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まさかな出会い

すいません。投稿遅れてしまって。

誤字脱字、ございましたら報告していただけると幸いです

心理室は、本当に階段を上がって、すぐつきあたりのところにあったので、こんな、わかりにくさ全開の地図でも、とくに迷うことはなかった。

 5階の廊下はとても静かだった。

 俺たち新高校1年生の教室は、4階に並んでいて、学年が上がっていくごとに、教室も下に下がっていくというシステムなのだが、壁に付いている茶色の案内板に目を通すと、どうやら、この5階は、理科室をはじめとした、実験のような教室の移動を必要とする部屋が、揃っているらしい。

 そして、その案内板には、ご丁寧に、それぞれの部屋の使用目的と存在意義が、1、2行の文章でそれぞれの教室の名称の隣に書かれていた。

 上から、理科室、生物地学室、社会科教室……と、逡巡していき、ちょうど真ん中くらいの位置に、心理室の名前があって、その横には、精神に疾患を感じた生徒が、現役精神科医の先生に話を聞いてもらえる部屋。悩みはためずに、聞いてもらおう、と説明がなされていた。

 そして、さらに、その上からマジックやら、彫刻刀やらで、滅茶苦茶に、落書きされていて、そのほとんどが、今井先生という人の魅力について、であった。

 何が、私を嫁にもらってください、婚期を逃してしまいます、だ。相談に来る生徒に対して、逆に相談してどうするんだよ。しかも、婚期とか馴染みがなさ過ぎて、反応のしようがないし。

 あと、お願いだから、現精神科医の先生、というところから、彫刻刀で彫られた謎の電話番号と、そのすぐ下のここにテルしてね?は、消してくれ。

 すごく、出会い系サイトの女性側の紹介文っぽくてなんか嫌だから。

 それにしても、本当に大丈夫なのだろうか。この部活。チラシから始まって、とてつもなくうさんくさいん感じしかしないんだけどな。

(不安だなぁ……。本当に大丈夫かなぁ……)

 ただ教室自体は、特に何の変哲もないただの一教室だったし、何より、大二郎が、薦めてくれたという事実が、僕の中で、不安を緩和させていた。

 そうして、結局、目の前にある扉を開けるか、開けないかで、迷った結果、開けることにした。

 どうせ、来てしまったんだから、ダメ元で、中に入って、話を聞いてもらうしかない。

 ちょっと、自分以外に、高校一年生が、誰一人としていないのが、不安だが、それは、とりあえず目をつむることとしよう。

(よし、3、2、1、で入るか。……3、2、1!)

 俺は、引き戸に手をかけ、おそるおそる中の様子を見た。

 それは、何もない教室だった。せいぜい、真ん中に、机と椅子が一セットポツッと佇んでいるくらい。

 でも、それ以外は、本当に何もなかった。それは、掃除用具入れや、ゴミ箱ですらもだ。

 ただ、人が一人、窓から、外の景色を眺めていた。身長は、すらっと長くて、僕よりも少し高いくらいだろうか。学校指定のスカートをはいていることから、おそらく、それは女生徒でここの部活の人間だろう。

「あのーすいません」

 教室の扉は、本当に、おそるおそる、といった感じで開けたので、外の野球部の歓声や快音に夢中になっているならば、小さすぎて聞こえなかったのかもしれない。

 そう思ったので、同じ部屋で、さした距離もないにもかかわらず、大きな声でそう呼びかけた。

 すると、彼女は、その亜麻色の綺麗な髪を翻らせて、俺の方に顔を向けてくれた。

 俺はその瞬間、正確に言えば、振り向いた彼女の顔を見た瞬間だが、言葉を失ってしまった。

「あっ、君。もしかして、朝会った、高橋君じゃない?」

 彼女は、あろうことか、僕の恋の悩みの張本人である生徒会長、極楽寺先輩だったのだ。


 

 とりあえず、俺は教室の中に一つだけあった椅子に座るよう言われて、大人しく、足元に荷物を置いてから、席に着いた。

 はっきり言って落ち着かない。そりゃ、そうだろう。

 だって、こんな密閉された空間で、恋の悩みを聞いてもらおうとやって来たら、その恋をしてしまった人と2人になってしまったんだぞ、メンタルが持つはずがない。

 彼女は壁にもたれて、愁いを帯びた顔でやや首を傾けながら、窓の外を見ていた。

 こうしてゆっくりと観察するように見ても、彼女の顔は、そこんじょそこらの下手なアイドルよりよっぽど可愛いなぁ、とか思ってしまう。

 ああっ、緊張で、何にも喋ることが思いつかない。どう会話を切り出せばいいかわかんないなぁ。

 その間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。でも、俺たちの間には沈黙しかなかった。

 聞きたいことはやまほどあるのに、それをまず最初に話していいのか、下手に順番を気にしてしまう自分がいる。

 本当に、何から話せばいいんだろうか。どうして、朝、俺のことをなりふりかまわず、助けてくれたことのお礼を言わなきゃな。

 しかし、俺がそのことを口にするより前に先に口を開いた。

「いやーまさか、こんなところで逢うなんて驚いたなー。どうして、高橋君は、今日、ここに来たの?」

 いや、俺も驚いているよ。これ、運命の出会いじゃないか? そういいたいところだが、そんな返しをしたらまず間違いなくギャルゲーならばゲームオーバーになるところ。言葉選びは慎重にいかねば。

「あの……その、ここ、恋愛の悩みなら何でも、男女問わずに相談に乗ってくれる、って、朝配っていた部活勧誘のチラシに書いてあったのを見て、来たんですよ」

 そう理由を淡々と述べた。シンプルイズベストってやつだ。

「あっ、なるほどね。恋の悩みか。そうかそうか……じゃあ、今人もいないし、特別に私が聞いてあげようかな」

「いやいやいや。俺は、恋愛アドバイス部に悩みを相談しようと思ってきたのであって、別に、先輩が僕の悩みを、聞く必要はなくないですか?」

 もしかしたら、彼女、自分は、生徒会長だから、目の前に、困っている生徒がいたら、助けてあげなきゃと、強い正義感からの行動理念のもと、相談に乗ろう、と言ってくれたのかもしれない、と俺は思った。

 でも、それは、餅は餅屋という言葉があるように、専門の人に、任せるのがいいと思う。うん。

「大丈夫。私が、その恋愛アドバイス部の部長だから」

 ……。

 は?

 俺は一瞬思考が止まってしまった。片想いの先輩とどうやって、仲良くなればいいか、おそらく恋愛のプロであろう機関に、頼もうとしたら実はその機関の長が、その恋をしている相手だった。

 こうやって、まとめてみると、さらに衝撃さが増すな。何だ、その巡りあわせは。予想だにしないサプライズというよりはアクシデントだ。

 さすがに、自分の好きな相手に、恋の相談をするのは、憚られるものがある。でも、この場に彼女以外いないのも事実だし。

「……あの。もう一度聞いてしまって申し訳ないんですけど、先輩って本当の本当に、生徒会長と、ここの部活の部長を兼任しているんですか?」

「うん、そうだよ。まぁ、部活といっても、今のところ、部員2名の弱小機関なんだけどね」

「弱小機関って、部活じゃないんですか?」

「そうだよ。だって、生徒会長は原則、部活には、入れないもん」

 それは、また、不便な仕組みだなぁ。まぁ、たしかに、生徒会長って言ったら、全校生徒をすべて取り仕切る立場に、あるんだから、部活をやっていられるほど、仕事が楽ではないんだろうけど。

「……だとしたら、機関っていうのは?」

「生徒会の傘下に入る、行政機関のこと。本当は、校内の掃除を担当する掃除部とか、もっと他にもあるんだけど、生徒会のメンバーが、基本的に毎年、それぞれの行政機関のリーダーを務めるってわけ」

 へぇ。そうなのか。そういえば、ホームルームで先生が、生徒会が、学習環境を整えてくれるため、掃除をはじめとした事務を一切しなくて良いといっていたな。

 あの時は、それがどういうことなのか、あまり良くわからなかったけど、なるほど、生徒会がやってくれるのか。

 でも、いいのかな。同じ年代の、同じ学校の人に全部任せるなんて。楽ができるという面では、この上ないことかもしれないけど、よくよく考えれば、部活も入れずに、そういうあまり人がしたがらないことをやらせるなんて、とても、良いことには思えないんだけど……。

 と、俺のそんな気持ちを察したのか、先輩は、

「あっ、そんな顔しなくてもいいよ。別に嫌じゃないしね。それどころか、皆の役に立てて嬉しいくらいかも」

 ……はあーっ、と、もし俺が老人なら感嘆の声を上げていたことだろう。

 それくらい、俺は今猛烈に感動していた。

 本当に彼女は、一高校の女子高生なのかな。それにしては、あまりにも利他的過ぎると思う。

 普通の女子高生って、さっきの時もそうだけど、新入生でも人のこと平気で見下して嘲るし、ドロドロしていて、自分にばかり興味があるものかと、思っていたのに、まさか、こんな聖人君子ののような言葉を、恥じることなく、それどころか、胸を張って、口にできるだなんて。

 よほど、褒められた人生を送ってきたに違いない。単純に尊敬できる。

「よし、じゃあ、余談はこのくらいにして、そろそろ、本題に入ろうか」

「本題、ですか?」

「いや、今日ここに君が来たのは、恋愛相談なんでしょ。そのことだよ」

「……はい、そうでした」

 そうだ。忘れていた。実は今、自分が、かなり特異な状況に置かれていることを。

「うん、で、何が悩みなのかな。それをまず、言ってもらえる?」

 彼女は自分のバッグからペンと紙を取出し、俺の話に耳を傾けてきた。

「はい。今日、どうして、俺がここに来たのかといいますと……」

 と、次の瞬間、教室の扉がものすごい勢いで、開かれ、俺は驚いて、音のした方を見た。

「はーい! どうもー、みなさーん。私がこの腰越高校人気ナンバーワン教師、その美貌はとどまるところを知らない、自称27歳精神科医の、今井泉でーす! よろぴくー、ね♡」

 今井先生と名乗ったその女性は、両手でハートの形を作り、片目をウインクさせた。

「今井先生……」

 彼女は、そう言ってため息をついた。

 

 

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