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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第31話 王宮の心臓と、腐敗の残り香

 国王の書斎を包む沈黙は、まるで深海の底に沈んだ沈没船の中のようやった。


 陛下は、うちが差し出したハチミツ味の飴ちゃんを掌の上で転がし、しばらく言葉を失っとった。窓の外では、うちが仕掛けた「ゴミ袋パレード」の余韻がまだ王都の街並みにこびりついとる。

 陛下はようやく飴を口に放り込むと、その甘さにふっと目元を緩めたが、次の瞬間にはまた、数多の民の命を値切り倒してきた冷徹な統治者の顔に戻った。


「……静江。お前がルミナの自治を求めるのは分かった。だが、王宮の最深部を掃除するということは、この国の『心臓』に触れるということだ。しくじれば、お前だけでなく、ルミナの民も、あのアレンという騎士も、すべてが歴史の闇に呑み込まれることになる。それでもやるというのか?」


「陛下、あんたはまだ『値切ろう』としてるな? うちはな、命を懸けて仕事するんや。報酬が『自治権』だけじゃ、割に合わんわ。……これ、見なはれ」


 うちはスカジャンの内ポケットから、前世のスーツにずっと入っとった使い古しの『スーパーのチラシ』を取り出した。アイテムボックスから出したその紙切れは、四隅が少し擦り切れとる。裏面には、カイルから聞き出した王宮の力関係や、不透明な金の流れがびっしりと書き込まれとった。


「これはうちの『事業計画書』や。掃除の報酬として、ルミナの完全自治だけやなく、王宮の『清掃・管理権』もうちが買い取るわ。つまりな、この国の『不都合な真実』を、おばちゃんが管理したげるって言うてるんや。居抜きでこの国をリフォームしたげるわ。あんたは王様として、ただ綺麗になった椅子に座ってればええねん。……掃除もできん王様に、これ以上何を期待せぇっちゅうねん」


 国王は絶句した。一国の王に向かって「ただ座ってろ」と言い放つ不遜。だが、その言葉には、何百年も腐敗を隠し続けてきた王家の重圧を、一気に吹き飛ばすような「生活者」の強さがあった。


「……ふっ、ははは! 国を居抜きで買い取る、か。よかろう。お前がそのゴミを掃除しきった暁には、ルミナに一切の干渉を禁じ、その『管理権』を譲り渡そう。だが、地下の扉を開ける鍵は、お前自身の手で掴み取れ」


 書斎を出ると、アレンとエルゼが扉の横で固唾を飲んで待っとった。アレンの目は、かつての迷いが消え、いつになく真剣やった。


「静江さん、僕にも覚悟はできています。僕は、あなたを守るだけの盾じゃない。この王都の歪んだ騎士道ではなく、あなたが示す『正しい生活』を守るための剣になりたいんです。どんな怪物が地下にいても、僕が道を切り拓きます」


「ええ顔になったな、アレン。よし、エルゼちゃん。あんたはここで、王妃様と一緒に『掃除の後片付け』の準備をしなはれ。ここから先は、本気のドブ板掃除やからな。……カイル、行くで。あんたのインテリジェンス、最後の一滴まで絞り出してもらうわ」


 うちは国王から預かった古びた鍵を握りしめ、王宮のさらに下、石造りの狭い階段を下りていった。一歩下りるごとに、あの「死んだ肉の匂い」が強くなっていく。鼻を突くのは、魔物の死臭だけやない。何百年も閉じ込められ、発酵し、ドロドロに腐り果てた「人間たちの強欲」の匂いや。


 階段の壁には、建国以来の功臣たちの肖像画が並んどるが、そのどれもが、今のうちには「カビだらけの粗大ゴミ」にしか見えへん。

 霊視を使いすぎたせいで、頭の奥がズキズキと鳴る。精神的な疲労がピークに達した時、一瞬だけ、視界が歪んだ。

 石造りの廊下の天井が、大阪の商店街のアーケードに見える。埃っぽい空気の中に、揚げたてのコロッケの匂いと、スーパーの安売りを知らせる喧騒が混ざり込む。


(……あれ? 今日、鶏もも肉、安かったかな……。夕飯、何にしよう……)


 幻覚や。王宮の闇が、うちの魂の一番柔らかいところを突いてきとる。

 姿かたちはピチピチのギャルのままやけど、中身は疲れ切った58歳。鏡もあらへんのに、一瞬だけ、エプロン姿で自転車を漕ぐ自分の姿が脳裏をよぎった。


「……静江さん? 足元がふらついています。大丈夫ですか?」


 カイルが鋭く指摘する。うちは一瞬だけ立ち止まり、強く目を閉じると、アイテムボックスからハチミツ味の飴を一つ出し、口に放り込んだ。甘さが脳に突き刺さり、ノイズを無理やりかき消す。


「……なんや、カイルちゃん。おばちゃんの横顔に見とれてただけや。……さて、着いたで」


 最深部の巨大な鉄扉の前に着いた。そこには、もはやこの世のものとは思えないほど巨大な「あやかし」の影が、ヘドロのように扉から染み出しとった。それは建国以来、王家が魔族との契約を維持するために切り捨ててきた「犠牲者たちの念」の塊や。

 扉の隙間から漏れ出す悪臭は、物理的なもんを超えて、魂を直接汚しにくる。


「アレン、カイル! 扉、開けるで! ……特売日の主婦を舐めたらあかんで! 国の歴史ごと、ゴミ袋に放り込んだげるわ!」


 うちは鍵を差し込み、力任せに回した。ギィィィ、と忌まわしい音が響き、扉の向こうから、王国の栄光の裏に隠された「真の不浄」が姿を現した。


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