26 命の泉と謎の部屋
うまく動かない体を動かす。薄い光さえもなく、闇だけに包まれた空間。
「くそがっ……」
地面を手探りでどのようになってるか調べながら、俺は這うようにして当たりを見渡す。
極足のせいで、全くと言っていいほど動かず、倦怠感しか残っていない足がとてつもなく重い。
小さなかけらの様な物が体に当たるのを感じながら、俺はただただ何かがないか這い続ける。
腹の傷からは、いまだに少量の血が流れているのを感じる。アドレナリンで軽減されていた痛みも戻ってきて、激痛となって体中を刺し続けている。
腹に手を押しあてて、痛みをこらえながら、這い続ける。
肩に当たる硬い感触。硬い岩の様な物だと判断しながら、俺は、それを乗り越えて進もうとする。
直後、上半身が液体に突っ込んだ。呼吸が一瞬できなくなり、慌てて、そこから顔を出す。すると……そこには光があった。
「何だよ……」
濡れた顔を水面から出すと、水は薄く光っている。
その光も段々と広がって、周りをさらに綺麗に照らしていく。広がっていく速度も段々と早くなり、あっという間に円形に輝きだす。
そして……その中心から眩い光が発せられた。
「う……」
暗いところに慣れた目に、一気に光が入り、慌てて俺は目を閉じる。
何なんだよ……ここは何なんだよ……あの世かよ……
絶え間ない疑問が頭の中で渦巻く。でも、行動に移さなければ何も始まらないだろう。
区切りを付けて、ゆっくりと瞼を押し上げていく。
すると……そこにはこれまでになかった空間が広がっていた。
「……すげぇじゃねぇか」
あちらこちらに散らばっているゴーレムの残骸も気にならない様な美しい光景。
きらきらと周りに浮かび続ける小さな光の粒に、青く澄み渡り、薄く水面が輝いている小さな噴水。
今まで、俺は気が付いていなかったのか、真ん中には小さな女神の形をした像が大きな壺を持っていて、そこから水が流れ出している。
「くっそ……入りたくなってきたじゃないか……」
これまで、風呂どころか、体を洗う暇もなく、体には血がこびりついているところもある。汚れも相当溜まっているだろう。
これも、神の恵みというところだろうか。この場所がどこかなんてどうでもいい。とりあえずは、倦怠感渦巻くこの体をどうにかしたい。
服を脱いで、そのまま足を引きずった状態で噴水に入る。体が心地よい冷たさに覆われ、体の奥底から癒やされていく感覚がする。
平面の世界でも、美しいという事は分かる。目の疼きも気にならなくなっていて……あれ?
全く痛みという物を感じない事に疑問を抱き、俺は空洞になってしまった左目の当たりを触ってみる。だが……触ってはいけないところを触っただけの痛みが走っただけで、血が流れていたり、大きな怪我があったりする様子はない。
たしか、ついさっきまでは血が流れていたはずなのに……
さらに疑問を持って、自分の体を見てみると、体中のあちこちにあった傷は、すこしずつふさがっていき、腹の大きな穴も、少しずつ肉がくっつ居ていくのが見える。
この速度は……自然回復というレベルじゃない。
だとしたら……聖なる泉とか、回復の効果があるところなのだろうか。
「ここは何なんだろうな……」
そんな疑問だけが、虚空を叩くものの、反応するものは何もない。
戦いで負った傷も、深かったはずだが、いとも簡単に治してしまう。
「まぁ、考えても仕方ねぇか。とりあえず、戦利品だな」
近くに落ちていたゴーレムの残骸を拾い上げる。これを……食べればいいんだよな。
一気に思い切って、落ちていた石をパクリと口の中にほおりこみ、力任せに噛み砕く。
ガキリという音と共に、石は砕け、喉に何とも言えない味が広がる。
……本当に石だこれ。
だが、体の中から軽く熱い物が湧き上がってくるのを感じ、これが本当にゴーレムの残骸だったという事を実感させる。
暴食の技能から、多めのポイントを使って歯の力強化を取っておいてよかったなと初めて思った気がする。
==================================
『暴食』によって身体が変化しました。
『錬成』の獲得に成功しました。
派生技能(遠隔操作)の獲得に成功しました。
派生技能(精密操作)の獲得に成功しました。
『鑑定』の獲得に成功しました。
派生技能の
『暴食』によって獲得したものに、条件を満たしていないものがあります。
条件を満たすまでの間、体内で封印します。
==================================
半ば予想通りの紙。
錬金術はあの物の形状をかえるものだろう。これ一つで相当便利そうだ。派生技能と組み合わせれば新しい物を作り出すことさえもできるかもしれない。もしかしたら、近代武器の開発も可能かもしれないと思いながら、俺は顔まで水に沈める。
「ゴーレムの技能もすごいものだな……でも、あの修復機能の説明ができねぇな……」
あの修復機能が、条件を満たしていないものだろうか。条件が何か分からないが、これまでにもいろいろとこの表示が出た事があったから、条件を満たしたら一気にいろいろな事ができるようになるのだろう。
気が付いたら、体の傷は完全に癒えている。とりあえず、体を拭く為に近くに落ちていた魔物の皮製の袋を手繰り寄せ、そこから薄手の魔物の皮を取り出す。
ごわごわとする皮で体を拭いて水分を落とし、ふたたびボロボロになっている服を着る。いい加減、綺麗な服が欲しいので、宝箱から防具とか出てほしいのだが、なかなか事は旨く運ばなかった。
冷たさで少しだけ凝り固まった肩をまわす事で動きを軽くして、あたりを確認する。あそこに落ちているのは……俺のナイフ。もう、動くようになった足で歩いて近づき、ナイフを掴み上げる。心地よい感が手のひらに広がり、ひさしぶりの高揚感を感じた。
今……俺は何とか生きている。その事実が……この手のひらに広がる感触から伝わっている。
「天国……じゃねぇよな。ゴーレムが天国に逝けるわけないからな」
辺りを適当に探り回ると、赤い宝石の様な物を見つける。ひょいと拾い上げ、俺は中を見る。
赤く透き通るような形の結晶。どんなものかとにらみ続けると……紙がぴょこりと視界の端に出現した。
==================================
『鑑定結果』
「魔核」
何かの力が働き、生みだされたひとつの結晶。
ゴーレムを動かすための魔力が込められている。
魔力の補充は自動で行われるが、握りしめて魔力を流すと、魔力を込める事が可能。
入れれば入れるほど輝きが増す。
放出も可能。
ゴーレムの再製造は不可能。
==================================
「魔力貯蔵か……なかなか使えそうだな」
手の上でころころと転がして、試しに魔力を流し込んでみる。
薄く赤く輝き始め、微かな温かみを感じる。とりあえず、溜めれるだけ溜めておいた方がいいだろうと、全力で魔核に魔力を注ぎ込む。
赤い輝きが段々と強くなり、ついにパチリと火花が散る。さすがに入れ過ぎると怖いからそこで中断する。
魔物の皮の袋に積み込み、さらに辺りを捜索する。
次に見つけたのは……噴水の陰に隠れて見えなかった横倒しになった宝箱だった。




