32 現実に新しい美少女ありけり
「む……」
暖かな物に包まれた感覚。うっすらと目を開けていくと、鼻孔を突くかすかな匂い。
僕は布団であろうところから這い出る。だが、布団から出た途端に冷たい床が手を襲い、意識を覚醒させる。
「……何なんだよ……」
周りに広がる……武骨な石の壁。きているのも……いつもの魔王の様な服。
さっきまでの懐かしいものは……夢ってことか……
残念という感情が心をぐるぐると回って、もう一度会いたいという気分になってくる。
そこで……どこからか声が掛かって来た。
「大丈夫?」
「えっと……大丈夫だが……」
慌ててかかって来た声に俺は応答する。
……誰?
言葉をしゃべる敵かと思い、一瞬で振り向き、敵を見つめる。
そこには……普通の少女がいた。
「よかった……いきなり気絶するから心配したよ……」
「……誰?」
青い目をした超絶美少女。長いけれど、透き通るような銀色の髪の毛に、凛とした表情の美少女。ロリと言ってもいいような雰囲気を纏わせながらも、少しだけ妖艶な響きもある。
顔面偏差値……カンストめ……成敗してやる!とかリナが言い出しそうな美少女だ。
その頭には……白い貴族とかがかぶってそうな帽子が乗っていた。
「覚えてないの?ほらほら、私の左手を食べた……」
「え……あ……」
口の中に嫌な感触がよみがえってくる。人の……肉……血……
「おぇ!おぇ!」
胃が反乱をおこし、口から出そうになる。なにも胃には入っていないから、胃液だけが床に飛び散り、喉にひりひりとした感覚だけが残る。
人なんて……食べたくない……食べた……人食い……人外……
「だ、大丈夫!?」
慌てて、美少女が駆け寄ってきて、背中をさすってくれる。
久しぶりの人の感覚も今は毒にしかならなかった。
胃の反乱は収まらず、胃液が出なくなってもむかむかした感覚は続いている。
「大丈夫!大丈夫!大した怪我はないから!」
そういって、左手を見せてくる。……左手?
「左手は……なくなったんじゃ……」
「なくなったけど!再生したよ!ほら、作り物でもなんでもない!」
左手は……完全に存在していて、腕と同化している。
俺が食べたのは……何だったんだ?
そう思った瞬間……人を食べたのではないという安堵が訪れた。
「はぁ……こんな傷はすぐに直せるよ……」
「よくわからないが……ありがとうな」
ひとまず、お礼だけ述べておく。気絶していた俺を少しだけとはいえ、助けてくれたのであろう。
俺の上にかかっていた、布団代わりの毛布もこの美少女がかけてくれたものだろう。
「で、お前はだれ?」
「……自己紹介がまだだったね。まぁ、あなたも似たような状況でしょうけど」
「う~ん……お前も罪人で、ここに逃げてきた……とか?」
「全然違うけど、とりあえず、お前という呼び方はやめてほしいよ」
プクーと頬を膨らませて、美少女は怒ったような表情を作り出す。だが、それは怒っているというよりも、ふくれているという感じで、可愛さしか出てこない。
「えっと……何て呼べば……」
「私の名前は……スカレア」
「スカレア……さん?」
「さんは付けなくてもいいよ。言いづらいだろうから」
クスリと笑った後、スカレアは何か聞きたげな顔に一瞬で変わる。
「あ、言って無かったな。俺の名前はソラ。よくわからないけど、よろしく」
「……」
スカレアは何か言いたげな表情をした後……俺の顔の目の前にグイと顔を近づけて、俺の目を見つめてきた。
目と鼻の先に美少女の顔。心臓が波打ってしまうのは当たり前。
「何か……隠しているね……いや、装っているね」
ドキリと心の隙間をえぐられたような感覚。何のことかは分からないが……的確な急所をえぐられた気がする。
「まぁ、本人も自覚がないというところね。問い詰めても仕方ない事だと思うけど。」
スカレアの言葉で、空気が凍りついたように動かなくなる。
何か……俺が悪い事をしたのだろうか。それとも……なにか気を悪くするような事を……
そこで……
ギュルルルルルル
「……ご、ご飯食べましょうか」
「……食料持ってませんけど……」
「私が何とかするから!ちょっと待ってて!」
そう言って、スカレアは後ろの方に歩いて行った。そこには……これまでずっと鼻孔を刺激し続けていた原因……大きな鍋が存在していた。
「過去の話はあとでゆっくりしようよ。今は……腹の方が重要」
そういって、スカレアはお玉の様な物をかき交ぜる。腹の虫は延々となり続け、頭の中がご飯の事でいっぱいになる。
食料はどうやって手に入れているんだろう……そして、ここでどんなふうに生活しているのだろうという疑問が頭を渦巻く。
「あ、もうできてた!えっと……これとこれと……」
そういって、テキパキとスカレアはご飯を用意していく。
スープ一品というものだが……本当の意味での食事は本当に久しぶりだ。
「できたよ!じゃぁ、食べましょうか」
「えっと……いただきます」
「いただきます」
スプーンを掴み、スープを掬って喉に運ぼうとする。
そして喉を通り……胃におちていった。
「……」
何も言えなかった。とてつもなく旨いわけでもない。
塩などで質素に味付けされた普通の汁物。
でも……人の温かみのような物を感じて……なんというか……
涙が……汁物の中に落ちる感覚があった。
ただの夢落ちと思われないように補足。
あれは……ただの夢ではございません。
理由は……また後ほど。




