第33話 野生の楠祝が現れた!
まさか翼鷹まで来るとは思わなかった。
あの子は八歳の時、
梓談に木綿の袴を引き裂かれてから、
ずっと梓談を避けていたのに。本当に珍しい客だ。
その次は、蘭夫人のところの児墨まで?
あの子も参加するのか?
蘭夫人はいつも、児墨はまだ物事が分からないから、
みんなで面倒を見てやってほしいと言っている……。
私も少し気をつけておこう。
「えっ?
錦崇、私たちの部に入れる?
お願い、あと一人足りないの!」
梓談はすぐに無表情の錦崇のところへ駆け寄り、
その腕を引っ張って、失礼なくらい何度も頼み込んでいた。
私は慌てて近づき、娘をたしなめる。
「錦崇には他にやることがあるの。
無理に誘ってはいけないよ!」
「誰かいるか?」
その時、玄関のほうからよく通る大きな声が響いた。
振り向くと、禎家の坊ちゃん、楠祝が立っていた。
彼はゆっくりこちらへ歩いてくる。
私は吉帥と話した内容を思い出した。
あとで少し、「話をする」ことができるかもしれない。
「どうか私を君たちの部に入れてくれ。
賴太医から計画を聞いたんだ。
私も社会のために力になりたい。
星御のためにも……」
禎家は今ちょうど調査を受け始めているところだ。
まだ何もはっきりしていない段階で、
この子が部に入るのはまずい。
娘が事件に巻き込まれるかもしれない。
だが、ここで断るのもまずい。
今はひとまず、何も顔に出さないでおこう。
まずは錦崇に、七人目の枠を埋めてもらうしかない!
「父上、これでやっと七人です、
よかった!あれ?
父上の目って、あんなに綺麗だったんですね。
まるで……紅髄玉みたい!」
梓談は不思議そうに私を見ていた。
私はすぐに顔を背けて気持ちを整え、
そっと錦崇のそばまで歩いて、小声で言う。
「錦崇、お前は人助けに熱心だと父は分かっている。
梓談の作った部に入ってやってくれ。」
錦崇は、どれほどの間だったのか分からないくらい、
じっと私を見返してきた。
さっき梓談が部の説明をしていたが、
私はほとんど聞いていなかった。
あの時から、彼の表情はずっと変わっていない。
断るつもりなのか、それとも考えているのか、
私には見分けがつかなかった。
駄目だ!
作り笑いが、緊張に飲まれそうだ。
そうだ、まずは落ち着いて状況を整理しなければ。
他人に無理をさせるのは危険が大きい。
壕磨湖の噂を確かめた時だって、あの時間はあまりにも気が重かった。
私は、自分が部の監督役になると決めた。
少なくとも、娘に何かあった時、すぐ助けられる。
「お前たちは、何の部を作るつもりなんだ?」
「会話と対人不安部だよ!」
「会話と対人不安部?」
会話……対人不安……?
会話と対人不安部って、一体何なんだ!?
私が言葉に詰まったのを見たのか、梓談は慌てて言い足した。
「会話と対人不安部は略称でね!
えっと、社会や......対人......?だったかな?」
社会や対人関係に悪影響が出るやつ?
不……冷静にならないと。
さすがに、そこまで大げさではないはずだ。
「たしか……転覆性のある部活?
待って、ちょっと聞いてみる!」
転覆性?
それはつまり、
社会や対人関係にさらに深刻な悪影響を及ぼすという意味なのか?
だとしたら……
社会や対人関係に深刻な悪影響を与える方法を研究する部なのか?
どうしてだ?
梓談が反抗的になったのか?
私はこれまで、
社会や対人関係にまで悪影響が出た青少年の事例をいくつも扱ってきた。
原因だって分析してきた……。
だが!
だが、私が娘をないがしろにしていたのか?
それとも甘やかしすぎたのか?
あるいは、
最近の若者の流行を見落としていただけなのか?
梓談が楠祝のほうへ歩いていく背中を、
私はただ見つめていた。
あの二人は何を確認しているんだ?
まさか、吉帥の予言は、
もう先に起きてしまったのか?
梓談には成長してほしい。
だが、こんな方向の成長は望んでいない!
いつの間に、
そんなふうに道を踏み外したんだ!?
社会や対人関係に深刻な悪影響を
与える方法を研究するようになってしまうなんてええっ!!
目の前が、すっと暗くなった。
おかしい。
さっきまであんなに浮き立っていた娘が、
どうして今は、そんなに憂いを帯びた顔で私を見ているんだ?
……いや、待て。
私はさっきまで広間にいたはずだ。
どうして寝台に横になっている?
「梓談……どうして父は寝台にいるんだ?」
「うぅ、父上……。
さっき急に立ったまま動かなくなって、
目もすごく見開いてたんです。
真っ赤な目にすごい顔で、ずっとみんなを見つめていて……。
そのあと錦崇が呼んでもまったく反応しなかったので、
急いでみんなに手伝ってもらって、父上をここまで運んだんです。
父上、本当に大丈夫ですか?」
「父は大丈夫だ。今は何刻だ?」
「四つです!」
「すまない、梓談。
部のことは明日また詳しく話してもいいか?
友達をしっかりもてなしてやりなさい。
父はこのあと、天寿宴へ向かわねばならない。」
「うん、わかった!」
「梓談、お前は父の言うことをよく聞く子だ。
だから流行だからといって、
社会や対人関係に深刻な悪影響を与える方法なんか研究してはいけない。
今夜、そのことはちゃんと話そう!」
「えっ? 何それ?」
「広間に父が持ち帰った包子がある。
先にみんなで食べていなさい!」
「うん?わかった!
梓談、父上が帰ってくるの待ってるね!」
娘が真剣な顔でうなずくのを見て、
私はすぐ寝台から起き上がった。
それから身だしなみを整え直し、
不安を抱えたまま、天寿宴へ向かう馬車に乗り込んだ。




