40 失う物は大きい
「スカレア……?」
灰色に染まって止まっているスカレア。ころころと変わっていた表情も動いてなく、ただの背景の様にその場にたたずんでいる。
「グギャァァァァァ!」
耳をつんざくような音が体を通り抜ける。背筋も凍りつくよような感覚で久しぶりの小さな恐怖が生まれる。
だが……スカレアは微動もしない。
ここまで常時発動型の派生技能、『気配察知』(+常時発動)でずっと感じていた強大なスカレアの気配も……微塵も感じられない。生の気配も感じられない。
「グギャァグガァァァァァ!!」
喚き声と共に、脳裏に自分の体が真横から鉤爪の様な物に切り裂かれるイメージが浮かび上がる。
無意識に反応して体を後ろにそらして、鉤爪を避ける。だが……その進路上にいたスカレアに鉤爪は衝突して……ガシャンという音が響いた。
「……スカレア……」
スカレアは……バラバラの石の破片になった。胴体と首と腕が繋がった様な物が……足に生の気配も感じられない灰色。
……スカレアは……どこいった。この灰色のかけらは……スカレアじゃない。こんなものは……スカレアじゃない。
現実を意識したくないと拒絶し続けるも……意識せずところで確信が渦巻く。スカレアは……あの元気なスカレアは……一瞬にして葬られた。
時間が止まったように感じられ、永久に思考が頭の中で渦巻き続ける。
「ふざけんな……」
渦巻いていた思考が二つの道に分岐して……直行する。また、守りたかった人が……守れなかった。あっけなく……散った。
もっと俺が早く反応していたら、もっとうまく対応できていたら、もっと俺がつよければ……
後悔への道へ突き進んだ感情も、途中で止まり、もう一つの方に分かれた感情がさらに強大になる。
ふざけるな。
スカレアを……消したのはだれだ。スカレアを……殺したのは誰だ。
怒りが脳天を一直線に突き抜け、全ての感情が一つにまとまる。
潰す……スカレアを倒した奴を……殺す。
「ふざけんじゃねぇ!!!」
喉から大声を絞り出して、目的の敵に……たたきつける。
技能……『威嚇』。
一瞬怯んだ敵を視認して、特徴を掴む。敵は鳥の様な形の魔物。さながらバジリスク。
ポケットから即座に魔銃を取り出して狙いを定める。敵の弱点は目と羽の付け目だろう。
目を打てば視界を確保できなくなるため、簡単に倒せる。羽の付け目を切断して地面に落下させれば……はめ殺しが可能。
魔銃で即座に魔法を込めて連射する。だが、飛んでいく魔法は即座に謎のフィールドの様な物に阻まれて消え去る。
十階ぐらい上の場所だったら、この銃の一撃で簡単にボスは倒せただろう。はっきり言って、地上では相当強いだろう。
だが……こいつには効かない。魔法攻撃は効き辛いと判断して、魔銃を仕舞うのも面倒だと後ろに放り投げる。
『変化』を使って足を変える。強靭な……狼型の魔物の足だ。瞬発力に優れたアクセルとブレーキ特化の足。手も変えたいが、身体への負担などが地味に大きいから足だけだ。
魔法攻撃が効かないなら物理攻撃に頼るまで。俺は如意剣を魔空間の袋から取り出して両手で構える。
技能を使って如意剣は改造済みだ。そこまで大した物ではないが、面白い使い方だけはできる。
とりあえず、奥の手は今は使えないと判断して、敵を見据える。
体を前のめりに倒して……敵より少し右の壁に向かって跳躍する。
「とりゃっ!」
足の力のままに体は飛んでいき、壁に足が衝突する。そのまま勢いを強制的に落としてタイミングを見計らって思いっきり蹴る。
クルリと一回転しながら宙を舞い、そのまま落下していく。下には……魔物。
体のバランスを瞬時に取り、下に向かって剣を向ける。重力を味方につけて下に落下し……魔物の脳天を切り裂く。
「グギャァァァァァァァ!」
だが、脳天も硬いのか、表面の皮膚を切り裂いただけ。痛みだけはあったようだが、大したダメージが加えられていない事だけは分かった。
即座に判断を下し、くるりと回転して首元を軽く切ってから地面に降り立つ。
大き目の魔物の下は、一番危険。本能のなすままに地面を蹴り、その場から離れる。
直後、さっきまで俺が立っていたところに魔物の尻尾が振り下ろされて、ドシンという腹に響く音が反響する。
「くそがぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りのなすままに突撃しようとしたところで……冷水を浴びせられたように頭の中が急に冷めわたる。
あのモーションは……スカレアを殺したあの謎の光を出す直前の動き!
俺は迷ってる暇はないと剣を前にかざして……如意剣のカスタム機能を起動した。




