29 新たな収穫と死への道
「これは……」
前勇者からのてがみ。
そこには、国に犠牲にされた人の遺言が書かれていた。
あの、たぶん別であろう前勇者の妻と名乗っていた魔族、サラとおなじような事を言っている。
前から疑っていたわけではないが、一気に国が首謀者説が有力になった。まぁ、今さらどうでもいいのだが。
復讐する気もない。ただ、俺は俺の道を行くだけ。
「でも……とりあえず、冥福を祈ろうか……」
この人は、次にここに来る人に全てを託していったのだ。この人がいるおかげで……俺の生存確率が上がったのだ。
手を合わせて、前勇者の冥福を祈る。そして、感謝もささげる。
「では……失礼します」
礼儀の事は良くわからない。葬式の事なんて、思い出したくもない。だから、遺体に触るときはどうすればいいかわからない。
なので……俺は一礼をしたあと、慎重に棺の中に手を入れ、崩さないように白骨遺体を動かしていく。
頭から一つ一つの骨を丁寧に取りだし、地面に置いていく。場所をかえないように丁寧にだ。
何も感じない。涙の一つも流れない。だけど……人も最期にはこんなものになってしまうのかとしか思えなかった。
「装備品か……」
恐る恐る棺の中に手を入れて、一つ一つ外に並べていく。
赤い箱に、小さな金貨。ペンダントの様な物に、皮の防具。布の袋の様な物に、一つの握りこぶしより大きいぐらいの瓶。
他にも、いくつかの小物が出てきた。祈りを込めながら、一つ一つの物を検分していく。
たぶん、この布の袋の様な物は、『魔空間の袋』だろう。手で触ると、不思議な感覚と共に、さわり心地の良い布という情報が頭の中に流れ込む。
頭の中で念じれば、形が変わるのだろうか。俺は手で袋を握りながら、キャリーバックに変形するように頭の中で念じる。
すると、袋はくるくると渦を巻き、直後急激に形が変化した。結果、完全無欠なキャリーバックとなっている。
頭の中で、いろいろな形への変形を望むと、続々と形が変わり、意識した物に変わっていく。
「あとは……指輪……」
ギュルゥ。
俺のお腹から軽い音が鳴り響く。さすがに、何も食べていなかったから腹が空いたのだろう。
たしか、壁の穴に魔力を流し込むと食料が出てくるはず……
穴の壁に手を当てて、魔力を流し込む。すると、カチリという音が響き、カラカラという音と共に、穴の上の部分が開く。
そこから……大き目のパンが一つだけ落ちてきた。
「……大きいな」
落下してきたパンを俺は掴み、そのまま近くの壁にもたれかかるように座る。
暖かくも冷たくもないパンを手で少しだけちぎって、口の中にほおりこむ。
久しぶりの小麦の甘みという物を感じて、心が歓喜に震える。
解けて無くならないように、俺は口の中糸惜しげに噛み続け、味わい続ける。久しぶりにまともな物を食べた気がする。
味気ないと言えば味気ない。暖かいというわけでもない。でも、まともな味は久しぶりだ。
だが、大き目のパンも、儚く胃の中に消え去り、残ったのは満足感だけ。
おいしかったなと思いながら、俺は作業を再開する。
装備品を一つ一つ鑑定などをしながら、見ていく。
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『鑑定結果』
「?????」
鑑定レベルが足りません。
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「レベルが足りないのか……でも、この剣が如意剣という事は確実だな」
握って、のびるように念じてみる。すると、刀身が一気にのびて壁を切り裂く。
これは……いろいろと使えそうだ。風纏とうまく組み合わせれば相当強くなれるだろう。
「なんか……順風満帆すぎてなんだか怖い……」
一つ一つのアイテムを魔空間の袋につぎ込む。
あっという間に、全てのアイテムをしまい込む。残されたのは魔空間の瓶だけだ。
「あとは……この瓶の中に壺の中の宝石を入れればいいんだよな……」
体の向きを変えて、噴水に向かって突き進んでいく。濡れないように靴だけは脱ぎ、泉の中に俺は足を付ける。
冷たい感覚が背筋を通り抜け、それと同時に足が癒やされるような感覚に包まれる。
「よいしょっと」
上の服も脱いでおけばよかったなと後悔しながらも、じゃぶじゃぶと突き進み、女神の壺に手を突っ込む。
冷たい……というかこんな事をしている意味はあるのだろうか。
そう思ってしまうぐらい冷たい。だが、それを無視して俺は壺の中をかきまわして宝石を取り出す。
液体がじゃばじゃばと流れ続ける青色の結晶を慌てて瓶の中に突っ込み、急いでふたを閉める。
そのまま、泉から体を出して濡れたからだを乾かしていく。
「ふぅ……これでいいかな」
これで、すべての準備は整った。謎の指輪も既に指に着けてある。
装備品もよし。
「じゃぁ……行こうか」
長い間ここにとどまっていても、何もいい事は無い。ここは安全かもしれない。
いや、安全だろう。でも……ここにとどまっていても何もいい事は無い。平和な日々をここで過ごすのは……リヒテンを裏切るのと同様の事だろう。
俺の目的は……ここから出る事。それだけが……目標。
ためらいは、ない。
「この鍵だよな」
棺の中に入っていた鍵を手に持ち、ためらいなく壁の穴の小さな穴に突き刺す。
すると、周りの景色が急に歪んでいく感覚が体を襲った。
「とりあえず、ありがとうな……」
その一言は……渦まく空間にこだまし続けた。




