20話 新たな決意
次に目を開けたとき、最初に目に入ってきたのは応接室の天井だった。どうやら気を失って倒れ、ソファーに寝かされていたらしい。
「サクラ! 起きたのか! 喉は平気か?」
目を覚ましたことに気づいたカイルが、すぐさま隣に座って私の首筋に手を当てる。少し冷えた体にカイルの体温が心地よく、私は彼を安心させるように、にこっと微笑んだ。しかし、カイルはまだ心配そうにこっちを見ている。
(あ、そうだ! もう声が出せるんだった!)
いつもの癖でジェスチャーしそうになり、私はあわててカイルに話しかけた。
「あーあー……、大丈夫みたい。心配かけてごめんね」
「いいんだ。顔色も良くなったな」
元気そうな私を見てカイルが安心した顔で微笑む。するとその背後から、ぞろぞろとこちらをのぞき込む顔が見えた。
「サクラ、僕が呪いを解いたから、体が軽いでしょ〜」
「聖女サクラさん、私のことはわかりますか?」
「お、おじいちゃんだよ……覚えているかい? サクラ」
どうやら師匠が、一度目の召喚での日々を皆に話してくれたらしい。アルフレッド殿下は戸惑い、司教様は私に「おじいちゃん」と呼ばれていたことを知って顔を赤らめている。
「もちろんです! ようやく皆と話せる! やった〜!」
私は勢いよく立ち上がった。声を取り戻せた嬉しさからか、次々と言葉があふれ出てくる。
「師匠! 呪いを解いてくれてありがとうございます! それに体調もすごくいいです! アルフレッド殿下のこともわかりますし、司教様をおじいちゃんと呼べるのが嬉しいです!」
突然よく喋るようになった私に、皆は目を丸くしたあと、嬉しそうにわっと声をあげた。
「おお! 気を失ったから心配したが、顔色も良くなっておるな! じいちゃんは嬉しいぞ!」
ただ話しているだけなのに、皆がこんなに喜んでくれるなんて……!しかしそんな嬉しい光景のなか、暗い顔で私を見ている二つの視線に気づいた。一度目の召喚で私の身の回りの世話をしてくれた、ブルーノさんとアメリさんだ。二人は遠慮がちに私を見つめ、目が合うとそっとうつむいた。
(どうしたんだろう? でもせっかく声が出せるんだから二人に挨拶だけでもしたい!)
私が小走りに二人に近づくと、驚いた様子で顔をあげた。
「お久しぶりです! ブルーノさん、アメリさん。私たち一年前は、すごく仲が良かったんです。これからも仲良くしてもらえますか?」
すると二人は顔を見合わせ、手を握り合って震えている。そして、次の瞬間、アメリさんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「うわ〜ん! サクラ様! ごめんなさい!」
「ア、アメリさん?」
「申し訳ございません! 私たちが聖女様のことを忘れてしまうなんて……本当に申し訳ございません!」
「ええっ? ブルーノさんまで! そんな二人が謝ることじゃないですよ!」
暗かったのはこれが原因か。たしかに聖教会のみんなは、私をとても大切にしてくれていた。いつだったか「聖教会は聖女様を守るためにあるんですよ」と、私に仕えることを誇らしく語ってくれたことがあった。
「ジャレドから一緒に過ごした日々のことを聞いてな、それで二人は落ち込んでいるんだ。もちろん、ここにいる者は皆、サクラに対して申し訳なく思っている」
「ご、ごめんなさい。この国の恩人なのに、サクラ様を忘れてしまうなんて……ひっく……」
司教様が落ち着かせるように、二人の肩を優しく撫でている。私もアメリさんの泣きじゃくる姿に、思わず手を握った。
「そんな! アメリさんたちは何も悪くないです! だから泣かないで。私、アメリさんの笑顔が大好きだから!」
「サクラ様……!」
すると背後から、さらに思いつめたような声が聞こえてきた。
「それを言うなら、私たち王族こそが一番罪深いだろう。サクラさん。妹があなたにした非道な行い、私が責任持って償おう」
そう言うとアルフレッド殿下は、私の前にひざまずこうとした。
「ま、待ってください! アルフレッド様! そんなことしないでください!」
「しかし……」
「カイル、殿下を止めて!」
しかし、彼は複雑な表情でこちらを見るだけで動こうとしない。するとそんな私たちのやり取りに飽き飽きしたのか、師匠が大きなため息をついた。
「あ〜もう暗い暗い! みんな真面目すぎるよ〜! サクラの呪いは解けたんだから、お祝いすればいいのに〜」
「おまえは軽すぎるんだ!」
「あなたは記憶があるから、そんなこと言えるんです!」
師匠の呑気な言葉に、司教様とカイルが睨んでいる。
でも、私もその意見に賛成だ。せっかく話せるようになったのだから、前向きな話題にしたい。私は落ち込むみんなを励ますように大きな声で呼びかけた。
「みなさん! 私は師匠の意見に賛成です! たしかに呪われたのはつらかったし、アンジェラ王女にもそれ相応の罰を受けてほしい。でも私を覚えていなかったことを責めたり、あの場にいなかった殿下が謝るのは違うと思うんです! それより、もう一つの呪いを解く方法を、一緒に考えてくれませんか?」
(よし! 言えた!)
一気に話したせいか、ハアハアと息が荒くなる。それでも頑張って伝えたからか、みんなの雰囲気が和らいだみたいだ。口々に「そうだな」「そうしよう」と賛同する声が上がった。
……が、そんな明るい空気をぶち壊すのも、また師匠だった。
「で、結局呪いをかけたのは誰か、サクラは覚えてるの〜?」
「えっ! そ、それは……」
(ちょっと師匠! 今は聞かないでよ!)
突然の質問に言葉が詰まる。殿下の前で王女のことをどう話すべきかもわからず、私は口をパクパクさせたまま黙り込んだ。するとアルフレッド殿下が深いため息をつき、口を開いた。
「アンジェラが関わっているのでしょう?」
「――っ!」
「やはり、そうなんですね。私のことは気にせず、真実を話してください」
殿下だけじゃない。みんなアンジェラ王女が関係していることを予想していたようで、うなずいている。逃げ場のない視線に、私は観念して話し始めた。




