30 食欲と……禁忌
ハラガヘッタ……
視界の先に現れた魔物に一気に突撃し、体に喰らいつく。口の中に黒いものが入るものの、すぐにもやになってしまう。空腹感もまったく紛らわす事ができない。
体の中で空腹という感情だけが永遠に渦巻き、体の四肢に力がまったく入らない。
地面に這いつくばり、傍から見たら惨めな姿だろうがそんな事を気にしている暇はない。
「ハラ……ヘッタ……」
目の前に現れた魔物に一気に力が湧き上がり、その力を利用して跳び出す。そのまま喰らいつくが、やっぱり腹は膨れない。
「ウガ……」
何か大切な物が壊れていく。視界が少しずつ赤く染まっていく。
食という願望だけが体を動かし、そして付き進めていく。
自分の意志ではない。ただ、食への欲望だけで体が動いていく。
ニク、サカナ、ヤサイ……
ナンデモイイ……
ハラガヘッタ……
その言葉が頭の中で渦巻き続ける。
ナンデモイイ……
ハラガヘッタ……
思考は一つにまとまり、ただ、それだけの為に体は動き続ける。
ナンデモイイ……
バケモノデモイイ……
ヒトデモイイ……
人間性はとうに消えた。
ただ……食べる為だけに……
「ウグワァァァァァァ!」
雄たけびを上げ、俺は現れた魔物に突撃し、喰らい、飲み込む。
満足感も得られない。だが、その黒い霧も食べられるような気がしてきた。
「ウグヲァァァァァァァ!」
貪る。喰らう。飲み込む。動く。突撃する。食べる。跳び出す。喰らう。食べる。避ける。喰らう。喰らう。食べる。食べる。喰らう。食べる。食べる。食べる。喰らう。食べる。喰らう。食べる。喰らう。
「ウグワァァァァァァ!」
目の前に見える赤い光。そして、鼻孔を突く食料の様な匂い。
「グゥゥゥ……ウガァァァァァァ!」
メシ……飯……それだけのため。
体はまっすぐと跳んでいき……何かを食いちぎる。
これまでとは違った感触と、生臭いけれど、腹の中にしっかりと残る味。
それを噛み砕いて……腹が少しだけふくれる。
それと同時に……黒い感情に支配されていた感覚が戻ってくる。
口の中にある……粘つくような感覚。気持ち悪い味を地面に無我夢中で吐き出す。
そして……現実を目にする。
赤く染まった……人の指が。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
人の指……口に残る生々しい感覚。俺が食べたのは……人……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
意識が……拒絶反応のように急に落下していった。




