第八十四話 「コロセウム」
ヘカロに連れられて秀樹たちが大きな広場に現われた。
「何だここは? 」
「只の広場じゃないわよね? 」
秀樹と菜穗がぐるっと体を回して辺りを見回す。
「観客席があるし、嫌な感じがするよ」
栄二が顔を顰める。
広場だと思っていたが何かの競技場らしい、段々になった観客席が大きな広場をぐるっと囲んでいた。
よく見ると秀樹たちが立っている場所は盛り土がしてあって競技をする舞台のように思われた。
白い光に包まれて恒夫たちがやって来る。
「なん!? 」
周りを見回して恒夫が固まる。
「コロセウムかよ! 」
「カルシウム? 魚食いたいのか? 」
大声を出した恒夫をラグが不思議そうに見つめる。
「魚じゃないからな、カルシウムじゃなくてコロセウムだ」
「コロセウム? なんじゃそれは? 」
スギナも知らない様子で恒夫を見上げる。
恒夫が説明しようとした時、栄二の大声が聞こえてきた。
「そうだよ、コロセウムだ!! コロセウムに似てるよ、倍以上に大きいけどコロセウムにそっくりだよ」
「なん! また一緒かよ」
恒夫の顔が厭そうに歪んだ。
笑顔の秀樹が手を上げながら近付いてくる。
「よう、また一緒だな」
「運命ね、これは神様がチームを組みなさいって言ってるのよ」
菜穗はまだ諦めていないらしい。
ラグが元気よく手を振る。
「おおぅ、元気だったか? ツネが心配してたぞ」
「心配なんかしてねぇからな」
ふて腐れたように言う恒夫に栄二が不安顔を向けた。
「コロセウムだよ……どうしよう恒夫? 」
「どうするもこうするも……まだ戦うって決まったわけじゃないし………… 」
歯切れ悪く答える恒夫の腕をスギナが引っ張った。
「じゃからコロセウムとはなんじゃと訊いておるんじゃ」
「コロセウムってのはローマ帝政の時に造られた円形闘技場だ」
「円形脱毛症? ツネの頭の事か? 」
ラグが恒夫の薄い頭に手を伸ばす。
「ハゲじゃねぇ! 闘技場だ。戦う場所だ」
怒鳴って払う恒夫の手を払い返すとラグが薄い頭をモシャモシャ弄り始める。
「おおぅ、闘技場か、円形とか言うからハゲだと思ったぞ、ツネはいっつも気にしてるからな、ツネの毛根は円形脱毛場で戦って負けたんだからにゃ」
「負けてねぇし、ハゲじゃねぇから気にしてないからな、少し薄いだけだからな」
「にゃはははっ、今生えてるのは戦いに生き残った選ばれた毛だけだぞ、選ばれし毛、ハイレベルの毛、略してハゲだぞ」
「ハゲじゃねぇからモシャモシャするな! 」
恒夫が弱り顔でラグの手を払い除けた。
「いい加減にせんか、話が進まん」
スギナに睨まれて恒夫が愛想笑いを浮かべる。
「ごめん、コロセウムの話しだったな」
「ツネがハゲの話なんかするからちびっ子に怒られたぞ」
プクッと頬を膨らますラグを見て文句の一つも言おうとしたがスギナが睨んでいるので止めると栄二の肩をポンッと叩いた。
「説明任せたぞ、俺は何かどっと疲れた」
「あははっ、ラグさん相変わらず恒夫の頭大好きだね」
苦笑いしながら栄二が説明を始める。
「コロセウムって言うのは恒夫の言った通り古代ローマの円形闘技場だよ、ローマ帝国が庶民の娯楽の一つとして造ったんだ。各地から集まった腕自慢や奴隷などが命懸けで戦ったんだ。勝てば名誉と報酬が貰える。身分が上がって奴隷から解放されて一市民どころか勇者と呼ばれる人も沢山輩出したんだよ、戦いだけでなく色々な演劇も催されて庶民の娯楽としては一番の人気を誇ったんだ。それで現代にもコロシアムとして伝わってるんだよ、今は命懸けで戦う闘技場じゃなくて競技場として呼んでるけどね」
「成る程の、よくわかった。礼を言うぞ」
納得顔のスギナの隣でラグがうんうんわかったように頷いた。
「殺し合うからコロシアウって言うんだな」
「コロシアウじゃなくてコロセウムだ」
弱り顔の恒夫の向かいで秀樹がマジ顔で口を開く、
「闘技場って事は戦うって事か…… 」
「コロセウムは戦いだけに使われたものじゃないけどな、けど、態々こんな場所で大食い競争やカラオケ大会はしないだろ、そうだろヘカロさん」
恒夫が鋭い視線をヘカロに向ける。
「悪い、私も本当に知らないんだ。ただ呑気なイベントでない事は見ればわかる」
弱り顔でこたえるヘカロに助け船を出すように栄二が割り込んできた。
「それにしても凄い偶然だね、恒夫は37マスだから7を出したんでしょ? 僕たちは8を出して44マス目に来たんだ。まだ同じような進み具合だから一緒になる機会も多いんだね、でもこの先差が付くと会えなくなるよ、だからもう一度考え直してくれないか? 」
栄二が戻ってきてくれとマジ顔で訴える。
「悪いな、俺は戻る気はない…… 」
恒夫が何かに気付いた様子で言葉を止める。
「44マス……このゲームってゾロ目が大きくイベントに関係してるんじゃないのか? 」
「そうだよ、ゾロ目だ」
ハッとする栄二の隣で秀樹も大きく頷いた。
「そうだぜ、サイコロのゾロ目はバッドかラッキーそれに決闘イベントだろ、ゾロ目の44マスで闘技場だからな」
頷くと秀樹がヘカロを見つめた。向かいで恒夫も注目している。
「ふふっ、それはどうかな? 私も知らないんだ」
明らかに知っている顔でヘカロが愉しそうに口元を歪めた。
秀樹たちが話をしている間にも次々と参加者たちがやって来る。
何処へ行っていたのかロロフィが天使の羽を広げて飛んできた。
「ヘカロぉ~~、キケロ様が呼んでるぞぉ~~ 」
「キケロ様って大天使のキケロ様か? 」
思わず恒夫が訊いていた。
「そうですよぉ、コロセウムで個人対決をさせるからヘカロにイベント取り仕切らせるって、それで呼んで来いって言われたですよ」
天然ボケの伸びた声で言うロロフィの前で恒夫たちが固まった。
「個人対決……個人戦をやらせるつもりなのか、それでここに呼んだのだな」
ヘカロが全てわかったと言うようにコロセウムを見渡した。
「個人対決って個人個人で戦わせるつもりか……マジかよ…… 」
「やっぱ戦いかよ」
絶句する恒夫の隣で秀樹が顔を顰める。
「やっぱゾロ目だ。ゾロ目がヤバいイベントなんだろ? 」
改めて訊く秀樹の向かいでヘカロが無言で首を左右に振った。
「答えられないって事か…… 」
「100%じゃないけど大体あってるって所だな」
それ以上訊いても無駄だと秀樹と恒夫は話題を変える。
「個人戦って事はラグやスギナちゃんとも当たるって事ですよね」
「あっ、そうか、チームの仲間同士でも当たれば戦うって事だ」
恒夫に言われて気付いたのか秀樹が確認を取るようにヘカロに振り向く、
「そうだね、チームは関係ない、個人の力を測るためのイベントだ。トーナメントだから勝ち抜けば仲間といえど必ず戦う事になる。クジで決めるから初戦からチームの仲間同士で戦うケースもあるだろう」
話を聞いていた栄二が顔を強張らせる。
「仲間同士で戦うなんて僕にはできないよ」
「棄権も可能だ。仲間で戦うのが嫌なら止めればいい、ポイントは貰えないだろうがペナルティーなど無いので安心してくれ」
ヘカロが天使の羽を広げる。
「キケロ様に呼ばれているので行って来るよ、後は頼んだよロロフィ、恒夫くんだけでなく秀樹くんの方も任せたからな」
空高く飛んでいくヘカロの背にロロフィが大声だ。
「2チームも見るなんて聞いてないぞ、埋め合わせはして貰うからな」
怒鳴った後でくるっと此方に振り返る。
「と言う訳なので私が面倒を見ます。面倒なので面倒を掛けないようにしてください、ヘカロの説明をちゃんと聞けば私に質問などしなくてもいいはずだからしっかり聞いてください、私は聞きませんのでよろしく頼みます」
珍しくマジ顔で言うロロフィを見て恒夫だけでなく秀樹たちも当てにならないと苦笑いするしかない。
「秀樹たちはもちろん、恒夫やラグさんにスギナちゃんと戦うなんてできないよ」
悩むように言う栄二の背を秀樹がドンッと叩く、
「仕方ないぜ、イベントだからな」
「そうだな、仲間同士で当たった時はその時に考えるとして他は怪我しない程度にやるしかないな、俺はヤバくなったら棄権するけどな」
普段の飄々とした顔に戻った恒夫の腕をラグが引っ張る。
「仲間同士って事はツネやちびっ子と戦う事もあるって事か? 」
「ああ、お互い勝ち抜けば戦う事になる」
マジ顔の恒夫を見てラグが顔を顰める。
「そんなの嫌だぞ、ちびっ子はともかくツネと戦いたくないぞ」
「俺も戦いたくないからラグやスギナちゃんと当たったら棄権するよ、もっとも俺が本気で戦っても二人にはとても敵わないけどな」
ラグの顔がパッと明るくなった。
「ほんとだな、ツネが棄権するならあたいが勝てるぞ、ツネを傷付けなくても済むぞ、だったら問題ないぞ、あたいが優勝するからツネは安心して見てるといいぞ」
浮かれるラグをスギナが見上げる。
「儂とは戦うという事じゃな? 」
ラグが笑いながらスギナの頭をポンポン叩く、
「にゃはははっ、ちびっ子とは一度戦ってみたいって思ってたぞ、だってだって、お前強いからにゃ、一緒に居たらあたいの本能が戦いたいって疼いてんだぞ」
ラグの手を払い除けるとスギナが鼻を鳴らす。
「ふふん、獣人の本能なら仕方ないのぅ、当たれば儂の実力を見せてやるぞ、二度とちびっ子など呼べんようにしてやるのじゃ」
「ちょっ、スギナちゃん……本気はダメだよ、頼むから…… 」
慌てて止めようとした恒夫にスギナが可愛い笑みを向ける。
「安心せい、怪我させるような事はせん、少し儂の力を見せてやるだけじゃ」
「にひひひひっ、ちびっ子なんかに負けないぞ、リーダーだからな、あたいの力を見誤るにゃよ、なんたってチャトラン族の戦士だからにゃ」
「ふふん、お主こそ、儂がAクラスじゃという事を忘れとりゃせんか? 」
自信満々で笑うラグをスギナが鼻を鳴らして軽くあしらった。
「わあぁあぁ~~、止めろって! 何で戦う気満々になってんだ。仲間だからなチームだからな、怪我しないように頼むぜ」
弱り切った顔の恒夫に二人が振り返る。
「わかってるにゃ、怪我させないようにぶっ飛ばしてやんぞ」
ニヤッと悪い顔で言ったラグの隣でスギナが優しい顔で微笑んだ。
「心配無用じゃ、その辺りは心得ておる」
「それならいいけど……頼んだよスギナちゃん」
何故か闘志満々のラグには不安だが冷静なスギナを見て恒夫は一安心した。




