腐敗した心を穿て その一
ようやくマコト戦です
「大丈夫…………じゃないよね」
カレンの姿を見て出た一言がそれだった。頭から結構な血を流してるしね、早く応急処置しないと。
「なんでここに……」
「え?リファの鼻を頼りにして見つけた」
西区まで飛んできた私とリファはカレンがどこにいるかを探すために一番焦げ臭い場所を探した。カレンは炎の魔法が得意だからね、案の定見つかったし。
「そういう意味じゃ……」
「――チッ、何すんだよお前ら」
「「!」」
私の答えに不服そうな声をあげようとしたカレンをマコトの声が遮る。壁に激突したっていうのに大したダメージはなさそう……ほんといやになる。
「リファ、しばらくの間あいつの相手しといて。私はカレンの手当をするから。あとあいつの手には気をつけて、触れたものを腐らせる魔法を使うから」
『いいだろう』
私がリファの背中から降りると、再びリファはマコトを風の魔法で吹き飛ばし、私たちから距離を取らせた。そのままマコトの方へと襲い掛かっていった。リファの四本の足は、馬のように早く、マコトも思わぬスピードに苦戦している。
リファがマコトの相手をしている間、カレンの方に駆け寄って、急いで応急処置をする。救急箱をリリーさんに持って行けと言われたけど、あってよかった。カレンの体は傷だらけだけど、幸い骨が折れていたり、内臓が損傷しているということはなかった。
「もう一度聞くわ、なんでここに?」
頭から血が出ている部分にガーゼを当てていると、話の続きだと言わんばかりにカレンが聞いてくる。
「心配だったから」
「私は屋敷で待機してなさいって命令したはず……!」
「そうだっけ?忘れてた」
カレンは私の返答に体を起こして感情的に言い返しそうになっていたが、直前でとどまる。治療中なんだからあまり動かないで。
「今すぐ帰りなさい」
有無を言わさないような剣幕で言ってくるカレンに対して私も段々めんどくさくなってきた。もうぶっちゃけ聞こう。このままだと押し問答になりそうだし
「あのさぁカレン。――なにに怯えてるの?」
「!!」
私の言葉にカレンは目に見えて動揺した。いつものカレンだったら、もっと冷静に対応するはずなんだけど、今は図星をつかれたのか黙ってしまっている。あのときだって私とナトちゃんはともかくリリーさんまで屋敷に待機させるのは、普段のカレンだったらしない選択だと思った。リリーさんぐらい強い人を遊ばせておくなんて普通に損だし。
「そんなに一人で戦いたかったの?」
「ちがう……」
「それとも誰も信用してないとか?」
「ちがう……!」
カレンがその口を閉じろと言わんばかりに顔を歪ませながら睨みつけてくる。そんな顔を見るのは初めてだったし、自分に向けられるなんて思ってもいなかったけど、私は喋ることをやめない。きっとここで聞いとかないとあとで後悔するから。
「また裏切られるかもって思って私たちを疑って、何もさせなければいいやとかおもって……」
「ちがう!!」
西区の戦闘の跡が残る道にカレンの怒声が響き渡る。こだまするカレンの声が消えたころカレンの目には涙がこぼれていた。
「私は……私はただ…………みんなにいなくなってほしくなかった……!」
あの日以降みんないなくなった。お父様も革命軍に参加した使用人のほとんどもみんな……。
「私はただ……みんなと一緒にいられればよかった!お父様も!リリーも!私を育ててくれた使用人たちも!」
あの人たちは結果的にお父様を裏切った。でも憎めなかった……あの人たちは誰かのために戦う道を選んだんだから。それは苦しむ民だけでなく私やリリーのことも思ってたから……!お父様もそれを分かってた。だからお父様はきっとしょうがないって許すと思う。
お父様は死んで、使用人のほとんどは捕まり死刑となった。国に反逆するということはそれほど重いことだ。あの人たちもそれを受け入れて首を切られた。
私に残ったのはリリーだけだった。残ったリリーだけは絶対に守ろうって。いなくなるんだったらもう誰も……大切な人なんて作らなければいいって……
でもできてしまった……ほかにも大切な人たちが。マオもナトも私にとってもう大切な人だ。だから……
「もうだれもいなくならないでよ……!」
腹の中から出た嘘偽りのない本音だった。
「じゃあさ私たちのこと守ってよ」
「……え?」
涙を手で拭いながら泣いているカレンに対して私はそう言い放った。
「もう失いたくないなら守るしかないんだよ」
「そんなの……あたりまえ……」
「そう当たり前。カレンが私たちを守るために戦ってるなんて私も他のみんなも知ってる。でもさ、カレンだって傷つくし……いなくなるかもしれない」
「!」
私の言葉を聞いて、泣きはらした顔でカレンが私を見てくる。その顔は考えたこともなかったって顔だ。まぁ、自分のことって結構分からないもんだし。
「私たちもみんなカレンがいなくなるかもしれないって思ってるよ」
「それは……」
「それでもカレンは私たちのために戦うのをやめないでしょ。ならさ……」
私は一呼吸おく
「私たちのこと守ってよ。一緒に戦うときも。もしカレンが危ないときは私が助けにいくから……――一人にしないよ」
「!!」
「あ、ごめん。私のところやっぱ私たちにして。リリーさんは絶対助けに来るだろうし、ナトちゃんも来そう」
私が言いたいことを終えると、カレンは再び黙ってしまった。でもその顔はさっきまでとは違う……なにか憑き物が落ちたような顔だ。
数秒ほどたったあと、カレンが口を開く。
「もう絶対……放してあげないから。そばにいてよ」
「望むのなら」
そう言うとカレンが笑顔を見せる。いつもの調子に戻ったっぽい。そう思ってると、少し離れたところから大きな音が聞こえた。あっちは確か……リファと舞踊が戦ってる方……
そのことに私とカレンが気づくと二人して目を合わせる。カレンの手当も終わったし、やることは決まってる。
「マオ……一緒に戦ってくれる?」
その問いに私は確固たる覚悟とカレン・サンライトに仕えるメイドとして……
「――仰せのままに」
そう言い放った。
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リファは目の前にいる敵についての認識を改めていた。グリフォンは幻の魔物と呼ばれているが、別に戦闘に特化した魔物ではない。だが、千年以上生きているリファはいくつもの修羅場をくぐってきた自負があり、自らのことを強いという自信があった。だが、目の前の敵には……
「おい!魔物ごときがビビってんのか!さっさと降りてこいよ!」
『馬鹿正直に戦うわけがなかろう。ましてや貴様の混合魔法となればな』
リファはマコトの攻撃が届かない空の上で、一方的に魔法を撃っていた。それに対し、マコトは自らの攻撃がそもそも届かないということにイライラしていた。撃ち合えば無駄に魔力を消費するだけだと気づいて今は回避に専念している。そのせいで戦い始めてから両者ともにまだ攻撃が当たっていないという不毛な戦いとなっていた。
(とはいったが……こやつ強いな。我の攻撃がそもそも当たらぬ……それにあやつと比べれば我の方が魔法を撃ちまくっている以上、魔力の消費が激しいな)
「リファ!!」
『「!」』
お互いに千日手の状態になりかけた時、戦場に響く高い声が聞こえた。戦っていた二人が声のした方を確認するとそこにはマオと頭に包帯を巻いたカレンの姿があった。
リファは状況を確認するとマオたちの傍に降り立った。
「今はどんなかんじ?」
『互いに不毛な戦いをしていたところだ。悔しいがあやつ強いな。長期戦になれば確実に負けている」
「私とカレンが参戦したらどう?」
『…………それでも五分がいいところだな。なにせあやつの防御能力が高い』
リファの分析通り、マコトが使う土の魔法は基本魔法の中でも防御に優れた魔法だ。しかもマコトの使う土の魔法は洗練されている。並みの魔法では傷一つつけることができない程に。さらにマコトの身体能力は高く回避もお手の物という非常に倒しにくい存在であった。そこに一撃必殺のデュアルが備え付けられたマコトは切り込み隊に所属していることも頷けるというものである。
だが、リファの返答にマオは笑って答える。
「そこは私たちがそろえば勝てるとか言わない?」
『嘘はつかんタチでな』
「なに話してるかは分からないけど、なんとなく話の内容は分かるわね……」
そんな会話していると、蚊帳の外であったマコトがこちらに向かってくる。
「逃げたと思ったんだが……ハッ、雑魚と傷だらけの奴が来て状況が変わると思ってんのか?」
マコトの私たちを見つめる目はまるで特大の馬鹿でも見る目だった。ニヤケ面の隠せてない顔で煽ってくるけど、否定はできないかな。まぁでもこいつを見逃す選択はないし、煽って来るならこっちも煽り返してやろうっと。
「思ってるけど?勝てるって。それとお前って確か元の世界でダンスしてたっけ?」
「あ゛? 何で知って……」
「ならとびっきりの煽り文句あるわ。ねぇ舞踊……――私たちと踊れよ?」
指でかかってこいというジェスチャーをしながら煽ると、ブチっという血管が切れたような音がした。いや、正確には聞こえてないんだけど、マコトの顔を見ると、完全にブチギレていることが分かるような顔をしていた。やば……効きすぎたかも。
「やっぱりてめぇから殺してやるよ!!」
怒りに満ちた状態で私に向かって突っ込んでくるマコトに私は魔導銃で応戦する。何発か撃ったけど、流石に見切られてるのか、狙いをつけさせないよう小刻みにステップを踏んだり、壁キックとかして回避された。マコトは勢いを落とさずに私に迫って来るけど、流石に私との距離が近づくにつれて弾を回避するのが難しくなったのか、岩の壁でガードしたりしてた。十分な距離近づいたマコトは私に目掛けて手を伸ばす。
「死ねぇ!!」
「無理。だって私一人じゃないし」
マコトの伸ばした手は私に触れることなく空ぶった。リファが横から私の服を咥えて空へと避難させたからだ。そのまま私はリファの背へと乗る。
「チッ、クソが!」
「こっちも忘れないことね、”スローヒータ”!」
悪態をついていたマコトへカレンの炎の矢が何本も迫る。私に意識を割きすぎていたのか少し焦ったような表情で迫る炎の矢を回避するマコト。いやマコトの頬には一筋の傷ができていた。
マコトは頬へ手を当て自らの手についた生暖かい赤色を確認する。
「落ち着け、冷静になればこんな奴ら……」
『そう言ってるうちは冷静でない証拠だな」
「っ!?」
マコトの後ろからリファがかぎ爪を振り下ろす。だが、マコトはこの攻撃さえも横方向へと飛んで避けた。そのままリファへと手を伸ばす。しかし、マコトは自分に接近戦を仕掛けてくるなんてと、リファの予想外の行動に気を取られ、ワンテンポ気づくのが遅れた。
(!?魔物の後ろに乗ってたあいつが居ねぇ!)
そのことに気づいたときにはすでに遅くマコトの脇腹に風を圧縮した弾が当たる。
「がっ……!?」
弾が飛んできた方を見るとそこには銃口をマコトの方へと向けたマオの姿がある。
「悪いけど三対一だから仕方ないよねー。悪いと思ってないけど」
これが今日初めてマコトが直撃した魔法だった。
やっぱり戦闘描写が難しい……
作者の伝えたいことを文字に起こすのがめっちゃ苦労する……




