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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第281話 スラムの闇医者と、オカン流・根本治療のレモン飴

 上層の富裕層たちから特大トマトの代金を巻き上げ、スラムの広場に戻って『手作り換気扇』で悪臭と湿気を完全に吹き飛ばしたうちら一行。

 よどんでいた空気が外の新鮮な風と入れ替わったことで、スラムの住人たちの顔にも少しずつ前向きな活気と、生きるための気力が戻りつつあった。

 ……やけど、環境の空気が綺麗になったからといって、今までこの光の届かない劣悪な場所で傷つき、病に倒れてきた彼らの肉体までが、都合よくすぐに治るわけやあらへん。


「……静江さん。このスラムには、メガコーポの正規の医療機関へのアクセス権を持つ人間は一人もいません。怪我や病気をしても、自然治癒に任せるか……あるいは、『裏の人間』に高い金を払って頼るしかないんです」


 ミナちゃんが、情報端末の画面を伏せ、暗い顔でスラムのさらに奥の路地を指差した。

 そこからは、先ほどまで漂っていたドブ川の匂いとはまた違う、鼻の粘膜を直接刺すようなツンとした薬品の匂いと、苦しそうな呻き声が微かに漏れ聞こえてきとった。


「裏の人間……ヤブ医者か。……怪我人や病人の弱みにつけ込んで食い物にするような商売、おばちゃんが一番嫌いなやつやな」


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、極端に短いホットパンツでズンズンと路地裏の暗がりへと歩みを進めた。

 辿り着いたのは、錆びついたトタン板と廃棄されたパイプで囲われた、不衛生極まりないバラック小屋の『調合所アジト』やった。

 中を覗き込むと、そこには泥と血にまみれたスラムの労働者たちが、冷たいコンクリートの床にゴザを敷いただけで何十人も寝かされとった。

 そして、その中央で、元は白かったであろう薄汚れた白衣を着た小太りの男が、怪我人からなけなしのクレジット(金)を巻き上げながら、怪しいドス黒い軟膏を患部に塗りたくっとった。


「痛っ……! せ、先生、薬を塗ってから、足の感覚が全くないんですが……。それに、傷口が黒く変色してきて、熱も下がらない……」


 怪我をした若い男が、怯えた声で訴える。

 だが、闇医者は鼻でフンと笑い、男の頭を小突いた。


「文句を言うな! 激痛は消えたんだろうが! それが俺様の特製薬の素晴らしい効果だ。文句があるなら、上層のエリート病院へでも行くんだな。お前ら下層のネズミには、一生かかっても払えない法外な治療費だろうがな!」


 闇医者の心ない言葉に、怪我人たちは悔し涙を流しながらも、反論する気力すらなく黙り込むしかなかった。

 その絶望的な光景を見た瞬間、うちの脳内でブチィッ! と特大の堪忍袋の緒が切れる音がした。


「……ちょっと待ちなはれェェッ!!」


 ガァァァァンッ!!

 うちは、トングの先で調合所のトタンの扉を勢いよく叩き割り、ズンと部屋のド真ん中へと踏み込んだ。


「な、なんだお前は! 派手で下品な格好をして、ここは俺の神聖な診察室だぞ! 順番を待て!」


 扉を壊された闇医者が腰を抜かしてひっくり返る。


「どこからでもええわ! あんたな、さっきから見てたら、患者の傷口ろくに診もせんと、よく分からんドス黒い薬ばっかり売りつけやがって!」


 うちは、患者が持っていた薬瓶をひったくり、蓋を開けて匂いを直接嗅いだ。


「……ウッ! なんやこの匂い! まともな消毒液やない! 神経を麻痺させるヤバい魔力草を、無理やり混ぜ合わせとるだけやないか!」


 うちの言葉に、背後についてきていたミナちゃんも顔色を変えて、情報端末の生体センサーを薬瓶に向けた。


「……静江さん、これは治療薬じゃありません! 私の端末の成分分析でも明らかです。ただ神経を麻痺させて『痛みを感じなくさせるだけ』の、粗悪な麻酔薬ペーストです! こんなものを塗り続ければ、怪我が治るどころか、肉体が完全に壊死してしまいます!」


===========


「なんやて!? 治すどころか、身体を腐らせる毒薬やと!?」


 うちは特大トングを振り上げ、闇医者をキッと睨みつけた。


「てめぇ! スラムの連中の足元見て、そんな毒を法外な値段で売りつけてたのかよ!」


 巨大レンチを構えたリコが、怒りで顔を真っ赤にして前に出る。

 だが、闇医者は焦るどころか、忌々しそうに舌打ちをして居直りよった。


「うるさい! 俺はボランティアの慈善事業をやってるわけじゃないんだ! 金を払えないゴミ共に、真っ当な高価な薬を使ってやる義理があるか! 痛みを消してやってるだけでも、俺に感謝すべきだろうが!」


 ヤブ医者の、どこまでも腐り切った言い草。

 うちはパイプ椅子をガシャンと広げてその場にどっかと座り込み、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出した。

 そして、汚れきった机の上に、バシッ、バシッと二枚展開した。

 出たのは、『悪魔(The Devil)』の正位置と、『死神(Death)』の逆位置や。


「よう見ときや! 『悪魔』の正位置は、人の弱みに付け込む悪徳商法と理不尽な搾取! そして『死神』の逆位置は、ズルズルと続く苦痛と、終わらない停滞の暗示や!」


 うちはカードの絵柄をデコネイルで弾き、ヤブ医者の醜い顔を真っ向から見据えた。


「あんたな、患者の怪我をわざと治さず、痛みだけ散らして『生かさず殺さず』の状態で薬を売り付け続けとるんやろ! 患者をカネを絞り取るための道具としか見てへん、最低最悪のブラック企業やわ!」


「だ、黙れ! 下層のゴミが束になって俺に説教する気か! おい、用心棒ども! こいつらを今すぐつまみ出せ! 腕も足も、バラバラのスクラップにしてしまえ!」


 闇医者が叫ぶと、調合所の奥の暗がりから、全身に粗悪なサイボーグ手術を施された、五人の巨漢の用心棒たちが姿を現した。

 彼らの腕には、回転ノコギリや高圧電流の流れるスタンバトンが物騒な音を立てて装備されとる。


「へっ! やってやるぜ! アヴァロンの上層のエリートどもには勝てねえが、こんなスラムのガラクタどもならアタシ一人で十分だ!」


 リコが、愛用の巨大レンチを肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべて飛び出した。


===========


「オラァッ!! ジャンク屋のフルスイング、食らいなッ!!」


 ガァァァァンッ!!

 リコの踏み込みからの強烈な一撃が、先頭の用心棒のサイボーグ義脚にクリーンヒットする。

 硬いはずの金属装甲が、まるでひしゃげた空き缶のようにひん曲がり、巨漢がバランスを崩してドスーンと倒れ込んだ。


「な、なんだこのガキの馬力は! 囲め! 一気に叩き潰せ!」


 残る四人の用心棒が、回転ノコギリを唸らせてリコに迫る。

 だが、リコは油まみれのツナギを翻し、作業場で鍛え抜かれた無駄のない動きで彼らの攻撃をヒラリと躱していく。


「遅えよ! あんたらの動き、ポンコツの機械より単純で読みやすいぜ!」


 ガキンッ! バキィィッ!!

 レンチが空を切るたびに、用心棒たちの粗悪な義手や義足の関節パーツが的確に叩き割られ、彼らは次々と火花を散らして床に転がっていった。

 スラムで泥水をすすって生き抜いてきたリコの、圧倒的な喧嘩殺法。

 その隙に、うちはアイテムボックスの奥深くに両手を突っ込んだ。


「ほら、あんたら! ヤブ医者の変な薬なんか今すぐ捨てなはれ!」


 うちは、限界の体力を回復させる赤色の『イチゴ味』と、傷を塞ぎ毒を浄化する最強の特効薬、黄色の『レモン味』の飴ちゃんを限界まで大量に取り出した。

 そして、床で呻いている怪我人や病人たちに向かって、大量の飴ちゃんをバサァァッ! と豪快にばら撒いたんや。


「痛い時はこのおばちゃんの飴ちゃん舐めて、根本から身体の毒をデトックスせんかい!」


「えっ……こ、これは……甘い匂いが……」


 怪我人たちが、恐る恐るその飴玉を拾い上げ、口に含む。

 ジュワァァッ……!

 強烈なビタミンCとクエン酸の塊である『レモン飴』の魔法効果と、イチゴ飴のカロリーが、彼らの舌の上で爆発的に弾けた。


「……あ、熱い……。傷口が、熱くなって……肉が塞がっていく……!?」


「ゴホッ……あれ? 黒く変色してた足の皮膚が、元の色に……! 感覚が戻ってきたぞ!」


 痛みを感じなくさせるだけの『麻酔』ではない。

 細胞を直接叩き起こし、毒素を中和して肉体を修復する、文字通りの『根本治療』や。

 怪我人たちの青白かった顔に、みるみるうちに健康的な血色が戻り、彼らは次々と自らの足で立ち上がり始めた。


「……う、嘘だろ……。俺が何年もかけて開発した鎮痛薬が……たかが、ただの飴玉一つに……!?」


 用心棒たちを全滅させられ、怪我人たちが完治していく様を見た闇医者は、完全に腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


===========


「……さて。お掃除の総仕上げや」


 うちはパイプ椅子から立ち上がり、特大トングを肩に担いで、震える闇医者の前へとズンズン歩み寄った。


「ひぃぃッ! た、助けてくれ! 金なら返す! だから命だけは……!」


「命なんか取らへんわ! おばちゃんはな、あんたのその腐った『医者の根性』を叩き直しに来たんや!」


 うちは、トングの先で闇医者の胸ぐらをガシィッと掴み上げた。


「あんた、医者なんやったら、真っ当に患者の傷を治して『ありがとう』って言ってもらうのが一番の誇りなんとちゃうんか! カネのために患者の痛みを長引かせるなんて、商売人としても医者としても三流以下のクズやで!」


「……っ!」


「今日からこのスラムの医療は、オカン・ユニオンが完全に管理(お節介)させてもらう! あんたはこれまでの慰謝料代わりに、うちらの専属産業医として、タダ働きでスラムのみんなの健康診断して回るんや! ええな!」


「は、はいぃぃっ! 一生懸命、診察させていただきますぅぅっ!」


 ヤブ医者は、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、土下座の姿勢で激しく何度も頷いた。


「やりましたね、静江さん! これでスラムの住人たちの医療問題も解決です!」


「へへっ、オカンの飴玉は、どんなヤブ医者の薬よりも効く特効薬だぜ!」


 ミナちゃんとリコが、歓喜の声を上げる。

 スラムの悪臭を手作り換気扇で吹き飛ばし、今度は蔓延っていた悪徳医療を根本治療のレモン飴で見事に浄化したうちら一行。

 海底都市のどん底で、オカンの強烈な生活基盤作り(大掃除)は、次なる『食の開拓』へと向けて、力強く進んでいくんや!


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