第八十二話
各チーム代表者が決まって大食い競争イベントが始まる。
恒夫のチームはラグとスギナの二人だ。
リザードマンのチームは人間の男とリザードマンが一人ずつ、妖怪チームはムジナと手長の2名だ。
代表者たちが細長い舞台の上にある長机に着く、残りのメンバーは並べてあるパイプ椅子に座って観戦だ。
ヘカロたち担当天使はカイラルや審査員たちと同じ席に座っていた。
リザードマンチームの人間の男が恒夫の隣りに腰掛けた。
「いくら獣人だからって女に戦わせるなんて最低だな、もう一人は幼稚園児みたいだしな、女に勝負させて自分はここで見学かよ、いいご身分だな」
仲間にならないとみて男が厭味を言ってきた。
「勝負に男も女もないだろ、勝てる選択をしただけだぜ、お前らこそ人間を出さずにリザードマン二人に出て貰った方がよかったんじゃないのか? 」
「そんな事お前に言われなくてもわかってる! リザードマンが人間からも一人出せって言ったんだ。不公平だとよ、バカトカゲが…… 」
不機嫌に言うと男は席を立ってリザードマンが座る隣に戻っていった。
「ありゃ勝てないな、互いに利用する事しか考えてないぜ」
恒夫が小声で呟いた。
イベント担当天使のカイラルがマイクを握る。
「皆さん静かに、ただいまより大食い大会を開始します。制限時間は一時間、その間に3種の料理をどれだけ食べられるか、皆さんも声援をかけて一緒に楽しみましょう」
にこやかに言うとサッと手を上げた。
「では勝負開始! 」
手を振ると舞台の上に設置された大きな電光掲示板が六十分からカウントダウンを始めた。
「よっしゃぁ~~食ってやるぜ」
妖怪手長が大きな手を振ってグラングランを口に掻っ込む、
「びヒヒヒヒッ、おらたちがワンツーフィニッシュで勝ってやるど」
妖怪ムジナがホールケーキに手を伸ばす。
「ほざけ! 勝つのは俺たちだ」
リザードマンがグラングランを二つ置いて交互にスプーンで掬って食べ始める。
「無駄口をするなよ、その分食べるんだ」
人間の男はケーキをグラタンで流し込むようにして食べていた。
「肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ 素敵なステーキ焼き肉だぁ~~♪ 」
変な歌を歌いながらラグもステーキをどんどん口に運ぶ、
「ほう、甘いだけかと思っておったがナッツが利いていて旨いケーキじゃ」
スギナがホールケーキをスパスパと器用に切ってモクモク食べている。
恒夫が思わず声を出す。
「スギナちゃん、行き成りケーキはヤバいんじゃ……腹にもたれるぜ」
「心配無い、甘いものは別腹じゃ」
まだ食べてないでしょ、別腹って満腹の時に使う言葉だよ……、
ニコニコ笑いながらこたえるスギナを見て恒夫は黙るしかない。
恒夫が参加者を見回す。
手長はグラングランを立て続けに食べている。
ムジナも始めにケーキを一つ食べると後はグラングランだ。
リザードマンはグラングランしか狙っていない、人間の男は初めこそケーキとグラングランを一緒に食べていたがケーキが重いと考えたのかグラングラン一つに絞ってきた。
ラグはステーキをもりもり食べている。
スギナは既にホールケーキの4個目だ。
「スギナちゃん凄いな、何処に四つも入るんだ? ラグは……食うペースは速いんだがステーキじゃグラングランの倍食わないとダメだぜ」
恒夫が顔を顰める。
任せろと言ったスギナの事は心配していない、ラグが心配だ。
予想通り他の参加者たちはグラングラン一つに絞っている。
三十分が経過した。
「旨い、旨い、こんな旨いグラングランは久し振りだ」
手長の手前には食べ終わった皿が既に10枚以上重なっている。
「ほふっ、ほふっ 」
ムジナの食べるペースが落ちた。
「うぐっ! 」
リザードマンのスプーンが止まる。
「うぅ…… 」
隣で食べている人間の男も苦しそうだ。
ステーキを食べるラグのペースも落ちている。
「肉肉お肉ぅ~食べ飽きたぁ~~ 」
「歌変わってるから! 頑張ってくれよ」
恒夫が思わず声を掛ける。
「何もんだ、あの娘…… 」
リザードマンチームにいる人間の男の驚く声が聞こえてくる。
黙々とケーキを食べているスギナの前に皿が20枚以上重なっていた。
「スギナちゃん…… 」
恒夫も驚きに言葉が続かない、大食いだとは知っているがこれほどとは思ってもみなかった。
一番腹にこたえるケーキを20皿以上食べられるなんて想像以上だ。
ラグがチラッと隣のスギナを見る。
「肉は飽きたぞ……ちょっと別腹にいくぞ」
そう言うとラグがケーキに手を伸ばす。
「止めろ! ケーキなんて食ったらもう食えなくなるぞ、終わるぞ」
「何言ってんだ。甘いのは別腹だぞ」
恒夫の制止も聞かずにラグがホールケーキを食べ始める。
自分の顔よりも大きなケーキだ。
厚さも10センチくらいあるバタークリームたっぷりといった感じの見ただけで口の中が甘くなるようなケーキだ。
「甘くて美味しいぞ、んじゃ本戦に戻るぞ」
恒夫の心配を余所にケーキをペロッと平らげるとまたステーキを食べ始める。
「肉肉お肉ぅ~ステーキだぁ~~、素敵なステーキ美味しいぞぉ~~♪ 」
また変な歌を歌い出したラグを見て恒夫がほっと安堵した。
四十五分が経過した。
「旨いグラングランだ。いくらでも食えるぞ」
手長のペースは落ちない、食べ終わった皿が20枚ほど重なっていた。
「ぐぅ、はぅっ 」
ムジナはそろそろ限界だろう、食べると言うより口に詰め込んでいる。
「がふっ! 」
リザードマンが口に含んでいたものを吐き出して後ろに倒れた。
「大丈夫か? 」
横で見ていた審判が駆け付ける。
リザードマンは起き上がらない、審判がサッと手を上げた。
救護班が来てリザードマンを運んでいく、隣りで見ていた人間の男が真っ青な顔をして口を押さえてる。
「ぐぅうぅ…… 」
口に含んでいたものを水で流すと手を上げた。
「ギブします。もう食えねぇ…… 」
リザードマンが吐いたのを見て気分が悪くなったのだろうこれ以上無理だと自分からギブアップした。
「肉肉……お肉ぅ……食べ過ぎたぁ~~ 」
ラグはペースがガクッと落ちたがどうにかまだ食べていた。
「流石にケーキは飽きたのぅ、どれ、メインディッシュのステーキでも食うとしようかの」
スギナがステーキに手を伸ばす。
余裕の笑みをして食べ始めるスギナの前にはケーキの皿が30近く重なっていた。
リザードマンと人間の男がギブしたのを見て恒夫がハッと何かに気付いた。
「そうか……グラングランの方が腹にもたれるんだ。だからステーキより点が高いんだ。液状で食べにくいしホワイトクリームとチーズたっぷりだ。噛まなくていいかというと具がたっぷり入っていて噛まないわけにはいかない、得意の肉を選んだラグが正解だったんだ」
恒夫が妖怪チームに視線を向ける。
「ムジナはもう終わりだな、皿の数もラグより少ない、ラグはケーキを一皿食べてるからムジナより合計点は高い、問題は手長だ。グラングランを食べてるくせにペースが落ちない、制限時間があるからスギナちゃんが一番だとして二番は手長か……ラグも頑張ってるんだけどな」
五十分が経過してムジナが倒れてその後ラグもギブアップした。
「もうダメだぞ、これ以上食べたらお腹破裂するぞ」
ラグがぽっこり膨れたお腹を摩って隣のスギナを見る。
「ちびっ子はまだ食えるのか? そんなに食べるくせに何でちびっ子なんだ? 」
スギナがステーキを食べる手を止めた。
「余計なお世話じゃ、そもそもちびっ子ではないぞ、この姿が一番妖力を消費せんからしておるだけじゃ、なろうと思えばナイスバディにもなれるんじゃからな」
「スギナちゃんがナイスバディに…… 」
大人姿を想像して恒夫の頬が緩んでいく、それを見てスギナがジロッと睨み付けた。
「何を想像しておる? お主のようなバカがおるから今の姿をしておるんじゃ」
「あははっ、何も、何にも想像してないからな、あははははっ、それよりあと五分だぞ」
「まったく…… 」
溜息をつくとスギナがまたステーキを食べ始めた。
ラグが反対側の端を見る。
「あいつもよく食うにゃ、手長だっけ? 手が長いくせに足は短いぞ……でも足床に埋まってるぞ」
「なんじゃと!? 」
スギナがひょいっと顔を出して椅子に座る手長の足下を見る。
妖怪手長の足は短い、椅子に座って足をぶらぶらさせているスギナと同じくらいのはずである。
だが今椅子に座っている手長は床に足が付くどころか床を突き抜けていた。
「よく食うと思ったらそういう事じゃったのか」
スギナは左手を机の下に隠すようにやると手から植物の細い蔓を伸ばした。
カイラルがマイクを持った。
「あと三分です。このままスギナ選手が逃げ切るか、手長選手が追い抜くか、ラストスパートを掛けてください」
「審判、儂の勝ちじゃ」
スギナが右手を上げると椅子の上に立った。
マイクを持ったカイラルが顔を顰める。
「スギナさん後三分残っていますよ、座ってください、反則に…… 」
「反則は此奴じゃ! 」
スギナが大声を出すと同時に手長が悲鳴を上げた。
「ギヒィイィ~~ 」
手長をグルグル巻にしながら床を突き破って大きな植物が生えてくる。
「なっなにを……スギナさん反則です。反則です」
カイラルがスギナを指差す。
「反則は此奴らじゃぞ」
スギナが手を振るとグルグル巻にした植物が手長を持ち上げていく、
「グワァアァ~~ 」
観客席で見ていた足長が床に体を半分めり込ませて呻きを上げた。
「なん!? 何が…… 」
スギナを止めようと前に出た恒夫だが手長と足長を見て立ち止まる。
「こいつら……こいつら繋がってやがる」
「その通りじゃ、此奴らは二人で参加しておったのじゃ、一人ではなく二人で食っておったんじゃ、じゃからいくらでも食えたんじゃ」
スギナがカイラルに向き直る。
「これでわかったじゃろ、反則は儂ではなく手長足長じゃ」
カイラルが頷く、
「疑って悪かった。反則は手長だ。魔法で結界を張って反則はできないようにしていたのだが妖術で結界を潜り抜けたらしい」
スギナに謝った後でカイラルがバッと手長を指差す。
「手長の反則により妖怪チーム失格、なお反則行為は厳重に処罰されます」
カイラルが舞台の前に立つ、
「一分残っていますがここで終了とします。一番は言うまでもなくスギナさんです。二番はムジナですが妖怪チームは反則で失格となったため繰り上げでラグさんが二番です。恒夫チームのスギナさんとラグさんがワンツーフィニッシュを決めました。300ポイントと100ポイント合計400ポイント獲得です。おめでとうございます」
不思議そうな顔をしたラグがスギナを見つめる。
「にゃん? あたいが勝ったのか? 」
「そうじゃ、手長とムジナが失格でお主が二番じゃ、儂が一番でお主が二番じゃぞ」
「にゃにゃ、負けたと思ってたのに……やったにゃ、勝ったにゃ、ツネ勝ったぞ、400ポイントだぞ」
舞台からラグが駆けてきて恒夫に抱き付いた。
「よくやったな、凄いぞ、やっぱりラグは凄いよ」
「にゃははははっ、当然だぞ、なんたってチャトラン族の戦士だからな」
頭を撫でられてラグが嬉しそうに目を細めた。
歩いてきたスギナに恒夫が手を伸ばす。
「スギナちゃんも凄いよ、碌でもないゲームだと思ってたけど勝てたら文句無しだ」
「ふふん、儂に掛かればこの程度なんともない事じゃ」
恒夫に頭をポンポンされてスギナが自慢気に鼻を鳴らした。
笑顔のヘカロがやって来る。
「二人とも頑張ったな、400ポイントでは公平に分けると一人133ポイントで1ポイント余りが出る。端数は天使が預かっておくルールだ」
「俺は100ポイントでラグとスギナちゃんに150ポイントずつ分けてください」
恒夫の腕をスギナが引っ張った。
「何を言っておる。公平に分ければいいじゃろ、一人130ポイントずつ分けて残りの10ポイントを天使に預けておけばよい」
「でも俺は何もしてないからさ…… 」
ラグが腕に縋るように抱き付く、
「何言ってんだ応援してくれたぞ、それに肉よりグラングランのほうがいいってアドバイスもしてくれたぞ、あたいは利かなかったけどにゃ」
「ラグの言う通りじゃ、同じチームじゃぞ、個人戦ならともかくチームで得たポイントは公平に分ける。それが当たり前じゃ、儂らは儂らのできる事をしただけじゃ、お主もお主のできる事を必死でしてくれておるじゃろ、じゃから何もしておらんなどとは二度と言うな」
「スギナちゃん……ラグも……ありがとう、わかったよ、俺も頑張るからさ」
恒夫がぐいっと目を擦った。
涙が溢れそうになって自然と手で擦っていた。
優しい顔をしたヘカロが恒夫の背をポンと叩く、
「では各自130ポイントずつだ。残りの10ポイントはロロフィに預けておくよ」
130ポイントずつ入って恒夫が390に130を足して520ポイントとなりラグが380に130で510ポイントだ。
スギナは480に130を足して610ポイントとなった。
イベント担当天使のカイラルがマイクを握って壇上に立つ、
「これにて大食い大会を終了します。三日の休みを有意義に過ごしてください、なお反則行為をした妖怪チームは各自200ポイントマイナスの上スタート地点に戻される処分が下されました。皆さんも気をつけてください、余りに酷い反則行為はポイントマイナスではなくゲームから排除されますよ」
「200ポイントマイナスか…… 」
険しい顔で呟く恒夫をスギナが見上げる。
「ポイントはいい、スタートからやり直せば稼げるからの、じゃが30マス以上の遅れは取り戻せん、彼奴らはゲームから除外されたのと同じじゃ」
「そうだな、ラッキーイベントでもないと無理だな」
スギナがくるっとラグに振り返る。
「自業自得じゃ、ラグが気付かんかったらあのまま二番になっておったぞ」
「うん、ラグのお手柄だな」
「にゃははははっ、あたいはリーダーだからな、偉いからにゃ、もっと褒めるといいぞ」
二人に褒められてラグが嬉しそうに笑った。
ヘカロが恒夫たちを見回す。
「無事イベント終了だ。では我々も行こうか」
恒夫が大きく頷くとスギナとラグに振り返る。
「二人とも疲れただろ? 大食いは体力も使うからな、良い宿取ってゆっくり休もうぜ」
「賛成じゃ、流石にあれだけ食えば満腹じゃ、少し横になるとしよう」
「そだぞ、もうお腹いっぱいだにゃ、晩御飯はいらないから部屋でツネと遊ぶぞ」
恒夫が顔を顰める。
「いや、俺は食ってないからな、一人で食いに行くからラグは部屋でおとなしくしてろ」
「にゃへへっ、お腹パンパンパンダだぞ、ツネと一緒に遊んで腹ごなしするぞ」
「だから俺は食ってないんだ。お腹ペコペコペコにゃんこだからな」
恒夫がじゃれてくるラグの腕を引き離して弱り顔だ。
「にゅひひひっ、そんな事言うにゃ、一緒に部屋で遊ぶぞ」
「だから俺は飯食いに行くって言ってるだろ、帰ったら遊んでやるからさ」
抱き付くラグを連れて会場を後にする。
「では私は行くよ、ロロフィのイベントも終わったみたいだから次に会えるのを楽しみにしておくよ」
そう言うとヘカロは天使の翼を広げて飛んでいった。
「秀樹たち旨く行ったのかな…… 」
呟くと恒夫たちも歩き出す。




