第29話 死んだ心を愛し続けても、最後に返ってくるのは死んだ心だけ。
でも僕はかなり頭がいい。こういう時は、
言い方を変えればいいんだ!
「どうして僕にだけ聞くの?
参仁のことも尊重しないと……!」
僕が見ると、
参仁は部活設立申請書を手に持っていた。
そこには大きく「会話と対人不安部」と書かれている。
どうしてこいつがこんな紙を持ってるんだ?
まさか、前から馬槍社に不満があったのか?
「参仁、申請書を持ってきてくれてありがとう。
昨日の雑談を覚えてたなんて、意外だったよ」
「いえ。お役に立てて、
本当によかったです!
人数が足りないことは心配しなくて大丈夫です。
うちの副部長もとても熱心ですから。
普段から困っている人を助けること。
それが馬槍社の合言葉です!」
参仁は満足そうに口元を引き結び、
それから目を開けて僕を見た。
その目は、織りたての絹布みたいに、
期待の光を映していた。
「そうだ、僕も参加したい!」
慌てるな、翼鷹!
よく考えれば、
これは児墨に近づける絶好の機会じゃないか?
こういうのは、推理ものではよくある展開だ。
目立たず部員になって、
熱心に部活の話し合いに参加する。
そうすれば相手の素性も探りやすいし、
最後には陰謀も止められる。
僕は気持ちを整えてから、ははっと笑った。
「皆さん、
もう楠祝師兄のいる治療室に入れます。
今は容体も安定して……。」
賴太医がそこまで言ったところで、怒鳴り声に遮られた。
「僕は絶対に認めない! そんなの許すか!」
治療室の中から楠祝先輩の怒鳴り声が響いた。
僕たちが一緒に中へ入ると、
星御先輩の顔色はひどく青白く、
力がない。
彼女は自分の腰の帯をきつく握っていた。
僕は眉をひそめて、
楠祝師兄を見た。
「楠祝師兄、
人として過ちはきちんと認めるべきです!」
「そうだ、翼鷹。
そんなことは僕だって分かってる。
僕はちゃんと父上に話すつもりだ!
大理寺に調べてもらって、処罰も受ける!
翼鷹、ちゃんと聞いたか?」
楠祝師兄は誇らしげな顔をした。
すると、星御師姐がすぐに顔を上げる。
「楠祝、あなたは知らなかったことにして!
大理寺が調べても、あの衛士にしか行き着かないわ……!」
「星御、さっきも言っただろ。
僕は潔白に振る舞いたいんだ。
処罰くらい……。」
「でも公表されたら、
あなたが過ちを犯したのは事実になるのよ。
そうなれば、
うちの父が婚約破棄を言い出す理由として、
もっと十分になってしまう!
楠祝、少しはよく考えて。
意地にならないで!」
「僕は意地になってるわけじゃない。
僕はただ、
自分の過ちは受け入れるべきだと思ってるだけだ!
だから、知らなかったふりをするなんて、
僕の生き方として絶対に認められない!」
楠祝師兄はずっと僕を見つめたまま、
強い口調で言った。
「君の生き方のために……
私たちの未来を捨てるの?」
「星御、なんでそんな刺のある言い方をするんだよ?
口出ししすぎだろ、
僕は禎家の坊ちゃんなんだぞ!」
「刺がある?
あなた、私より父のことを分かってるの?」
楠祝師兄が怒鳴ったあと、
星御師姐はふっと笑った。
「ごめんなさい、口を出しすぎたわね。
楠祝くん、自分でどうするか決めてちょうだい。
みんな、付き添ってくれてありがとう。
私は先に戻るわ!」
「星御?」
星御師姐はみんなに向かって軽く頭を下げると、
「星御!
どうしてだ?」
呆然とした楠祝師兄をその場に残し、治療室をあとにした。
「星御! どうしてだ?
ずっと僕を見て……
そんなにおかしいのか?」
楠祝師兄はさっきまで呆然と扉のほうを見ていたのに、
急に鋭い目つきで僕をにらんだ。
「ははっ、おかしいのか?」
僕たちは泣きわめき始めた楠祝師兄をそろって無視して、
診療室を出た。
「誰か師兄を慰めに行く?
先に言っておくけど、僕には無理だよ!」
参仁はひどく落ち込んだ顔をしていて、
みんなの表情も面倒ごとには関わりたくなさそうだった。
児墨は彼のそばまで歩いていき、その手を握る。
「参仁、あなたにそういう熱い気持ちがあるの、
本当に素敵だよ!」
参仁はゆっくりと自信ありげな笑みを浮かべた。
そして何かを言いかけた、その時だった。
扉の外から、また一人の衛士が駆け込んできて、
よく通る大きな声で叫んだ。
「霜将軍、ご来訪です!」
それを聞いた瞬間、
参仁の顔から表情がすっと消えた。
「今日は何なんだ、見舞いの日なのか?
梧慶くん典礼が終わったばかりなのに、
すぐ来るなんて!」
賴太医は自分の襟元を整え、
髪を撫でながら扉のほうへ歩いていった。
「いや……」
僕は参仁が小さな声でそうつぶやくのを聞いた。
そして次の瞬間、
扉口に大きくて威圧感のある男が現れた。




