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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第三章 幼年期 ~迷いの森編~
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迷いの森

実際のところ、三章のメインのスタートはここからだったりします。

 Aクラス冒険者ネリー、<厄災級>インビジサウルスを討伐せり!

 この報を持ち帰り、フィナールの町に凱旋した両国軍は、住民に大歓迎で迎え入れられた。その先頭を行くのはイアンではなく、ネリー。

 「目立つのは嫌です」というネリーの主張もあったのだが、ゾークが「有名税みてぇなもんだ」と説得した甲斐もあり、ネリーは両国軍の先頭に立ち、堂々と行進する。

 ゼンの代役、とシャレットが唆したこともあって、ならば無様には見せられぬと思ったネリーは、強者特有の雰囲気を漂わせる。これは錯覚ではない。


 ネリーがインビジサウルスを単独撃破したことにより、大幅なレベルアップが行われた副産物と言えるもので、覇気とも闘気とも言える、周囲への圧倒的存在感を持つようになった。

 元々ある程度持っていたものでもあるし、勿論隠すことも出来る。普段はゼンとて無意識に隠している。ゾークやシャレットもネリーほどではないにしろ、持っているものだ。

 目立つのは嫌いなネリーだが、この場は違う。ネリーは主に代わり、存在感を示さねばならない、主も自分の名代だと言っていた。だから隠すことはない。


 観衆は確かに見た。ネリーの身体から迸る闘気を。強者特有のその背中を。見せ付けられる圧倒的存在感を、確かに感じ取った。

 威風堂々たるその姿に観衆は大いに沸く。ネリーはその中を、笑うでもなく、誇るでもなく、ただ前だけを見て歩く。

 馬に乗って、という案もあったのだが、それはネリーに却下された。ネリーとて馬に乗れないわけではないが、慣れているわけではない。無様を晒すことがないように、というわけだ。


 ちなみに住民や見物客は総出で両国軍を迎えたのだが、迎えられた側の大半は、何ともいえない表情で曖昧に反応せざるをえない。

 イアンは敢えて馬車に乗り、顔だけ出して右手を振る。多少不審に思われるかもしれないが、左腕がないことに民衆が慌てるかもしれない、という配慮だ。

 微妙に冴えない両軍を多少不思議に思う民衆だが、先頭のネリーを筆頭に、ゾークやシャレットは堂々たるもの。討伐は確かになされたのだ、という印象を付けるには、十分なものとなった。



 領主の館で迎え入れたのは、ギース・フィナール伯爵。歓迎のポーズは取っているものの、その瞳は全く笑っていない。

 ギースは挨拶もそこそこに、先頭にいたネリーに問う。


「ゼン殿は、どうした?」

 淡々と答えるネリー。

「今は居られません。詳しいことはイアン殿下に聞かれてはいかがですか?」


 これだけで何かあったのだとギースが察するには十分。

 ただ、ネリーの雰囲気から今すぐにどうこう聞くのは不味かろうとも思った。

 それより今すべきことは何か。非難もしたい、糾弾もしたい、だがまずはフィナール領に平和が訪れたことを表明せねばならない。


「Aクラス冒険者であり、ゼン・カノー殿の従者、ネリー殿によってフィナール領の平和は守られた!ギース・フィナールの名において、<厄災級>の討伐完了を宣言する!」


 ギースの力強い宣言は、フィナールの町を瞬くままに広がり、観衆からはネリーの名を叫ぶものが続出した。

 この宣言内容は、ネリーが概ね満足の行く内容で、ギースの配慮が行き届いたものだった。ゼンの従者であることを強調したのは、ギースのファインプレーである。



 館の中に迎え入れたイアンを見て、ギースは多少眉を吊り上げるに留まった。

 なるほど、これが馬車にいた理由か。そう解釈してみせた。失った左腕はどのような理由かは分からないが、確かに民衆が動揺しかねないだろう。

 そしてここにいるべきもう1人が見当たらないのも、あるいは何かあったのだろうと推測出来る。

 ゼンの評価通り、ギースとて既に一端の領主。そしてゼンが残した手紙の中身を読んだギースは、一つの決意を秘めている。

 イアンと対面したギースは、単刀直入に尋ねる。


「ゼン殿は、どうされましたかな?」

 挨拶もなしに不敬な、そう取られても仕方がないギースの態度だが、イアンには負い目がある。

 傍に控えるレイラもまた、ある程度はやむを得ないと考えた。


「言いにくいことですが、不覚を取った、ということです」

 本当に言いにくそうに告げるイアンの言葉に、ギースは青筋を立てる。何が不覚か。あの怪物がそのようなことなどあるものか。


「もう一度お尋ねします。ゼン殿は、今いずこに?」

「それが、分からぬのですよ……妹のリリーナ、アルバリシア帝国のフラン殿下と共に、消えてしまいました。健在である、としか」


 イアンは包み隠さずギースに何が起こったかを語った。フィナール領領主であるギースには、事実を話す義務がある、そう考えた。

 一時沈黙するギース。目を閉じて、黙考する。

 起きたこと、起きていること、起こること。そしてギースに残された、ゼンの手紙。それを見て相談したセスの返事。

 更に一つの追い風。同席したネリーが囁く。


「ギース領主殿に対して、主はこう仰いました。「ユーリには話してある」そうです」


 ここでギースの目が開かれた。元より辺境の地、王国の援助などろくに受けたことも無い。援助を求めたことはあっても、それを返されたことはない。

 かつてのカルロス、先代ダリル、両者ともにそうだ。そして今、目覚しい発展を続けているのは誰のおかげか、はっきり自覚している。セスもまた、同感だと言っていた。

 セス・ナジュール侯爵は野心的であったわけではない。だが、王国よりフィナール領とギースを取った。それだけのこと。


 ここで一つ、立場を明らかにしておく。ギースは一つの決断を下した。


「イアン殿下。この場ではっきりと申し上げておきましょう。もしゼン・カノー、あるいはそれに属する存在を罰するおつもりならば、このギース・フィナールが持つ全ての力を持って、それに当たりましょうぞ」


 疲れきったイアンに追い討ちをかける、ギースの明白な宣言。


「この旨は我が盟友、セス・ナジュール侯爵にも伝えております。ナジュール卿もまた、私に協力して頂けるとのこと。お覚悟を持ち、王都へ戻られよ」


 ゼンを相手にするのであれば、フィナール領、ナジュール領は、ゼンに組するという宣言。事実上の独立宣言とも取れる。

 辺境とはいえ、2つの領は広大だ。更にフィナール領は、既に王国の2割以上の食料生産を担い、ナジュール領も含めれば、カルローゼ王国は4割近い生産力を失うことになる。

 その生産力を失い、更に食料提供が止められる。これだけで王国は崩壊するだろう。国王ソルに非難が集まり、そのまま瓦解しかねない。


 おまけにリリーナの身柄もゼンに確保されているのと同様。これはゼンは悪くない、むしろゼンの功績だ。それはゼンに託すしかないのは分かっているが、まさか領主ごと敵に回すことになろうとは。


 そしてこの反旗、決して無謀ではない。イアンは思う、仮に敵対すればどうなるか。兵力だけで言えば、比べ物にならない。確実に王国が勝つ。貴族らはむしろ歓迎するかもしれない、領地拡大を止めている王国にとって、新たな自分達の取り分が増える、と。

 しかし、確実にゼン・ネリー・ゾーク・シャレットを敵に回す。ゼンはいないにしろ、ネリーは健在だ。そうなれば、戦いにすらならない。明確にイメージ出来るのは、蹂躙され、虐殺される王国軍の未来。

 ゼンの意向にもよるだろうが、ネリー1人で王国軍は壊滅できる、それだけの力を持っている。躊躇うことも、容赦もしない。それは自分自身の全てで確認済みだ。


 やはり、間違えたのだ。何故父は焦ってしまったのか。何故我々は<天災>の尾を踏んだのか。


 イアンは力なく頷くと、力を尽くす、とだけギースに告げた。



 ゼンがギースに対して残した手紙。それは、「イストランド郡は、既に20万人分は養える。フィナール領全体ならもっと多い。後は俺達をどうしたいか、考えておけ」という内容。

 明確に叛意を促すものではない。だがギースはしっかりゼンの意図を汲み取った。そういう交渉カードもある、ということを。

 繰り返すがギースにゼンを縛るつもりは全く無い。その上で今回の王国の仕打ちを受けて、ギースが至った結論は、王国を敵に回し、フィナール領を戦火に巻き込もうとも、ゼンらと敵対することはあってはならない、ということ。

 自分だけの判断では不足と思い、相談相手としてセスを選び、使い魔を送った。その返事が、「ナジュール領はフィナール領に同調する」というものだった。だからこそギースも腹を括った。


 そこまでするつもりはなかったゼンなのだが、ギースの気質もあり、相当苛烈な物言いになってしまった。もっともこの決断は、ギースも随分性根が座ったものだとゼンは評価した。



 イアンが去った後、ギースはユーリを呼び出した。

 既にユーリもゼンからの【思考対話(テレフォン)】を受けており、ギースからフィナール領の話を聞いても、さほど驚きはしなかった。


「ゼン君はー、そこまで考えてないけどー、そういうこともあるかもー?とは言ってたのでー」

 どこまでもゆるいユーリにギースも腰砕けになりそうになるが、ゼンの意図通りの行動は出来たようだと、一つ安堵する。


「まあ俺も本気で、というわけではないのだがな。して、どうしたものか」

「えっとー、何もする必要はないらしいですけどー、あたしとしてはー、ギース様のー、本気度をー、見せておくのもー、いいかもなーって?」

 ゆるさが加速しているユーリの提案を、ギースは尋ねてみる。


「何をどうするのだ?」

「簡単ですー。食料品にー、関税をー、強めればー、いいと思いますよー?ナジュール領だけー、特別にー、しておけばー、いいかもー?」

「……もう少しまともに喋れんのかお前は」

 軽く頭痛を覚えたギースだが、ユーリの言葉は説得力があった。なんだかんだでユーリも成長しているのだ。


 フィナール領で出来た作物は、農業ギルドから買い受けた商人が売りに行く。イストランド郡、ならびにフィナールの町の農業ギルドは、相当な量の作物の取り扱いをしており、安くて質もいい。故に商人の出入りも相当だ。

 その商人が商品をフィナール領から持ち出す際に、関税という形で税をかけている。ここを強めればどうなるか。少なくともフィナール領産の作物は他領・他国で値上がりするだろう。

 それがいずれは流通の鈍化に繋がる。フィナール領としても打撃はあるが、他は更に深刻な事態に陥るだろう。そして特別視されるナジュール領は、格好のアピールになる。ナジュール領を通して買い付けに来るかもしれないが、セスも何かしら手を打つだろう。


 ただ、どうだろうか?これを行うのは、少しばかり敵意が過ぎる気もするが。そう考えたところで、ユーリがもう一声。


「とりあえずー、一部の作物だけー、というのはどうでしょー?」

「なるほど、な。何が良いだろうか?」

「穀物はー、オススメじゃないですねー。野菜からー、ということでー」


 これを良しとしたギースは、「ならば任せる」とユーリに丸投げした。

 率直に言って、ギースの元にいる官吏らより、イストランド郡役場にいる役人の方が、余程優秀なのだ。当然ユーリは抗議した。


「あたしがやるんですかー!?」

「ゼンは言っていたぞ?「ユーリには話してある」と」

「ここにいなくてもあたしを苦しめるのねゼン君……」


 ユーリはゼンのことなど全く心配していない。むしろ、しばらくは楽が出来ると思って、そのゆるさが加速していたのだが、まさかここで新たな無茶振りを受けるとは思わなかった。

 確かにゼンには「何かあればギースに付け」と言われている。となれば、受けざるを得ない。よろけながら泣き、「やればいいんでしょー!?」と仕方なしに引き受けた。

 こうして新たな仕事を持ち帰るハメになったユーリは、役場の人間からも「何考えてるんですか!?」と非難されることになった。

 もっとも、「ゼン君のせいだもん!」と言うと、渋々と税の調整に入るのだから、やはり優秀なイストランド郡役人勢であり、ゼンに教育された賜物である。


 後日ユーリの意見を聞いたゼンは、

「及第点。ただちょっと圧力かけすぎたよね。野菜全般じゃなくて、品目をもう少し絞るべきだった。ついでに米麦類だけじゃなく、芋だって立派な穀物だよね。いい?別に本当に敵対したいわけじゃないんだから、まずは……」

 と細々とした小言を言い、65点、という評点を下したそうな。どこまでもユーリに辛口なゼンである。



◆◆◆



 俺とて大した根拠があったわけではないが、ここがアクイリックの地上である、と見なした理由は他にもある。「生活魔法」が使えたからだ。

 少なくとも日付や時計という機能は生きている。これがそのまま証明になるわけではないだろうが、しっかりと時計は刻まれている。

 上空を見上げても、こっちで見慣れたものだ。太陽は1つだが、明らかに地球と違う「赤い」太陽。全く同じかどうかは確かめようがないけども、ここまで来れば同じ地上だと見ていいだろう。


 再び目を覚ましたリリーナとフランは、幾分落ち着きを取り戻したようだ。

 何気に俺も疲れている。【一騎当千】の疲労もあれば、よく分からない体の不調もある。

 だがそれを見せるわけにはいかない、これ以上2人に不安を与えるわけにもいかない。

 ともあれ2人にも事情を尋ねてみたのだが、やはり何が起きたのか、今一つ理解出来なかった。

 強いて言えば、王国でも帝国でもない第三者の介入はまず間違いなかった、というところか。


「兄上が何故あのような凶行をなされたのか分からぬのだ……」


 というのはフランなのだが、バルドは確かに常軌を逸した行動を取ったように思える。俺としては全く理解できない、ということでもない。何としてでも帝位を望んでいたのであれば、俺とフランの婚約話はさぞかし邪魔だっただろう。

 第三者が用意した魔道具と思わしき何かが、全て同じものだったとは限らない。最初はフランのみを狙ったところに、俺も入ってカモネギだったかもしれん。

 ゾルバとかいう男は、やはりアルバリシア帝国所属のSクラス冒険者だったようだ。尋問したいところだが、手遅れの模様。


「お兄ちゃんも何が何だか、って感じだった。ゾーク父さまがいなかったら……」


 死の恐怖を思い出したのだろう、リリーナは青ざめて語った。泣かないだけ立派なもんだ。お兄ちゃん、というのはイアンのことだろう。確かにテンパってたな、あの優男。

 しかし謎が深いのは、帝国よりむしろ王国の方だ。帝国軍は王国軍に攻撃した、しかし王国軍の一部は明確に俺を狙ってきた。

 ヨハンにしてもそうだ、やはりカルローゼ王国所属のSクラス冒険者であり、リリーナも懇意というほどではないにしろ、知っていた。こっちも手遅れだけど。


 あ、そうだ。呪いといえば、リリーナに聞けば分かるだろうか?


「なぁ、呪いって分かるか?ゾルバにしろヨハンにしろ、あと竜人族の女、アンヌだったかな?どうもかかってたらしいんだが」

「呪いが人に?うーん……」

 どうやらリリーナには分かるらしい。フランにも覚えはあるようだ。


「人を呪うのか?何か、そういった魔道具を持たされたのだろうか?」

 難しい表情で考え込むフラン。もしかしたらバルドもそうだったかもしれない、と考えているのかもしれない。

 だがバルドは正常だったんだよなあ。この場では説明しようもないし、証明のしようもないし。そして答えをこの場でフランに教えるのはちょっとな。聞かれれば答えるが。


「そもそもなんで呪いって分かったの?」

「それは[鑑定]みたいなもん使ったと思ってくれればいい。まぁ魔法じゃねえけどな」

「そういう魔術もあるのだな」


 リリーナの問いには軽くはぐらかす。【完全解析】はある意味俺の鬼手。つっても「呪い」に阻まれたから、やっぱ「完全」とは言えないな。

 で、呪いって一体何だ?と根本的なところをリリーナに説明してもらう。


「呪いっていうのは、人の思いとか、悪い感情を込めた魔道具なんかにかかってるんだけど……」


 ぎこちないながらもリリーナが話す内容をまとめると、およそ「呪い」というのは、そのまんまの意味のようだ。

 例えば強い呪いがかかった武器を手にすると、正気を失って無作為に人を殺め出したり、薬なんかも精神に異常をきたしたりするそうだ。

 それが人に直接かかる、というのはリリーナも聞いたことがないようだが、俺の見立てではどうにも人に直接かかってた感じがする。

 となると、一種の洗脳とかって感じなんだろうか?魔法絡みだとすると、[再生]でも元通りに出来るかどうか、かなり怪しい。イメージやら思いやら、不確定なものに対しては、魔術は割と応用が利かない。そもそも学問だしな。


 ついでだし、これを聞いてみるか。


「リリーナは解呪魔法とかって使えるのか?」

「えっ?なんで知ってるの?」

 驚きのリリーナ。どうやら秘密だったらしいが、特別な魔法だったりするんだろうか?


「呪いを解くか。そのような魔法もあるのだな」

「い、いや、その、あの……」

 なんか知られるとまずいことらしい。追求はやめとくか。


「もしかしたら使えるかなって思ってな。ほら、王族の姫様だし」

「ああ、そっか。うーん。どうなんだろう、言っちゃっていいのか、わかんないんだけど」

「無理に言う必要はない。ただ解けるのかな、って思っただけだ」


 うーん、と今度は考え込むリリーナ。ふむ、適当に言ってみたのだが、そんなにハズレでもないようだ。というより、言っちゃっていいのかな、なんて言ったら使えますって言ってるようなもんだぞ。

 でも【完全解析】を以てしても、汎用能力(スキル)となると説明があやふやなんだよな。固有能力(ユニークスキル)のように、はっきりとスキルの役割が定まっていないとダメらしい。

 今にして思えば「呪い」という状態異常を解析すべきだった。バタバタした状況だったし、今更ではあるが、アンヌをもっと解析しときゃよかった。

 そしてアンヌも手遅れなんだよなぁ。ネリーにケチを付ける気は全くないけども。手がかりになりそうな奴残ってるんかな?


「見てないから、分かんない。でも、私で解ける呪いは、まだほんの軽いものだから……あっ!?」

 何かを思い出したようにリリーナが立ち上がった。


「私知ってる!なんかお兄ちゃんが変な球持ってきたんだ!魔道具みたいだったけど、呪われてるっぽかった!あれと同じものだったかも?」

「変な球……なんだそら?バルドやらヨハンやらアンヌやらが投げてきたものと同じか?」

「誰が誰だかはわかんないけど、最後に見た球は同じような感じがした!」


 聞くところによると、イアンが王国軍の兵士から取り上げたものらしい。それをイアンがリリーナに見せたようだ。

 その場で壊すように伝えたそうだが、古代道具(アーティファクト)だったらしく、王国の研究員に調べさせているのだという。

 あれが呪いの道具ねえ。確かに魔道具ではあったようだけど、そんなものだったかな?あれ自体に呪いがかかっていた可能性もあるが、効果としては単純なものだったように思えるのだが。


 ともあれ、この場にないものは、これ以上調べようがない、か。

 うし、切り替えよう。呪いのことは棚上げだ。


 俺はパンと一つ手を叩いて、胡坐をかいて座り込む。まずは現状確認だ。

 立ち上がったリリーナにも座るように促す。2人とも服がボロボロで、泥まみれだったりするのだが、それを嫌うような素振りはない。

 先祖返りが関係あるかどうかは知らないが、フランはともかく、リリーナも決して喚いたりしていない。子供ながら心が強い、素直に賞賛する。

 それでも疲れははっきり見えるし、心中穏やかではないだろう。落ち着いたところでも、精神的ダメージはやはり大きいと見える。

 というわけで、まずやるべきことをやる。体育座りをするフランと、お嬢様座りするリリーナに向けて、一言。


「とりあえず、飯にしよう」


◆◆


「美味いっ!美味いのだ!ゼンは料理も得意なのだな!」

「本当においしー!やっぱゼンお姉ちゃ「お兄ちゃん」んぐっ、ゼン様って、女子力高いよねー!」

 女子力なんて言葉があんのかよ、そもそもそんな言葉を王族の姫が使うのかよ、などと思ったが、どうやら好評のようだ。


 何をしたかと言えば、即席でパパっと[空間箱]から使えそうな食材を取り出しては、そこらへんの石を拾ってかまどを作り、鍋を作ってみた。

 味噌やら昆布やらはないのだが、そこは抜かりなし。伊達に醤油もどきやら何やらのマイ調味料を作っていない。この際美味ければ良いではないか、はっはっは。


 今回作ったのは、敢えて言えばキムチ鍋。そんなに辛口ってわけでもない。イストランド郡産の野菜をふんだんに盛り込み、ミディアムビーフやミッテルピッグ、まあ要するに牛肉や豚肉なのだが、その肉をガッツリぶち込んだ。

 少しばかり癖の強い香りがするのだが、そこはむしろアクセント。空腹の俺にとっては少なくともそうだったし、2人にしてもそのようだ。こっちの世界では鍋って食卓ではあんましやらないみたいなんだけど、野外だとどうなんだろう?

 ほとんど切って煮るだけの料理ではあるが、鍋を甘く見るでない。味付けは俺が編み出した唯一鍋(オリジナルナベ)だ。自慢じゃないが、地球ではどこに行っても俺の鍋は大好評だったんだぞ。

 食器も入れといて正解だった。いやあ何があるか分からんな異世界、俺の準備は完璧だった。


 しっかし空間魔術のほとんどがアウトだってのに[空間箱]はアリってのは解せぬ。苦労しなくて済んでいいけど。

 まあ、その辺りはおいおい、というか、[空間箱]については座標指定しなくてもいい、ってのはあるんだろうな。視覚地点で十分だ。

 となると召喚魔術の方も何となく分からんでもない。空を飛ぶのはアウトっぽいが、陸はセーフ、そんなところか?



「うむ、我ながらまずまず。2人ともよく食ったな」

 2人ともなかなかの食べっぷりだった。満足したところで鍋の残りを一気に流し込む。それを見てやや唖然としているが、気にしない。

 残りのスープで粥でも作ろうかと思ったが、2人は満腹っぽいので今回はいいだろう。俺も相当な量を食えるが、食わなくてはならないというわけではない。

 ただ疑問はある。食った量に対して思ったより満腹感があったのだ。何と言うか、思ったより体に入らない感じがする。今までこんなことは無かったんだが。


「ゼンは豪快なのだな!」

「見た目によらないねー」

 などという感想を頂きました。俺が食うからこそ、最初から多めに作ったんですけどね。

 作ったものを余らせてはいけない。[空間箱]に保管しとけばええけども。


「さて、腹が膨れたところで、どうすっかね。ここら一帯、森しか見えないんだけど、心当たりあるか?」

 腹が減っては何とやら。とりあえず飯にしたわけだが、状況は全然変わってない。ただ、これで明るくはなっただろう。

 と思ったのだが、2人の様子は芳しくない。森しか見えない、というところで引っかかったかな?


「森しか見えぬ、とな?」

「まさかと思うけど、もしかして……」


 ああ、やっぱそう思う?俺もそうだと思うんだよね。うん、察しは付いてたけど、2人にも聞いてみたかったのよ。

 だとするとかなり面倒くさいことになりそうなんだが、この森を抜けて更に西(・)に飛ばされてたら、やばかったかもしんないし。

 あるいはこの森が途中にあったから、ここで強制[転移]が止まったのかもしんないし。悲観的になるのはいくない。けど、まあ、そうだよね。


「やっぱここって「迷いの森」だったりすると思うか?」


 2人ともしっかり頷いてくれました。さーて、どうすっかね。



 迷いの森。

 カルローゼ王国とアルバリシア帝国、両方の西側にある、入場不可・脱出不可という謎の森。調査することすら適わず、両国ともに立ち入り禁止としている場所。

 入ることは出来ず、入れたかどうか定かではない者は帰れず。まさに帰らずの森。中がどうなっているのか、文献一つ残っていないという場所。


 らしいのだが、これは母さんが否定していた。

 というのも、【思考対話(テレフォン)】で俺たちがこの森にいる可能性は高い、と母さんも言っていたのだが、「入ることは不可能に近いかもしれないが、出ることは出来るはず」なのだという。

 そのソースは、母さんの両親。すなわち俺の祖父と祖母に当たる人物、まあ会ったことはないのだが、この2人は少なくともこの森から出てきたクチなのだ。

 どうやらエルフの里というのは、この森のどこかにあるらしく、そこから駆け落ち同然で出てきたのが、母さんの両親であるそうだ。

 ただ詳しいことについては、よく分かっていない。既に母さんの両親は他界しているらしいし、母さんも具体的なことは知らないみたいだ。


 一つ、仮説は立てている。かなり「当たり」に近いだろう、という答え。

 この森より西側のことは誰も知らないし、そもそもその先に何があるかという疑問すらない。入れない出られないでは、「果て」と考えるのもそうおかしなことではないが。

 だが俺は知っている、この地上はちゃんと「丸い」ということを。その証明をするのは面倒だからやらないが、「大陸図」などというのは、この星の一部でしかないのは承知済だ。


 となればこの森が何なのか、もう既に答えは出たも同然。そして空間魔術や召喚魔術といった、座標指定系の術式をほとんど弾くこの環境は、一つの結界と見て間違いない。

 入れないような結界を張っているのだから、空を飛べるような存在は認めない、ということだろう。[転移]のようなものも本来弾くものだったと思うが、そこに何かしらイレギュラーが発生したのだと思う。

 あるいはこの森だけ異次元という可能性もあるにはあるが、恐らくは出入り口に一つの次元の壁みたいなものを作っているに過ぎないのではないだろうか。時間の流れは【思考対話(テレフォン)】をする限りでは、それほど差異はなさそうだ。


 さて、答えとは何か。俺にとっては、いずれはここに来る必要があった。おかしなタイミング、いないはずの連れはいるが、偶然にしろ「入る」という難関を潜り抜けたのは、ある意味好都合。

 軽く現実を逃避していたのは、都合が良すぎる考えだったからだ。2人は悲観的だが、俺としては僥倖だ。ただ来るのが早まっただけに過ぎない。


 ここが「境界」だ。俺が越えなければならない、明確なラインだ。



 内心密かに笑みが零れそうになったが、喜んでいる場合ではない。まず、長期戦の構えを敷くことは必須だろう。

 それに越えなければならないとは思っているが、今すぐ越える必要はない。本当に越えるのはもっと体勢が整ってからと考えている。

 本来なら今すぐ出たいところもあるのだが、少なくとも出入りする方法は調べておきたい。折角入れたのだ、これは危機ではなく、好機。2人には悪いんだけど。


「ゼン……?」

「っと、悪いな。少しばかり考え事をしていた」

 知らないうちに俺も思いに耽っていたようだ。フランが心配そうに覗き込んできていた。見ればリリーナも同じ様子。

 そうだな、そんな場合じゃないな。ちょっと先走ったようだ。


「2人とも心配するな。リリーナもフランもキッチリ俺が守る、そこは責任持って保障する」


 そう、まずやるべきことは、この2人をしっかり守り、両国へ帰すこと。2人だけ帰せればそれがベストなのだが、そこまで都合良く行くとは思ってない。

 割と自信持って宣言したつもりなのだが、2人とも表情は冴えない。なんというか、申し訳なさそう?俺のことを巻き込んだと思ってる?何か言いたげに、フランが口を開こうとする。


 だとすれば―――


「謝るのなら筋違いだ。俺は2人に巻き込まれたんじゃない。俺が2人を巻き込んだんだ。だから責任は取る。リリーナもフランも、俺が絶対守り通す、絶対だ」


 そう、これは俺の手落ち。温い対応をしたのは両国だけじゃない、俺も温かったんだ。状況に応じて手を打とうとした俺の間違い。自惚れじゃない。俺という鬼札を欲しがるのは当然のことだ。流されてしまったのは、俺自身だ。

 結果的に「俺にとっては」いい方向に転がれる可能性は出たが、出たとこ勝負もいいところの、ただの幸運(ラッキー)。もしかしたら、俺はそういうものを掴み取れるような存在なのかもしれないが、それは俺自身が否定する。

 何かを得ようとして、転がってくるのを待つなんて、俺らしくもない。それが運とかツキとかであろうとしても、それを掴み取るのは、自分自身。

 結果は落ちてくるものではない。事実全てがいい結果に繋がったわけじゃない。あくまで俺にとっては、というだけだ。

 リリーナは戦ったこともないのに戦場に駆り出され、フランは兄バルドに殺されかけた。そして2人とも、どこぞと知れぬ地に飛ばされた。

 2人とも自分達の思いはあれど、両国の道具として使われた結果だ。本人達は納得しているかもしれないが、その結末がこれだ。


 これが幸運?そんなわけあるか。

 この世界が認めようとも、このゼン・カノーが認めない。


 ならば俺は責任を取らなければならない。俺にとっての幸運が、2人の不運に繋がったのだ。

 結局バルドや第三者の狙いは分からなかったにしろ、俺に何かしら危害を与えようとしたのは明白、フランもリリーナも狙いの対象だったのだろうが、こうして共に飛ばされた以上、これは俺の責任だ。

 全て俺のせいだとは思わないし、そこまで俺も背負いきれない。両国のやってきたこと、第三者のやってきたこと、両方にも相応の責任はあるだろう。今回の事態はイレギュラーでは無く、誰かの思惑にハマった結果かもしれない。


 だからこそ俺の責任として、この2人だけは、絶対に守り通す。何としてでも生きて両国に帰す。それが今の俺の最優先事項。そして、俺がやりたいことだ。

 やりたいことをやらなかったがために、あの時も後悔した。今度はやり直せる。まだ挽回が利く。大目的は忘れないが、今の目的はしっかり定めた。迷う必要などない。

 やりたいようにする。この信条こそ、「ゼン・カノー」であり、「加納善一」である、俺という人間の全て。状況に流された分の失点は、必ず取り戻してみせる。


「……ゼン様は、やっぱりかっこいいね」

 いつからか、リリーナが泣いていた。泣くなよ。笑いながらでも泣くんじゃない。


「やはり、ゼンは最高の男なのだ!」

 お前も泣くなよフラン。笑っていいところでもないんだぞ?俺なりに真剣なんだから。


「なるようになれ、なんざ俺らしくもなかったわ。なるようにする、だ」



◆◆



「というわけで、衣・食・住のうち、食については問題ない。日も落ちてきているし、今日は仕方ないが、明日からはまず住を何とかする。続けて衣も何とかするが、2人ともこれに着替えるよーに」


 ひとしきり泣き止むのを待った後に、[空間箱]から取り出したるは、うん、有り体に言おう。ジャージだ。スウェットとも言う。

 サイズ補正の術式はバッチリかけてある。今のところ俺のサイズだが、着れば問題ないはずだ。

 わざわざ繊維を合成して作った、無駄な努力の結晶。いやホントマジで、俺も何を考えて作ったのかよく分からん。いや、ちゃんと理由はあるのだが、これを3組作った意味が俺にもよう分からん。しかもこれ魔道具なんですよ、ええ。

 俺の服を幼女に着てもらうシチュエーションに酔ったりしない。っていうかこの年齢で大して服に違いなどありはしない、はずだ。

 勘違いしないで頂きたい、ブルマや体操着など作ってはいない。俺が純粋に着ようと思った服を自分で作っただけだ。


 何度でも言おう、断じてノーマルである!


「ださい……」

「うむ、少々な」

「お前ら無遠慮すぐるでしょう?これはある意味高性能な服なんやぞ」

 高性能なのは間違いない。限定的な[再生]や[浄化]も付与してある。破れることもなければ、汚れることもないという、マジで高性能魔道具なんだぞこれ。

 防御性能まではさすがに無いが着心地もいいはずだ。絹糸や毛糸をふんだんに使って、肌触りもバッチリだ。通気性に優れて、それでいて身体を冷やさない一品!

 ダサいのはそういうデザインなのだから仕方ないではないか。そもそも寝るときや作業用なのだから、デザインに凝ったりなどしない。

 だいたい俺に意匠のセンスはそんなにねえんだよ、それ男モノやし!着られればええやんけ!紺一色で悪かったな!


 とまあ、そんなことを力説したら、渋々着てくれるようだ。特にリリーナは本当に渋々、といった様子だ。

 フランはその場で服?を脱ごうとしたので、「待て、流石にそこは羞恥心を持て」と言って、木陰で着替えさせた。

 彼女は無駄に露出しすぎなのだよ、それがいいって言う人もいるだろうけど。俺はどうかって?ノーコメントでお願いします。


 だいたい何を思ってハイレグアーマーなんて着てるんだよ。そのうちビキニアーマーに進化するんじゃねえだろうな?そらロリサキュバス的な彼女がそうしてたらそういう趣味の人以下省略。俺はどうかって?ノーコメントだっつってんだろ!


 何にキレているんだ俺は。


 さてこちらは野営の準備に入る。本来それなりに時間がかかる行為なのだが、ここで驚きのスキルが発動した。【工程短縮(ワークカット)】である。

 テントを組み上げるのが我ながらやけに手早いなと思ったら、組むべき支点を1つ作ったらいつの間にか4つ出来ていた。

 何を言っているのかわからねーと思うが、超能力とかそういったチャチなもんじゃねえ、もっと恐ろしいスキルという片鱗を味わったぜ……などとぬかしたくもなる。

 これで実際テントを張ろうとしたら、これまた支柱が勝手に組みあがるのだから、笑うしかない。なんでここに効いた【工程短縮】。これ生産活動ちゃうやろ。確かに「作って」はいるんだけど。

 いや、面倒が少なくなってありがたいっちゃあ、ありがたいのだが。これは「加納善一」の経験が効いたか、あるいはもっと別の経験か。少なくとも「ゼン・カノー」としてテントを組んだことなどあまりないのだが。


 布団については流石に持ってきてない。そんなに寒いわけでもないし、ジャージという最強装備をしていれば風邪を引くようなことはないと思う。

 それでも頭に何も無いのもアレなので、即興で絹布に綿を詰めて枕をさっくり作る、【工程短縮】もしっかり効きました。うん、裁縫も慣れたもんだね。

 そのうち寝具はしっかりとしたものを作るとして、材料の無駄使いはやめておこう。鉱石類は本当に死ぬほど[空間箱]にあるのだが、衣料に使えそうなものについては、そこまでストックが無いからな。


「手慣れすぎにもほどがあるのだ!?」

 着替えたらしいフランがテントに入って来た。明らかに早すぎるテント構築に驚いた様子。うん、俺もびっくりしたんだわ。

 リリーナもおずおずと入って来た。狭く感じるっぽいが、それはまあ仕方ないな。


「コテージでは今回何度か寝泊りしたんだけど……」

「あー、さすがに天幕までは用意してねぇわ。まあしばらくは我慢してくれ」

 2人ともジャージはピッタリサイズ、補正がかかっているから当然だね。

 実際のところ着心地はやはりいいらしい。


「これいいねー、ふわふわでピッタリ、いい感じ。ダサいけど」

「うむ、実に機能的なのだ。暖かくて涼しい。ダサいがな」

「いい加減泣くぞコラ。それが標準装備の奴だっているんだぞ」

 信じらんなーい、とリリーナ。それを聞いたら本気で泣くぞ、一部の人たちが。


 さて寝床なのだが、男女なんちゃらにして同衾せずとか言うのは、今回は勘弁して頂きたい。流石に仕切りまでするスペースがない。

 フランは「野営なのだから見張りが必要なのではないか?」と、至極真っ当なことを言ってきたのだが、安心せぇ、ちゃんと考えとる。


「今から従魔を呼ぶのでそいつに見張ってもらう。2人ともそんなに驚かないように」

 というわけで、一度お帰り願った[大戦猫(ウォーキャット)]をもう一度呼んで、おまけに[三頭犬(ケルベロス)]にもご登場願う。

 さぞかしびっくりするだろう、と思ったのだが、何というか、そうでもない。2人とも目ェキラキラしてんスけど?


「かっこいいのだ!」

「かわいい!」

 どうやらフランは[三頭犬]、リリーナは[大戦猫]を気に入った模様。そしてそれぞれが懐いた模様。何ゆえ?


 [三頭犬]は結構な頻度で呼んでいるので今更だが、[大戦猫]も[三頭犬]とサイズは大して変わらんよ?むしろもう虎とかに近いんじゃないかと思うけど。

 でもまあ、これもまた猫は猫なんだよなぁ。赤と黒のツートンカラーの猫で、真っ直ぐ半分に色が分かれてる。身体の中心線から分かれるように毛色がなされた、何とも不思議な猫。尻尾も二本あるし、目も黄色と青のオッドアイ。二匹の猫を半分ずつくっつけた、みたいな体をしている。

 見た目は確かに[三頭犬]ほど怖くは無いのだが、強さは[三頭犬]より若干上。嗅覚なんかは[三頭犬]の方が上らしいけど、単純な強さなら[大戦猫]だな。


 というわけで、「これが見張りに立つなら問題ないのだ!」というフランのお墨付きを頂いたところで、寝ることにする。

 実はもう何体か召喚中だったりするのだが、テント周りにはこの2体だ。周囲警戒には[黒豹(クロヒョウ)]を数体忍ばせている。ある意味すごく可愛いのだが、ちょっと知性が足りないので危ないっちゃあ危ないのだ。

 戦闘力という点では若干2体より落ちるが、夜目が抜群に利く魔獣で、集団戦も得意な部類だ。夜間警戒にはうってつけだろう。

 あんまし地球のヒョウと変わらんのだけど、ネコ科すぎやしねえかい?と思えるほど猫っぽい。あくまで見た目の話で、ものっそい凶暴なんですけども。

 [黒豹]はともかく、[三頭犬]や[大戦猫]はそれぞれ出しっぱなし、というのも一つの手だな。ペット感覚で見てると、後で大変なことにもなりそうなのだが、気にしても仕方ない。

 まあこれは、色々な意味で杞憂に終わったのだが。


 こっちに来て初めて、自身への【完全解析】で魔力量もチェック。ここでようやく自分の変化に色々気付いた。


 何か、どうもおかしいとは思ってはいたんだが、いつだ?[鷹]と共有化した時からか?使い勝手はあまり変わらんのは多分、召喚に術式が必要だからだろうな。

 いつかこういうことも起きるかもしれない、とは思ってたがなぁ、特に召喚魔術と空間魔術は極めたつもりだったし、だからこそ、ってのもあるのかねぇ。

 使ってる感じでは、うん、ちょっと違うかもしんないけど、大まかには問題ない。検証はまた別の機会にしよう。色々ありすぎたしな。


 他にも気になる点があった。こっちはこれ以上に深刻かもしれん。ただどこまで影響が出ているかはまだ自覚が無い。強いて言えば飯の量か。

 普通に行動する分には影響がなさそうだし、支障も少なそうだが、こればっかりはどこからどこまでというラインがよく分からん。

 どうにも感じていた違和感は、これではっきりした。ただ今は打つ手が無い。

 気を引き締めて行かないとヤバいかもしれんし、召喚魔術にも頼る部分は大きくなりそうだな。



◆◆


 2人はもう眠ったようだ。やはり色々と疲れたのだろう。熟睡しているようで、俺の左右で寝息を立てている。

 俺も少なからず眠いのだが、【思考対話(テレフォン)】をネリーに繋げる。起きてるか微妙な時間だが、呼びかけに応えてくれた。


(今いいか?)

(お待ちしておりました)


 なんかネリーさんの感情が伝わってきた。なんで不機嫌なん?


(女子を侍らせてお休みですか。なるほど)

 なんでそれ分かるん?ネリーさんどういうことなん?


(いえいえ、ゼン様はそういうご趣味であることは承知しておりますので)

(待って、ねえネリーさん待って。違うから。断じて違うから。幼女趣味(ロリコン)ちゃうから)


 いやホントどういうこと?ねえネリーさん怖いんですけど。


(私でもゼン様と同衾などしたことないというのに……)

(いやいやいや、だから何で分かるんだよ。俺はそっちが分からなくて、そっちが俺の状況を正確に把握するのはおかしいやろ?これ俺のスキルやで?)

(やはりそうなのですね?)

(いやいやいやいやいや、それひどい。誘導尋問とかそういうレベルにねえから!ネリーさんの予想がズバピタすぎた件について!)

(直感です)

(お前もう神でいいんじゃね?)


 いやホント、おかしいってそれ。ネリーさん直感鋭すぎるってレベルにねえから。やっぱ預言者だってこの人。誰?誰なのこの娘を育てたの?


(ゼン様です)

(やべえ俺が【思考対話(テレフォン)】の仕様を忘れてたわ……)


 おかしい。こんなことを伝えたくて【思考対話(テレフォン)】を繋げたわけじゃないのに。


(私にとってはとても大事なことです。ゼン様のお傍にいられないとは……チッ)

(今舌打ちしたよね?【思考対話(テレフォン)】で舌打ちってどういうことなん?っていうか歯軋りしてるのが分かるんだけど、ねえちょっと、ネリーさん?)

(ええ、私は冷静です。ゼン様の代わりにやりたくもない凱旋も行わなければならないようですし。私がイストカレッジ残るようにシャレット様にも言われました。仕方ありませんね?)


 やべえよやべえよ、ネリーさん超怒ってらっしゃるよ。てか怒ってるポイントが良くわからねえ。誰か助けて。


(とりあえずだな、うん、えっと。お、俺がいない間は、ネリーが俺の名代だから!ネリーは俺の分身みたいなもんだから!)

(名代、ですか。響きは悪くありませんね。ですが、分身というのは、些か……)

(いやネリーは俺の眷属だから!すんごい繋がり深いから!似たようなもんだって!)

(流石ゼン様、私のことをよくご理解して頂いておられますね)


 なんだろう、ホッとしたわ。とりあえず不機嫌収まったっぽいわ。えっと、ここはもう一押しせねば危うい!


(こうして常に【思考対話(テレフォン)】が確実に届く相手は、ネリーだけだ。多分父さんや母さんには時期が来れば届かなくなるから)

(私だけ、ですか?)

(そう、眷属だから特別。常にネリーのことは確実に意識出来るから。毎晩寝る前に【思考対話(テレフォン)】するから。悪いけど俺の代わりを頼む!)

(ホントにゃ!?)


 よし、来た!釣った!


(そんにゃにチョロくにゃいにゃよ?)

(何故バレたし!)

(まぁいいにゃ。そうだにゃー、帰ってきたらご褒美欲しいにゃ)

(お、おう、なんだ?何でも(抱いt)待て、それはもうちょっと先な?俺の肉体的な意味で!)


 背徳的すぎるだろ!?ショタなの!ネリーさんショタなの!?


(違うにゃよ?ネリーはノーマルにゃ)

(そこでお前がそれを言うか?)

(しょうがにゃいにゃぁ。じゃあ、新しい装備が欲しいにゃ。【百獣王化(ライガスチェンジ)】の時に壊しちゃったにゃ。ごめんにゃ)

(そら別に構わんが、アレを壊したのか。すげーな【百獣王化】。黒鋼製にはちょっと足りないが、あれもアルミスにアポイタカラを混ぜた超合金だったんだが……まあ、分かった。補正付きの特別品を作るから。な?頼む)

(約束にゃ!)


 とまあ、こんな感じで、ようやく互いの状況を話せたわけだ。

 すごい疲労したんですけど。ある意味討伐より疲れたんですけど。でもそれを考えたら拾われそうな気がしたので、何とか押し込んだ。

 なんなんだよこの遠距離恋愛で毎晩電話してねと押し込まれるような感じ。俺浮気でもしてんの?何なの?


 それはともかく、あっちはあっちで大変そうだが、ここはネリーに色々と判断してもらう以外ないだろう。

 これから両親が不在なのだから、イストランド郡、次いではフィナール領のことを考えれば、ネリーが表立ってやってくれないと困る。

 俺も当面は帰れないだろうし、イストランド郡とユーリに独り立ちしてもらうにはいい機会だ。これをきっかけに俺らがいなくても回るようになればいいんだが。


 とりあえずネリーにはいくつか指示をしておいた。何も方針なしで任せられるほどネリーは多くに通じてないし、お願いしたいのは基本的にイストランド郡、次いでフィナール領の守備だ。

 形的には母さんの名代ってことになりそうだ。毎日【思考対話(テレフォン)】を入れるつもりではいるが、完全に俺の代わりにはなれん。俺の意向と状況のすり合わせに応じて行動、ってのもなかなか難しいだろうが、そうする以外ないか。

 あとはギースがどう出るか、ってところかな。頼むよ領主殿、上手いことやってくれ。今のギースならそれなりに信用出来そうだし、下手は打たない、と思いたい。

 ユーリにも現状は伝えた。ギースの役に立てばいいが、どうなるかね。妙に浮ついてたのが気になるけど。


 さーて、明日からはまず拠点作りと行きますかね。

 解析にひっかかる点はあったのだが、今日はもう疲れた。

 どうもこれも一つの弊害っぽいんだが、気を張っている間は大丈夫だろう。

 そんなことわけで、俺も眠りに落ちるのであった。

 


◆◆◆



 まだ日も昇らぬ頃に、リリーナは目を覚ました。

 隣を見れば、ゼンの顔がすぐ近く。顔を赤くしながら、昨日のことは夢ではなく、現実だったのだと思い知らされた。

 ショックだった。襲ってくる自国の兵士は恐ろしかった。

 ゼンのことより、<厄災級>のことより、味方であるはずの存在に殺意を向けられたことが、何よりもリリーナを恐怖に陥れた。


 今こうしてゼンの隣に居られるのは、誰でもなくゼンのおかげ。命の恩人。未来の夫。

 ゼンを見て恐怖心は縮まり、変わりに得られたのは安心感。そこでゼンの隣にいるはずのもう1人がいないことに気付く。

 狭いテントを這いずり、外に出ると、そこにはゼンに救われたもう1人の存在が居た。ゼンが呼び出した従魔と戯れているようだ。

 彼女はリリーナの存在に気付くと、戯れていた犬のような従魔を撫でて、リリーナの傍に近づいた。


「リリーナ王女よ、待っておったのだ」

「フラン殿下……」


 一晩明けて、2人は互いの立場を思い出した。元より自分達はゼンを自国に引きこむための道具。

 ゼンに少なからず好意も持っているし、それに異存は全く無い彼女達だが、ゼンがどのように考えているかまではよく分からない。

 敵、というには、少々違うにしろ、互いに思うところがないわけではない。リリーナは少なからず警戒していた。

 だが、フランはリリーナよりそれが薄かったようだ。さして警戒した様子も無く、言葉を続ける。


「色々とあったのだが、妾も王女もゼンに救われたのだ。そこに異存はなかろうな?」

「ええ、それは間違いありませんね。ゼン様あっての今の私たちです」

「だからこそ、ゼンにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかんのだ。それは分かってくれるだろうか?」


 フランは何を言いたいのか、リリーナは少し考える。

 この場合ゼンにこれ以上迷惑をかける、となると、身勝手な行動ということになるだろうが、リリーナは元よりゼンの指示に全て従うつもりでいる。

 帝国の天才と違って、リリーナには戦う力は無い。己の居場所すら分からぬ森で、ゼンの保護から外れることはただの自殺行為。それくらいの分別は付く。今のゼンが万全には見えないにしろ、それでもゼンに頼る他ない。

 となると、フランは自分が邪魔だと言いたいのだろうか?迷惑だと言いたいのだろうか?


「フラン殿下は、私が邪魔だと言いたいのですか?」

「そんなことないのだ!ただ、ゼンにこれ以上迷惑をかけるのはならぬと言うておるのだ。妾とてゼンに従うつもりでおるのだ」

「それは私もそうするつもりですが」


 じれったくなったフランが、ぶっちゃけた。


「リリーナ王女、いや、リリーナよ。その堅苦しい言葉はやめるのだ。少なくとも森から出るまでは、そうするのだ!」

「……あ、なるほどねー。そういうこと?」

 聡いリリーナには、それで十分フランの言いたいことが分かった。


「妾はさして変わらんが、少なくともゼンの前ではフランとリリーナ、それで良かろう?ゼンもやりにくいであろう」

「そうだね。ゼン様に余計な配慮までさせるわけにはいかないもん」


 フランはゼンに全幅の信頼、というより生涯の伴侶と既に自分の中では決め付けている。それは今の状況でも変わりはない。

 兄バルドのことは確かにショックだったが、それをいつまで抱えておくわけにもいかない。

 そしてゼンはどう考えても巻き込まれたはずなのに、責任を持って自分達を守ってくれるという。これは2人とも同じ気持ち、これ以上ない安心感に包まれた。

 フランにもゼンはどこか異常を抱えているように見える。だからこそゼンに余計な負担をかけないように、少なくともこの森にいる間は、帝国の次女と王国の三女という立場は忘れよう、という提案をリリーナに持ってきた。

 これにはリリーナも納得出来た。確かにこの場に置いて立場はゼンの負担になる。それを忘れようというフランの提案を素直に受け入れた。

 ならばついでに、とリリーナも提案した。


「じゃあさ、ゼン様にここでどっちか決めてもらう、ってのもナシにしよ?」

「ふむ、妾としては結局両方となる気がするのだがな」

フランの何気ない言葉にリリーナは苦笑する。ありそうだな、と。

「それもそうなんだけど、ほら、正妻とかってあるじゃない?」

「むむむ……良かろうなのだ。いずれにせよ迫る真似はしまい。約束するのだ!」


 こうして森の中にいる間は、リリーナとフランは互いに決め事をいくつか作った。この決め事の全てが、森の中にいる間だけに限ったかどうかは、定かではない。

 少なくともそれはゼンの知るところではないのであった。


次は4/25 6:00

時系列的には次も本編なのですが、幕間を先に入れたいと思います。

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