第185話 北の魔境への特売ダッシュと、荒野のアメカジ魔族
大河の水をせき止めていた帝国の巨大ダムを完全に粉砕し、紫色の猛毒ヘドロを洗い流してから数日。
かつての豊かな姿を取り戻したジャングルの大河の畔で、うちら『オカン・ユニオン』は、現地住民たちと別れの挨拶を交わしとった。
「……オカン。あんたたちのおかげで、俺たちの森と川は死の淵から蘇った。俺たちも、もう二度と帝国なんかにでかい顔はさせない。この南の大地は、俺たち自身の手で完璧に掃除してみせるよ」
現地住民の代表である初老の男が、うちの前に進み出て、深く、深く頭を下げた。
彼らの瞳には、帝国の奴隷として使い潰されていた頃の暗い影はもうない。大自然と共生する、誇り高き民族としての強い光が宿っとった。
「せや! 自分の家(故郷)の掃除は、自分らでやるんが一番や! 帝国の残党が来たら、また川の精霊と協力してド派手に水に流したったらええねん!」
うちはガハハと笑い、男の肩をバシッと叩いた。
「ああ。……だが、オカン。あんたたちがこれから向かおうとしている『さらに北の地』には、気をつけてくれ」
男が、顔を強張らせて北の空を指差した。
「……この大地のさらに北。そこは、あの強欲な帝国軍ですら、まともに踏み入ることを恐れている『絶対禁忌の魔境』だ。俺たちの自然魔力とも、西の大陸の魔法とも違う……独自の進化を遂げた、恐ろしく戦闘的な『魔族』たちが支配している荒野なんだ」
「……独自の進化を遂げた魔族、ですか」
日傘代わりのハデなパラソルを持っていたアレンが、剣の柄に手を当てて鋭い視線を向ける。
だが、うちは特大のサングラスを押し上げ、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「魔族? 上等やないの! うちらの会社には、バアルとかゾルゲとか、とびきり優秀な『魔族の従業員』がぎょうさんおるんやで! もしかしたら、親戚の兄ちゃんらがおるかもしれへんわ! 挨拶(営業)に行かなアカンな!」
「あはは! さすが静江さん、魔境相手にも完全に『商談』のつもりですね!」
アレンが呆れながらも頼もしく笑う。
「よっしゃ! ほな、おっちゃんら、後は頼んだで! うちらはガトーたち『海賊営業部』と合流して、北の魔境へ特売ダッシュや!」
「「「オカン! 気をつけてな!!」」」
現地住民たちの大歓声に背中を押され、うちらはジャングルを抜け、海岸線へと向かって力強く歩き出した。
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海岸線に出ると、そこには、三十の海賊団を率いるガトーたちが、拿捕した巨大な帝国戦艦を旗艦にして、見事な「海上封鎖」の陣形を敷いて待機しとった。
「姐さん! お待ちしてやしたぜ!」
ピンクのラインストーンでデコられた魔導銃を肩に担いだガトーが、小舟で迎えに来てくれた。
「おう、ご苦労さん! 海のクレーム対応(防衛)はどないやった?」
「へへっ、完璧ですぜ! 帝国本国から様子を見に来た偵察船が何隻か来やしたが、俺たちのデコ魔導銃と、大和郷仕込みの『特売ダッシュ(突撃)』で、一隻残らず海の藻屑にしてやりやした!」
ガトーが自慢げに胸を張る。海のプロフェッショナルたちに、海上の防衛を任せたのは大正解やったみたいやな。
「よし! ほな、防衛はこのまま何隻かに任せて、主力艦隊はうちらと一緒に『北の海』へ進路を向けるで! 新しい出店先(ガサ入れ先)の開拓や!」
「北の海……!? 姐さん、あそこは帝国すら近づかねえ『荒野の魔境』ですぜ! 行くんですかい!?」
「当たり前や! 誰も寄り付かへん未開の地ほど、特大の『お宝(未払い残業代)』が眠っとるもんやで!」
うちの号令で、オカン・ユニオンの海賊艦隊は、一斉に北へ向かって帆を張った。
数日間にわたる北上の航海。
気候は、南の熱帯雨林の殺人的な湿気から一転し、徐々に空気が乾燥し、肌を刺すような強い日差しと乾いた風が吹きつけるようになってきた。
そして、ついに水平線の向こうに、新たな大地が見えてきたんや。
「……静江さん。あれが、北の魔境……」
アレンが、船の舳先に立って息を呑む。
緑豊かなジャングルとは全く違う。そこにあったのは、見渡す限りの赤茶けた『荒野』と、まるで大地を巨大な剣で切り裂いたような、壮大な『大渓谷』の絶景やった。
「……おぉぉっ! ええやんか! 湿気がのうなって、やっとお肌がベタベタせえへん気候になったわ! このカラッとした風、最高や!」
うちは、極端に短いホットパンツに、背中に龍が躍る銀色のスカジャンという派手なギャル服のまま、乾いた風を全身で受け止めて大はしゃぎしとった。
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「……姐さん、陸地に接舷しやすぜ! でも、妙に静かだ……。警戒した方がいい」
ガトーがデコ魔導銃を構えながら、船をゆっくりと荒野の入り口の桟橋へと寄せる。
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、アレンとガトーを引き連れて、乾いた土を踏みしめた。
ザクッ、ザクッという足音が、静寂の荒野に響き渡る。
その時やった。
ヒュンッ!!
一陣の風切り音とともに、うちの足元の地面に、一本の『巨大な矢』が凄まじい勢いで突き刺さった。
「なっ……!? 静江さん、下がって!」
アレンが即座に西の大陸の長剣を抜き放ち、周囲の岩山を睨みつける。
「……そこから先へ一歩でも踏み入れば、次は貴様らの心臓を射抜く」
渓谷の切り立った岩の上から、野太く、そして底知れぬ魔力を孕んだ声が響いた。
見上げれば、そこに立っていたのは、西の大陸の魔族(バアルやゾルゲのような黒い鎧や法衣を着た奴ら)とは全く違う姿をした、複数の『魔族』たちやった。
彼らは、赤銅色の屈強な肌を持ち、頭には巨大な『魔獣の羽飾り』を被り、革と骨を組み合わせた野性的な装束を身に纏っとる。
そして、その手には、自身の魔力で編み上げられた巨大な弓や、独特の形をした戦斧が握られとった。
「……我ら『誇り高き荒野の魔族』の聖地に、汚らわしい人間の帝国軍め、また懲りずにやってきたか。……その船ごと、塵となって消え去るがいい!」
岩の上の魔族たちが、一斉に弓を引き絞り、空気がビリビリと震えるほどの魔力をチャージし始めた。
明らかに、これまで戦ってきた帝国のマニュアル兵士とは桁違いの「野生の戦闘力」や。
「や、ヤバいぜ姐さん! あいつら、問答無用で殺る気だ!」
ガトーが冷や汗を流して銃を構えるが、うちはパイプ椅子をガシャンと広げてどっかと座り、アイテムボックスからタロットカードを取り出した。
「慌てなさんな。相手がどんだけイカつい格好してても、まずは『会話』から入るんがおばちゃん流や!」
うちは、バシッ、バシッと二枚のカードを展開する。
出たのは、『愚者(The Fool)』の正位置、そして『隠者(The Hermit)』の逆位置や。
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「『愚者』の自由な精神と、『隠者』の逆位置……つまり、閉鎖的で頑固な思い込みやな」
うちはカードをデコネイルで弾き、拡声魔道具を口元に当てて、岩の上の魔族たちに向かって腹の底から怒鳴り返した。
「おーい! そこの頭に羽つけとる兄ちゃんら! 早とちりしたらアカンで! うちらは帝国の手先やのうて、あんたらと同じく帝国に喧嘩売ってる『特大の清掃業者』や!」
『……何? 帝国軍ではないだと?』
魔族のリーダーらしき男が、弓を引いたまま怪訝そうに眉をひそめる。
「せや! だいたいな、うちらのこの格好見て、おカタイ帝国の軍隊やと思う方が無理あるやろ! 特にうちのこのヒョウ柄のスカジャン見てみぃ!」
うちは立ち上がり、スカジャンの背中で黄金に輝く龍と虎の刺繍を、彼らに向かってバサッと見せつけた。
「それにしても、兄ちゃんら! あんたら、ええ服着とるやないか! その革のフリンジ(飾りの房)とか、魔獣の骨のアクセサリー! めっちゃ『アメカジ(アメリカンカジュアル)』っぽくて、ワイルドでええセンスしとるわ! おばちゃんのヒョウ柄と通じるもんがあるで!」
『あ、あめかじ……? センスが良い……?』
圧倒的な殺気を放っていた荒野の魔族たちは、いきなり「ファッションセンス」をベタ褒めしてくる謎の派手な女の出現に、完全に毒気を抜かれ、ポカンと弓を下ろしてしもうた。
「静江さん、また相手のペースを完全に崩しましたね……」
アレンが呆れたように剣を下げ、ガトーも「相変わらずのハッタリだぜ」と苦笑いする。
「さぁ、兄ちゃんら! 撃つ気がないんやったら、そこから降りてきなはれ! お近づきの印に、おばちゃん特製の『甘いモン』でも食べながら、この荒野の事情、じっくり聞かせてもらおやないか!」
未知の魔境、そして独自の文化を持つ戦闘的な荒野の魔族たち。
だが、おばちゃんの「アメカジ褒め」と「圧倒的なコミュニケーション能力」の前に、彼らの頑なな警戒心は、出会って数分で早くも崩れ去ろうとしとったんや!
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