31 HAPPY……END?
「む……」
体が温かい。何かに包まれているのか、はてさて何かに浸かっているのか。
落ちたままの瞼をゆっくりと上げる。そこには……日常が広がっていた。
「……はぁ……」
入ったままの何かから体を起こす事で脱出し、改めて周りを見渡す。
自分がいるのは……ベットの中。広がっているのは……自分の部屋。
懐かしい古時計に、壁に飾られているサバゲー用の拳銃2丁。
そして、張られているタペストリーには憧れのキャラクター。足元に厨二みたいに魔法陣が描かれて、魔法が発動している瞬間を切り取った物だ。
壁の本棚には……分厚いミステリーから気軽に読めるラノベ。神話の辞書の様な物もあれば、皮表紙の本格的な魔法書の様な物まである。
「ははっ……ははっ……」
どこを見渡しても、自分の部屋。来ている服もいつものパジャマ。勇者の服でも、魔王の様な服でもない。
体には傷跡もない、かけた目も……しっかりと復活している。
「はははっ……はははっ……」
魔法もない、勇者も魔物も魔王もない世界。心の中で少しだけ望んでいた世界。
「帰って……きたのか……それとも最悪の夢オチってやつか……?」
ベットから重い体を動かして這い出る。カーペットの荒い目が、膝を擦るが、そんな小さな痛みも感じられない。
これまでの超人的だった身体性能もない。風を纏わせる事も出来ない。でも……
「もう……死はないんだな……」
歓喜が心の中で生まれ、そして四肢に広がっていく。
「ソラ!ご飯よ!」
懐かしい声が扉の外から響く。
今日は少しだけ……少しだけ優しくしようと俺は……僕は声を投げかけた。
「はーい。お母さん」
「だから、オバサンってよばな……お母さん?」
唖然としたような表情のお母さんの横を通り抜ける。母親ではない……けど優しいお母さんの横を。
僕は階段を駆け下りて、食卓へ向かう。そこには、よだれが垂れそうになる美味しそうな料理が置かれていた。
「遅かったね。ソラ」
ほんわかとした父親ではない……お父さんがすでに座って新聞を読んでいた。
「ごめん。お父さんは仕事は?」
「今日は休みだけどオジサンってよばな……お父さん?」
お母さんと同じ反応をするお父さんに笑いをこらえながら、食卓の上の料理に視線をうつす。
狐色にこんがりと焼かれたフレンチトーストに、小さなサラダ。
前まで食べていた物のせいか、これまでより何十倍も美味しそうに見える。
「いただきます!」
「いただきます。で、お父さんって本当に呼んだ?ほんとに?」
困惑しているようなお父さんに笑みを返してから、フレンチトーストにかぶりつく。
口の中で、甘みが広がり、とろとろと解けていくような感覚に襲われる。
あっという間に、机の上の食事は胃に溶けてなくなり、お母さんからお代わりをもらう。
「そうだ。リナちゃんから、午後に図書館に行こうって電話があったわよ」
「分かった。じゃぁ、後でこっちから電話で連絡するね」
「迷惑かけないように早めにね。あと……さっきお母さんって本当に呼んだ?ほんとに?」
反応がお父さんとお母さんがそっくりでさすが夫婦と思いながら、軽い笑みで返す。
なんとか、それで納得したのだろうか。これいじょう追求しても答えが出ないと判断したのだろうか。お母さんは、お代わりをおいてキッチンに引っ込んでいった。
「あと、今日はおばあちゃんのところに行くの?」
「うーん……行こうかな」
「なら、このお土産を持って行ってくれる?おまんじゅうが入っているから。ぜったいに勝手に食べちゃだめよ」
「そんな事はしないよ。さすがに」
「いやいや……ソラは食欲旺盛だからな。おまんじゅう一箱ぐらいぺロリと食べちゃうだろう」
お父さんの横やりで、食卓に笑いが広がる。
平和な時が流れ、食卓の上の料理も消えている。
「じゃぁ、行ってくるね」
「いってらっしゃい。気を付けるのよ」
後ろからかかってくる声を小さな頷きで返し、玄関から飛び出すように駆けだす。
おばあちゃんの家は目の前。焦る必要もないのだが、足は先へ先へと進もうとする。
懐かしい感じのする和風の家の門を押しあけ、いつものように裏口から入る。
おばあちゃんは……和室でゆったりとお茶を飲んでいた。
久しぶりで……会いたくて……
「おばあちゃん……」
「ソラかい?久しぶりだねぇ……」
見てると……懐かしいという感情で心が埋め尽くされていく。
なんでだろう……目頭が熱くなっている。
「どうしたのかね?何かあったのかい?」
「うぅん……なんでもない……」
自分の声も自分で分かるぐらいに細く、目から……水が垂れるのを感じる。
そんな僕を気遣ってくれたのか、おばあちゃんは、僕の近くによって肩を掴んできた。
そのまま、ゆったりと下ろして、おばあちゃんの膝の上に頭が来る体勢になる。
「疲れたなら……休んでいってもいいからね。人生は長いから、ゆっくりゆっくり行かないと」
おばあちゃんのいつものような説教が鼓膜と心を打つ。
涙は止まらず、頬を濡らしつづける。
瞼がすこしずつ下りて、視界が黒く染まっていく。
「すこしは……おやすみなさい」
少しだけ……少しだけ休もうかな。
意識は……ゆったりと落ちて行った。
HAPPY……END。
というよりTRUEEND(?)。




