25 あがきとあがきと現代の抵抗
二本突き出した針。これから導き出せる結論はただ一つ。
痛みで占領されそうな頭の中で思い浮かべた一つの結論。
「一つだけじゃ……ねぇのかよ!」
一気に状況は悪化した。いや、絶望的だろう。
脇腹には、大きな怪我。今も突き刺さったままの大きな針のせいで体は自由に動かない。
どくどくと赤い血は流れ続け、思考回路はどんどん浸食されていく。
頭の中に死の概念が漏れ始め、そして頭の中を支配していく。
そして、頭の中に新しいイメージが浮かび上がった。
上から……新しい針が落ちてきて、俺の頭を突き刺すイメージ。
「くそがっ!」
死ぬわけにはいかない。生きるのをあきらめる気はない。
死ぬなら……最後まであがくって決めたんだ!
現実に引き戻された意識に、即座に反応してその場から飛び去ろうとする。
だが、腹に刺さっている針がしっかりと俺をとらえていて、腹に大きな痛みが襲ってくるだけ。
新しい石が真上に、飛び、変形して一つの針になる。狙いは……俺の頭。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
最後の抵抗と言わんばかりに、腹にさらに深く針が刺さるのもいとわずに俺は体の向きを下にさげる。
そして、指先を地面にむける。そのまま……『地爆』を発動させた。
「ぐおりゃぁ!」
地面は盛大に爆ぜ、破片があちらこちらに飛び散る。体のあちらこちらを、裂き、貫き、小さな傷を僕の体に大量に刻んでいく。
そして、体に刺さっていた針も地面という支えを無くした事により動くようになる。ささったままの針を無視して一気に後ろに爆地を発動させながら跳ぶ。
着地も考えずに、跳んだため、着地に失敗して壁に腹の針からぶつかってしまい、さらに深く針がのめり込んでしまうものの、痛みによるうめき声をこらえながら俺は敵の姿を確認する。
さきほどまで俺がいた場所には、一本の針が突き刺さっていて、辺りには小さなかけらが飛び散っている。
HPが高いのだけが幸いしたなと思いながら、俺は腹の針を手で掴む。
それを……俺は思いっきり引き抜こうとする。
「グアァァァァァァァァ!」
痛い。痛い。
体の中から動かされた針は体中に痛みを走らせる。
なんで……こんな事に……
一瞬だけ浮かんだ事を頭を叩いて振り払い、少しだけゆるくなった針を一気に力を込めて引き抜く。
なんなんだよ……この痛みは!
心の中で絶叫しながら、俺は回復薬を取り出して腹の傷口に一気に振りかける。
腹に一気に熱が発生し、頭に熱いという情報が伝えられる。
この……回復薬だけじゃ止血が限界かよ……
うめきながらも、なんとか血を止める事に成功する。
そして今一度、ゴーレムの方を向くと……最悪の状況が広がっていた。
「っふざけんなよ……」
宙に浮いた石がゴーレムの首に近づいていき、俺がある程度稼いだダメージが、石によって修復されていく。
余分な石が落下した瞬間、ゴーレムの首は完全にきれいな状態になっていた。
「自動修復機能って……面倒な!」
ゴーレムは、俺の言葉も気にせずに石を動かし始める。その数……20あまり。
同時にしても多すぎる。これだけの量を一度に相手にできる自信はない。
「くっそが……」
意地で体を動かしているとはいえ、腹の痛みはずっと続いている。
そんな呻きも気にかいせずに、宙に浮く石は変形して槍の様な形になる。形状変換が自由とはいえ、槍にこだわっているのだろうか。
そんなことしか、この光景を見たら頭に思い浮かばなかった。
「くっそが……」
少しだけ震える足を叩いて強制的にしゃきっとさせる。
このゴーレムは普通に倒しても、簡単に岩で修復される。なら……一気に攻めるしかない。
頭の中の知識を、一瞬で洗いざらい探った結果、一つだけできる事があった。俺が今使える一つの武器。『科学』。
それをするには……とりあえず、接近するしかない。
そこまで思いついたところで、全ての槍が完成し、こちらにしっかりと狙いが定められる。
「とりあえず、これをよけねぇとな」
しっかりと、槍の大群を目でとらえる。
急所と体を動かすためのところ以外の怪我は無視してもいい。最小限の犠牲で最高速で接近。
それだけを心に止める。
「おりゃっ!」
最初に飛んできた槍をぎりぎりの場所で避ける。服の布が裂ける音と共に、首の横を風が通り過ぎた。
頭に浮かんだイメージの槍は、かすりもしないように大げさに避け、他の槍は掠ってもいいと割り切りながら最短距離でゴーレムに向かって突撃する。
手の甲が裂け、膝の横が裂け、脇腹が裂ける。右に思いっきり飛び、一本の槍を回避して、また飛んできた槍を最小限の動きで避ける。
俺はゴーレムに向かって突撃し続ける。
どんどん飛んでくる中でも新しい槍が生成されて無限に飛んでくる。
ここで右!まっすぐ動きながら首を右に!
頭の中で大量の指令を出して、即座に実行させ続ける。だが、予知が発動しなかったのと、大きさが違うものが二つ同時に飛んできたため、槍を回避する事ができなかった。
大きい方に当たらない場所に移動しながら、慌てて小さい方の当たるであろう場所を読み取る。場所は……右目。今から顔を動かしても間に合わない。
急いで風纏を発動させて壁の代わりにするものの、風纏は槍の速度をだいぶ下げたが、槍は止まらずに俺の右目を貫いてしまう。
顔に激痛が走り、視界がブラックアウトして平面の世界に切り替わる。
痛い……
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ!」
幸いか、眼球を貫いただけで済んだが、痛みはものすごく、視界はもう元に戻らないだろう。
前に走りながらも、目に突き刺さった槍を引っこ抜く。さらに痛みが走るのも無視して、敵に突撃する。
アドレナリン全快。痛みがあるのは確かだが、気にはならず相手を片目でしっかりととらえている。
距離感が掴めないが……射線だけを平面でとらえれば、その線の上にいなければ大丈夫な話。
全ての槍を大げさにかいくぐりながら何とか敵の目の前まで接近する。
そして……『炎獄』を発動させる。
自分を中心にして、炎の壁が構成され、ちょうどゴーレムの足元に壁が発生して、上に向かって一気に炎が上る。
ゴーレムは炎を受けて、少しだけ赤みを帯びながらも、そこから移動せずに新しい槍を作って攻撃をしようとしてくる。
それを、最小限の動きと、風纏を使ってかわし、逸らし、炎の中で舞い続ける。
目には、回復薬の瓶に残っていた少量の液体を垂らして少しだけ治すが、まだ血が垂れている。
眼球は完全に無くなってタダの空洞になってしまっている。
だが、その痛みも無視して槍を回避し続ける。
「くそがぁぁぁぁぁ!」
ゴーレムの赤みは少しずつ強くなっていくが、形が崩れる様子はなく、今だに動き続けている。そろそろ……頃合いだろう。
炎獄を解除して、動かないゴーレムに向かって突撃する。
ゴーレムが一度も動かなかったのが幸いだったな……
「とおりゃっ!」
極足を発動させて、一気に空高く跳び上がる。今から……三分。その時間で……決める。
ゴーレムの頭の上で現象発生を使い、大量の水を生みだす。
水は重力に逆らわずに下に落下して……熱されたゴーレムの頭に降りかかって、ジュワァァァと大きな音を立てる。
ある程度かかったところで、俺も重力に逆らわずに落下を始める。手の先から水が出したままだ。
そして……ある程度降りかかったところで、水を氷に変える。現象発生の応用で、水を発生させた後に、氷を発生させると、連動してこれまで発生していた水が全て氷に代わるのだ。
ゴーレムの周り全体が氷で囲まれ、加熱された体を急速に冷やして……ある現象を引き起こした。
金属でも、なんでも物体は加熱すると膨張し、冷やすと収縮する。だが、それは全体が均一に膨張、収縮するわけではない。
加熱と冷却によって、物体にゆがみが発生する。
一気に過熱して、一気に冷却する。すると、当然ゆがみも大きくなり、物質の組織を離れ離れにしてしまう。
その結果、物体は脆くなってしまうというわけだ。
このゴーレムの場合、体は一つの石でできていると見た。何か、生物の核の様な物があるかもしれないが、周りの体を組織している物を崩すことができれば、倒したも同然だろう。
「重力で壊れないとはなかなかだな……」
お得意の錬金術も使えなくなっているのか、槍は地面に落下して、からりと音を立てる。
意外と重そうだから、自分の重みで崩れる物だと思っていた。
「でも……これで終わりだ!」
極足で強化された足を、ゴーレムに思いっきり叩きつける。
すると、ゴーレムはバラバラになって一気に砕け散った。
「や、やったか!」
フラグ全開の事を口走りながら、俺は崩れていくゴーレムを眺める。
直後……体に浮遊感が襲ってきた。
「おい!」
俺の足元がガラリと崩れる。慌てて、足で飛び出そうとした瞬間、足にとてつもない疲労感が襲ってきて、動けなくなる。
「なんなんだよ……」
俺は……ゴーレムの残骸と共に奈落へと落下していった。




