サブ洞窟
レンが、眠ったように静かな茅葺き屋根の寄せ集めだろうと思い込んでいたものは、実際には、小さな地方都市に匹敵する、広大で堅固に防備を固めた集落だった。
風雨に晒された高い木の柵が、粗く切り出した石灰岩で補強されて外周を取り囲み、その物見櫓では、正午の日差しに目を細めた衛兵たちが見張りに立っていた。
重厚な木の門の向こうで、集落は、踏み固められた土の大通りと、木骨造りの家々と、活気に満ちた狭い路地とが織りなす、圧倒的な迷宮へと開けていた。空気は、さまざまな香りが厚く織り重なったタペストリーのようだった――炭を焚いた焼き穴の上でじゅうじゅうと焼かれる、香辛料をまぶした見慣れない獣肉の串焼き、木の盆の上で冷まされている、まだ温かいサワードウのパン、傷みかけた異国の果実の、酸味を帯びた甘さ、そして脇道の鍛冶場から漂ってくる、熱せられた金属の、苦く銅めいた鋭い匂い。
レンは顎を引き、見つからないよう必死になっている幽霊のように、市場の屋台の端に沿ってふらふらと進んでいった。
住民たちは紛れもなく人間だったが、その装いの趣は、ほとんど修道院のような画一性に傾いていた。ほぼ全員が、実用的で地味なチュニックと、ゆったりしたズボンを身につけ、色は、風雨に褪せたスレート色、灰色、炭色といった、さまざまな濃淡の灰色に染められていた。頑丈そうで、肉体労働に長年さらされてきた様子で、どこまでもありふれた人々に見えた。
ただし、純白をまとった者たちを除いては。
広い広場の中央に、高いアーチ状の木組みの天井を持つ、壮大な建物がそびえていた。その入口のアーチの上に刻まれていたのは、十字架でも星でもなく、複雑に様式化された巨大な葉の紋章だった――ぎざぎざの縁が、燃えさかる太陽へ向かって、うねりながら伸び上がっている。軒下では、ゆったりとした汚れひとつない白い祭服をまとった男女が木箱の上に立ち、行き交う労働者たちに、朗々と響く旋律のような声で呼びかけていた。
「汝らの労苦を、根の母、アイゼウス様に捧げよ!」ひとりの説教師が、開いた両の手のひらを空へ差し伸べて宣言した。「我らの足下の土を養い、荒野の荒ぶるマナを鎮めたもう御方! 御方の木陰を歩む者たちの炉辺に、祝福あれ!」
レンは前髪の下から彼らを眺め、鋭いサファイア色の瞳をわずかに細めた。
組織化された宗教か、と彼は思った。かすかな苦々しさが、思考の端に忍び込んでくる。
まあ、そうだろうな。人間を宇宙のどんな片隅に放り込んでも、土さえ与えてみろ、五分も経たないうちに誰かが白いローブを着込んで、ほかの全員に、クソ忌々しい木の女神へ霊的な家賃を払えと説き始めるんだ。
彼は顔をそむけ、鍛冶屋を探して通りの看板に目を走らせた。まったく新しい世界を、汚れひとつない黒のタートルネックに青いズボン、染みひとつない白い靴という格好で歩いている――放浪の旅人というより、渋谷でとんでもなく曲がる角を間違えた、ミニマリスト系のファッションモデルのようだった。彼には実用本位の装備が切実に必要だった。マント、背負い袋、それにたぶん基本的な野外用ナイフ。
「お恵みを! どうか、お優しい旅のお方、目の見えぬ者にお慈悲を!」
その叫びは彼の死角から響き、ほんの一瞬ののち、ひとつの体がレンの右肩に激しくぶつかった。
レンは反射的に男の両肘をつかみ、土埃の中へ倒れ込むのを防いだ。物乞いは汚れた麻布のぼろ切れにくるまり、まぶたをきつく閉じ、震える手で空の木の椀を、レンの胸元すれすれでがらがらと鳴らしていた。「闇に目を奪われちまったんです、旦那方! パンの耳の切れ端を買う銅貨一枚だけでも、後生ですから!」
レンは謝ろうと口を開いたが、男の顔に視線が落ちた途端、極限まで研ぎ澄まされた感覚が、音のない警報を鳴らした。
物乞いの左のまぶたの、ごくわずかな隙間から、レンは、鋭く素早く動く茶色の瞳孔をはっきりと見た。濁ってもいなければ、乳白色に曇ってもいない。それどころか、その瞳は、レンのポケットの位置を、澄みきった計算ずくの明晰さで正確に追っており、服の縫い目を測るようにして、彼の懐具合を値踏みしていた。男の平衡は、よろめいてなどいなかった――芝居がかった上体の揺れの下で、両足はしっかりと地を踏みしめ、堅く安定した構えを取っていた。
男は盲目などではまったくなかった。一連の芝居は、すべて路上のペテンだった。
普通の人間なら、憤りの炎が燃え上がったかもしれない。腕の立つ冒険者なら誰であれ、広場じゅうの前でその詐欺を暴いただろう。
だがレンはただそこに立ち尽くし、救いようのない、改めようのない自分の心の甘さの重みに、肩を落とした。
彼は男を問い詰めなかった。身を引くこともしなかった。その代わり、レンの表情は、静かで、ばつの悪そうな気恥ずかしさへと和らいだ。彼は小さく、うやうやしく頭を下げ、その声は市場のざわめきの上にほとんど出なかった。
「その……本当に、ごめんなさい」レンは穏やかに言い、青い髪の後ろをかいた。「今は、硬貨が一枚もないんです。本当に。力になれなくて、すみません」
偽の物乞いは、細めた目の奥で瞬きをした。敵意がまるでないことに、調子を狂わされたのだ。気の抜けた、困惑まじりの文句をぼそりとつぶやくと、もっと実入りのいいカモを探して、人混みの中へ後ずさっていった。
レンは遠ざかる背中を見送り、かすかな、静かなため息をついた。
かわいそうに、とレンは、男が二つの布地の屋台の間に消えていくのを見ながら思った。そりゃまあ、同情を搾り取るために障害を偽ってるんだから、厳密には詐欺なんだけど……でも、ここの暮らしもきっと厳しいんだろう。盲目のふりが、今夜を生き延びるだけの食べ物をかき集める唯一の方法なら、俺が説教できる立場じゃない。少なくとも、あのダークエルフみたいに、森で人の腹をかっさばいたりせずに、どうにか生計を立ててるんだから。
自分の言葉を聞いてみろ、と彼の内なる批評家が、頭蓋の奥から即座に吠えた。うんざりして、今にも額をひっぱたかんばかりだった。詐欺師がお前の同情をすり取ろうとしたのを、今まさに理屈をつけて正当化しやがった! お前は文字通り救いようがないんだよ、レン! ギロチンにだって、お前の首で刃を鈍らせてすみませんって謝るんだろうな!
彼は息の下でうめき、脚を無理やり前へ進めて、黒ずんだ川石で築かれた、低く構えた頑丈な建物にたどり着いた。補強された樫の扉の上には、金床と重いハンマーが交差した絵柄の、錬鉄の看板が掛かっていた。
レンが扉を押し開けると、重たい真鍮のベルががらんがらんと鳴った。
熱気が瞬時に彼を襲った――石炭の硫黄めいた刺激と、鉄粉の乾いた金気臭さがたっぷり混じった、乾いて息苦しい暖気の波。石壁には、幅広の剣、狩猟用の槍、鉄の帯で補強されたバックラー、革の胸当てを並べた棚がずらりと並び、巨大なレンガ造りの炉の、橙色の輝きを照り返していた。
重厚な松材のカウンターの奥に、鍛冶屋が座っていた。
男は山のような巨漢だった――肩幅が広く、樽のような胸板で、木の幹ほどもある太く毛深い前腕をしている。きれいに剃り上げた頭皮には、ぎざぎざした青白い傷痕が走り、眉の欠けた片側を断ち割って、耳のところで終わっていた。鍛冶屋はすぐには顔を上げなかった。重たい土器の椀の上に背を丸め、冷えた茹で米と、塩で煮た黄色いジャガイモの分厚い塊を、木のスプーンで口へかき込んでいた。
彼は強く飲み下し、たこだらけの、煤で汚れた手の甲で口を拭うと、レンに向かって片眉を上げた。
「店は開いてるぞ」鍛冶屋は、石臼がきしむような声で低く言い、威圧的な背丈いっぱいまで立ち上がった。「何の用だ、小僧」
「こんにちは、親方」レンは丁寧に言い、礼儀正しく会釈した。「レンといいます。その……身軽な旅をしていまして、基本的な道具か、実用的な装備を見せていただけないかと思いまして」
鍛冶屋は鼻を鳴らし、部屋の周囲を漠然と手で示した。「好きに見て回れ。見えてるもんがそのまま売り物だ。並みの鋼、硬化させた革、それに低品質の銅合金がいくつか。一番上の棚のものは、刃先に触るなよ」
レンは陳列に沿ってゆっくりと歩いた。武器のほとんどは実用本位だった――藪を払ったり、猪を串刺しにしたりするための、重く磨かれていない鉄の刃だ。だが、カウンターの奥の、一段高いビロード張りの台座にひっそりと置かれた二振りの細身の短剣が、周囲の火明かりを受けてきらめいていた。
それらは見る者を魅了した。鋼は銀色でも灰色でもなく、深く透きとおった真紅で、鏡のように磨き上げられた、固まった竜の血のようだった。細く光る脈が金属の中を走り、生まれつきの、眠れる共鳴とともに低くうなっていた。
鍛冶屋は彼の視線を追った。「目に留まったか、え? そいつらは、そこらの肉屋が使うような代物じゃねえ。二本一組で四千エリクだ」
レンは動きを止め、顔が一瞬、空白になった。
エリク?
その言葉は、脳が点と点をつなぐまでの丸二秒間、頭の中でがらがらと鳴り響いていた。そうか。エリク。通貨か。円でもドルでもない。エリクだ。そして俺の持ち合わせは、きっかりゼロだ。
「あ、ああ」レンはどもり、緊張した自嘲まじりの笑みとともに、手をポケットへ引っ込めた。「そ、そうですよね。実は……今、エリクの持ち合わせがまったくないんです。町に着いたばかりで。でも――」ただ居座っているだけの人間として追い出されまいと必死になり、彼は慌てて付け加えた。「――働いて稼ぐ気は十分あります! 材料集めでも、石炭運びでも、原材料が必要なら狩りでも、やれます!」
傷痕のある鍛冶屋は、松のカウンターに拳をつき、青い髪の若者を値踏みした。レンは労働者には見えなかった。その手は鋤でたこができておらず、着ているものも、奇妙なほど簡素なのに、不自然なほど上質だった。それでいて、少年の佇まいには、奇妙で不気味な落ち着きがあり、老練な鍛冶屋を、ひと呼吸ためらわせた。
「採集、か」鍛冶屋は太い指でカウンターを軽く叩き、考え込んだ。彼は真紅の短剣のほうへ、ちらりと視線を戻した。「じゃあこうしよう、小僧。上等な材料の在庫が底をつきかけててな。あの上にある短剣だが、あれはアルケリスって鉱物から鍛えたもんだ。珍しい代物でな。深い赤の鉱石で、マナの伝導性が高く、焼き入れ鋼に匹敵する密度がある。ギルドの隊長に頼まれた特注のロングソードを打つのに、新しい分がひと山要るんだ」
彼はレンと視線を合わせた。「精錬してない生のアルケリスの塊を、三つ持ってこい。そうすりゃ、相応の袋一杯のエリクを払うだけじゃねえ――余った分で、お前の体に合わせて誂えた戦闘用の短剣を一本、打ってやる」
レンのサファイア色の瞳が、わずかに明るくなった。「アルケリスは、どこで見つかるんですか?」
鍛冶屋は笑わなかった。顔がこわばり、眉の上の傷痕が引きつった。
「サブケイブの中だ」
「その……サブケイブ?」レンは繰り返した。
「ポケット次元への門だ」鍛冶屋は、口調を重々しい、警告するような低いうなりへと落として説明した。「ランダムに裂けて開く。たいてい、静かな水域の上に浮かんでる――深い川、人里離れた湖、地下の泉なんかだな。周囲のマナが空間を歪め、裂け目をそこに固定する。中に入りゃ、希少な鉱石や珍しい植物がぎっしり詰まった、異質な地形の小空間がある……そして、お前の骨から皮を剥ぎ取るのが何よりの楽しみって化け物どもがな」
鍛冶屋は身を乗り出し、重たい視線をレンの体に沿って下ろしていった――染みひとつない黒のタートルネックから、真新しい白い靴まで。
「高位の傭兵や、場数を踏んだ魔法剣士だって、四人組のパーティと、鋼のプレートアーマー一式なしじゃ入らねえ」鍛冶屋は平板な声で言った。「お前は鎧のかけらも着けてねえ、小僧。それでも本当にやれるんだな?」
レンは唾を飲んだ。鎧はなく、マナもなく、感情は不安定な原子炉だ。だが、物資が必要だった。そして何より、この世界の限界を試し始める必要があった。
「やれます」レンは力強くうなずいて言った。「アルケリスは、持ってきます」
「戻ってこなくたって、葬式なんざ出さねえぞ」鍛冶屋は鼻を鳴らしたが、レンが出口のほうへ向き直ると、その目は細められた。
少年が扉の取っ手に手を伸ばしたとき、鍛冶屋の視線は、レンの腰にしっかりと吊られた、滑らかな暗色の鞘へと落ちた。会話のあいだじゅう、鍛冶屋は、その武器が少年のベルトに当たってカチリと鳴る音を、一度も聞いていなかった。金属のがちゃつく音も、革がこすれる音もなかった。それだけではない。その柄を見つめていると、鍛冶屋の後頭部の付け根に、冷たくじわじわと這い上がる悪寒が走った――まるで、小僧の腰にあるその武器が、定命の者たちの次元にはまったく属していないかのような、奇妙で本能的な恐怖だった。
いったい全体、何なんだ、あの剣は? と鍛冶屋は、扉が揺れて閉まり、レンが通りへと消えていくのを見ながら、息の下でつぶやいた。
かすかな湿り気の匂いと、土地の自然な傾斜をたどって、レンは森の外れの、密生して生い茂った藪をかき分けて進んだ。ここの林冠はあまりに厚く、菫色の空は、苔むした地面に散らばる、金色のまだらな光にまで切り詰められていた。
三十分ほど歩き続けたあと、木々が途切れ、静かな空き地が現れた。
目の前には、広く、静寂を乱されていない湖が横たわっていた。水はあまりに暗く澄んでいて、光を呑み込んでしまいそうに見え、岸辺をびっしりと埋め尽くす、そびえ立つシダを、完璧に映し出していた。
レンは岸の縁まで歩いていき、水面に映る自分の姿をのぞき込んだ。鮮やかなサファイア色の瞳と、乱れた青い髪を持つ、若く鋭い顔が、見つめ返してきた。それは今なお、奇妙なほど他人事のように感じられた――ありえないほど鮮明なシミュレーションの中で、アバターを着込んでいるかのように。
ジジジッ。
低く響くうなりが、うなじに震えとなって伝わった。
レンの極度に鋭敏な直感が燃え上がった。彼は湖の中心へ、ぐるりと首を向けた。
水面の約一メートル上に、巨大で半透明な、空気の裂け目が浮かんでいた。それは猛々しい真紅で、縁は砕けたガラスのようにぎざぎざに尖り、内側では、油のような、うなりを上げる渦が巻いていた。渦は、真下の水面にさざ波を立てながら、一滴にも触れてはいなかった。
サブケイブだ、とレンは悟った。脈が速まる。
彼はためらわなかった。水の冷たさに身構えながら、泥だらけの岸から足を踏み出した。驚いたことに、彼の体は水面をほとんど乱さなかった――重さのない魂圧が、彼に十分な浮力を保たせ、浅瀬を、ほんの小さな水しぶき程度で歩いて渡っていった。彼は裂け目にたどり着き、膝までの深さの水の中に立った。
彼は震える手を伸ばし、真紅の帳に手のひらを押し当てた。指は、まるで温かな液体のビロードのように、裂け目をするりと通り抜けた。
鋭く、自分を落ち着かせるように息を吸い込み、レンは脚をたわめて、渦の中へまっすぐ、軽く跳び込んだ。
ドゥンッ。
突風の轟音が両耳の中で炸裂し、続いて、大気圧が、水晶のように澄んだ音を立てて唐突に切り替わった。
レンは前へつんのめり、四つん這いになって、ドサッと軽い音を立てて着地した。彼は慌てて立ち上がり、手のひらをこすりながら、その場でぴたりと足を止めた。
彼は、巨大な地下の洞窟の中にいた。壁と、そびえ立つ穹窿状の天井は、岩ではなく、深く半透明な青い水晶の、ぎざぎざに尖った、そのぎざぎざさえ美しい造形でできていた。水晶は、洞窟の床に沿って咲く、巨大で生物発光する異界の花々の光を捉え、屈折させていた――淡い青緑、菫色、燐光を放つ白に輝く、脈打つ巨大な植物たち。空気は冷たく、無菌のように澄んでいて、砕けたオゾンと濡れた石の匂いがかすかにした。
すごい、とレンは、きらめく天井を畏敬とともに見上げて思った。本当に、水たまりの中に丸ごと別の次元が押し込まれてるんだな。
ヴゥゥゥゥゥン。
彼の右腰で、七つの天徳の剣の暗色の鞘が、突然、淡い青の光を、警告するように鋭く揺らめかせて脈打った。
レンは凍りついた。
バキッ、バキッ、ドオオオオン!
足元の水晶の地面が激しくたわんだ。約二十七メートル先で、きらめく床が飴ガラスのように砕け散り、土と水晶でできた五つの巨大な塊が、洞窟の空中へ猛然と投げ上げられた。
煙を上げる亀裂から、五匹の、怪物じみてのたうつ恐ろしい化け物が噴き出した。
それは、地底の巨大なワームだった。どれも馬車ほどの太さがあり、長さは優に十二メートルはあった。節のある外皮は、病的なエメラルドグリーンの分厚いキチン質に覆われ、悪臭を放つ腐食性の粘液でぬらぬらと光っていた。頭があるべき場所には、洞窟のように深い円形の口が、肉の花のように開き、消化液を滴らせた、鋭く剃刀のようなぎざぎざの黄色い歯が、同心円状に何重もの輪を成して並んでいた。
五体の獣は上半身を天井へと持ち上げ、口を震わせながら、洞窟の土台そのものを揺るがす、耳をつんざく一斉の咆哮を放った。
ギシャァァァァァァァァァッ!
音の爆風が、レンの青い髪を、荒々しく顔の上へなぎ払った。
「うわあっ!」
レンは約一メートルも宙へ跳び上がり、パニックに陥ったぎこちない姿勢でしゃがみ込むように着地した。目は頭蓋から飛び出さんばかりだった。
巨大ワームだ! 本物の、アニメに出てくる巨大ワームだ! なんで歯が五列もあるんだよ!? なんで腐ったキャベツみたいな臭いがするんだ!?
アドレナリンが彼の四肢を乗っ取った。純粋な、何も考えない反射で、レンの右手がSOSHVの柄をつかんだ。必死の、芝居がかった大仰な身振りで、彼は青い刃を鞘から一気に引き抜き、両手持ちの戦闘の構えで高々と掲げ、いちばん近い怪物を真っ二つに斬り裂く態勢に入った。
彼は振り下ろそうと腕に力を込めた。
何も起こらなかった。
刃の、絶対的で形而上的な錠が、瞬時にかかった。前腕は鉛と化し――手首は、凍りついた鉄のように固まった。
レンは腕を掲げたまま立ち尽くし、剣の不変の条件に、完全に麻痺させられていた。
その悟りは、魂に直接ぶちまけられた一杯の氷水のように、彼を打ちのめした。
七つの美徳。
謙遜を満たしてない! 慈愛を満たしてない! ひとつだって満たしてないんだよ、クソッ! 俺は、自信のない、人の機嫌ばかり取る考えすぎ野郎で、振られたばっかりで、うっかり森を核で吹き飛ばしたんだぞ!
彼はゆっくりと、苦しいほどゆっくりと、役立たずの、振ることのできない神の刃を体の脇へ下ろしていき、顔からは血の気がすっかり引いていった。
いちばん近いエメラルド色のワームが、そびえ立つ肉の巨体を低く下ろし、輪状の口を、レンの頭上わずか約三メートルのところに漂わせた。熱く腐りかけた息が、彼に降りかかった。それは目のない頭を傾け、肉の匂いを嗅ぎ取った。
レンは、回転する歯の深淵を、苦痛に満ちた面持ちで見上げた。
小さく情けない泣き声を漏らしながら、彼は左手を上げ、巨大なワームに向かって、ちょこんと礼儀正しく手を振った。
「ちーっす……」
ワームが襲いかかった。
レンの生存本能が、身をすくませる恐怖を、脆いガラスのようにぱきんとへし折った。戦おうとはしなかった。振ろうともしなかった。彼は汚れひとつない白いスニーカーの踵を軸に身を翻し、脚が生み出せる限りの、狂乱した、箍の外れた速さで、水晶の洞窟の奥深くへと駆け出した。
「クソがァァァァァァッ!」レンは金切り声を上げた。その声は光る青い壁に反響し、背後では五体の巨大な獣が水晶を引き裂きながら、猛然と追ってきていた。
「せめて普通の武器くらい、買っておくんだったァァァッ!」




