がある。


 実のところ、今の俺は万全には戦えていない。

 もちろん場所や魔術のハンデもあるにはあるのだが、もっと根本的な問題が発生している。

 これが結構深刻な足かせになっているのだ。


(旦那、今のところ気配は感じやせん。戻って休んでくだせぇ)


 そうさせて貰うと伝えて、俺はテントに戻ることにした。

 それほど夜目が利かないはずの[三頭犬]だが、よくやってくれている。

 3体くらいに増やしてもいいのだが、増やすなら[大戦猫]の方だろうか。


 テントに戻ると2人は眠っているようだ。俺ももう一度眠りに就くことにする。

夜襲は頻度こそ多くないが、少しばかり数が増している気がする。

 一度退いた獣が、仲間に伝えて回っているのか、あるいは単純に脅威として見られているか。



 ともあれ俺が家作りをなるべく早くしているのも、こういったことが起きているから、ということもある。

 家を作る際に材料に術式を施して、結界を張ることにより、幾分マシになるはずだ。

 この森の獣相手となると、リリーナは問題外。フランにしろ苦戦は必死。

 護衛として[三頭犬]と[大戦猫]を常に付けてはいるが、それだけで安全になるとは言い切れない。

 俺としても色々不都合がある以上、動ける状態にはなかなかなりそうにねえなあ。



◆◆



「どうだ?見た目はかなり綺麗に出来上がったと自負している」


 家作りに取り掛かり、組み上げるだけの材料を揃えたのが4日前。そこからは一気に組み上げた。

 ここまでざっと3週間というのは、俺からするとやや遅いのだが、夜襲にも備えた結果といったところだ。精霊獣も睡眠は必要みたいだし。

 家の組み立て自体は、【工程短縮(ワークカット)】も効いて、外観は一気に仕上がった。あとは内装を残すのみ。

 つってもベッドやらテーブルやら椅子やらは既に作ってあるので、配置を決めるくらいなもんだが。

 ああ、あと仕切りも作らねば。外観は完成しても本当に中身はスカスカだな。


「いくらなんでも早すぎなのだ!」

「普通、おうちは1人で組み立てるものじゃないと思うんだけど」


 君たちも作ってるとこ見てたやん?今更やでそんなん。

 目の前には丸太をふんだんに使い、床下スペースまで確保した完璧なログハウス。

 階段付き、庭付き、煙突付き。なんで煙突付けたって?雰囲気は大事やろ、暖炉があるんだから煙突も要るやろ。


「後は中に入って、家具の設置を決めようか」

 唖然としている2人の手を取り、建屋の中に入る。

 実際入ってみると、外観上に中は広く感じる。40坪くらいは敷地として取ったつもりだが、まだ何も無いからかな?

 王族の2人からすれば、これでも狭いだろうか?などと思ったが、

「広すぎるよぉ……」

 というのはリリーナ談なので、広さ的に問題は無いだろう。

 ここから敷居を作ったりするので、結局はそれ相応の間取りになるのではなかろーか。



「妾とリリーナは一緒の部屋で構わんのだ」

 キッチンやらダイニングルームやらを決めて、プライベートな空間をどこにするか、というところでフランがこう告げてきた。


「リリーナにも話してあるが、[三頭犬(ケルベロス)]が守りに就くにしろ、妾らは固まっておった方がよかろう?」

「私も1人は心細いしねー。ゼン様が一緒なら平気なんだけど」

「うーん、俺まで一緒の部屋ってのは、ちょっとな。テントの時はしゃあないとして、そうしてくれるんならそうするか」


 2人の何とも殊勝な心がけは大変ありがたい。

 流石にこの年齢の少女に邪な気持ちなんぞ出ることはないが、家まで建てて男女同じ部屋ってわけにはいかんだろう。

 フランに戦わせるつもりがあるわけではないが、万が一を考えればリリーナと一緒に居てもらった方がいい。

 この建屋にはかなり強力な結界を張ってあるので、中まで獣が入って来ることは考えにくいのだが、見た目はともかく、どうにも得体の知れない獣だらけなのだ。

 下手すればその辺のリス1匹でも脅威かもしれんからな。流石にリスが襲ってくることは無かったが。


 ともあれそういう了承を得たので、2人の部屋は12畳程度取り、そこにベッドを置く。

 そこらの木から作った簡素なベッドなのだが、個人的な出来としてはそう悪いものではない。

 特製のスプリング仕様で寝心地は保障する。シーツもシルクで作った高級品だ。

 大きさとしてはごく普通のシングルベッド並。

 フランとリリーナには少しばかり大きいかもしれないが、普段寝てるサイズはもっと大きいかもしれんし。


「ふかふかなのだ……ゼンは何でも出来るのだな」

 試しにと寝転がったフランがベッドの仕上がりに驚いているようだ。ま、このくらいはね?

 念のために広さも聞いておく。


「一応聞くけど、狭かったりとかしないか?」

 同じく寝転がったリリーナが肘をついて答える。そのポーズは歳相応でかわいい。ジャージだけど。


「確かに王国のベッドはもっと大きいけど、あれはあれで寂しいんだよ?」

 だよね?あんまデカくてもベッドってどこで寝たらいいか分からんというか。

 広いベッドってのは、それはそれで気持ちいいんだけども、俺は落ち着かなかったなぁ。

 などと考えていると、フランが突然ガバっと身体を起こして叫んだ。


「ではなくてだな!ゼンのその道具袋はどうなっているのだ!?」

「おお、ようやくそこに行き着いたか」

「妾も道具袋くらい知っておるのだ。しかしいくらなんでも物持ちが良すぎるのだ!入りすぎであろう!?」

「いやいや、俺のは道具袋じゃなくて、こういう魔術だから。無限というわけではないと思うけど、どれくらい入るか俺もようわからんから」

「都合良過ぎなのだ……」


 よく考えたら俺の[空間箱]についてツッコミを入れてきたのはフランが初めてのような気がする。

 みんな道具袋の一種って考えるんだもんなあ。原理としちゃ同じだけど。

 ある意味これ魔術で一番便利なのよね。出入れも自由自在だし、ほとんどの物はこの中に入れてあるし。

 ただ何がどのくらい入ってるか、俺も忘れそうになるんだよなぁ。流石にその内訳までは誰も教えてくれんから、入れる分には全く問題ないけども、出す時がめんどい。主に俺の記憶を探る的な意味で。

 ちなみにどうやって出しているかは複雑なので割愛する。細けえこたぁ(AA略


「細かいことはいいじゃない。こうして困んないのはゼン様のおかげだもん」

 うむ、リリーナいいこと言うた。


「それは、そうなのだが……釈然としないのだ」

 フランの気持ちも全く分からんこたぁないけどな。

 普通、着の身着のままでこんな森に放りだされたら確実に死ぬるから。


「これで普通に生活する分にはとりあえず困らんだろう。食と住がコレで済んだから、あとは衣類、か」


 女の子が着たきり雀っていうのもどうなの?って話だ。

 いや普通ならこの状況、そこまで考える必要は無いねんな。

 でもなぁ、ジャージは着てるけど、その下は、うん、アレなんだよね、はいてないってやつらしくて。

 常に清潔なように[浄化]の術式付与はしてあるけども、ずっとそのままというのも……。

 決して妄想などしてない。こればっかりは本気でノーマルだと言わせていただこう。本気と書いて真剣(マジ)と読む類のレベルだ。


「えっと、ちょっと、その」

「それを、作ってもらうのは、流石に恥ずかしいのだ……」

 言ってることが分かったらしい。2人とも顔が真っ赤だ。

 ただの服を作る分にはやぶさかでもない。


「ですよね。材料と作り方だけ教えるんで、自分達で作ってください。ジャージ以外の服は俺が作るんで」

 俺もこんなことで精神的ダメージ食らいたくないんで。是非。

 ついでに洗濯も覚えてください。物干し竿は用意してありますんで。

 こんなことに性的興奮を覚える変態ではないですが、俺が下着を作って渡すというのは、流石に居心地が悪すぎるんです。


『旦那、流石にどうかと思いやすぜ』

『オトメゴコロってやつがあるじゃん?』

 うるさいお前ら。てかいつ入って来たし。



◆◆



 久しぶりの1人寝に一安心しながら、今後について考える。

 今抱えている問題はいくつかある。問題ない、なんてとても言える状況にはない。

 一番深刻なのは、リリーナとフランの守りについてどうするかだが、ここは想定外の【召喚魔法】によりある程度クリアは成された。

 それでもオールクリアとは行かないが、こうして拠点を作ることには成功したわけで、安全度はかなり高まったはずだ。

 ただここからどうするか、これがどうにも悩ましい。手詰まりではないにしろ、調査するにも問題点が多い。


 一つは、この辺りの地形について、全く分からないことだ。

 少しだけ森の探索を試みたのだが、どう考えても迷うのは確実だ。調べる切っ掛けすらまだ掴めていない。

 何しろ道らしき道もなく、延々と木々が連なる光景が続くのだから、目印に木を切り倒したり、傷を付けたりするのも限界がある。

 仮に迷った場合、拠点に[三頭犬]か[大戦猫]を置いておくとしても、戻ることは相当難しいだろう。

 どちらかを置いておくのは護衛上の確定事項。ついでにリンクを辿れば戻れるかもしれない、という甘い見通しだ。

 距離が短ければだいたいの位置は互いに把握出来るにしろ、それほどリンクというのは絶対的なものではない。事実、今いる場所からネリーのいる方角など分かりはしない。


 次に、今向いてる方角などを調べる方法がない。

 太陽が上ってきている方向は分かる。地球と同じように、東から上って西へ沈む。普通(・・)は。

 その向きが、今いる森からだと、明らかにおかしい。太陽が頂点に昇り、そこから沈む、これだけは間違いないのだが、向きが毎朝違っているのだ。

 自分の方向感覚が狂っているのは認めるにしろ、毎朝測定地点がズレるというのは明らかにおかしい。

 しかも些細なものとは言えない、毎日30度から90度程度はズレている、と思われる。

 俺としてもこのズレが正しいか断言は出来ない。いずれにせよこの森から見える太陽の向きは当てにならない、というだけだ。一定方向に上って沈んでいるかどうかすら怪しい。

 これはあくまで見える側の話であり、恐らくは正常な動きをしているのだろうとは思う。おかしいのは、森の結界の方だろう。


 張られているであろう森の結界については、全く見当が付かない、というわけではない。

 迷いの森という名を誰が付けたかは知らないが、全くもってその通りとしか言いようがない。

 推測だが、この森は普通に歩けば、永遠に抜けられないのではないだろうか、と当たりを付けている。

 【一騎当千】で跳んだ時に見えた光景は、それだけ異常なものだ。確かに「境界」なのだから、それくらい広くてもおかしくはないのだが、どうにも違和感がある。

 やってみなければ分からないことなのだが、この森自体にループ区間が作られているのではないだろうか。つまり、本当に無限に続く森になっているのでは、という嫌な確信がある。

 というのも、【召喚魔法】で方向感覚に優れた精霊獣を呼び、3体ほど「可能な限り真っ直ぐ」という指示を出して、放ってみたのだ。

 その結果、リンクは切れなかったのだが、向かった方向の逆から帰ってきてしまった。途中で方向感覚を失ったという可能性もあるが、どこかでループしてしまった、という可能性が高い。


 まさに八方ふさがり、とも言えるのだが、そこまで悲観的な考えはしていない。


 俺1人であれば、帰れる可能性はあると見ている。また、外部からの干渉を受けられる可能性もそれなりにある。

 まず俺の場合、相当強引な手段になるが、【精霊体化】を使い、無理矢理次元を超えるという方法。

 試したことはないが、結界が地下まで及んでいなければ、そこから強引に[転移]を試みれば、少なくとも森から出られる可能性はある。

 そして辿り着いた場所で[座標確認]を行えば、そこから[転移]をすることでイストカレッジ辺りまで戻る、という強引すぎる手段は、取れないわけではない。

 だがこれは却下せざるを得ない。リリーナとフランを置き去りにそのようなことが出来るわけもない。


 そして外部からの干渉についてだが、極端な話、【召喚魔法】を使えば、ネリー、あるいはラピュータをここに連れてくることが可能なのではないか、という予想だ。

 【召喚魔法】の対象は、「使用者の理解が及ぶ範囲」という極めてファジーなもの。「どこにいるか理解する」ために召喚術式を利用した召喚(サモン)を行っているわけだが、リンクしているネリーやラピュータなら召喚が可能かもしれない。

 だがどちらを呼ぶにしろ問題はある。ネリーを呼んでも助けにはなるだろうが、根本的な解決には繋がらない。

 そしてラピュータを呼べるかどうかは、相当怪しい。一応精霊神のはずだし、彼女は地上に降りられない可能性が高いのだ。

 仮にネリーを呼べたとすれば、リリーナとフランを眷属にして、俺1人がまず脱出する。そこからリリーナ・フラン・ネリーを呼び出すという手段もあるかもしれないが、あまりにも不確定過ぎる。


 いずれにせよギャンブルに賭けるのは、本当に最終手段だ。仮に出られたとしても、今度はまた入れなくなる可能性もある。出ることは最優先事項にしろ、今偶然にも森に居るというアドバンテージは生かしたい。


 最後に、今俺が抱えている問題についてだ。

 見た目は分からないと思うが、肉体的にかなりの支障が出ている。

 少なくとも作業程度は全く問題ない。だが、それなりに強い敵がいるにも関わらず、今発揮出来る力は、相当不安定になっている。

 2人に心配させるわけにはいかないので隠してはいるが、かなりの倦怠感もある。

 ぶっ飛んだ精神力のパラメータだからこそ成せる業なのか、大して気にもならないのだが、気を抜くと何か一気に行かれそうな気もする。


 先の戦いにおける俺のパラメータは、最大値で言えば筋力がおよそ3000程度だった。

 不適合状態に大きな変化が無い以上、この時点で最大7割程度までしか使い切れないというのは重々承知していたし、もう慣れたことだ。

 これが魔術をメインで使った理由の一つでもある。魔力についてはネリーに裂いてる分、全力行使しても肉体に負担はかからないし、そもそも全力行使なんて必要なかった。

 原因は先の討伐戦だと思うのだが、両軍の前で俺の一部の力を見せたことに今更後悔は無い。だがそこに余計な副産物が生まれてしまった。

 今の俺の【完全解析】による結果が、これだ。


名前 ゼン・カノー/加納善一/?

年齢 8歳/152歳/?

種族 人類種エルフ族 (クォーターエルフ)/半精霊体半?/?

職業 なし(インフィニティ)/?

称号 黒髪の修羅/運命超越者(オーバー・ザ・フォーチュン)/?

状態 損傷中 擬態中/肉体と魂の不適合中・48%/リンク:ラピュータ/眷属:ネリー

 Lv:62

生命力:12582/25343 

魔力量:3337714/3337714 

 筋力:11592  <1623>

器用さ:11984  <1643>

素早さ:10934  <1584>

 魔力:8821   <2741>

精神力:25343   

  運:∞      

 魅力:22591   

経験値:?/?

スキル

超越能力(オーバースキル):【?】

唯一能力(オリジナルスキル):【限界突破(リミットブレイク)】【理外進化(エクスエボルヴ)】【変化之理(イグジスルール)】【?】【?】

特殊能力(エクストラスキル):【完全翻訳】【無限成長(ノーリミット)】【完全解析(パーフェクトアナライズ)】【改良模倣】【次元干渉】

     【一騎当千(グレートウォリア)】【魔素吸収(マナドレイン)】【天上書庫(ヘヴンズライブラリ)】【万物造成(デナレーション)

     【鉱石変質(フリーマテリアル)】【五穀豊穣(バンパークロップ)】【精霊体化(アストラリアム)】【大魔鬼化(デビモスチェンジ)】【思考対話(テレフォン)

固有能力(ユニークスキル):【成長促進(グロウアップ)】【精霊魔法(エレメントマジック)】【召喚魔法】【成長指導コーチング】【擬態(ミミック)】【威圧(プレッシャー)】【工程短縮(ワークカット)】【健康体】


 何が言いたいか、理解して貰えただろうか。

 一部名前や年齢、称号についても変化はしているが、そこはもうスルーする。

 カッコ内に新しく追加された数値が、肉体限界になるようだ。どうも精神力と魅力には肉体的限界は関係ないらしい。

 ついでに成長値についても表記するのを止めた。俺にとってはもはや無駄なものだ。次には魔力量と経験値辺りも消すことになるだろう。

 肉体限界や不明箇所が表示されるように【完全解析】が進化したタイミングは不明だが、精霊獣のステータスを見た時ではないだろうか。


 しれっと固有能力(ユニークスキル)に【健康体】というものが追加されているが、内容は「病気・状態異常に対する超強力耐性」といったところだ。

 毒を食らった時に得たのだろうか?あるにこしたことはないが、今はそこについて触れる必要は無いだろう。

 汎用能力(スキル)についてはそこまで変動は無かったにも関わらず、これほどのレベル上昇がなされた理由は、今のところ不明。

 推測だと【限界突破】の副作用になりそうなのだが、どうもそれだけではない気がしてならない。



 言いたいこと、というのは、突然の大幅なレベルアップによる、急激過ぎるパラメータの上昇と、「損傷中」という状態における、肉体的限界の低下が起こっている、ということ。

 今までも加減してきたとはいえ、これだけパラメータが上がってしまった状態で、なおかつ限界が低下しているのだから、相当力加減が難しい。

 生命力についても現在値は減ったままだ。少しずつ回復しているのだが、回復薬(ポーション)でも治癒魔術でも効果なし。どうやら「損傷中」という状態異常はそういうものらしい。

 いつから「損傷中」になったのかというと、多分この森に来てからではないだろうか。少なくとも討伐戦中にはここまで深刻ではなかったはずだ。

 考えられるのは、[転移]を食らった時に、どこかで【限界突破】が発動したという可能性。


 今までずっと感じていた【限界突破】の危険性。それは何かしらの代償がどこかに現れる、ということ。

 神界でも【精霊魔法】を使った時に発動したように思えるが、あの時は肉体を持たなかったからこそ、代償が発生しなかったのだろう。神界での神具作りの時もそうだったと思う。

 【限界突破】の発動は自分には分からないのだが、両親の神具を作った時が顕著だったと思う。身体能力自体には不具合は出ていないものの、見た目が戻らず、変な感じで固定されてしまった。

 今回は見た目に変化は無いようだが、内部的に相当なダメージを負うハメになったようだ。それが「損傷中」という状態異常に出た、というのが今の状況ではなかろうか。

 やろうと思えば、全力は出せる。しかしその後の影響を考えると、可能な限り避けなければならない。これ以上【限界突破】を繰り返すのは、相当危うい。


 そもそも「損傷中」とはどういう状態異常か解析してみたところ、「内部ダメージによりステータスに制限がかかる」というものらしい、そのまんまだな。

 実際、肉体的に直接関わる部分が低下しているようだ。元々こうだったのかは分からんが、限界値が魔力だけ高いってのもそれはそれでおかしいし。

 これが治るのかどうかと言えば、多分治るはずだ。一応数値的には少しずつ回復しているので、治癒魔術では治療が効かない部分になるんだろう。時間経過に任せる以外ない。

 さほど変わらない不適合状態、今までより3倍近いパラメータ。ここに肉体的限界の低下。推定だが、万全より約3割減、といったところか。

 肉体を十全に動かせないことには慣れたつもりだったが、ここまで悪条件が揃ってしまうと、俺も無闇に戦える体とは言い難い。


 とにかく生活を維持して、しばらくは大人しくせざるを得ない、か。


 ネリーには少なくとも1年単位で戻れないと伝える以外ないだろう。

 仮に生命力の全快が回復の基準だとすれば、今までの回復ペースを考えると、少なくとも「損傷」の回復には数ヶ月単位でかかると見ている。

 最終手段を取るにせよ、最悪森ごとぶっ飛ばすにせよ、まずは体を治さねばなるまい。

 仮に【大魔鬼化】したところで、今の3倍となると扱い切れるステータスとは思えないし、効果が切れた後がどうなるか分かったものではない。


 それに妖精にお願いして探してもらっている場所がある、エルフの里についてだ。

 そこが見つかれば、何かしらの手がかりが得られそうなのだが、妖精に頼める範囲は極めて曖昧だ。

 正直いつ見つかるものやら分かったものではないが、気長に構えるしかない。

 いずれは期限を定めないと、キリが無いかもしれない。リリーナやフランも帰さないといけないし。

 異常については不安に思わせない必要があるだろうが、スキルについてはこの際ある程度知られるのもしゃーないかね。

ゼン君に異常発生中。

次の予定は4/29 6:00

なんですけど、まだ書けてません。

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