39 そして……
「む……ソラ?」
「大丈夫か?怪我はないか?」
ようやく意識を取り戻したようなスカレアに声をかける。一応、背中からの触手は仕舞った。さすがに見たら怖がられそうだ。
「また……私が戦ったのかな……」
「まぁな。なかなかの戦いっぷりだったな」
スカレアが立ち上がろうとして……顔をしかめて床に尻もちをつく。やっぱり、体へ疲労や衝撃による痛みは残るみたいだな……
そっと近づき、俺は手を差し伸べる。スカレアはその手を掴んで体をグイと持ち上げた。
「とりあえず……どうする?これから」
「うん……私は進んだ方がいいと思う。時間は無限……でも食料は有限だから」
「確かに飯がなくなったら困るな。じゃぁ、行くか」
体を動かしながら進む。敵の気配は辺りにはないから、大丈夫だろう。
左手をたたき、暴食の書を取り出す。
「それは何?」
「これは……まぁ特殊能力のようなもんだな。いろいろと便利だから使ってるけどな」
パラパラと新しく手に入れた能力を眺め、全く意味が分からない様な物や、興味を持ったり使えそうな物を頭に叩き込んでおく。
もしもの時に選べる選択肢が多い方がいいだろう。
「この文字……読むごとができないね……」
ぴょんぴょんと跳びながら、スカレアが本を覗いてくる。
日本語で書いてあるから、この国の言葉しかできない人には読めないだろう。というか、この世界の人は読めないとおもっていいだろう。
「えっと……血の呪縛は文字がバグってて読めないか……俺もかかってると思っていいんだな」
「え……感染した……って事?」
「そうかは分からないが、お前の能力を取り入れたと言った方が正しいだろうな」
俺は詳しく今持っている能力をスカレアに教える。特に隠す必要もないしいいだろう。
「私と似たような物って事だね。……似た物同士?」
「性別と年齢と言葉づかいと身長を除いたらな」
「ほとんど違うね……」
スカレアのころころと変わる表情は、なかなか楽しめる。表情に出さないように気をつけながら、本を読むふりをしてちらちらと顔をみる。
「とりあえず、お前は何層まで飛ばされたんだ?」
「覚えてないけど……ここより30階ぐらい上だったかな……ボスの部屋に入ったら意識が切れて、気がついたころには知らない場所にいたから……」
「そうか」
あまり、あの戦いの時の様子は話題にしない方がいいだろう。スカレアは気にしているだろうから。
「まぁ、特に必要な能力はこれぐらいかな……浮遊という能力は旨く使えれば強そうだな」
「私も手に入れているみたい……」
スカレアが目を閉じて何かを考え始める。薄い光がスカレアの周りを漂い、薄いベールの様な物がスカレアにまとわりつく。
そのまま、ベールに持ち上げられるようにスカレアの足が地面から離れ、体が少しずつ持ち上がっていく。さながら、天使の様。
「これは……すごい……」
スカレアも飛行体験は初めてなのか、嬉しさに顔を輝かせている。
「これまで翼とかは手に入らなかったのか?」
「あったけど……こんなところでは使えなかったの。能力で作った部位を攻撃されても痛みは走るから。壁にぶつかっても痛かったし」
「それは大変だな」
自分も、試しに浮遊をしてみる。頭の中で体を力で持ち上げるイメージを作り出す。すると、薄く赤みが掛かった触り心地のないベールが体にまとわりつく。体が少しずつ持ち上げられていき、足の裏の重力の逃げ道がなくなる。
「浮遊か……」
使えそうだなと思いながら、ベールを解除して地面に降り立つ。
「とりあえず、探索するか」
「それなら、もうこのフロアのボス部屋は見つけてあるよ」
「じゃぁ、ボスに行くか」
スカレアの案内に従って、簡単にボス部屋にたどり着く。途中に魔物が現れたりもしたけれど、魔法の弾でスカレアが豹変する前に倒した。
ちなみに銃の名前もついでながら決めた。何のひねりもない『魔銃』だが。
「ここか……」
「この大きな扉はボス部屋しかないから……ここだと思ったんだ」
スカレアが少しだけ迷った表情を見せる。さすがにボス部屋に速攻でいくのはためらうのだろう。
「時間は無限……食料は有限……だろ?」
「そう……だね」
少しのためらいを置いて……スカレアの表情が決意に染まる。
「じゃぁ行くか」
一言を置いて……大きな扉を押しあける。
ギィと重い音を立てて扉は動き、中の様子が分かる。
速攻で中に入り辺りを見渡す。特に敵は見当たらない事を確認して扉から手を放す。
スカレアの顔からは表情が抜け、青い目から少しずつ色が抜けていく。その間にも扉は閉まっていき、そしてガチャンと音をたてた。
直後……頭の中に嫌な気配。一瞬で判断を下し、地面に手を当てて『土壁』を使う。一瞬で地面から土がせり出して大きな壁が現れる。だが、慌てて作ったためサイズはそこまでなかった。
そして……いやな予感は的中して……光が降り注いだ。土の壁によってさえぎられた俺は無事だが……判断の間に合わなかったスカレアには直撃してしまった。
反射光で視界がホワイトアウトする。感覚を総動員して、敵の位置をさぐる。だが、気配を察するよりも早く光は消えていった。
そこに見えたのは……灰色に染まったスカレアの様子だけだった。




