そして転生へ
「【解析】が使えなくなった?消失したと言いたいのかい?」
ヴァニスは聞いたことがない、と疑問のようだ。
俺も「スキルが失われる」というのは聞いたことが無い。
でも俺の推測はそれではないのだ。
「消失したんじゃなくて、変化、もしくは進化、というのが可能性としてあるのか聞きたい」
【汎用能力】には熟練度がある。
【成長促進】の説明文に、そういったものがあることは明記してあるし、実際俺の【汎用能力】の数字は上がりまくった。
では、【固有能力】にも熟練度が存在するのではなかろうか。
俺の【解析】は相当な頻度で使用していた。
実際合金作りとか、成分まで【解析】出来ないものかと色々探るために使いまくりながらやってたのだ。
色々組み合わせを探りつつ、化学式まで作り出せれば、地上でも再現出来るかもしれない、といった気持ちもあった。
結果として、情報量は確かに増えたものの、成分の詳細までは辿り着かなかった。
ただし、「硬さC+」や「耐久B」などといった、「評価」まで確認するところまで来ていたのだ。
つまり【解析】は、「成長」するスキルなのではないかと思われる。
そもそも【解析】による【解析】の説明文は、「対象の情報を正確に知ることが出来る」というものだった。
他のスキルについても、かなりファジーな表現であったことから、【解析】は、単純な「鑑定スキル」ではないのではなかろうか。
「【固有能力】の変化について、世界のルールには記されていない」
アズの元でヴァニスが確認してきたのはそういった結論だった。
記されていない、ということは、不明ということになる。
というわけで、分からないのなら調べてみれば良いのだ。
「俺を[鑑定]した紙を見せて欲しい」
なるほど、とばかりに手を叩くヴァニス。
つまり、別スキルになっているから、俺が認識出来ていない可能性だ。
【精霊魔法】や【成長指導】は【解析】によって所持していることが確認出来たため、使うことが出来たに過ぎない、【精霊魔法】は何か違う気がするが。
では【解析】が別名になっていることを確認出来れば、似たようなスキルを使えるのではないだろうか。
「これだけど……項目増えたよね?固有能力の後天的取得は例があっても、特殊能力の例はボクも聞いたことがないよ……」
[鑑定]結果の紙を俺に手渡してくる。
もう俺でも読めるようになっているソレは、俺の読み通りの内容であった。
ゼンイチ・カノー 運命破壊者
筋力:C
器用さ:C
素早さ:D
魔力:F
精神力:S
スキル:【完全翻訳】【無限成長】【完全解析】
【模倣】【成長促進】【念話】【成長指導】【精霊魔法】
【完全解析】か。
まあ名前にある通りなんだろうが、どうしたもんかね。
「やはり【解析】はどうも別のスキルに変化したらしい。だがルビ無しってことは、やっぱ読めないのか」
「この追加された特殊能力だよね?使えるのかい?」
「まあ、持っているんだから使えるだろう」
さて、どう読むか。
まあ単純に行くか、ということで、【完全解析】にスキルを使用する。
「【完全解析】」
名前 完全解析
分類 特殊能力
効果 対象の情報を可能な限り正しく認識することが出来る
認識可能な情報量は熟練度に比例する
得られる情報量については使用者の意志に反映される
スキル【解析】の上位スキル
更なる進化が可能
「加納善一」の魂以外に付与することは出来ない
「これアカンやつや」
思わず口に出して言ってしまった。
相変わらずファジーな部分はあるが、要するに対象に対して「知りたいこと」が分かる、というスキルなのだろう。
本当に【解析】の上位版だ。
ただ完全って付けたのに、まだ上の段階があるってことだよねコレ。
若干やり直したい気分だ、名付けしなおしとか出来ねえかなコレ。
「どうだい?やはりすごいのかい?」
ソワソワとしているヴァニスには悪いが、コレを試すのは結構勇気がいる。
しかし【完全解析】なら、もしかして神のステータスも確認出来たりするのだろうか?
……試してみる、か?
「お前で試してもいいか?」
「あー、なんか過去まで分かるんだっけ、それは微妙だなあ」
ヴァニスも何か気になるタチか。
「そこは制御出来るかもしれん、ステータスボードと同じように出せるかも」
やってみないと分からんが、いけそうな感じはする。
過去には触れず、今のステータスだけ知ろうという意志を強く持つ。
「じゃ、じゃあ、これに出してみて」
紙を渡された。
これで本人が読めなかったら意味ないな、日本語じゃなくて神界文字で出すようにして……。
現行のステータスボード通りの情報を出すように発動させることにする。
「【完全解析】!」
口に出す必要はないのだけど、意志が口に出ちゃったよ。
魔術神ヴァニス
筋力:2294
器用さ:2811
素早さ:2523
魔力:28715
精神力:8043
スキル:【魔術之理】【魔術創造】
【魔素吸収】【無限成長】
【成長指導】【指導者】【魔素増幅】
うん、すごい。
めっさすごいわ、俺のステータスの何倍だよ。
魔力とかぶっちぎりすぎるわ、俺の1000倍くらいあんよ。
しかもスキルの数云々で言えば、お前も相当多いじゃねーか。
俺そこそこステータス高いんじゃなかったっけ?
まあレベル1だし仕方ないとか、そういう感じなのか?
俺の出したステータスボードをヴァニスは静かに見つめている。
「……知らなかった」
「は?」
「ボクがこんなにスキルを持ってることも知らなかったし、ステータスも知らなかった!」
まあ、ステータスは知らなくてもおかしくはないだろうが、スキルを知らないとは?
「ボクが持ってるスキルは【魔術之理】と【無限成長】と【魔素増幅】だけ。あとは知らないんだ」
生きてるうちに持っていたスキルはそれだけ、と呟く。
なんだろう、騒ぐかと思ったらえらい静かだな。
「【魔術之理】は魔術神になった時に与えられたスキルだから知ってるけど」
「他のスキルは生前知ってたものだけしか知らなかった、と」
「うん……」
噛み締めるように、俺が手渡したステータスボードを静かに見つめるヴァニス。
表情はよくわからない、感情らしきものは見当たらない。
やっぱ気分悪かったかなあ?と思ったが、ヴァニスはぽつりと呟いた。
「嬉しい……」
「なんつーか、もっと騒ぐなりなんなりのリアクションだと思ったが」
「ううん、すごく嬉しいんだ。でも、何というか、知りたかったものを知って、複雑な思いもあるというか」
「どっちみち[鑑定]だと全部Sになるだろーな。俺の精神力ですらSなんだからそれ以上の評価が無いわけで」
「神にステータスが無い理由が何となく分かった気がするよ」
「意味ないもんな」
そうなのだ。
ステータスに書かれる内容も、ステータスボードも同じであれば、魔術神も武術神もオールSということになるのではないかと思われる。
[鑑定]が効かない理由もそこにあるかもしれない。
せめてスキルくらい分かるようにすればいいもんだが。
「ヴァニス、[鑑定]だけどさ、もしかして【魔術創造】を使ったら、俺の紙みたいなもん作れるんじゃないか?」
「有り得るね、【魔術創造】って、そういうスキルなんでしょ?」
そう、【魔術創造】というのは、一言で表すと「魔術を作り出すスキル」なのだ。
[鑑定]はヴァニスが生前作り出した画期的な魔術だ。
術式も完成しており、俺も理解出来る中では改変の余地はない。
ならば新たな[鑑定]を作れば良いのである、「そういうこと」が可能なスキルのはずだ。
「ありがとうカノー様、ボクやるよ!」
ヴァニスの「ルーム」を後にしながら、少しばかり考える。
【魔術創造】というスキルについてだが、本当に魔術神になった時には持っていなかったのではないか、という推測だ。
というのも、【魔術創造】に【完全解析】をかけた結果がコレだったのだ。
名前 魔術創造
分類 唯一能力
効果 使用者の意志による新たな魔術を創造する
効力は使用者の魔力に比例する
スキル【魔術改良】の上位スキル
【魔術之理】を越える魔術は創造できない
あの場で聞き損ねたのだが、ヴァニスは生前【魔術改良】というスキル、あるいはそれに類するようなスキルを所持していたのではなかろうか。
さすがに説明文に【完全解析】はかけられないようで、そこは不明だったが。
ということは、だ。
「スキルは進化する可能性がある、ということか」
ただし、普通は少なくとも人間でいる間に成長するようなものではないのだろう、とは思う。
自身は明言したことはないが、ヴァニスはここにいる神の中では相当長くいるのではなかろうか。
シェラとどちらが長いのかは不明だが、神族になった時期は、もしかしたらシェラより古いのかもしれない。
あるいはこの神界が特殊、ということも考えられる。
俺の得たスキルにしてもそうなのだ。
いくら眠らずに経験を積んだとして、これほど未知の知識に理解が早かっただろうか?
【解析】が【完全解析】になったきっかけも不明だ、使用頻度は高かったが、まだ5年は経ってない、人類でも到達可能な進化速度のようにも思える。
神界は一種の加速空間か何かみたいなものだったりするのだろうか。
いずれにせよ地上とは一線越えた次元であることは確かだろう。
まあ、単純に俺が特別ってことも有り得る話だが。
さて、まず調べたのは、俺のスキルについてだ。
【完全解析】による俺のステータスは、前見たときとあまり変化が無かった。
?の部分は未だ謎だらけだったし、判明しているスキルについても、【解析】で見た説明と大きな違いはない。
詳細については【解析】より細かく書かれていたのだが、効果については「本人のステータスの数値による」というものが多く、【成長促進】にしても、何倍、という数値は存在しなかった。
ただ2つだけ新しく分かったことがある。
1つ目は、【限界突破】についてだ。
名前 限界突破
分類 唯一能力
効果 自身のステータスを越えた力を発揮する
効果は、自身の限界を越えた時に発動される
なおその効果が発動した場合、その効果がステータスに付与される
更なる進化が可能
「加納善一」の魂以外に付与することは出来ない
解釈次第なのだが、確かにこれは【無限成長】とは全く違うものだ。
「限界」とは何か、という哲学的な疑問はあるものの、少なくともこの世界のルールは完全に無視出来るような力ではなかろうか。
ただ、発動条件についてはかなりファジーな感じもする、「火事場の馬鹿力」とでも言えばいいだろうか。
となるとルビは……【限界突破】とでも名付けておく。
ただこれ、進化するって書いてあんだけど、進化したらどういう内容になるんだか。
もう1つだが、?と表記されていたはずのスキルが一つ、明らかになった。
名前 理外進化
分類 唯一能力
効果 【世界之理】を無視した進化が可能になる
効果は所持するスキルに反映される
その効果は本人の運により発動される
明らかになっただけ、という気もする。
そもそも俺の「運」というステータスは「無限」なのだ。
運というステータスが何なのか、というと「運命力」という謎の力を指すらしい。
全くもって謎でしかないスキルなのだが、無視してよい内容ではない。
要するにこれは、俺のスキルはこの世界のルールに従った成長をするわけではない、ということだろう。
一応これは俺以外でも所持する可能性のあるスキルと思われる。
もしかしたら俺のスキル進化はこれも作用しているのかもしれない。
となればやはり名前は必要か、「理外進化」とでも付けておこう。
特別だと散々言われているのだが、ここまで来たら認めるしかあるまい。
俺は、チートの可能性の塊である、ということだ。
まあまだ可能性だけだ、うん。
なんというかまあ、判明している中でも相当アレな感じがするんだが、そもそも世界のルールとは何か。
世界神しか見られない「理念之書」というものが存在して、そこに書かれている内容、らしい。
転生ルールとか、先祖返りだとか、独特のことを書かれているのだが、アズも全部知っているわけではない、内容が結構曖昧かつ、煩雑であるそうな。
本来世界神とはその内容を追記・添削する、というのが仕事である。
世界神なら本来誰でも可能なことらしいが、世界の放棄が決まった時点で世界神の権限は凍結される。
しかしアズの持つスキルで、「直接干渉にならない変項」を行ったのだという。
ってことは、やっぱりアズも何かしらルールを無視出来るスキル持ちなんだろうな。
【完全解析】がある今なら、それを知ることが出来るかもしれない。
そう思ってアズの「ルーム」に向かったのだが。
「善一さん、決まりましたっ!」
「何が?」
ルームの入り口でバッタリと出会う、嬉しいんだか焦ってるんだか、アズのテンションがクッソ高い。
「ですから、転生先が決まったんです!」
え、ちょ?
今この場で気になってることを確認したいんですけども?
「さあさあ、みんなは今集まってもらってます!神界の出口に行きますよ!」
「いや、ちょ、待て、みs、oi」
「早く行きましょう!シェラさんに出来るだけ早くってお願いされました!」
「アカン、これアカンやつや、こうなるとアカンのや!聞けやー!」
恐ろしく強い力で引っ張られ続ける。
アズってこんな怪力だっけ?
いやそうじゃない、話聞けよ、おい。
「申し訳ありませんカノー様、少しばかり予定が狂いました」
辿り着いた先には、シェラがスタンバイしていた。
そんなに長い時間引っ張られていたわけではないが、「そこ」に連れられて来て見ると、あったのは「穴」。
大きさはさほどでもないが、穴の先には空と雲。
ここから下が地上、なのだろうか。
俺は現状が全く理解出来ていないわけだが。
テンションを崩さないアズ、困り顔のシェラに続いて、ヴァニスがやって来る。
「ある意味「これから」ってところだったのにね……」
「これからって何!ナニなの!アタシもm「やかましいわ!」っていいじゃん、門出でしょ!」
何もよくねえよ!と、間を置かずにいつの間にかいたヨシュアに突っ込む。
突っ込む……いやそれどころじゃねえ。
「あまり時間がありません、端折った説明はご容赦下さい」
早口で説明するシェラ。
俺は今からすぐに転生することになるらしい。
1000年に1人、というレベルの器の個体であるらしい。
想定していたより魂が宿るまでの時間がないらしい。
「読み違えましたが、カノー様の魂がそのまま入って釣りが来る個体です、逃してはなりません!」
「唐突すぎるだろ!?別れの挨拶とか、俺の神具とかどうするんだよ!」
「神具は諦めて下さい、方法が見つかれば送ります。別れは今この場でお願いします」
今この場でって、なんかもうちょっとないの?
俺日記とか置きっぱなしなんだけど?
てかアズは何すごいやる気出してるワケ?
「カノーなら地上で作ればいいだろ、俺様ももうちっと仕込みたかったけどな」
「我の術は既に教えてあるのである」
ガダースとアインもやって来たけど俺の状況は変わってねえ。
お前らはお前らで落ち着きすぎじゃね?
てかこのまま行って本当に大丈夫なワケ?
「肉体を持っても修行に励めよ、そして俺と戦え」
「付いて行く子もいるので、仲良くしてあげてくださいね」
ホウセンは眠そうに、ラピュータはマイペースに告げる。
そのうちまたお話できますからー、とか言ってるけど、どういうこと?
アズは準備完了って感じだし、何体操してたワケ?
「本当に時間がありませんので、最後にアズリンド様、お願いします」
「りょーかい、それでは善一さん、私たちからのプレゼントです!」
「え、まだ全ッ然理解出来てねえんだけど?」
俺の返事は聞いちゃくれねえ。
ってホウセンとガダースに両腕ガッチリ挟まれた。
この二人の腕力ハンパないんですけど。
そしてアズさん?プレゼントとか言いながら俺と距離を取るのは何故ですか?
マジか?神界ライフは終了でこのまま転生するワケ?
「転生したらしばらく時間あるから大丈夫!じゃあ、そういうことで!」
行きますっ!と叫んでアズがこっちに走り出してきた。
え、何、嫌な予感しかしないんだけど。
すっごい速い、猛ダッシュだねアズさん?
てか何この状況、誰か説明プリーズ!
「待て!何も分からんぞ!」
最後の抵抗を試みるも、アズは止まってくれなかった。
「善一さんだから大丈夫!いってらっしゃーい!」
「どうしてこうなったあぁぁぁぁ!」
アズの渾身のタックルが炸裂し、吹っ飛んだ俺はそのまま穴から落ちていった。
痛みは無かった、代わりになんかすごい力が入って来た、そんな気がした。
◆◆◆
「ねえシェラさん、やり方これでホントに良かったの?」
アズリンドはシェラに問いかけた。
善一に用意した「プレゼント」は、贈与能力という神が与える最大の加護であり、祝福である。
元々準備はしていたのだが、どの程度の器が用意出来るか不明だったので、具体的にどういったスキルを与えるかは未定だったのだ。
また、神々からの付与が不可能、という問題もあった。
元々は地上の人々の中から、「お気に入り」に与えたり、あるいはその子の魂に付与するといった方法が取られていたのだが、地上に干渉することが不可能になっていたため、手段も見つかっていなかった。
そこを解決したのは、アズリンドのスキルである【能力付与】である。
【能力付与】は【世界之理】を無視して、対象にスキルを与える、という効果がある。
対象は魂がそこに存在しなければならない、というものではあるが、善一であれば問題は無い。
しかし問題は、アズリンド自身が持つスキルしか付与出来ない、というものでもあった。
だがこの条件を、ある意味無視出来るスキルもアズリンドは持ち合わせていた。
それが【能力宝箱】というスキルであり、本来は希少能力の保存箱である。
この箱にスキルを登録することによって、そのスキルが「保存」される。
その箱とは、世界神であるアズリンド自身のことなのだが、箱の中に登録されているスキルを知るためには、また別のスキルが必要になる。
登録した本人以外は分からない、一種のブラックボックスになっている。
「ええ、まあ、やったことがないのであれば、こういうやり方になるでしょう」
アズリンドは【能力付与】を行ったことがない。
【能力宝箱】の存在も、シェラから言われて知ったくらいだ。
シェラから言われたことは、「全力で善一に力を与える」というイメージだけだ。
だから「全力で体当たり」したわけだが。
「何か間違っているかもしれないけれどね、アズリンド様は何か感じたかい?」
「うん、多分渡せたと思う」
「それは良かった」
ヴァニスとしては、もし渡せてなければそれはそれで大した問題にはなるまい、と思っていた。
あの男は、自分の力だけでも何とかしてしまうだろうと思っていたし、登録したスキルも、彼の弱点を補完出来るものを選んだだけだ。
それなりに役に立つだろうと思うのだが、自分自身は使ったことのないスキルなので、役に立つかどうかは不明だが。
「しかし、である。【能力宝箱】の中身はそれぞれしか知らぬのである。皆入れたのであるか?」
アインの疑問にそれぞれが頷く。
ギリギリではあったが、全員スキルを1つずつ登録したようだ。
「7つであるか……「8つだよ」アズリンド様も入れられたのであるか!?」
衝撃のアイン。
全員【固有能力】だとしても、8つのスキル。
果たして器の大きさが足りるのであろうかと心配になる。
何より地上は確実に混乱する、元々大量のスキル保持者である善一が、これ以上増やしたところであまり差はなさそうではあるが。
「とりあえず、カノー様の魂に【擬態】を使ってあるわ。いつまでも隠せるものでもないと思うけれど」
ラピュータは善一が落ちる前に、自身の持つスキルを善一に使用した。
善一がどうするか次第ではあるが、産まれてすぐに持ち上げられることはないだろう、と説明する。
【擬態】は対象のステータスを偽りのものに変化させることができるというものだ。
あくまでステータスボードや[鑑定]を欺くものであり、実際のステータスに変動があるわけではない。
「ただ【念話】だけは隠してないわよ、カノー様にその気がなくても使っちゃうかもしれないし」
それは有り得る、と頷くガダース。
「集中するとたまに漏れてくるからなあ、そりゃ正解だぜ」
実のところ善一は考えていることを【念話】で漏らすことがある。
その回数は減っていったが、【念話】持ちはどうしてもそういうことがあるので、他人に所持していることがバレやすいというスキルである。
固有能力ではあるものの、そもそも地上ではとうの昔に使い手がいなくなったものであり、いわゆる「残念系」スキルとされていたりする。
「結局みんな何入れたの?アタシも何入れようかと思ってたんだけどさー」
ヨシュアの問いに、ホウセンがあっさりと答える。
「俺は【一騎当千】だ。さっさと強くなって貰わんといかんからな」
ホウセンの答えに、アズリンド以外の神々の血の気がサッと引いていった。
「え、ウソ、それ特殊能力だよね、アタシも【五穀豊穣】あげたんだけど」
「唯一能力級ではないか!そんなものを与えて器は持つのであるか!?」
「じゃあアンタは何入れたのよ!」
「【万物造成】であ「馬鹿者ッ!」痛いのである!」
【一騎当千】【五穀豊穣】【万物造成】という特殊能力の中でも、崩壊級と呼ばれるスキルの名前が続いたところで、シェラが一喝する。
「一体何を考えているのだ貴様ら!よりにもよって何というものを!」
「そういうシェラさんは何入れたの?」
アズリンドの問いに、私はまともですよ、とシェラが答える。
「【天上書庫】でs「キミもおかしいよ!」何をするのですかヴァニス!」
「キミもおかしいよ!あの人はボクの魔術をほとんど使えるような人なんだよ!【天上書庫】なんてあったら、あの人に勝てる魔術使いなんていないよ!?」
「魔力が尽きれば魔術使いもただの人でs「違うんだ!」
ヴァニスは自身の与えたスキルとの相性を考えると、【天上書庫】との組み合わせは、最高で最悪すぎると、即座に理解した。
「ボクが渡したのは、【魔素吸収】なんだよ!」
「貴女も特殊能力!?なんでそんな!」
「彼は魔力が低かったから、丁度いいかなって思ったんだよ!」
そこにガダースがポツリと呟く。
「俺様も特殊能力を入れちまったなぁ、【鉱石変性】なんだが……」
「最悪である……下手すれば地上に神具が産まれるのである」
「俺様には渡せる唯一能力はねえし、一番いいやつをと思ったんだがなぁ」
ガダースは器に入りきるか微妙、ということは考えず、単純に一番使えそうなスキルをチョイスした結果である。
「えっと、よくわかんないけど、何かだめなことあった?」
「う、うーん、そうですわね、カノー様なら悪いようにはしないと思うのですけれど」
【擬態】はかけてあるので、善一が迂闊なことをしなければ、大事にはならないと思う、と控えめにラピュータが答える。
「じゃあラピュータさんは何をあげたの?」
「【精霊体化】ですわ、カノー様も精霊体としてこちらに来られた方ですから」
アズリンドの問いに、当然と言わんばかりのラピュータだが、
「確かに一番まともなスキルだけど、それ禁呪能力だからね」
人類に付与してはならない類とされているスキルを与えている、という点を、ヴァニスが指摘した、今更手遅れではあるのだが。
【一騎当千】【魔素吸収】【天上書庫】
【万物造成】【鉱石変性】【五穀豊穣】
【精霊体化】
全て特殊能力である。
「もはや地上神とも言ってもいい存在なのである」
アインはそう言って、思考を放棄した。
「よくわかんないけど、私は【変化之理】にしたんだけど、どうかな?」
「……干渉ルールに引っかからなかったのが奇跡だと、お答えします」
トドメを刺すアズリンドの言葉に、シェラは匙を投げた。
こうして創造神になるはずだった男の継承転生により第二?の人生が始まるのだが、後に彼はこう語る。
「継承転生じゃなくて、無双転生だったな、何故俺にスキル付けたし。逆に困ることばっかだったわ……」
これにて第一章は終わり、まあ長めのプロローグみたいなもんでした。
幕間を1つ挟んで、第二章へ続きます。
なおスキルについては、そのうちまとめられればいいなとは考えています。
およその内容しか決まってなかったりします、はい。
今回善一が得たスキルの説明は第二章にて判明します。




