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剣で縛られた男

枕元のデジタル時計が午前6時14分に切り替わった。淡い緑色の数字が、寝室の薄暗い灰色を切り裂いている。レンは、見るまでもなく自分が一睡もしていないことを知っていた。


スマホがマットレスの上で、短く鈍い音を立てて震えた。彼は手を伸ばし、親指で画面を起こした。


ユミ:レン、もう会うのはやめたほうがいいと思う。私、男の親友のことが本当に好きだって気づいたの。彼はレンにはできない形で、私のことをわかってくれるんだ。レンはすごくいい人だよ。わかってくれたらうれしいな!


レンは光る長方形を、瞬きもせずに三秒間見つめた。やがて親指がキーボードの上を滑った。慣れきった、恐ろしいほどの手際だった。


レン:わかった。君を幸せにしてくれる人が見つかって、本当によかったよ。元気で。


送信を押すと、スマホを裏返してベッドに置き、洗面所へ向かった。


歯ブラシにミント味の歯磨き粉を豆粒ほど絞り出し、口に突っ込んで、鏡の中の自分をまっすぐ見据えた。そのとき、堰が切れた。


この救いようのない、腰抜けの、どうしようもない道化が、と頭の中の声が金切り声を上げた。その声はエアホーンのような力で頭蓋の洞窟に反響した。『君を幸せにしてくれる人が見つかってよかった』だと? 本気か? ドアマットの守護聖人にでもなるつもりかよ。わかってたくせに! 三週間前に電話に出なくなった時点で、わかってたくせに! 空の牛乳パックみたいに捨てられるって、わかってたんだろ!


彼は荒々しく、せわしなく歯を磨いた。歯のまわりで白い泡が膨らむ間にも、心の声は彼をばらばらに引き裂いていった。


何を期待してたんだ、天才。誰かが本当にそばにいてくれるとでも? 人間はそういうものなんだよ! 骨の髄までしゃぶり尽くして、自分のみじめな穴を埋める踏み台にして、満たされた途端に振り返りもせず去っていく!


記憶が、八か月前へと彼を引き戻した。雨の中、縁石に座り込んで泣きじゃくるユミ。性悪な元カレに振られ、自尊心を踏みにじられた直後だった。足を止めたのはレンという馬鹿だった。温かいお茶を買い、六時間ぶっ通しで彼女の泣き叫ぶ声を聞き、夜な夜な午前三時の錯乱したメッセージに返信し続けて、彼女がひとりぼっちだと感じないようにしたのも、レンという馬鹿だった。そして彼女のほうから交際を求めてきたとき、彼女は彼を、いつでも使える感情の安心毛布に変えた。既読のまま十六時間放置し、自分の騒動を肯定しろと要求し、もっと輝いて見える誰かが現れた途端に彼を脇へ放り出したのだ。


で、それは誰のせいだ? お前のだよ! レンは冷たい水で口をすすぎ、シンクに吐き捨てた。お前じゃ足りないからだ。お前は代用品なんだよ。心臓の付いた使い捨てのナプキンだ。命がかかってたって、誰かの興味を繋ぎ止めておけやしない。


彼はタオルで顔を拭き、ゆっくりと慎重に息を吸うと、表情をいつもの仮面へと戻した。平坦で、動じない落ち着きの仮面だった。


洗面所のドアを開けた。


「レン!」台所から母の声が金切り声のように響き、朝の静けさを錆びた鋸の刃のように切り裂いた。鍋がコンロにぶつかって鳴る。「いつまで洗面所でぐずぐずしてるの!? この家のことは何ひとつ手伝わないくせに! たまには家事のひとつもして、少しは家族の役に立ったらどうなの!?」


レンは廊下で立ち止まった。肩を引き、声を柔らかく穏やかに保って、台所のドアに向かってわずかに頭を下げた。


「ごめん、母さん」彼は静かに言った。「今夜、廊下の掃除とゴミ出しはちゃんとやっておくよ」


母が答える前に、彼はかばんをつかんで玄関から滑り出た。錠がカチリと鳴った瞬間、顎に力が入りすぎて奥歯が悲鳴を上げた。


『役に立たない』だとさ、と彼は震える指で自転車の鎖を外しながら、自分を嘲った。ああそうだな。週五十時間、行き止まりのデスクワークで働いて、給料の三分の二を家の借金返済に渡してるのが、完全に役立たずだって言うんだからな。お前は家事をしないんだよ、レン、このごくつぶしが! 電気代を払うだけのお荷物だ! なんでもっと深く謝らなかった? 台所の床を舐めて綺麗にしますって、申し出ればよかったじゃないか!


彼は湿ったアスファルトの上を走った。朝の空気が頬に噛みつく。通りは目を覚まし始め、配達トラックが小さなコンビニの前を轟音とともに通り過ぎていった。


二ブロック先で、彼は庇の近くで自転車の速度を落とした。目の見えない女性が歩道に座り、レンガの壁にもたれて浅く居眠りをしていた。膝の間には空の金属缶が置かれている。レンは止まらなかった。何も言わず、見せつけるようなこともしなかった。コートのポケットに手を入れ、百円玉をひとつかみ取り出すと、手首を静かに、さりげなく、正確に振った。硬貨は音もなく、缶の中のビロードの布の上に落ちた。彼は振り返らずにペダルを漕ぎ去った。彼女が目を覚まして礼を言うのが、怖かったのだ。


角のカフェの前に自転車を停めて車輪に鍵をかけ、ガラスの扉を押して中に入った。扉の上のチャイムが明るい音を鳴らした。


出口へ急いでいた十代の少女が、スマホから目を上げもせず、彼の右肩にまともにぶつかった。


「あっ、すみません!」彼女は息を呑み、ぎこちなく横へよけた。


レンはすぐに頭を下げ、落ち着いた安心させるような会釈をした。「いえ、全然大丈夫です」


彼女は朝の冷え込みの中へ駆け出していった。レンはカフェの通路の真ん中で凍りついた。心の声が、こめかみの内側を爪で引っかくようにわめき立てた。


なんでまともに歩けないんだ!? と脳が叫んだ。脚の運動機能でも失ったのか、このウドの大木が! 入口を丸ごとふさいでたんだぞ! あの子はお前のでかくてぶざまな図体を、障害物競走みたいによけなきゃならなかった! 酔っ払ったペンギンみたいな歩き方しやがって、おかげであの子は自分が罪を犯したと思ってるぞ! 姿勢を直せ!


彼は足を無理やり動かし、脇に引っ込んだ小さなボックス席に座って、カウンターでプレーンヨーグルトをひとつ注文した。


ビニールの座席に腰を沈めると、肩が落ちた。カフェには静かなジャズと、エスプレッソマシンの穏やかな蒸気の音が満ちていた。レンは人工革の背もたれに頭を預け、木目調の模様をしたテーブルを見つめ、長く、かすれた息を吐いた。


「人はいつも去っていく」彼は、唇をほとんど越えないほどの小さな声でつぶやいた。「最初から自分のものじゃなかったものを、引き留めることなんてできない。人は必要なときだけ寄ってきて……手がいっぱいになった途端に去っていく」


「プレーンヨーグルトです、お客様」


ウェイトレスが小さな白い陶器の器とスプーンを彼の前に置いた。レンは顔を上げ、唇を固く結んだ丁寧な笑みをなんとか作って、ささやいた。「ありがとうございます」


スプーンが口に触れるより先に、荒々しい呂律の回らない怒鳴り声が、カフェの静けさを破った。


「残りはどこだって言ってんだよ!?」


レンはびくりとした。通路の向かい、窓際の広いボックス席で、よれた警官の制服を着た男が、身重とひと目でわかる若い女性の上に覆いかぶさっていた。顔は紅潮し、朝から飲んだウイスキーの饐えた臭いと、抑えのきかない傲慢さを漂わせている。彼は太くごつごつした手で彼女の二の腕をわしづかみにし、彼女の指の関節が財布の上で白くなるほど強くつねっていた。


「お願い……もう何も持ってないの」彼女はすすり泣き、涙を頬にこぼしながら、自分を傷つけないように腕を振りほどこうとした。「家賃のお金はもう渡したじゃない……」


「これで足りると思ってんのか!?」警官は唸り、重たい手の甲で彼女の肩を打った。衝撃で彼女は座席の背に押し戻された。「とぼけるんじゃねえぞ、このたかり女が! 金がねえなら、こいつをもらってく!」


太い指が荒々しく彼女の喉元へ伸び、首から下がる細い金のチェーンをつかんだ。


カフェは凍りついた。バリスタはカウンターに目を落とした。ほかの客たちは、突然コーヒーカップやスマホに異様なほど熱中し始めた。誰も動こうとしなかった。男は警察バッジを持っていた。権力を持っていた。人々の目には、ここで起きていることは自分たちに関係なく、武装した警官に逆らうことは、普通の生活にとっての死刑宣告だった。


レンはヨーグルトを見下ろした。


やめろ、と彼の心が冷たく、怯えきった声で警告した。指一本動かすな。警官だぞ、レン。本物の警官だ。お前は二十一歳の、ヨーグルトのカップしか持ってない、背骨のない無名の人間だ。自分のことだけ考えろ。ヨーグルトを食べろ。ほかの全員みたいに目をそらせ。


女性は喉を絞められたような、恐怖に満ちた喘ぎを漏らした。チェーンが首の柔らかい皮膚に食い込んだ。


警官の指が金のチェーンを引きちぎる直前、背後から二本の手が鉄の万力のように警官の肩をつかんだ。


レンは持てる限りの体の力を使って後ろへ引き倒し、重たい酔った警官を座席から丸ごと持ち上げた。一瞬、レンには角度が取れていた。腰をひねって、男の頭を硬く磨かれたリノリウムの床へ叩きつけ、気絶させることもできたのだ。


だめだ、そんなことはできない、相手は人間だ、頭が割れる! と、レンの胸の中にいる情けなく臆病な声が叫んだ。


床の代わりに、レンは体を回転させ、重い警官を横へ投げ飛ばして、約一メートル先のクッションの付いたソファ椅子へ安全に叩き込んだ。


家具が重みに軋んだ。レンはそこに立ち尽くし、胸を上下させ、脚を震わせながら、必死に膝を固めて、背が高く、威圧的で、まっすぐに見えるよう努めた。


「そ、その人から離れろ」レンはどもった。声は無様にひび割れて彼を裏切った。「その……彼女に構うな」


身重の女性は、次に何が起きるかを見届けようとはしなかった。腕への圧力が消えた瞬間、彼女はボックス席から這い出し、腹と破れた襟元を押さえて、正面の扉から駆け出していった。レンのほうは見なかった。礼のひと言もささやかなかった。ただ走り去った。


レンは扉が揺れて閉まるのを見届けた。手は震えていたが、心からの静かな安堵のため息が喉から漏れた。よかった。少なくとも、彼女は逃げられた。


激しい怒号が、彼の思考を粉々にした。


「この、クソガキがあっ!」


警官はソファから転がり落ちた。目は充血し、正気を失った純粋な憤怒で燃えていた。彼の手が、腰のホルスターを乱暴に開けた。カフェの照明の下で、鋼がきらめいた。


拳銃!


バン。


耳をつんざく銃声が、小さなカフェを引き裂いた。レンの耳のすぐ後ろで漆喰が爆ぜ、彼はぎこちなく木のボックス席の背を飛び越え、低いソファの仕切りの陰の床に激しく叩きつけられた。


なんだその格好は、このどんくさい間抜け! とレンは、打ちつけた肋骨を押さえながら自分を嘲った。心臓は檻の中の鳥のように喉に打ちつけていた。濡れた粉袋みたいな飛び方しやがって! 自分の鎖骨を折るところだったぞ! クッション越しに撃ち抜かれて、墓石には『運動音痴のため死亡』って刻まれるんだ。


カフェじゅうに悲鳴が上がり、客たちはテーブルの下へ身を投げた。重くふらついた足音が、リノリウムの上を踏み鳴らした。


「どこだ、このクソ野郎が!?」警官は呂律の回らない声で言い、銃口を振り回した。息は激しくぜいぜいと鳴っていた。「てめえのクソ頭に風穴開けてやる!」


低いソファの陰で、レンは壁に背中を押しつけ、声を殺して喘ぎながら、できる限り小さくなろうとしていた。全身がアドレナリンで震えていた。


ドス。ドス。ドス。


重い靴音が、カウンターの近くで止まった。


低い木製のディスプレイテーブルの上で、小さな黒い野良猫が、朝の冷たい隙間風を避けて丸くなっていた。耳をつんざく銃声に驚いた猫は背を丸め、毛を逆立て、警官の顔めがけて鋭く威嚇するように唸った。


酔った警官は、血走った目を動物へ向けた。苛立ちと酒と屈辱が、彼の顔を醜い唸り顔にねじ曲げた。


「その汚ねえ口を閉じろ」警官は低く唸り、揺るぎない殺意とともに拳銃を持ち上げて、照準を猫の緑の目の間にぴたりと合わせた。


彼の指が引き金を絞った。


レンには、自虐の言葉をひとつ浮かべる時間すらなかった。


筋肉が、ただ弾けた。


彼はソファの陰から、盲目的で必死の突進とともに飛び出し、ただの一歩で距離を詰めた。彼の体が小さな黒猫をすっかり覆い隠し、両腕は本能的に、守りの壁のように広がった。


バン。


その音は、反響しなかった。


それは、レンの額の奥に走る鋭く衝撃的な圧力にすぎなかった。絶対的な熱の閃光、そしてそれに続く、音の完全な消失。カフェも、焦げた火薬の臭いも、悲鳴を上げる客たちも、恐怖も、すべてが蒸発して、果てしなく押し潰すような黒の中へ消えた。


彼は落ちていた。


レンは瞬きをしたが、開くべきまぶたはなかった。周囲にあるのは墓の暗闇ではなく、深く響き渡るような紺碧の、渦巻く果てしない深淵だった。青い光のリボンが、音のない水中の潮流のように彼のそばを流れていき、広大で底なしに、頭がくらくらするほどの次元へと伸びていた。


待て。俺は死んだのか? 死んでるのか? と彼は空虚な広がりを見回しながら思った。当たり前だろ、死んだんだよ。野良猫のために銃弾の前に飛び出したんだ。このクソ雑魚の低能野郎が。世界の指導者や孤児を守って死ぬことすらできなかった――お前の顔を覚えてすらいない動物のために、自分の全存在を差し出したんだ。でも、それだけの価値はあったな。


さらに思考が渦を巻く前に、耐えがたい感覚が彼を襲った。


それは肉体的なものではなかった。意識の中心を貫く鋭く激しい裂傷だった。目に見えない針が魂を突き刺し、太い異質な糸を、彼の霊的な核のまっただ中へ引きずり通したかのようだった。


レンは悲鳴を上げようと口を開いたが、空気が一気に肺へなだれ込んだ。


ドサッ!


彼は信じられないほど柔らかい何かに、顔から突っ込んだ。鋭く、みっともない悲鳴が漏れた。


「いてっ――!」


レンは肘をついて体を起こし、口の中の鮮やかなエメラルドグリーンの草の葉を吐き出した。素早く身を起こし、両手を額へ飛ばして、あるはずの大きな穴を探った。


そこには何もなかった。滑らかな肌。血もない。傷もない。


彼は慌てて頭をこすったが、手が顔を下へ辿るうちに、奇妙な感覚が彼を包んだ。指が違って感じられた。肩は細く、背中には二十一歳のデスクワーカーにつきものの慢性的な張りがなく、関節にも長年抱えてきた鈍い痛みがまったくなかった。体は軽く、しなやかで、まるで……十八歳に戻ったようだった。


彼はゆっくりと見上げた。


喉の奥で息が止まった。


頭上には、菫色と柔らかな金色のグラデーションに染まった、ありえないほど広大な空が弧を描いていた。それを縁取る巨大でぎざぎざの山脈は、巨大な黒曜石の歯のように雲海を突き破っていた。周囲の木々は聳え立つ巨人で、その樹皮は自然の光でかすかに輝き、空気は清らかで、エネルギーに満ちて濃く、肺がちくちくするほどだった。


違う。違う、違う、違う。レンの頭は、すぐさま狂乱のフル回転に入った。これは昏睡中の夢だ。あの銃弾で重度の、回復不能な前頭葉損傷を負って、俺は今ファンタジーの風景の幻覚を見てるんだ。その間にタナカさんは俺のオフィスチェアを盗んでるんだ! 目を覚ませ! 目を開けて消毒液の匂いを嗅げ、この、クソ白昼夢野郎が!


彼が慌てふためいていると、重く金属的なコツンという感触が、右の腰をかすめた。


レンはびくりとして、視線を落とした。


精巧に編まれた暗色の革ベルトで腰にしっかりと固定されていたのは、細長いほっそりとした鞘だった。飾り気はないのに、静かで途方もない密度の気配を放っていた。


彼は長い五秒間それを見つめ、心臓を喉元で脈打たせた。ためらいながら、震える指を伸ばして、冷たく凹凸のある柄に巻きつけた。


かすかな金属のささやきとともに、レンは刃を鞘から三インチだけ引き抜いた。


淡く、魅惑的な青い光が、草の上に溢れた。刃の鋼は、深いサファイア色の輝く結晶質の金属から鍛えられており、不思議な日差しを果てしない海のように捉えていた。そして、その異次元の青い鋼の樋に沿ってくっきりと刻まれていたのは、鋭くはっきりとした文字による、たったひとつの単語だった。


REN


レンは光る青い刃を見つめた。顎は緩み、瞳孔は針の先ほどに収縮していた。


なんなんだよこのクソ青い剣は!? と、彼の声は内側で金切り声を上げた。自分の心の虚空に向かってあまりに激しく叫んだせいで、頭蓋が割れるのではないかと思ったほどだ。なんで俺の名前が刻まれてるんだ!? なんで俺は十代になってるんだ!? こんなバカでかくて狂った世界で、たったひとりで、何をすればいいっていうんだ!?

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