第38話 不吉な占いと、分別の迷宮
ギルバートとかいう、タキシード着たチビ魔族について歩き始めたけど、道中のひどさと言ったらあらへん。木々はどす黒い粘液を垂らし、地面は腐った骨やら得体の知れんガラクタやらが、分別もされずに散らばっとる。おまけに、どっからともなく「ヒィーヒィー」と、壊れた笛みたいな不気味な鳴き声が聞こえてくるし、湿気でスカジャンの袖が肌に張り付いて不快極まりない。
「……あー、もう! 歩きにくいわぁ! ギルバート、あんたこれ確信犯やろ? もっとマシな道、案内しなはれ。こんなヌルヌルした道、大阪の地下街やったら速攻で苦情もんやで!」
うちは泥を跳ね上げながら、先を歩くチビ魔族の背中に声を張り上げた。ギルバートは振り返りもせず、ククッ、と肩を揺らすだけや。
「おやおや、督察官。ここらはまだ『きれいな方』ですよ。ゾルゲ様の館へ続く道は、不浄が積み重なって生きた迷宮となっております。一歩間違えれば、あなた方もそのまま『素材』として山の一部になるだけですな。それが嫌なら、せいぜい私に捨てられないよう、必死についてくることです」
慇懃無礼な口調に、アレンが剣の柄を強く握り、カイルが眉を寄せる。霊視の使いすぎで頭も重いし、水晶で先を見るのも今はちょっとしんどい。おまけに魔族領特有の「魂を削るような重苦しい空気」のせいで、足が鉛のように重いわ。
「……よし、ちょっと休憩や。こういう時は、初心に帰るのが一番やわ」
うちは立ち止まると、アイテムボックスから、使い古して角が少し丸まった**『タロットカード』**を取り出した。
「静江さん、こんなところで占いを? 敵の真っ只中ですよ」
カイルが不思議そうに覗き込んでくる。
「当たり前や。主婦の勘だけじゃ、このゴミ屋敷の全貌は見えへん。……こういう『ワケありの物件』に踏み込む時はな、カードに聞くのが一番手っ取り早いんやわ」
うちはぬかるんだ地面の上に、アイテムボックスから出した綺麗な布(王宮から借りてきた最高級の絹や)を敷き、カードを念入りにシャッフルした。精神的な疲れで指先が震えるけど、カードを操る時だけは不思議と集中できる。
「……さて、この先に待っとる『隠し事』はどないなっとんねん?」
うちは勢いよく、一枚のカードをめくった。
出たのは――『月(THE MOON)』の逆位置。
「……あちゃー。やっぱりな」
「どういう意味ですか?」
アレンが心配そうに身を乗り出す。
「『月』の逆位置はな、『隠れてた嘘がバレる』とか『霧が晴れる』っちゅう意味や。……つまり、今うちが見てるこの道は、**全部『ハッタリ(幻覚)』**やっちゅうことやわ。ギルバート、あんた、うちをどこに連れて行こうとしてるんや?」
うちが睨みつけると、ギルバートの眼鏡の奥の瞳が、一瞬だけ鋭い縦長に光った。
「……ククッ、さすがは占い師。バレてしまいましたか。そうです、まともに歩けば千年はかかる迷宮ですよ。……ですが、ここから先は『実力行使』でゴミをどけていただく必要がありましてね」
ギルバートが指をパチンと鳴らすと、周囲の霧が激しく渦巻き、目の前の風景がガラガラと音を立てて崩れ出した。美しい(魔族領にしては、やけど)森の景色が剥がれ落ち、現れたのは、何千体ものスケルトンやゾンビが、分別もされずに絡まり合い、巨大な**『死骸の壁』**となって道を塞いでいる地獄絵図やった。
「……なんや、これ。不法投棄もここまでくると芸術的やな」
うちはタロットカードを懐に仕舞い、水晶玉を再び構えた。霊視の代償で頭の奥がズキズキ痛む。視界の端には、一瞬だけ**「ゴミ屋敷の清掃ドキュメンタリー」**のテレビ画面が重なって見えたわ。
「静江さん、これ……中心核を叩かない限り、無限に再生します! カイル、広域魔法の準備を!」
「待て、アレン! 消耗が激しすぎます。この物量をまともに相手にしていたら、ゾルゲの館に着く前に魔力が底をつく!」
二人が揉めている中、うちは水晶の奥に映る「ある一点」を指差した。
「……二人とも、喧嘩せんといて。……ええか、カイルちゃん。あそこ、あの右側の腰骨が三つ重なってる隙間や。あそこに、魔族領の『ゴミ集積所の鍵』みたいなもん……魔力の結節点が刺さっとる。そこをピンポイントで叩きなはれ」
「ゴミ集積所の……!? ……なるほど、あそこが魔力のバイパスになっているのですね!」
カイルの放った精密な雷撃が、うちの指した一点を正確に貫いた。ガガガッ! と嫌な音がして、巨大な死骸の壁が崩れ落ちる――かと思いきや。
「ヒヒッ……オカアサン……。マダ……、マダ、オ掃除……タリナイヨ……」
崩れた隙間から、またあの地下牢で聞いたような気味の悪い声が聞こえてきた。崩れた肉塊が再び合体し、今度は巨大な**『ゴミの巨人』**の形を作り始めたんや。
「……あー、しつこい! これ、元締めにたどり着く前に、まずはこの『庭の整理』から始めなあかんみたいやわ。ギルバート、あんたもニヤニヤ見てんと、もっとマシな近道教えなはれ! 次に嘘ついたら、その眼鏡、浄化の塩で真っ白に磨き上げたるからな!」
ゴミの巨人が、地響きを立てて一歩踏み出してくる。その衝撃で、足元の汚泥が跳ね、うちのスカジャンに飛び散った。
「……あ、あかん。堪忍袋の緒が、今、完全にブチ切れたわ」
うちは泥がついた袖をじっと見つめ、それから巨人を見上げた。
「アレン、カイル! 攻撃はあっちの巨人に任せ。うちはな、この『場所』そのものを大掃除するわ! 土台が綺麗になれば、そんなバケモノ、立ってられへんようになるんや!」
うちはアイテムボックスから、王宮の厨房で借りてきた『特大の金タライ』と、『最高級の洗剤(聖水入り)』を取り出した。
「カイル! その巨人の足元に、魔法で思いっきり水を撒きなはれ! 水浸しにするんや!」
「えっ? あ、はい! 水よ、奔れ!」
カイルの魔法で巨人の周囲が巨大な水溜りになった瞬間、うちはバケツ一杯の「浄化の塩」と洗剤をその中にぶちまけた。
「よっしゃ! これで魔族領初の『自動洗浄機』の完成や! アレン、あんたは巨人の膝の関節を狙って、塩水を塗り込みなはれ!」
即席の「最強洗剤」が巨人の足元を洗い流すと、肉と骨を繋ぎ止めていた瘴気が、まるで換気扇の油汚れみたいにペリペリと剥がれ落ちていく。巨人は足元から崩れ、自重を支えきれずにドロドロの液体となって地面に溶けていった。
「……ふぅ。これで少しは風通しがようなったわ。ギルバート、案内を続けな。次はもっと手際ようやってや」
おばちゃんのあまりの「掃除力」に、ギルバートは初めて引きつったような笑いを浮かべた。ゾルゲの館への道は、まだまだ険しい。やけど、おばちゃんの怒りのパワーは、魔族領の迷宮すらも「分別」し始めていた。
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