第57話 更地に降る光と、次なる鑑定への旅立ち
魔族領の最果て、かつて「世界の最終処分場」と呼ばれたその場所は、今や見渡す限りの平穏な更地へと生まれ変わっとった。
天を衝くほどに積み上がっていたガラクタの山も、鼻を突く瘴気の霧も、おばちゃんの鑑定とみんなの浄化魔法によって、キラキラとした光の粒子に変わって空へと消えていったんや。
うちは、茶色の綺麗なロングヘアを乱暴に結び直すと、スカジャンの襟を正して、更地の中心にどっかりと腰を下ろした。
膝の上に置いた水晶玉は、もはや一点の曇りもない透明な輝きを放ち、周囲の澄んだ景色をそのまま映し出しとる。
デコネイルが光る指先で水晶を撫でると、そこには不気味な予兆やなくて、これからこの地に集うであろう魔族たちの「ささやかな希望」が、柔らかな光となって浮かんでは消えた。
「静江さん、本当にお疲れ様でした。僕、正直言って、ここが本当に綺麗になるなんて、最後の最後まで信じられなかった。でも、あなたの占いが示した通り、すべての未練を正しく分別すれば、呪いさえもこうして穏やかな光に還るんですね」
アレンが聖水のモップ槍を傍らに置き、清々しい顔で広大な空を仰いどる。
鎧に付いた泥を払うその手つきにも、かつての迷いはあらへん。
カイルも、ボロボロになった魔導書を大切に抱えながら、眼鏡の奥の瞳を優しく細めた。
「ええ。静江さんの鑑定は、単に物の吉凶を占うだけじゃない。その物が背負わされた過去を解きほぐし、未来の役割を指し示す。これは、王都の魔導師たちが積み上げてきた、どの攻撃魔法よりも強力で、どの癒やし魔法よりも慈愛に満ちた、究極の『生活の魔法』ですよ」
うちは、二人の真っ直ぐな言葉に照れ隠しのハチミツ飴を口に放り込んだ。
ガリッと噛み砕くと、懐かしい黄金色の甘さが、戦いで疲れ切った体中に染み渡る。
「二人とも、えらい持ち上げてくれるやんか。うちはただ、ぐちゃぐちゃになってるのが我慢ならんだけやわ。運命も部屋も、溜め込みすぎたら腐る。腐る前に分別して、新しい風を通す。占い師の仕事なんて、煎じ詰めればそれだけのことなんやから。な、バアルさん?」
うちは、ずっと傍らで見守っとった魔王の側近に向かって、不敵な笑みを浮かべた。
バアルは深く深く、最敬礼の姿勢で頭を垂れた。
「静江殿。貴女がこの地に施した『大掃除』は、魔族領の歴史を根底から変えるでしょう。不毛の地が、こうして命の芽吹く更地となった。魔王陛下も、貴女という存在をこの領地に迎えられた幸運を、心より感謝しておられます」
「大げさやわ。でもな、バアルさん。ここをただの空き地にしておくんやなくて、これからは魔族領全体の『リサイクルセンター』にするんやで。壊れたもんを捨てに来るんやなくて、直しに来る場所。心にゴミが溜まった奴が来たら、うちが占って心の整理を手伝うたる。そうやって、循環を作っていけば、ここは二度とゴミ溜めには戻らへんわ」
うちは立ち上がり、更地を吹き抜ける風を全身で受け止めた。
魔族領編を通して、うちは確信したんや。
この世界は、汚れに満ちてるんやない。ただ、「分別の仕方」を忘れてるだけなんやわ。
おばちゃんがやるべきことは、まだ山ほどある。
王都から追放されたあの日、うちの水晶玉に映った「最悪の未来」は、まだ完全に消えたわけやあらへん。
この魔族領を浄化したことで、世界全体の運命の歯車が大きく動き出したのを、占い師としての直感が告げとった。
「さぁ、アレン、カイル! 湿っぽい顔してんと、次の現場へ向かうで! 魔族領が綺麗になったら、次は人間界の淀みを掃除しに行かなあかん。おばちゃんのトングが、世界中の不浄を分別し尽くすまで、引退なんてしてられへんからな!」
うちは水晶玉をポーチに仕舞い、腰のトングをシャキーンと高らかに鳴らした。
更地に降り注ぐ陽光は、うちらの新しい旅路を祝福するように、どこまでも明るく輝いとる。
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