第68話 呪われた大地と、オカン流の土壌改良
王都を出発して数日。
うちらの乗った馬車は、王都の北に広がる広大な『旧グレミオ公爵領』へと足を踏み入れた。
エルゼが「向こう十年の免税」という最高の条件をもぎ取って手に入れた、新しいルミナの領地や。
だが、馬車から降りたうちらの目の前に広がっていたのは、豊かな穀倉地帯とは似ても似つかない、絶望的な光景やった。
見渡す限りの畑が赤茶色に変色し、作物は一本残らず枯れ果てている。地面からは、王宮の地下や魔族領で嗅いだのと同じ、あのドス黒い「瘴気」がモヤモヤと立ち上っとった。
「……ひどい有様ね。あの大悪魔、私がここを手に入れると分かっていて、地脈の奥深くまで『死の呪い』を染み込ませたというわけですか」
エルゼが扇子で口元を覆い、忌々しそうに眉をひそめる。
「静江さん、これは予想以上です。土そのものが魔力的に死んでいる。魔法で表面の瘴気を払っても、作物が育つようになるには数十年はかかりますよ……」
カイルが地面の土をすくい上げ、眼鏡の奥で絶望的な分析を下した。アレンも悔しそうに拳を握りしめとる。
「……はぁ。あんたら、ほんまに『呪い』とか『魔法』って言葉が好きやなぁ」
うちは呆れたように溜息をつくと、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出し、枯れた大地の上に広げた。
「ええか、おばちゃんから言わせればな。こんなもん、ただの『酸性過多』と『極度の栄養不足』やわ!」
うちはバシッと、一枚のカードをめくった。
『女教皇』の逆位置。閉鎖的で、栄養が偏っているという暗示や。
「悪魔の瘴気やかしらんけど、土の中のええ菌まで全部殺してしもうたから、こんなドブみたいな色になっとるんや。……でもな、土壌汚染なら、中和して栄養をぶち込めばええだけのことやわ」
うちはスカジャンの襟を立て、ニヤリと笑った。
「ほな、さっそく『異世界合同・リサイクル物流ハブ』の初仕事といこか! アレン、カイル! 魔族領のバアルたちから取り寄せた、あの『特製リサイクル肥料』の出番や!」
「特製リサイクル肥料……あっ、もしかして魔族領で回収したアレですか!?」
アレンがハッとして、うちらの後ろに続く荷馬車へと走った。
荷馬車に積まれているのは、魔族領の「腐肉の森」や「世界の最終処分場」を掃除した時に大量に回収した、魔獣の骨や不法投棄物の残骸……それをゾルゲたちアンデッド従業員が、粉々に砕いて浄化乾燥させた**『極上のカルシウム&魔力ミネラル肥料』**や。
「せや! 不法投棄されてたゴミも、砕いて撒けば最高の栄養分や! カイルちゃん、あんたの風魔法で、この肥料を領地中に行き渡らせなはれ!」
「……なるほど! 呪いの瘴気を『酸性』と捉え、魔族領の強力なアルカリ成分(骨粉)で中和する……。信じられない、魔導の常識を覆す土壌改良です! 行きます!」
カイルが魔導書を開き、巨大な竜巻を生み出す。
アレンが荷馬車の袋を次々と切り裂き、中から溢れ出した真っ白な骨粉肥料が、風に乗って赤茶けた大地に猛烈な勢いで降り注いでいった。
ジュワアアアッ……!
呪われた大地が肥料を吸い込み、化学反応を起こしたように白い蒸気を上げる。ドス黒かった土が、みるみるうちにふかふかの、栄養たっぷりの黒土へと変わっていくやないか。
「よし、土台はできた! アレン、あんたの聖水モップ槍で、一気にこの土地を耕しなはれ! 呪いの根っこごと、ひっくり返すんや!」
「はいっ! ルミナの未来、僕が切り拓きます! はあああッ!」
アレンが大地に飛び込み、目にも止まらぬ速さで槍を振るう。
聖水の浄化作用と物理的な「耕し」が組み合わさり、かつてないほど広大で、生命力に満ちた『極上の農地』が、瞬く間に完成していった。
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「……信じられないわ。たった数十分で、死の土地がこんなに豊かな黒土に変わるなんて」
エルゼが、ふかふかになった土をヒールの先で踏みしめ、歓喜の震えを漏らした。
「せやろ? これで農作物は選び放題、しかも魔族領との直通の物流拠点も作り放題や。……王都の古狸どもが『十年免税』なんて言質をくれたおかげで、ここから上がる莫大な利益は、ぜーんぶエルゼちゃんの懐に入るっちゅうわけや」
うちはアイテムボックスからオレンジ味の飴ちゃんを取り出し、エルゼに向かって指で弾いた。
「ええ。……これで勝ったわ。王都の連中が気づいた頃には、この旧公爵領は、国を凌ぐほどの経済と武力の中心地になっているはずよ」
エルゼは飴を空中でキャッチし、妖艶に、そして底知れぬ野心に満ちた笑顔を浮かべた。
相手が仕掛けた「最悪の呪い」すらも、異世界合同のリサイクルパワーで最高の資産へと変えてしまう。
成り上がりの女帝と、無敵のオカン。二人の快進撃は、この新しい大地を舞台にして、いよいよ王国全土を飲み込もうとしとったんや。
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