もう一人の主人公
私の記憶の中にある乙女ゲームは二人の主人公が選べるようだった。
その物語の主人公である私、リリーと、そしてもう一人の主人公の“ロシェ”。
彼女は黒髪で赤い瞳の美少女だった気がする。
ちなみに彼女の顔はよく思い出せない。
私が得ている情報はまだまだ断片的なようだった。
そう思い出しながら言うとハルト王子が、
「そのおとめげーむとやらの記憶から、ロジェンに関する話は取り出せないか? 婚約破棄の現場はわかったのだし」
「やってみてはいるけれど、手に入れている情報はこう……上手く説明できないけれど、途中、途中が抜けているの。だから断片的にしかわからないし、その範囲では出てこないわ。けれど……もう一人の主人公にはその内会えるみたいなの」
「会えるのか? その“ロシェ”とやらに」
「ええ、でもその時の言葉が『久しぶり』だったから時系列だと、まだあとの方になるとは思うけれどね」
私はそう答える。
それを聞いてハルト王子が、
「収穫はなしか。そういえば……リリーの、“聖女”としての能力では、ロジェンを探せないのか?」
「……本当に私が“聖女”なのかどうかは分からないわよ」
「俺は“聖女”だと思うな。その魔法も強力だし」
「それを言ったらロジェンの方が魔法は強力だったわ。そんなロジェンが、崖に追い詰められて突き落とされたのね」
私はそこでハルト王子と共に深刻な気持ちになりながら、沈黙する。
今回接触したあの怪物が、思いのほか恐ろしい相手だと思ったから。
けれどそんな不安を払しょくするためだろう、ハルト王子が、
「しかし、“ロシェ”か。なんとなく音の響きが、ロジェンに似ているな。それに黒髪に赤い瞳なのか?」
「さすがにロジェンが女顔だからって、その“ロシェ”と一緒にするのはかわいそうよ」
「女装して隠れているとか?」
「だったら戻ってこれていそうだわ」
「そうだな……それだと戻ってきているか」
そこまで話して、それ以上の収穫はその日はなさそうだったので、お互いの部屋に戻って眠ったのだった。
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