第四十五話
秀樹が後ろから恒夫の肩に手を回して肩組をする。
「そんなに慌ててチームを組む事もないだろ? 」
「参加者が一同に会する機会なんてもう無いぜ、でも人間がここまで嫌われてるとはな……他種族の仲間が欲しかったんだが作戦の練り直しだぜ」
恒夫が鬱陶しそうに秀樹の腕を払い除けた。
追いかけてきた栄二が話しに加わる。
「そうだね、いつでもチームを組めるって言ってもこの先は同じマスに止まらないと無理だからね、それに今回は初めの町での休みも無く行き成りサイコロを振るってヘカロさん言ってたよ」
恒夫がバッと振り返った。
「マジかよ…… 」
驚く恒夫を秀樹がからかう、
「ああ、初めの町で装備を揃える作戦が使えないぜ、それで相談しようと思って追いかけてきたら恒夫がナンパしてたってわけだ」
「ナンパじゃねぇ! 」
厭そうに怒鳴った後で恒夫がマジ顔で口を開く、
「それなら尚更仲間がいるな、今のままじゃ実際に戦えるのは秀樹だけだぜ」
「そうだね、早く仲間を見つけるってのには賛成だよ」
三人顔を見合わせて頷くとマジ顔で仲間になってくれそうな人を探し始めた。
獣人や昆虫種族に妖怪など何人かに声を掛けたが全て断られる。
人間とわかるとあからさまに敵意を向けてくる者も多かった。
秀樹が大きな溜息をつく、
「ダメだな、他種族を仲間にするのは諦めようぜ」
「そうだね、人間を誘うしかないね、もう一度中津に頼んでみる? 」
全て断られて栄二はすっかり及び腰になっていた。
「止めといたほうがいいな、東條に罵られるのはいいが中津に顎で使われるのは御免だぜ」
「そうだな、一緒に居ると喧嘩しそうだ」
恒夫に賛成する秀樹を見て栄二も頷く、
「そうだね、前よりマシになったけど中津とは反りが合わないよね」
「他の人間を探そうぜ」
恒夫に言われて秀樹が辺りを見回す。
「探すってもな……他の奴らもチーム組み終わってるぜ、一人ならともかく俺たち三人と合流してくれる連中は残ってなさそうだぜ」
「そうだね、三人以下のチームなら合流できるけど僕たちみたいに友人同士で参加した人たちばかりみたいだし、それが集まって三人以上になってるね、先に組んだ人を離して僕たちと組んでくれるわけないよね」
「ゴチャゴチャ言ってても始まらん、三人以下のを探そうぜ」
諦め顔の栄二を連れて秀樹が歩き出す。
「三人か…… 」
ぽつりと呟くと恒夫が後に続いた。
「あのぅ………… 」
歩き出した三人が後ろから呼び止められた。
一番後ろにいた恒夫が真っ先に振り返ると女が立っていた。
「さっきから見てたよな? 何か用か? 」
つっけんどんに言った恒夫の後ろから秀樹と栄二がやって来る。
「何怒ってんだよ、いいから恒夫はどいてろ」
秀樹が恒夫を押し退ける隣で栄二が愛想笑いをしながら話し掛ける。
「僕たちに何か用? 君人間だよね? 他種族じゃないよね」
「あっはい、人間です。緒方菜穗って言います」
菜穗がペコッと頭を下げた。
緒方菜穗は耳が隠れるくらいのふわっとカールの掛かった髪に気の強そうな目をした少女だ。
身長は160センチくらいで太ってはいないが肉感的な美人だ。
胸は大きくもなく小さくもないCカップほどである。
頭を上げると菜穗が続ける。
「私とチームを組んでくれませんか? 」
秀樹と栄二の顔がパッと明るく変わる。
「チーム? 俺たちと組んでくれるのか? 」
「本当? 僕たちも探してたところだよ」
「じゃあチームに入れてくれるんですね、嬉しいぃ~~ 」
菜穗が大袈裟に喜ぶのを見て秀樹と栄二の頬が緩んでいく、諦めかけていたところへ可愛い女の子が仲間になりたいと言ってくれば喜んで当然だ。
「お前一人か? 何で俺たちに声を掛けた? 」
恒夫が険を含んだ声で訊いた。
止めろというように一睨みすると秀樹が言い直す。
「他の仲間は? 緒方さん一人なのか? 」
「はい私一人です。それと緒方じゃなくて菜穗って呼んでください、親しい人には菜穗って呼んでもらってますから…… 」
菜穗がこれでもかという愛らしい笑みで言った。
「菜穗さん一人なんだ。それじゃあ喜んでチームを組むよ」
好みのタイプなのか栄二がデレデレだ。
「一人じゃ難しいゲームだからな、誰かと組んだほうがいいからな、なっ栄二」
嬉しいのか秀樹の声もうわずっている。
「自己紹介しなくちゃね、僕は野方栄二…… 」
「知ってます。秀樹さんと栄二さんと恒夫さんでしょ? 前回のゲームで優勝したんでしょ? 私の担当天使さんに聞きました。それで仲間になるんだったら強い人がいいなって思って声を掛けたんです」
自己紹介する栄二の言葉を遮って菜穗が言った。
「 ……そうなんだ。知ってるんだ。あははっ、僕たち有名なのかな? 」
栄二が笑いながら秀樹に振り向く、自己紹介の話しの腰を折られて戸惑っている顔だ。
普通は知っていても話が終わってから言うだろう菜穗は少し常識が無いのか我が強いらしい。
「そうかもな、なんたって優勝だからな、それで…… 」
「有名かどうかは知らないけど私は凄く格好いいって思います」
菜穗は秀樹の話も遮った。
秀樹は気分を悪くするどころか可愛い菜穗に憧れるような目で見られて頬を赤くして照れまくっている。
恒夫が秀樹の腕を引っ張る。
「俺は反対だ」
耳元で話す恒夫に秀樹が顰めっ面で大声を出す。
「何でだよ、仲間がいるってお前から言い出したんだろが」
「そうだよ、町で装備を揃えられないから始めに仲間を探そうって言ったのは恒夫だろ」
栄二も非難するように恒夫を見つめる。
「喧嘩しないでください」
菜穗が恒夫の前に出てきた。
「私役に立ちます。魔法の力と杖とペンダントを持ってます。上級魔法使いです。役に立って見せますからチームに入れてください、お願いします」
菜穗がバッと頭を下げた。
「菜穗さん、そんな事しないでいいからね、仲間になるんだからさ」
慌てて止める栄二の隣で秀樹が恒夫を睨み付けた。
「ここまでしてくれてんだぜ、何が不満なんだよ、上級魔法使いなら充分戦力になるだろ」
「そうだよ、前のゲームみたいに初めの町で魔法の銃を買ったりできないんだよ、今まともに戦えるの秀樹だけだろ、恒夫の無敵札はいざって時に使う必殺技なんだろ、3回しか使えないんだよ、だったらどうやって戦うんだよ」
「栄二の言う通りだぜ、菜穗さんが入ってくれれば初めのイベントで戦いがあってもどうにかなるだろ、その後で町へ行って装備を揃えればいい、その為にもチームに必要だろ」
「そうだよ、恒夫がダメって言っても入って貰うからね」
秀樹と栄二が交互に言い聞かせるが恒夫は怪訝な顔を崩さない。
「その女は信用できない、俺は反対だ」
「何言ってんだ! 初対面で言い過ぎだろが! 」
秀樹が恒夫の胸倉を掴んで凄む、
「秀樹ダメだよ、恒夫も何が不満なんだよ」
慌てた栄二が秀樹の腕を掴んで止めさせる。
「ったく、何が信用できないんだ? 言いたい事があるなら言ってみろ」
手を離すと秀樹がマジ顔で怒る。
「そうだよ、そこまで言うなら何かあるんだよね」
栄二も内心は腹が立っていたが自分も怒れば秀樹を止められないと冷静な声で聞いた。
恒夫が菜穗に向き直る。
「嘘をついてる。そんな目をしてんだよ、だからこの女は信用できない」
「なっ、何を言ってるの? 私何も隠してなんかいません、一人じゃ心細いからどこかのチームに入れてもらおうって考えてたら天使さんが秀樹くんたちの事を教えてくれたんです。それで仲間にしてもらおうって声を掛けたんです。本当です」
恒夫をじっと見つめて菜穗が訴えかけるように言った。
「自分で言ったな、何を隠してるんだ? 」
菜穗の顔色が一瞬変わるが直ぐに話を始める。
「何も隠してません、嘘をついてるって言われたから何も隠してないって言っただけです。危ないゲームなのは覚悟してるつもりだったけど獣人や妖怪がこんなに沢山いるなんて思ってもみなかったんです。私勝ちたいんです。それで前のゲームの優勝者だって聞いたから……はっきり言って秀樹さんたちを利用すれば勝てるかも知れないって思って近付きました。でも私だって秀樹さんたちの役に立ちます。だからお願いします仲間に入れてください」
秀樹や栄二を見回して必死に頼み込む、
「わかった。菜穗さんをチームに入れる。俺がリーダーだからな、わかったな恒夫」
秀樹が有無を言わさぬ顔で恒夫に言った。
「僕も賛成だよ、慎重なのはわかるけど恒夫は人を疑い過ぎだよ」
賛同を得ようと栄二が恒夫の肩に手を置いた。
恒夫がつっけんどんに栄二の手を払い除ける。
「不良どもと付き合ってるからバカの事はよく知ってんだ。隠し事をしてたり嘘を言ってるヤツの目は見ただけでわかる。俺自身もよく嘘をつく、だからわかるんだよ、その女は何か隠してる。だから仲間にするのは反対だ」
「いい加減にしろよ! 仮に何か隠してたっていいじゃねぇか、菜穗さんは仲間にする俺が決めたからな、文句あるなら…… 」
怒鳴った秀樹がハッとして言葉を止めた。
恒夫が薄い頭を掻き毟る。
「わかった。出て行くよ、俺がチームを抜ければいいんだろ」
「なっ、何言ってんだよ恒夫、こんな時に冗談止めろよ」
慌てて止める栄二の顔が引き攣っている。
栄二を脇にどかせると恒夫が秀樹の正面に立つ、
「その女を取るか俺を取るか選べ」
「恒夫……本気かよ、わかった勝手にしろ、俺は菜穗さんをチームに入れる。女の子一人放っておけるかよ」
売り言葉に買い言葉で秀樹が怒鳴るように言った。
「お前のチームだ好きにしたらいい、俺も好きにさせてもらう」
恒夫も険しい顔を崩さない。
秀樹の怒りがすっと引いていく、
「別に俺のチームじゃねぇ……リーダーなんて俺の柄じゃない、お前らより体がデカくて体力があるから、栄二や恒夫が頼りにしてくれるから……力を貸してくれるからやってこれたんだ。お前らと一緒だからやってんだ。俺なんかより栄二や恒夫のほうが頭良くてさ、よっぽどリーダーらしいぜ、でもな、でもお前らが頼ってくれると何か嬉しいんだ。だから、だから必死でリーダーの真似事やってんだ。それでも一応リーダーだからな、だから理由はどうあれ、菜穂さんに何かあったとしても女の子一人放って置くなんて出来ないだろが」
「秀樹…… 」
心の中をぶちまけた秀樹を優しい目で見ていた栄二が恒夫に振り向いた。
「僕も同じだよ、秀樹や恒夫が居たから、一緒だからここに居るんだよ、僕一人じゃ勝つなんて無理だよ、軽い気持ちで始めたゲームだけど今は凄く大きいんだ。だって異世界だよ、ネピアに会えたんだよ、僕の夢が叶ったんだよ……またネピアに会いたい、他の獣人たちにも会いたい、夢を叶えるためのゲームなんだよ、そのためには三人じゃなきゃダメだよ」
恒夫がマジ顔で口を開く、
「俺は違うぜ、一人でもやってみせる。こっちの世界のことは分かってんだどうとでもなるさ、気に入らないヤツと同じチームなんて御免だぜ」
「てめぇ!! そんなヤツだったのかよ! 」
今にも殴り掛かりそうな秀樹を栄二が押さえる。
「暫く試せばいいだろ、本当に菜穂さんが何か隠しているなら僕も考えるから…… 」
栄二の腕を秀樹が振り解いた。
「バカ言うな栄二、何があっても菜穂さんを外したりするかよ、女の子一人に危ない事させて恒夫は平気なのかよ」
「覚悟して参加したんだろ? なら平気だ」
「クソったれが……勝手にしろ!! 」
飄々と言う恒夫を見て秀樹が吐き出すように言った。
「わかった。勝手にさせてもらうぜ、んじゃ出て行くよ」
歩き出す恒夫の腕を取って栄二が止める。
「ちょっ、恒夫、冷静になろうよ、秀樹もさ、ヘカロさんも言ってただろ僕たち三人でチームだって、だから落ち着いて話し合おうよ」
二人の顔を交互に見ながら栄二が必死で取り繕おうとするが恒夫は腕を振り解いた。
「じゃあな栄二、俺より先にやられるなよ」
手を振ると恒夫が去って行く、
栄二がバッと秀樹に振り返る。
「こんなんじゃ、勝てないよ、ねぇ秀樹……恒夫一人じゃゲームできないよ」
「知るか! 恒夫が決めたんだ。彼奴の事だからヤバくなったら棄権でも何でもするだろ」
怒鳴りながらも秀樹の顔が苦渋に歪んでいた。
菜穗が二人にそっと近付く、
「ごめんね、私のせいで…… 」
「菜穗さんのせいじゃない、あのバカが悪いんだ」
「そうだよ、気にしなくてもいいからね、同じマスに止まる事もあるだろうしその時に戻るように話してみるよ」
「ありがとう、私頑張るから……恒夫さんの分までしっかり働くからね」
気遣ってくれる二人の前で菜穗が嬉しそうに可愛い笑みを見せた。
栄二が秀樹の腕を引っ張る。
「ヘカロさんに相談しようよ」
「そうだな、ヘカロさんなら恒夫を説得してくれるかもな」
栄二が菜穗に振り返る。
「僕たちの担当天使を紹介するよ、菜穗さんが僕たちのチームに入るならヘカロさんが担当になるからね」
「はい、よろしくお願いします」
菜穗がペコッと頭を下げた。
歩き出す秀樹と栄二の後ろを菜穗が付いていく、二人の背中を見つめる菜穗の口元が愉しそうに歪んでいた。




