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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第13章:未開のジャングルと荒野の魔族! 大自然の特大クレーム対応

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第186話 荒野の掟と、吹き荒れる精霊狼の試練

 赤茶けた大渓谷グランドキャニオンに、強烈なミントの匂いが漂っとる。

 アメカジ風の装束をベタ褒めし、オレンジ味とメロン味の飴ちゃんを振る舞ったことで、問答無用でうちらを射抜こうとしていた『荒野の魔族』たちの殺気は、見事にポワワ〜ンと解けとった。


「……甘い。それに、心がひどく安らぐ。……人間の女よ、お前は本当に、我らの聖地を侵しに来た帝国の手先ではないのだな」


 頭に立派な鷲の羽飾りをつけた、彼らのリーダー格である『赤きレッドホーク』と名乗った男が、警戒を解いて弓を下ろした。


「当たり前や! うちらは特大の清掃業者オカン・ユニオンや! あんたらの故郷を荒らし回る帝国に特大のクレーム入れるために、海越えてきたんやで!」


 うちはパイプ椅子にどっかと座り、ガハハと笑った。

 だが、赤き鷹の瞳の奥には、まだ人間という種族に対する深い「不信感」が残っとるのが分かった。


「……お前の言葉と、その不思議な甘露(飴)は信じよう。だが、我ら荒野の魔族は、帝国という『人間』に深く傷つけられ、森や大河を奪われてきた。……言葉だけで、お前たち人間と同盟を結び、背中を預けることはできない」


 赤き鷹が、鋭い視線でうちとアレンを見据える。


「ほーん。じゃあ、どうやったら信じてくれるんや? 契約書にハンコでも押すか?」


「我らに紙の契約など不要。……必要なのは『大地の試練』だ」


 赤き鷹は、渓谷のさらに北……万年雪を抱く、険しい針葉樹林の山々(ロッキー山脈)の方角を指差した。


「……あの雪山には、古くから我らと共に大地を守ってきた『精霊狼スピリット・ウルフ』の群れが棲んでいる。だが、帝国軍が山に足を踏み入れ、卑劣な『鉄の罠』をばら撒いたせいで、群れの長が深く傷つき、人間への憎しみで狂暴な悪霊と化してしまったのだ」


 赤き鷹は、悲痛な顔で唇を噛み締めた。


「狂暴化した精霊狼は、もはや我らの声も届かず、近付く者すべてを引き裂こうとする。……静江と言ったな。お前たちが本当に帝国の敵であり、大自然を愛する者だというのなら。……あの雪山へ行き、狂った精霊狼を『殺さずに』鎮めてみせろ。……それができれば、我ら荒野の魔族は、お前たちを永遠の『家族(同盟)』として迎え入れよう」


 なるほどな。

 言葉の通じない、傷ついて暴れる大自然の獣。それを武力でねじ伏せるんやなくて、「心を通わせて治してこい」っちゅうのが、彼らなりの同盟の条件や。


「上等やわ! その精霊狼ちゃんの悩み、おばちゃんがスッキリ解決(鑑定)したる! ガトー! あんたらは船で留守番しとき! うちら三人で雪山にカチ込みかけるで!」


「ええっ!? 姐さん、あんな雪山に行くってのに、そのホットパンツの格好で!?」


 ガトーのツッコミを背に受けながら、うちらは赤き鷹に案内され、雪山への入り口へと向かったんや。


===========


「……さっむ!! なんなんこれ、さっきまでの乾いた荒野の暑さが嘘みたいやんか! ギャルにとって『冷え』は一番の大敵やで!」


 うちは、アイテムボックスから引っ張り出したド派手なピンクの『特大ダウンジャケット』を羽織り、さらにヒョウ柄のマフラーをぐるぐる巻きにして、膝までの雪をラッセルしながらブーブーと文句を垂れとった。


 でも、下半身は相変わらずホットパンツに厚底ブーツやから、太ももが真っ赤になっとる。不老不死やから凍傷にはならんけど、冷たいもんは冷たいねん!


「だからガトーにも突っ込まれていたじゃないですか……。ズボンを穿けばいいのに」


 アレンが、分厚い毛皮のコートを着込みながら呆れたように言う。

「アホ! どんなに寒くても、ファッション(勝負服)のポリシーは曲げられへんのや! これは気合の問題やわ!」


 うちが震えながら言い返していると、案内役の赤き鷹が、険しい顔で足を止めた。


「……静江、アレン。気をつけろ。……ここから先は、精霊狼の『縄張り』だ。吹雪の中に、尋常ではない怒りが渦巻いている」


 赤き鷹の言葉通り、突然、周囲の木々を揺らして、猛烈な『地吹雪』が巻き起こった。

 視界が真っ白に染まり、気温がさらに急激に下がる。

 そして……その吹雪の向こう側から、二つの「赤く濁った巨大な瞳」が、うちらを射抜いた。


『……グルルルルルル……ッ!』


 地鳴りのような唸り声。

 吹雪を割って姿を現したのは、体長五メートルはあろうかという、巨大な銀色の狼……いや、体毛がそのまま氷の結晶でできているような、美しくも恐ろしい『精霊狼スピリット・ウルフ』やった。

 だが、その神々しいはずの姿は、赤黒い『瘴気』に包まれ、人間に対する底知れぬ憎悪と殺意を放っとった。


「……なんて巨大な魔物だ。それに、この殺気……! ただの獣じゃない、大自然の怒りそのものだ!」


 アレンが、雪に足を取られながらも即座に西の大陸の長剣を抜き放ち、うちを庇うように前に出た。


『ガアアアアアッ!!』


 精霊狼が、咆哮とともに猛烈なスピードで襲いかかってくる。

 その巨体が雪を巻き上げ、アレンに向かって巨大な氷の爪を振り下ろした。


「くっ……! 『刹那の観測』!」


 ガギィィィンッ!!

 アレンの剣が氷の爪を受け止めるが、その圧倒的な質量と突進力に、アレンの身体が雪の上を数メートルもズザーッと滑らされた。


「アレン! 殺したらアカンで! 防御に徹しなはれ!」


「分かっています! でも、この突進力……受け流すだけで精一杯だ!」


 精霊狼は、アレンが反撃してこないのを見ると、さらに凶暴に牙を剥き、手当たり次第に氷の魔法を周囲に乱れ撃ちし始めた。

 これじゃあ、近づいて話し合い(飴ちゃん)をする隙もあらへん。


===========


「……しゃあない。言葉が通じんなら、まずは『原因』を調べるんがおばちゃんの仕事や!」


 うちは、猛吹雪と氷のつぶてが飛び交う中、雪の上にパイプ椅子をガシャンと広げてどっかと座り込んだ。

 そして、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出し、凍りつくような冷気の中で、バシッ、バシッと二枚のカードを展開した。


「……教えてえな、カードさん。このワンちゃんが、何にそんなに腹立てて暴れとるんか!」


 出たのは、『力(Strength)』の逆位置、そして『隠者(The Hermit)』の逆位置や。


「『力』の逆位置……抑えきれない本能の暴走、そして『肉体的な苦痛』の暗示や。さらに『隠者』の逆位置は、閉鎖的な状況での頑固な思い込み、見えない場所でのトラブルを示す」


 うちは特大のサングラスを押し上げ、暴れ回る精霊狼の巨体を、上から下までジッと鋭く観察した。


「……なるほどな。ただ人間が憎くて暴れとるんやない。見えない場所で、ずっと『物理的な痛み』が続いとるせいで、パニックになって八つ当たりしとるだけやわ」


 うちの言葉に、赤き鷹がハッとして精霊狼を見つめた。


「痛み……? そうか、帝国の仕掛けた『鉄の罠』か! だが、あんな猛スピードで動く狼のどこに……」


「アレン! 攻撃せんでええから、あの子の『右の後ろ足』に注目しなはれ! 踏み込む時、一瞬だけ右足をかばって、動きが不自然になっとるはずや!」


 うちの指示を受け、アレンが『刹那の観測』で精霊狼の動きを極限までスローモーションで捉える。


「……見えました! 右の後ろ足の分厚い氷の体毛の奥……深く食い込むようにして、巨大な『魔鋼のトラバサミ(鉄の罠)』が噛み付いています! あれのせいで、動くたびに肉が裂け、激痛が走っているんだ!」


「せや! 痛くて痛くてしゃあないのに、自分じゃ外されへんから、パニックになって近付くもん全部に噛み付いとるんやわ! ほんまに、帝国(人間)の仕掛けた罠はタチが悪い!」


 うちはパイプ椅子から立ち上がり、特大のゴミ拾いトングを肩に担いで、猛吹雪のド真ん中へとズンズン歩き出した。


「静江さん! 危険です! まだ奴は狂乱状態だ!」


「ええねん! 痛いとこ分かったら、あとはおばちゃんが『治療』したるだけや! アレン! あんたの神速で、うちをあのワンちゃんの右足のところまで、一瞬で放り投げなはれ!」


 言葉の通じない、伝承の獣。

 その隠された「痛み」をタロットで見抜いたオカンは、凶暴な牙が迫る吹雪の中へと、巨大なトラバサミを外すための『命懸けの治療(お節介)』に自ら飛び込んでいったんや!



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