28 一人の男の遺言
新しい勇者へ
この手紙を読んでいるという事は、僕と同じ状況に陥ったのだろう。
とりあえず、ここは絶対に安全だという事を教えておこう。食料もある。
自分で書くと自伝を書いているみたいで恥ずかしいが、これは伝えておかなければいけない事だ。途中で投げ出さずに読んでくれると助かる。
まず、僕の自己紹介だ。たぶん、君より少し前に召喚された勇者の、聡志だ。職業は、空間生成師。オリジナル職業だ。
この空間は、僕の力でダンジョンの中に生み出された特殊な空間。敵は絶対に入ってこないが、入るのに条件が必要なところというわけだ。
条件はいくつかあるが、一人だけであり、多大なる『絶望』と『怒り』を抱いた事のある者というのが主な条件にしてある。
ここまでしないと、いけないものがここに保存してあるからだから、この手紙を読んでいる君は幸運だろう。
とりあえず、君にはいくつかの物を託したいと思う。この深さまで単独で来たという事は、相当な実力者、または相当の幸運の持ち主だろう。
ボスを倒す事が転移条件にしてあるが、あのボスを倒すのには僕も苦労させられた。新たな空間を作り出して、そこに誘導したあとに押しつぶすので力尽きたぐらいだ。
君の絶望の種が何かは僕にはわからない。仲間から裏切られたとか、自分で罪を犯してダンジョンに放りこまれたとか、いろいろあると思う。
だが、僕の場合は『タナシス国』に裏切られてここにいる。僕の体には今、既に国から呪いが刻まれている。
いくら他の空間から放されていても、呪いが無くなるわけではない。国から何とか逃げだして来て、呪いに対抗できる装備か薬を求めてダンジョンに潜ったのだが、ここまで来るのが限界だった。
今、書いている途中でも体がやられてしまうかもしれない。でも、最期までにはこの事を伝えたいのだ。
タナシス国には気をつけろ。あの国の王や、重鎮は、一般人をゴミとしか思っていない。ましてや、勇者も同様だ。少し強いだけの有力な駒としか思っていないだろう。
彼らには、強い武器、『神器』という強い駒がある。僕もそれにはかなわなかった。というか、相手にもならなかった。
まぁ、ここまで一人来ている時点で君は国からは見捨てられていると思った方がいいだろう。だが、他の仲間が呪いを刻まれて間に合わなくなる前に……助けに行きたいなら行く方がいいだろう。
空間生成で作りだした、僕の棺の中には、僕の使っていた道具などが入れてある。これは、最初にたどり着いた君が使ってほしい。
世界を征服したいなら、使うもよし。ここから出るのにも使ってよし。なんなら捨てて行ってもいい。
だが、ねがう事なら、この腐った国を……倒すのに使ってほしい。
聞き流してもらってもかまわない。無視してくれてもかまわない。べつに、やらなくてもかまわない。
でも、これが……僕の命をかけた最期の願いだ。二度と見る事のないだろう太陽への希望よりも……ここまでたどり着いた君への希望。
僕のころには、まだ30階までしか攻略できてなかったから、僕がここまで下りてこられたのも幸運以外の何物でもないだろう。
ここにある泉は、僕に残された最期の力で生みだした奇跡の泉。生物の生命力を増幅させて、傷を癒やせるものだ。
追加効果として、傷を癒やすと同時にその組織を強化する力があるのだ。部位欠損はさすがに治す事はできないが。
まぁ、どこかの部位が無くなったとしても、義手や義足を作れば生活はできるだろう。この世界は魔法という便利な物があるのだ。感覚協調魔法とかがあるらしいから、作る事もできるはずだ。
食料は、壁にある穴に魔力を流し込むと自動的に出てくるようになっている。冷たいパンだが、柔らかい物にしてある。欠点として、一日三回しか使う事ができないが、一日三食と思えば大丈夫だろう。おやつとおかずは残念ながらない。おやつとおかずも出るようにしようと思ったのだが、魔力が足りなかった。
あとまだ書いていないのは……僕の道具の事だ。
防具は……何の変哲もない防具。動きやすさだけを極めた皮の防具。特筆する事はないだろう。
武器は、如意剣という物だ。魔力を流し込む事によって剣の長さや大きさが変化する。重さも少しだけ変わるが、大した変化ではないだろう。
残ったのは……特殊アイテムだ。国から逃げだしたときにちょろまかした『神器』が僕が入っている棺に入っているだろう。
一つは、『魔空間の袋』だ。本来は、内部に入っている物を意識する事によって内部から一瞬で出す事ができるというものだ。
だが、これは僕が魔法を使ってカスタムした事によって、見た目からの入るサイズよりも何百……何千……何万倍入るだろう。
しかも、これは見た目の変更も可能だから袋の形でも、皮の袋とか、鉄の箱とか何にでもできる。やろうと思えば、指輪の形にして、宝石の部分から物を取り出す事も可能だ。
『神器』の特徴は、魔法によってカスタムが可能なところだから、君の好きなように改造できる。
そしてもう一個は……僕もよくわからない。簡単に言うと、赤い箱に入っているただの指輪だ。『神器』という事は確かなのだが、効果も何もかもわからない。何かの器になるのだろう事は分かる。
僕にはもう必要ない物だ。書くのは二度目になるが、君の自由に使ってほしい。是火こそ有意義に使ってくれ。
他のもいろいろ入っているが、目立つ物はこの二つだけだ。残ったのは見た目でなんとなく使い方は分かるだろうから、頑張ってほしい。
そろそろ、僕にも時間が無くなってきたようだ。最期に書き残した事はもうないだろう。いや、訂正だ。
噴水は持ち出す事ができる。噴水の女神が持っている壺の中には一つの綺麗な宝石が入っているはずだ。それは、『聖なる結晶』で、その宝石から体力を回復させる水が出ている。
これを何かの入れ物に入れて持っていくといい。『神器』を使いこなすと『眷属器』という物が生み出せるようになる。『魔空間の袋』も、既に『眷属器』を作り出してある。『魔空間の瓶』という物で、効果はほとんど同じだが、入るのは液体と固体が少しだけだ。
固体が入るのは、中を冷やすための氷の為だろうけど、『聖なる結晶』も入れる事ができるようだ。だから、『聖なる結晶』を入れる事で無限に水を溜める事ができ、どんな時でも回復が可能となるというわけだ。
ぜひとも活用してほしいと思う。だが、一つだけ注意を。
この命の泉の水は、即時回復というわけにはいかない。どんな傷でも治す事ができるが、それには時間がかかってしまう。くれぐれも油断しないように。
最後にこの空間の脱出方法だ。これは簡単で、壁の穴にある小さな穴に、僕の棺の中にある鍵を差し込めばいいだけだ。
偉そうな感じになってしまったが、ここまで読んでくれた君に感謝する。文章をかくのには慣れていないから変な文章になっていると思う。
それでも……僕は伝えたい事があったのだ。君が……僕の遺産を適切に使ってくれる事を期待する。
僕は……臆病者だから、これ以上進む気力もない。だから、ここで天寿をまっとうするとしよう。
勇気ある君の……これからの活躍を願おう。
前勇者、聡志より。




