【幕間】2人のSSクラス冒険者
カルローゼ王国、アルバリシア帝国は共同軍事演習中、<災害級>を発見、これを討伐した。というのが対外的な発表内容になる予定だった。
国内での発表内容は多少食い違うにしろ、これをベースにすることは予定として決まっていたことだ。他国にはそういうことにしてあるのだから、大きく内容を変えることはない。
だが想定外過ぎる結果を受けて両国はどう公表するか、大いに悩むことになるだろう。カルローゼ王国軍大将イアン・ニモ・カルローゼは頭を抱えて悩むばかり。
フィナールの町においては、イアンとフィナール領主ギースの名の下に「<厄災級>の討伐を成したのはネリーである」と宣言した。
その後両軍は演習の終了を宣言、両国への帰還という運びとなったわけだが、両軍兵士の表情は今でも冴えない。何しろ自分達は全くの役立たずだったといっていい。何のためにここに来たのか、何をしにここに派遣されたのか。
<災害級>の討伐に来たというのに、A級魔物の前に立ちすくみ、<厄災級>だった魔物については、姿を見た者すらほとんど生き残りがいない。
せいぜい魔法士や弓士などが遠距離から攻撃を加えたに過ぎない。高位の魔物とはあのような恐ろしい存在なのだ。
冒険者というのはそれと日々戦っている強者であり、ゾークやシャレットというSSクラス冒険者はそれらを全く苦にしない存在。
そしてゼン・カノーの圧倒的な強さ。僅か5分足らずで1000体近くもの魔物を屠る、隔絶とした魔法と弓の使い手。
その1000体近い群れの長である<厄災級>の魔物を単身討伐してのけた、ゼンの従者たるネリーという<天災級>並の格闘士。
収穫といえば、彼ら、彼女らの活躍を目に焼き付けられた。逆転の圧勝劇を見ることが出来た。というただの観客の感想。
決して命がけで劇を見に来たわけではない両国兵士。得たものは畏怖と徒労、そして仲間の死。
何とも言えない気分で帰路に着く兵士らは、受けた命令は果たして正しい判断で下されたものだったのだろうかと、疑問を抱くばかりだった。
◆◆
大将バルドを失ったアルバリシア帝国軍を、纏めて連れ帰る役目を担ったのは、最初から最前線で戦い、最後まで戦況を見続けた男、百人兵長ノリス。
本人の職位からすると些か荷が勝ちすぎる役割となったのだが、ただでさえ多大な損害を受けた帝国軍に人材の余裕などない。
ノリスより高官の存在もいるにはいるのだが、帝国軍生き残りの中で最大の功労者は紛れもなく彼である。
特にネリーの虐殺劇を見ていた勇士らは、揃ってノリスに仮の指揮権を預けるようにと声を揃えて言った。
「ノリス百人兵長こそ、此度の戦いを終結させた勇者。我々は帝国に帰参するまで彼に従う」
前線で戦い続けた勇士達の発言力は強い。生き残りの高官にしろ、自分達は後方で震えていただけなのだからと、彼らの主張をすんなり受け入れた。
ノリスとしても自身は活躍などしていないのだが、あの戦いを見た後ではやむを得ないだろうと思う。いずれにせよ報告は自分がする以外にないのだ。
こうしてアルバリシア帝国軍は、帝都アルバニアに帰国する。同行者にSSクラス冒険者シャレットを連れて。
その道中、ノリスはどうしても気になっていることを、飄々としたシャレットに尋ねることにした。
SSクラス冒険者といえど、年端も行かぬ息子が行方不明。多少は心配などしそうなものだが、そこを心配する様子がまるでない、というのが気になったのだ。
ゼンが隔絶とした実力者であることは分かった。フランにしても帝国が誇る強者。しかし2人ともまだ子供であることも確か。
どう聞いたものかと考えたが、居場所については「もしかして、ってところはある」とシャレットは言っていた。そこからまずは尋ねてみた。
「シャレット殿、ゼン殿とフラン殿下は無事と聞きましたが、どこにいるかは分かりましたかな?」
「迷いの森にいるんじゃないかって言ってたわね」
「迷いの森!?それは無事と言えるのでありましょうか?」
「少なくとも死にはしないわよ。心配するだけ無駄だもの」
ま、そのうち帰ってくるんじゃない?と気楽な返事をしてみせるシャレットだが、聞かされた方はたまったものではない。
迷いの森のことは当然ノリスも知っている。入らずの森、帰らずの森。
そんなところにいるのだとしたら、生死は絶望的だ。例え強かろうが、食うものも着るものもなく、住む場所もなければ、森に孤立したままそう生きられるものでもない。
だがシャレットは確信しているようだ。いずれ帰ってくる、と。
そういえば、とノリスは古代道具として大量に物が入るという道具袋たる魔道具のことを思い出す。
シャレットもそれを使っていたのを見たし、ゼンもそれを持っているから、当面は心配いらないということなのだろうか?そう聞いてみたところ。
「ゼンは持ってないと思うわね」
とあっさり返された。ならばやはり危ういのではないかと思ったノリスだが。
「そんなものなくたって、ゼンなら大丈夫よ。あの子、用意周到だし。備えがないわけないわよ。そうでなくても、あの子がその辺でのたれ死ぬなんて有りえないから。安心しなさいな」
「そ、そういうものでありましょうか」
「そういうものよ。心配するだけ損って思っといていいわよ?」
親が親なら子も子、ということなのだろうか。確かに冒険者の息子なら生存術にも長けているというのは、おかしなことではない。
そういう教育をしているのだろう、と判断したノリスだが、「私は何も教えた記憶はないわよ?」という返事が返ってきた。
困惑するノリスを見て、シャレットは一つため息を吐く。心配する気持ちが理解出来ないこともないのだが、ゼンについては本当に心配するだけ無駄というか、もはや損。
そしてゼンは決してフランやリリーナを見捨てることはないだろう。あの子はそういう男。そんな先祖返りなのだ。
しかしそれを説明するのは難しい。ゼンは何もかもあの場で見せたというわけではないし、晒した手の内といえば魔術と武力、それから【念話】に見せかけた【思考対話】。【大魔鬼化】は見せてない。
シャレットとて、ゼンの全てを知っているわけではない。あれでまだ秘めたものを持っているというのだから、本当に底が知れない。
これからどうするか、ゼンの意向はある程度聞いた。ゼンが望んだのは、帰還までの現状維持だ。となれば自分の言えることも、それなりに限られる。
「ノリス殿、一つだけ教えてあげるわ」
シャレットはノリスに向き直り、本当に一つだけ、真実を語った。
「ゼンは例え世界が滅びようと必ず生き残る。そんな規格外。あの子に常識なんて無いから、考えるだけ無駄、ってことよ」
◆◆
帝都に戻った帝国軍の有様を見て、帝王ヴィーは呻いた。これほどの激戦だったのかと。
兵士の数は報告を受けるまでもなく減少している、恐らく出撃時の半分もいないのではないか。負傷者も数多くいるのが見ただけで分かった。
一向に晴れない表情を見せる兵士を見て、<災害級>に敗れた、という可能性もあるにはある。
だがその可能性は低いはずだ。その証拠というわけではないが、先頭に立つシャレットにはさしたる緊張感は見えない。どことなく憂鬱そうではあるが。
そこで気付く。本来先頭に立つべき存在が見当たらないことを。バルドの姿も、フランの姿も見えないことに。
焦燥感を覚えたヴィーだが、まずは報告から聞くべきだと冷静に判断し、帝王の座るべき椅子に戻る。謁見の場の、その中央に。
「諸事情につき、バルド将軍に代わり、このノリスがやって参りました。カルローゼ王国フィナール領における、共同演習の報告を申し上げます」
そう言いながら謁見の間に報告に来たのは、ヴィーも顔は覚えている、筋骨隆々の1人の魔族。顔はやつれて見えるが、そり上げた頭と、茶色の鋭い双眸も手伝って、迫力は失われてない。
気骨溢れる男で、百人兵長の中でも評判だったはずだ。諸事情、というのが気にかかるが、まずはノリスの言葉を待つ。
隣にシャレットが控えているのも、その諸事情なのだろう。何かしら大事があったのは確実にしろ、聞くべきことをまずは聞く。
「まず、結果から申し上げます。演習中、<厄災級>が発生。バルド将軍は帝国軍を挙げてこれに当たるも、我が軍は力及ばず敗れました。討伐自体はAクラス冒険者ネリーによって果たされました」
「<厄災級>だと……?<災害級>ではなく?」
「はっ、<厄災級>に相違ありませぬ。群れの長は、インビジサウルス。遠目ではありましたが、私もその姿を確認しました」
<厄災級>、そしてインビジサウルスの名を聞いて、謁見の間に集まった高官がどよめいた。ヴィーとて例外ではない。討伐に向かったのは<災害級>だったはずだ。
そして帝国軍は敗れたと言った。となると、バルドは戦死した?フランもそうなのか?動揺するヴィーだが、何とか表情には出さずに受け答えをする。
「そうか、まずはご苦労だったと言っておこう。して、損害は?バルドとフランはどうした?」
「端的に申し上げます。出撃した2500名のうち、生き残りはおよそ1200名。バルド将軍は生きては居られますが、<厄災級>を前にして、些か申し上げにくいことになりました。フラン殿下につきましても申し上げにくいことは同様なのですが、こちらはご無事と聞き及んでおります」
確かに端的な報告だが、かなり衝撃的な内容だ。
討伐軍は文字通り半壊。いや半死、と言うべきか。軍としては壊滅したと言える結果に、ヴィーは歯を噛み締める。
それに申し上げにくいこととはどういうことか。どうするか、この場ではっきりさせるべきか、少し迷ったが、この場にシャレットが居合わせたのは恐らくこのためだろう。
何かを隠すにしても、高官は知っておく必要がある。ヴィーは詳細についてここで聞くことにした。
「シャレット代官に尋ねよう。バルドとフランに何があった?」
「バルド殿は狂人になった。フラン殿はバルド殿に殺されかけた。それをゼンが助けた。そしてゼン共々、どこかへ消えた。こんなところかしらね」
「このノリス、シャレット殿のお言葉は、嘘偽りないものと証言させて頂きます」
ヴィーは天を仰いだ。大損害に加えて、バルドが狂い、フランは行方不明。なんという結果だ。
聞き足りないことはあるにしろ、ノリスもそれを訂正しない。正しいものだと言っている。
「帝国第一席に狂人などと何事か!」
「フラン殿下が行方不明?シャレット殿は何をしておったのだ!」
「待て、シャレット殿がこう言われているのだ。事実なのだろう」
「だいたい何故ノリスがここにいる?お前は百人兵長に過ぎんだろうが!」
「カルローゼ王国軍は何をしていたのだ!我らのみで<厄災級>に当たったというのか!」
「第一席の指揮不在を纏めたのがノリスだったのだろう?不思議なことでもあるまい。元より王国の力など当てにしていなかったであろう!」
次々と騒ぎ出す高官達。言い分は分からないでもない。ヴィーとしても受け入れ難い現実だらけだ。
糾弾や擁護、収拾がつかないこの場を収めたのは、情報局長であり第三婦人のセレスだった。
「皆の者黙るがよい!シャレット殿、確かなことなのじゃろうな?」
「ええ、何だったら直接確かめるといいんじゃない?まともに喋れる状態じゃないけどね」
それを聞いたヴィーは、バルドをここに連れて来るように指示すると、すぐに2人の兵士がバルドの両肩を担いでやって来た。
この場にいる者に映ったバルドは、既に正気を失った目、だらしなく開かれた口元、自分で立つことすら出来ない、見るも無残な姿をしている。
自分の長男がこのようになってしまった。という悲しみより、ヴィーが勝ったのは、無様にもほどがあるという、情けなさを含めた、怒り。
また大半の高官も似たような思いを持った。アルバリシア人というのは、弱者に哀れみを持たない。それがヴィーの長子たる第一席であるバルドとて、例外ではない。
「情けない……治療も不可能なのでしょう?」
そう言ったのはバルドの母であり、帝王ヴィーの第一夫人、ソニア・アルバリシア。
人間族として生まれた身ではあるが、魔族の血も混じっており、第一夫人という立場であろうと自ら武器を手にすることも厭わない。
苛烈な人柄として知られており、帝国の第一夫人とはこうあるべし、という女傑。
「少なくとも私の治癒魔法では治せなかったわね。時間をかけても、どうかしら?正直最初からおかしかった、とは思うわね」
そう答えるシャレットは、バルドについてもう見限っている。ついでに言えば帝国も見切っているのだが、フランのことは別だ。
逆に言えば、帝国についてはフラン以外はどうでもいい、というのが本音。
ゼンからは「フランが帰る国は出来れば残しといて」と言われているが、「ゼンが引き取ればいいんじゃない?」という乱暴な思考も持ち始めていたりする。
その思考が投げやりな態度に出ていたりするのだが、それがシャレットには自覚出来ていない。
隣にいるノリスは気が気ではないのだが、シャレットは全く意に返さない。
「剣を持て!」
ソニアは控える兵士に剣を差し出させると、その剣を手に取りバルドに近づく。
まさか、と思ったのはヴィーだけではないが、少なくともシャレットは気にも留めない。視線は明後日の方向だ。
その場に転がったのは、母の手により、落とされたバルドだった首から上にあったもの。
そしてソニアは自らの首をも刎ねようとし、剣を添えたところをヴィーが止め、場に訪れそうになった騒然と静寂は、セレスが断ち切った。
「たった今、アルバリシア帝国第一席バルド・アルバリシアは、帝国から除籍されたものとする!皆の者、異論なかろうな!」
本来なら帝王ヴィーが行うべき宣言なのだが、その場に異論は出なかった。
◆◆
暴走しそうになった場はソニア、セレスにより回避され、その後はノリスが詳細な報告を述べあげた。<厄災級>討伐における一部始終を、帝国軍の兵士として見たままを語った。
その内容を聞いたものは体を震わせた。無様な帝国軍でもなく、<厄災級>の恐ろしさでもなく、ゼンらの実力に対して。
中でもゼンの圧勝劇、ネリーの惨殺劇はアルバリシア帝国所属の高官の胃を締め付けられ、シャレットも一言付け加えた。
「言っとくけど、私たちのせいじゃないからね?」
その言に異論などありはしない、帝王ヴィーとて頷くばかりだった。
ソニアが「ご苦労。これにて解散とする」とやや強引に場を締めて、正式な公表は後日行うものとした。
「なんてこった……」
別室に移ったヴィーは頭を抱えた。ソニア、セレス、ノリス、シャレットも同席しているのだが、もはや隠すつもりもない。
アルバリシア帝国が受けたダメージは深刻だ。失った兵士もそうだが、長子バルドを失った、という意味はあまりにも大きすぎる。
対外的にも外聞が悪いにも程がある。カルローゼ王国から追求を受けるのは必死。周囲の国からも非難を受けるのは免れまい。
ソニアがあの場で我が子を切ったのは、ただ感情的になったわけではない。それだけで長子を切るほど愚かでもない。
廃人となったのならば、最後の役割としての処分を下した、という意味もある。
やや短慮だったことは否めないが、ヴィーも責めることはしない。ヴィーもそうしようと思ったほどだ。
だからこそソニアの自決は止めた。我が子が無様な醜態を晒したのは、ヴィーにとってもそうだからだ。どのみち責任は取らせるつもりではいたのだ、血縁だからこそ許されぬことであるし、第一席に留まれるわけがない。
それでも外聞が良くなるわけではないが、この対外的な点ということについては、ノリスが「そこまで、悪いことにはならぬかと」と擁護した。
「我々が先走ったことは確かなのですが、カルローゼ王国としてもそう強くは出られない理由があります」
「ふむ?確かに王国も何をしておったのかということになりそうじゃが、何故そう思う?」
「<厄災級>と対峙したゼン・カノー殿に攻撃を加えたのは、王国軍なのです」
ノリスは意図的に王国についての報告は、正確には述べなかった。あくまで述べたのは帝国軍のことについてのみ。イアンらと共有している情報については伏せた。
そうしたのは、あまり公に出来ることではないと判断したということもあるが、いずれにせよ両国トップ同士で公表する内容を吟味する必要があるとノリスが考えた結果だ。
これについてはシャレットも何も言わなかった。ゼンにしても両国に軋轢が生まれることは避けられないが、戦争にまで発展するのは避けたい、という意向がある。
「まだ王都には着いてないと思うけど、あっちにもゾークが同行してるわ。まあどうするかは私も知ったこっちゃないんだけどね」
「それはそうと、フランは無事なのでしょうね?」
「ゼンが無事って言ってるんだから、大丈夫よ。ゼンの傍は世界一安全だから、安心なさい」
そう答えるシャレットだが、ソニアとしてはやはり心配だ。それはヴィーもセレスも同様。自動的に第三席と繰り上がりになるフランの立場は、今まで以上に重くなる。
第一席バルドが除籍されたことにより、第二席の長女マリス・アルバリシアが第一席となるが、マリスは帝位にさほど興味を持っていないし、実力も性格も帝王としてあまり相応しいと言えない。
実力主義におけるアルバリシア帝国の次の帝位となると、むしろフランの方がよほど相応しいし、国民にも受けがいいだろう。バルド亡き今、帝位最有力候補はフランなのだ。
「こうなりゃゼン・カノーにフランを嫁がせて第一席にしちまうか……?」
「それだけどね、帝王殿。ゼンは、フランは貰ってもいいけど、帝位はいらないんだって」
ヴィーの強引な考えをシャレットがばっさり斬り捨てた。
これは少しばかりシャレットが勘違いをしているところがある。
ゼンとしては、諍い無くアルバリシア帝国が手に入るというのであれば、次の帝位に就くのも一つの手段と考えていた。不本意なのは微妙な第三席という継承権を与えられて、無駄な争いが起きることだ。
国民ですらないゼンを第一席に据えるというのも、かなり強引な方法ではあるのだが、ヴィーとしてはそれも一つの手段だと考えていた。ここを読み違えたのはゼンの方だったりする。
しかし余計な枷が付くのは確かなので、ゼンとしても悩ましい提案になったことだろう。
「帝位すら望まぬ。なるほど、ゼン・カノー殿は無欲な人物なのですね」
「どうかしらね。ゼンは無欲、ってのはちょっと違うと思うわ。むしろ欲は誰よりもあるかもしれないわね」
ソニアの感想も、シャレットはむしろ逆に思った。
シャレットはゼンには何かしらの使命があると思っている、それが何なのか今でも分からないが、あの息子のことだ。とんでもないことには違いない。
「フランは貰っても良いというところに、英雄たる豪胆さを感じるのう」
「私としては、フラン殿下がゼン殿に嫁げば、帝国は安泰、と思っておったのですが」
カラカラと笑うセレスに、複雑そうなノリス。
セレスとしては愛娘が幸せになればそれでいいと思っているし、ノリスとしてはヴィーの提案が一番いいように思う。
「どっちにしても、あとは両国で話せばいいんじゃない?ただ、私たちは関与しないわよ」
「あくまでも中立ってことか?」
「場合にもよるでしょうけどね。少なくともゼンはどっちの味方でもないし、私たちもカルローゼ王国領に住んでる、ってことだけよ」
シャレットはあくまで関せずというスタンスを崩さない。既に両国に興味は無いし、イストランド郡についても執着はしていない。
だからこそ、あっさり告げる。
「ゼンは怒ってた、それでも本気じゃなかったわよ。もし本気にさせたら、この程度じゃ済まないからね。これだけは覚えておきなさい」
◆◆◆
「リリーナ殿下が行方不明?手落ちとしか言えませんな!」
偉そうな連中は案の定文句ばっかりか。
面倒くせぇが、まあしゃあねえこったな。
一応来る途中はお2人さんも「ゾーク殿に迷惑はかけん」とか言ってたんだがなあ。そう簡単に行くわきゃねえわな。
あれから俺は兄ちゃんと一緒に王都まで来たわけだが、王城の玉座の間で、貴族やら何やらが好き勝手ぬかしやがった。
兄ちゃんは途中までボチボチ報告してたし、レイラだっけか?騎士の姉ちゃんもそれを弁護したワケだが、リリーナのことが出てからがどうにもよろしくねえ。
そっからギャスカーその辺の連中が騒ぎ出して、国王サマも青ざめてやがる。お付の文官っぽい姉ちゃんが落ち着くように言ってるが、まるで聞きやしねえ。
しかしこれをどうにかしろってなんだから、ゼンの奴も無茶言いやがる。これなら<災害級>の1つや2つ相手にした方が余程気楽だってもんだ。
「そもそも貴様は何をしておった!リリーナ殿下の護衛だったのだろうが!」
なんぞ偉そうな格好している奴がほざいてきた。ああん?俺のことかよ。
確かに俺は護衛依頼を受けたがよ、魔物に対してだけだぜ?仲間割れなぞ知るかよ。
「おい、俺に言ってんのかそりゃ」
「貴様以外におるまい!自由人ごときが王族の守護という栄誉を授かるなど本来はありえぬのだぞ!それを成せぬとは、万死に値する!」
「そうだ!死罪だ!」
死罪?笑わせんな、そもそも何の権利があって、てめえらからそんなもん受けなきゃなんねえんだ。
俺らは何一つ悪いこたぁしてねえよ、むしろ感謝してもらいてえな。
「貴様は帝国の差し金であったのだろう!」
「違いない!全て帝国が悪い!フィナール卿も自由人などに代官などの地位を与えよって、何を考えている!」
何言ってやがんだこいつら。頭沸いてるとしか思えねえな。
俺らは別にどこの国民ってわけでもねえっつーの。ただの冒険者だ。
っていうかよ、兄ちゃんも姉ちゃんも、もうちっとしっかりしてくんねえかな。特に兄ちゃんは使えねぇにも程があんぞ。
「なあ兄ちゃん、姉ちゃん、俺悪いことしたか?」
俺からは2人とも背中しか見えねえ。こっから見えるのは青い顔をした国王サマとそのお付の姉ちゃん、あとは五月蝿い連中だけだ。
声をかけた2人がビクっとしたのが見えた。そんな怖がんなよ。
「ゾ、ゾーク殿に手落ちはありません!リリーナの兄である、この私、イアン・ナモ・カルローゼの名において!」
「王国騎士レイラ、同じく騎士の名にかけて」
ちっとばかし、姉ちゃんの方が落ち着いてっかな?しかしこうなると俺が言わせたみてぇだな。
だいたいそこで言う内容はもっと別なこったろ?タイミング悪ぃわ。
「兄上、そのような俗物を庇う必要などないだろう」
「そうですわイアン兄さま、リリーナの身も守れない下賎な者の言うことなど聞く必要ありません!」
ほらみろ、余計なとこまで出てきた。こいつらは知ってるわ。
王族は兄ちゃんとリリーナ以外ロクにいい話を聞かねぇが、こいつらはその筆頭だ。名前は忘れちまったがな。
つーかよぉ、どいつもこいつも好き勝手言ってるが、そもそもまともに話聞いてんのか?
「あのよぉ、兄ちゃんも言ってただろ?<災害級>じゃなくて<厄災級>だったってよ。しかもリリーナを殺ろうとしたのは、ヨハンの馬鹿なんだぜ?」
ヨハンの野郎は話したこたぁなかったが、俺も知ってるSクラス冒険者だった。
王国付けになったとは聞いたが、あんま好きな野郎でもなかったな。どっか暗いっつーか、ネチネチした奴みたいだったし。
最近は国のお抱えになっていい気になってたらしいが、死んじまっちゃどうしようもねえな。まぁ、殺ったのはネリーなんだが。
正直ざまあみろって思うぜ。リリーナを襲ったのもヨハンだし、それがゼンまで巻き込まれたとなりゃ、許せねぇよなあ?ネリーよぉ、気持ちは分かるぜ。
「我が王国が抱える冒険者を愚弄するか!そもそも<厄災級>だったなどと眉唾物。証拠でもあるというのか!」
「証拠?あるぜ、ここに出すからちっと待ってろ。汚れるけどいいよな?」
「な、何?よかろう!ここに出せ!」
ギャースカうるさい奴ばっかだし、論より証拠ってな。シャレットがこいつは俺が持ってけって言ってたのは、正解だったみてぇだ。
俺は道具袋から1メートル以上あるクソデカい魔物の頭と、同じくらいバカデカい魔石をその場に取り出して、放り出した。
「ぐ、ぐぇぇ」「おぇっ……」
そこらで気持ち悪がってる奴がいるが、そいつは分からんでもねぇな。何しろ頭はグチャグチャだ。俺も取り出したが、正直気持ち悪ぃ。
ネリーがボロボロにしたせいで、原形はほとんど留めてねえ。頭には見えるだろうが、目も鼻もありゃしねえ。こいつはもうただの肉の塊だぜ。
しかしまあ、だいぶ静かにはなったみてぇだな。国王サマは流石に吐いたりはしてねえが、青かった顔がもう白いって言っていいくれえ血の気が引いてやがる。
「ま、まさか、イ、インビジサウルス、なのか?」
「だからそう言ってんだろ。そこの兄ちゃんの言うこと聞いてなかったのかよ」
国王サマはボケてやがんのか?最初に言っただろ、<厄災級>だったってよ。
ありゃ?そういやインビジサウルスとは言わなかったっけか?まあどっちでもいいか。
つーかイアンの兄ちゃんもトボケた報告してんだよなぁ。どうにも都合の悪いこたぁ言わないでいやがるし、気に食わねぇ。
「これを単騎で倒したのが、ゼン・カノーの従者、Aクラス冒険者ネリーでございます」
レイラが補足してくれた。どうやら連中もちったあ信じる気になったらしいな。
まあ1人でってのは納得してねえ連中も多いみてえだが。あのクソガキがまだ喚いてやがんな。
「ひ、1人で<厄災級>。しかもインビジサウルスなど倒せるわけがないだろう!兄上!誑かされたか!」
「やめろテリー!それ以上ゾーク殿を愚弄するな!我が国の恩人だぞ!」
「ああ、気にすんな兄ちゃん。そういきり立つ必要はねえよ」
まだ虚勢張れるだけマシか?いや、ただの馬鹿だな、この王子サマは。
そう考えるとイアンもちったぁマシな王族、なのかねえ?あんま頼りにはなんねえが。
いや、俺もゼンと比較しちまう方がいけねえな。ゼンに比べりゃどいつも小物だっての。
「そこの姉ちゃんも実際見たもんだし、何だったら兵士連中にも聞いてみな?何があったか詳しく教えてくれるだろうよ」
知らねぇ方がいいこともあると思うんだがなぁ。あれを見た奴ぁ、多分一生ネリーに怯えて暮らすハメになるだろうしよ。
ありゃあ流石の俺でもちっとばかし引いた。ゼンも怖ぇがネリーも怒らせちゃなんねえわ。
なんて思ってたら、本当に生き残りを連れてきやがった。多分ロクなこたぁ言わねぇだろうが、どっちみち伝わる話か。
「そ、そこの者、ゾーク殿の言うことは本当か」
国王サマが連れてきた生き残りの男に尋ねた。こいつもツイてねえな、いきなりこんなとこ連れて来られて。
さぞかし震えてるだろうに、と思って振り返って見たが、なんだ?そうでもねえな。むしろ何かを諦めたようにスッキリとした顔してやがる。
男はスッと一つ息を吐いて、大声で張り上げた。
「申し上げます!ゾーク様の仰ること、全て事実!この目で、この体で、間違いなく確認しました!ネリー様と戦うのであれば、私は死んだ方がマシです!」
「死んだ方がマシってお前……」
そいつぁあんまりじゃねえか?思わず突っ込んじまったが、更に続けやがった。
「恐れながらゾーク様!お子様のゼン様も<天災級>であれば、ネリー様も<天災級>であります!お2人だけで世界が滅びるであります!そしてゾーク様もシャレット様も怪物であります!<厄災級>並と見ております!」
「ひでぇ言われようだなおい」
この生き残りの男、完全に開き直ってやがる。ある意味見込みのある奴だなおい。しかし人のことを魔物扱いみたいに言うんじゃねえよ、聞こえが悪すぎるだろうが。
まぁ、否定はしねえけどよ。少なくともゼンやネリーは天才で、天災と言えなくもねえしな……。
「兵士の言葉は、本当ですか?流石に<天災級>というのは些か信じ難いのですが……」
文官っぽい姉ちゃんが問いかけてきた。
まあ<天災級>のこたぁ置いといて、俺らから見てどうかって話をすっか。
「ゼンやネリーの強さはもう俺じゃ分かんねえが、少なくともインビジサウルスは俺とシャレットがいりゃあ、時間はかかるが、倒せたとは思うぜ?」
「ふ、2人だけで、ですか?」
「見つかっていれば、って話にはなるけどな。流石にネリーとは違ぇから、1人でってのは自信ねえが、2人いりゃ問題なかっただろ」
姉ちゃんも動揺してんなあ。確かに俺も随分な自信家に見えるだろうが、ゼンに比べりゃインビジサウルスも大した相手じゃねえんだよ。
完全にタイマン出来れば俺だけでも勝てるかもしれねえが、<厄災級>となると他にも相手しなきゃいけねえ奴がいるから、2人なら余裕持って倒せる、って話だ。
つっても言葉だけじゃ信じらんねえか。しゃーねえなあ、ちっと勿体無いが、やるか。
「疑ってんなら、こいつを、見てなっと!」
実力行使ってことで、俺は少しばかり地面を蹴り上げて窪みを作り、そこに魔石を置く。動くと困るからな。
どっかから軽く悲鳴が聞こえたが、見せるのはこっからだぜ?
「うらぁっ!」
渾身の力で魔石の真上から拳を叩きつける。普通こんな真似すりゃあ、まず拳がお陀仏なんだが。
なんつーか、ゼンから左腕を貰ってからこの方、自分でも信じられねぇくらい力がついてきてんだよな。ステータスはSから変わらねえからもうわかんねえけど。
おかげでってワケでもねえが、このくれえの芸当は出来らあな。俺の槍より俺の拳が硬ぇってのは、何となく複雑だがな。
「あ、ありえん……」
どっかから感想が聞こえたが、魔石は二つに割れた。あんま綺麗に割れなかったが、まぁこんなもんか。
ネリーならもっと粉々に砕いただろうし、ゼンならまぁ……今頃城が崩壊しててもおかしくねえか。
俺も城の地面ごと割れなくてちょっとホッとしたぜ。
だがな、そろそろ俺もキレるぜ?
「大体な、こっちゃ被害者だっつーの。ゼンは明らかに巻き込まれたんだぜ?息子を身内のゴタゴタに引きこみやがってよ。俺もネリーほどじゃねえが、イラついてんだ。テメエら言いたい放題言ってんじゃねえよクソが!」
ゼンに関しちゃ心配する必要はねえが、俺の大事なもんに攻撃してきたのはテメエらなんだよ。
帝国についてもイラついちゃいるけどよ、ゼンを襲ったのは王国軍なんだよ。
ゼンは俺が守る必要なんかねえかもしれねえけど、それでも俺の息子なんだよ。
俺には許せねぇ。俺のこたぁどうでもいいが、俺の大事なもんを馬鹿げたことに巻き込んだことが許せねぇ。ゼンの邪魔ばっかする連中は許せねぇんだ。
ゼンが抑えてくれっつってから、こうして来ただけだ。分かるかテメエら。俺だって怒ってんだよ!
「ここにいる連中に言っとくがよぉ、ゼンやネリーなら、こんなんで済むと思うなよ?万が一、ゼンが帰って来れないようなら、シャレットやネリーと一緒に乗り込んでやんよ」
少しはスッキリしたが、ここに来てたのがネリーならと思うと、ゾッとするぜ。全くよ。
全員もう死んでんじゃねえか?
◆◆◆
ゾークの行為と切った啖呵は、元より大した実力者でもない貴族達を黙らせるには十分すぎる程であり、現実を突きつける切っ掛けとなった。
真っ青になりながらイアンが「此度の功績、ゼン・カノー殿の従者ネリー殿が第一、ゼン・カノー殿が第二と思われます!第三にゾーク殿かと!」と宣言したところで、アールがそれに乗っかった。
「これにてアルバリシア帝国との演習中に起こった、<厄災級>討伐戦の報告は完了とします!功績につきましては、いずれまたの機会に報いるものとする!よろしいですね、陛下!」
「う、うむ。大儀であった」
強引にも程がある締めになったが、ゾークの示威行為により震え上がった一同は異を唱えなかった。
ただ、このままゾークを帰すわけにもいかず、別室で国王ソルはアール・イアン・レイラを伴って、ゾークを別室で出迎えた。
ゾークとてこのまま帰ろうとしたわけではない、「悪いようにはならないようにする」と言った以上、アレで帰る、というわけにもいくまいと考えていたところだった。
別室のソファに座ったゾークは、さっさと済ませようとばかりに切り出す。
「俺としても別に王国に喧嘩を売りてぇワケじゃねえ、何か分かることがあんなら、教えてもらいてえな」
「分かることと言われましても、こちらも混乱しているところでして……」
答えたのはアール。彼女にしてもどうしてこうなったのか、理解不能だ。それも当然。
「あのよぉ兄ちゃん、そろそろ真面目に話す気ねえか?俺から言ってもいいけどよぉ」
「うっ……その、ですね」
「イアン様、もう良いのではないでしょうか。私としても、先ほどの報告は、いかがなものかと思います」
ゾークとレイラの非難通り、イアンは謁見の場において、最低限にもほどがある報告しかしなかった。
帝国軍との共同演習中に<厄災級>が現れた。その討伐の際に自分は左腕を失い、リリーナは行方不明になった。
色々言葉は着飾ったものの、報告内容はこれだけだ。確かに対外的には演習になっているが、討伐だったことは皆知っていること。あくまで建前の話しかしていない。
これだけで終わらせようとしたわけではないのだが、リリーナの件に入ったところで、場が紛糾した。その結果がゾークの苛立ちを呼び、余計なことまで知られることになった。
これにはイアンなりに理由はある。彼にとって、あの場で話せないことがあまりにも多すぎた。
彼とて加害者というわけではないにしろ、今回かなり割を食った一人ではある。
幸い命こそ無事だったものの、左腕は失い、ついでにレイラという忠臣の信頼まで失いかけていた。
「話せば、長くなりますが」
ようやくイアンから今回の一部始終が語らわれると、ソルとアールは頭を抱え込んだ。
確かにあの場で話せることではない、ソルはイアンに理解を示し、アールは賢明な判断と見なした。
長い話が終わり、締めの言葉を告げたイアンだが、またしても失言。
「ゼン・カノーを侮った。それが、両国の失策です」
「なあ兄ちゃん、馬鹿にすんなよ?」
ゾークが不機嫌に反論し、イアンはもう何も喋るまいと決めた。
「あのな、確かにゼンを舐めてたのはそうなんだろうが、ゼンにちょっかいさえかけて来なけりゃ、こんなことにはなってねえんだよ。それが侮っただとか失策だとかで誤魔化すな。ゼンには何も責任なんかありゃしねえ。ゼンのせいみたいに言うんじゃねえよ」
レイラは冷めた思いでイアンを見つめる。
確かに両国の失策だったのだろう。政治的なことは分からないにしろ、イアンの言うことが理解出来なくもない。
だがゾークの言うとおり、まるでゼンが今回の発端であるかのような言い草は、ゾークのいる前ではするべきではない。
言い方の問題もあるだろうが、率直に物事を告げすぎだと思った。
対して同情的に見るのはソルとアールだ。何しろイアンは自分達の策による被害者だからだ。
それはゾークとて分かっている。イアンを責めても仕方ないというのは承知していることだが、彼が言い出したのだから当然彼を責めたまでのこと。
一つ息を吐いて、ソルとアールにも問い詰める。
「大体な、どっちも勝手すぎんだよ。人の息子を何だと思ってやがる。俺らは自由人なんだぞ?」
「……その通りだ。余も焦っておった、ということか。無理を押し付けたのは、こちら、だな」
ソルはゼンの存在を知った時から、リリーナをあてがう、という方法は考えていた。Sクラス冒険者の両親の存在もあり、王国の力になってくれれば、という気持ちが確かにあった。
だが、自由人である彼らを国民にしようと思っていたわけではなかった。リリーナはもしそうなればいい、という手段の一つだったはずだ。
それがゼンの知識が有用なものと分かり、いつの間にか王国に引き入れることばかり考えるようになっていた。
色々なしがらみでなかなか上手く行かないところに、帝国が動き出した。それが今回の事態の始まりだ。
対外的には帝国に非がある。それは間違いないが、そもそも王国が動かなければ何事もなく討伐が終わった可能性もある。
少なくともリリーナに何かが起こる、という事態は避けられた。ゼン欲しさゆえの焦りだったと、ソルは認めざるを得ない。
「迷いの森にいる、というゼン・カノー殿の情報は、信憑性があります」
アールはイアンが捉えた不審な兵士が所持していた球について、報告を受けていた。
魔道具の鑑定は易々と出来るものではないが、どうやら「遥か西に存在を飛ばす」という効果の魔道具である、という内容だった。
それを受けた身がどうなるか、遥か西にあるものと言えば迷いの森以外に無い。ゼンのもたらした情報と一致することから、今の結果に差異は無い。
「ゾーク殿もそうですが、シャレット代官・ゼン殿・ネリー殿、いずれも責はありません。これに責を問うようであれば、ギース・フィナール伯爵はゼン殿に付く、と仰いました」
差し出がましいようですが、と言い出したレイラの言葉に、ソルとアールは硬直した。
元より国王ソルにそのつもりは無いとはいえ、責任を問う貴族がいないとは限らない。だが、それを抑えられなければ、フィナール領は王国に反旗を翻すという。
そうなればカルローゼ王国の危機だ、何しろフィナール領はもはや王国にとって欠かせない穀倉地帯。
更にレイラが紡いだ言葉はもっと悪い、ゾークの言葉もまた同様に。
「これに同調するのは、セス・ナジュール侯爵。先ほども兵士が申し上げましたが、ネリー殿は正しく<天災級>の実力の持ち主に相違ありません」
「まあそんなことにならねえように、とゼンは言ってたがな。けど、また何かちょっかいかけてくるなら、俺らも今度は容赦しねえからな?」
既に一部のフィナール産の作物に値上がりの兆しがあるとアールは知っている。
脅しではなく、これは本気なのだ。少なくともギースはそのつもりでいる。
何としてもそれだけは避けなければならない。
「何という、ことだ……」
ソルの後悔は、深い。
アルバリシア帝国は多くの兵と帝位継承権第一席のバルドを失った。
だがカルローゼ王国が失おうとしているのはもっと大きなもの。2割以上の領土と、4割近い生産力。
もしこれを失えば、王国は終わる。他国からの信頼も全て失うだろう。失いかけているものは、国家としての信用そのもの。
死守しなければならない最終ラインまで、既に追い詰められていると、ソルは悟った。
「……父さん。ネリーさんは、本当に1人で王国を滅ぼせる。もう何もしちゃダメだ」
喋るまいと思ったイアンだが、なりふり構わずこれだけは、と告げる。
「ゼンさんに、何もしなければ、何かしてくることはない。これ以上、関わっちゃいけない」
討伐戦後、失言続きのイアンだったのだが、最後の最後に、正解を述べることに成功した。
次は4/27 6:00かな?
戦後処理に悩む模様の両国を書いてみました。
第三者について、まだ頭が回らない両国首脳だったりします。




