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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第6章:いざ東の国へ! 霊界タクシーと小さなおどおど弟子

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第72話 オカンの卒業と、一人きりの出張鑑定

 旧公爵領が『世界一クリーンで豊かな街』として生まれ変わってから、数ヶ月の時が流れた。

 かつて死の呪いに覆われていた土地は、今や異種族が入り乱れる巨大な経済特区へと成長しとった。

 街の中心にそびえ立つ『エコ魔導燃料プラント』からは、クレアの神聖魔法によって完全無害化された澄んだ空気が排出され、それに併設された『極楽の湯』は、連日連夜、人間と魔族の笑い声で溢れ返っている。


「……よし、今日の魔導燃料の出荷分、ルミナ商業ギルドへの引き渡し完了です。カイル殿、王都からの追加発注はどうなっていますか?」

「ええ、アレン隊長。王都の貴族たちは、もはやこのクリーンな燃料なしでは冬を越せません。足元を見て、きっちり三割増しの価格で契約を更新しておきましたよ」

「さすがですね。クレア様、第参プラントのフィルター浄化、お願いできますか?」

「はい! お任せください、アレンさん。……『滅菌・脱臭の極光クリーン・パージ』!」


 プラントの屋上からその様子を見下ろしながら、うちは深く、心地よい溜息を吐いた。

 エルゼは領主の館で、王都の貴族たちを手玉に取りながら辣腕を振るい、完全に「女帝」としての地位を確立しとる。

 アレンは街の治安を守る堂々たる警備隊長になり、カイルは物流と交渉を回す冷徹な頭脳として、クレアは街の空気を守る要として、それぞれが自分の足でしっかりと立ち、この街を回しとるんや。

 もう、あの頃の「迷い羊」たちの顔はどこにもあらへん。


「……立派になったなぁ、あんたら」


 うちは、パイプ椅子に腰掛けたまま、膝の上にタロットカードを展開した。

 めくったカードは、**『愚者(The Fool)』の正位置**。

 意味は、型にはまらない自由、無邪気な一歩、そして……「新しい旅立ち」や。


「……そろそろ、潮時やな」


 うちは、カードを撫でながら目を細めた。

 この世界に呼ばれて、王都の腐敗を洗い流し、魔族領の不法投棄を片付け、そしてこの呪われた土地を楽園に変えた。

 うちのお節介がなくても、もうこの子らは絶対に倒れへん。立派に独り立ちした子供たちを、いつまでもオカンが過保護に監視しとったら、あかんのや。

 嬉しいような、少しだけ胸の奥がチクッと寂しいような、複雑な親心やった。


「……さて。お別れの挨拶なんかしたら、アレンの奴、泣きついて引き留めてきそうやからな。……おばちゃんは、スマートに去らせてもらうで」


===========


 その日の深夜。

 街が深い眠りについた頃、うちはヒョウ柄のポンチョをすっぽりと被り、アイテムボックスから愛用の特大トングと水晶玉だけを腰にぶら下げて、領主の館に忍び込んだ。

 エルゼの執務室の机の上には、未決済の書類が整然と積まれている。

 うちはその一番上に、一枚の便箋と、山盛りの「色とりどりの飴ちゃん」をドンッと置いた。


『エルゼちゃん、アレン、カイル、クレア。

 あんたら、もう立派な大人や。おばちゃんの出番は、この街にはもうあらへん。

 留守番、しっかり頼んだで! 困った時は、この飴ちゃん舐めて、自分の頭で考えなはれ。

 またどっかの街で、派手な噂が聞こえたら、それはうちのことやと思っとき。

 ほな、お達者で!

                  ――静江より』


 短い手紙や。でも、うちらの間にこれ以上の言葉は野暮っちゅうもんやろ。

 うちは、寝静まった街の景色を窓から一度だけ見渡し、誰にも気づかれんように、夜の闇へと溶け込んでいった。


===========


 夜明け前。

 旧公爵領の境界を越え、名もなき街道を一人、東へ向かって歩き続ける。

 東の空が白み始め、夜露に濡れた草花がキラキラと光を反射しとった。

 久しぶりの「一人旅」や。

 アレンの背中も、カイルの皮肉も、エルゼの優雅な笑い声も、クレアの祈りもない。

 風の音と、自分のブーツが土を踏む音だけが響く。


「……あーあ。なんか、急に静かになってもうたな」


 うちは大きく伸びをして、朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 寂しくないと言えば嘘になる。

 でも、あの骸骨の神様が言うとった「世界崩壊の理由」ってやつは、王都や魔族領のドブさらいだけじゃ、まだ根本的には解決してへんのやろう。

 世界は広い。まだまだ、どこかで「心のゴミ」を溜め込んで泣いとる奴がおるはずや。


「……そういや、この世界の商人が噂しとったな。東の果てには、米と醤油の匂いがする島国があるって。まるで、前世の歴史で習った『黄金のジパング』みたいな場所やないか」


 うちは、アイテムボックスから「メロン味」の飴ちゃんを取り出し、ポイッと口に放り込んだ。

 濃厚な甘さが、一人きりの旅の始まりを祝福するように、舌の上で弾ける。


「よし! 次は東の国で、荒稼ぎ……いや、人助けしたろか! 未知の食材と、新しいお客さんが、おばちゃんを待っとるで!」


 ギラギラのデコネイルが光る右手を高く掲げ、うちは東の空に向かってガハハと笑った。

 見た目は派手なギャル、中身は最強のオカン。

 御堂静江の『出張鑑定』は、まだ始まったばかり。

 世界中の迷い羊を片っ端から値切り倒して、ピカピカに磨き上げるまで、おばちゃんの運命は、まだ終わってへんで!


読んでくれてありがとうございます!


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