第四十四話
会場に鐘の音が鳴り響いた。
休み時間終了の合図だ。
待っていましたとばかりに参加者がテントに並ぶ、秀樹と中津たちは初めの方に並ぶ事ができた。
百三十人ほどが5列になって並んでいる。一人五分かかるとして全て終わるのに二時間以上掛かるだろう、先に終えれば時間的余裕ができるので仲間を探す事もできる。
能力とアイテムの受け取りは他の参加者に分からないように一人ずつテントの中に入って行われる。
参加者同士で戦うこともあるのだ。
どのような能力を貰ったのか知られるわけにはいかないので配慮してある。
能力と力を受け取って出てきた秀樹たちに中津が駆け寄った。
先に貰って待っていたのだ。
「何を貰ったんだ? 俺たちも話すから教えろよ」
「教えろって言ってもな」
どうするというように秀樹が栄二と恒夫に振り返る。
「別にいいんじゃね」
「そうだね、今回は敵じゃなくてライバルって感じだからね、イベントによっては協力する事もあるかも知れないから互いの力を知っていてもいいかもね」
恒夫と栄二の了承を得て秀樹が話し始める。
「俺は能力は不死身だ。アイテムは魔法の杖とペンダントだ。これで中級魔法使いとなれる」
次に栄二が話す。
「僕も不死身だよ、アイテムは影マントと空気玉だ。秀樹のフォローが出来ればいいって感じだよ」
「影マントはわかるけど空気玉なんて何に使うんだ? 」
中津が先程の恒夫と同じように顔を顰めて訊いた。
「秘密だぜ、戦い方まで教える事はないだろ」
栄二の代わりに秀樹がにっと悪戯っ子のように笑った。
「まあいいわ、それでヘンタイは何を貰ったの? 」
何だかんだ言って気になるのか東條が訊いた。
「やっぱり東條は俺に気があるんだな、俺の事を知りたくて仕方がないんだろ、いいぜ、全部教えてやるから俺の胸に飛び込んでこい」
両手を広げる恒夫を東條が魔法の杖で殴りつけた。
「ヘンタイに飛び込むくらいならビルの屋上から飛び降りるわよ」
息の荒い東條を佐伯が押さえる。
「落ち着けって、城道の軽口に乗ってたらバカ見るぜ」
「まったく……それで何を貰ったんだ」
呆れながら聞く中津に恒夫がこたえる。
「俺が貰ったアイテムはイカサマサイコロと無敵札だ」
恒夫だけ能力を言わなかったが中津たちは気にも留めない、秀樹や栄二と同じ言わなくとも不死身だと思っている。
次に中津たちが話し始める。
「俺も不死身を貰った。後は秀樹と同じだ。魔法の杖とペンダントで中級魔法使いって所だな、佐伯が勇者だからそれを補佐する役目だぜ」
得意気な中津を見て秀樹がニヤッと笑った。
「前と同じだな、不死身なら次は俺が負けるかもな」
「当たり前だ。でも今回はお前らが敵じゃない、お互い潰し合うような事は無しだぜ」
「了解だ。正直お前ら相手しなくて済んでほっとしてるぜ」
ニヤッと笑い返す中津を見て秀樹がフッと笑った。
佐伯が前に出てきた。
「俺も不死身だ。アイテムは魔剣と天使の羽だ。剣術力はないけどこの前のゲームで剣の使い方は覚えたからな、天使の羽で素早く動ければそれなりに戦えると思うぜ」
流石スポーツ万能の佐伯だ。
剣術力で劣るところを天使の羽のスピードでカバーする作戦である。
最後に東條が口を開く、
「私は不死身じゃなくて治癒力を貰ったわ、自分を治す事も出来るし中津や佐伯くんを治す事も出来る。不死身が通用しない相手がいた場合の保険ね、アイテムは魔法のペンダントとイカサマサイコロを貰ったわ、サイコロは私じゃなくて中津が使って稼ぐのよ」
ドヤ顔で話す東條を見て恒夫の眉がピクッと動いた。
中津が付け加えるように話し出す。
「東條さんはあくまで俺たちのサポートだ。強い相手とは戦わせない、魔族のような相手と戦う事になったら棄権させる。魔法は身を守るために選んで貰った。ヘンタイほどイカサマサイコロを旨く使いこなす自信は無いがゲーム中に不自由しない程度の金は稼げるだろう」
「流石だね、はっきり言って戦ったら僕たちは負けちゃうね」
「だな、お前らなら本戦に進めそうだ」
感心する栄二の隣で秀樹も大きく頷いて同意した。
「不死身を主眼に置いて取捨選択して行けば当然だな、寧ろ今の装備以外を選んだりしたらバカだと自己紹介してるみたいなものだぜ」
面白くないという様子で恒夫が言った。
ふて腐れたと見えたのか秀樹が恒夫の肩を掴んで引き寄せる。
「何突っ掛かってんだよ、止めろよな」
「自分より旨い事選ばれたから妬いてるんだよ、恒夫って意固地な所あるからさ」
迷惑そうに止める秀樹の隣で栄二がニヤッと笑っている。
ここぞとばかりに東條が話し始める。
「ヘンタイより中津の方が賢いんだから当たり前じゃない、始めに不死身を選んだのは凄いって私も思ったけど、今回は今一よね、不死身が通用しない相手を無敵札でカバーするつもりだと思うけど治癒力を選んだ中津の方が一枚上手だわね」
「東條さん、その辺で止めとけよ、この前のゲームで不死身の力を教えてくれたから今回戦えるんだからな、恒夫には感謝してるぜ」
珍しく中津が恒夫を庇った。
同じ男として女の厭味が鼻についたのかも知れない。
「俺は別に……勝手に思ってろ、一寸散歩してくるぜ」
恒夫は手を振ると秀樹たちから離れていく、数歩歩いた所で振り返る。
「中津、町で一緒になったらイカサマサイコロの使い方レクチャーしてやるよ」
「ヘンタイなんかに教えて貰わなくても旨く使ってやるぜ」
言い返す中津に目もくれずに恒夫は歩いて行った。
「拗ねちゃったのかな? 」
「ヘカロさんがいるから大丈夫だろ」
ヘカロが後を追うのを見て秀樹と栄二は安心したのか中津たちとまた話を始めた。
歩いている恒夫の肩にヘカロが手を置いた。
「恒夫くんだけ違うんだね、不死身じゃなくて治癒能力を選ぶとは思っていなかったよ」
そっと耳打ちしたヘカロに恒夫がニヤッと企むように笑いかけた。
「秀樹と栄二には黙っててくださいよ、反対されると厄介だから相談しないで決めたからさ、同じじゃ勝てない、俺はこれでやってみる。ダメだったら諦めるさ、中津も東條さんに選ばせたんだ。あいつは賢いからな、たぶん俺の選択も間違ってないと思う」
恒夫も小声でこたえた。
「そうか……恒夫くんの判断が旨くいくように私も祈っている」
「最悪、秀樹と栄二だけでも勝てればいいからな」
「恒夫くん………… 」
ヘカロが優しい目で恒夫を見つめた。
散歩と言って恒夫は歩きながら参加者を見て回る。
恒夫の前をテントから出てきた参加者が次々に通っていく、何の能力を貰ったのか分からないが皆一様に笑顔だ。
テントから出てきた少女に目が留まった。
「獣人……猫かな? 」
少女は褐色の肌に癖毛のベリーショートの頭から三角の獣耳とミニスカートみたいな腰布から尻尾が出ていた。
シャツのような服から伸びた腕や太股から下の足に毛が生えている。
獣が30%で人間が70%といった姿だ。
どことなくネピアやクロエに似ている。
恒夫が注目したのはそれだけではない、胸が物凄く大きかった。
巨乳を越えた爆乳だ。
背は150センチ程で恒夫より8センチくらい低い、細い体に爆乳が目立つ、吊り上がった目にベリーショートの髪、どこか少年のような中性っぽい顔立ちだ。
「ラグさんか、生意気そうなところがいいな、女王様姿で鞭持たせたら似合うぜ、人外好きな栄二もおっぱい星人の秀樹も喜ぶよな」
胸に付いているバッジに名前が書いてあるので分かった。
名前を確認するためではなく爆乳に見惚れていたというのが本音だ。
「Bグループか、獣人だからな、力というより動きが素早さそうだな……よしっ! 」
恒夫が獣人ラグに近付いていった。
「あのぅ……ラグさん」
「んにゃ!? なんだお前? 」
怪訝な顔をしてラグが振り向いた。
「かっ、可愛い……けど…… 」
俺より栄二向きだな……、
女王様より可愛い娘系かと少しがっかりだ。
正面から見たラグは幼顔で少女とも少年とも取れる整った可愛い顔をしていた。
「にゃへ? なん? 何言ってんだ。行き成り変な事いうな! 」
可愛いと聞いてラグが照れを隠すように怒った。
褐色の頬を赤くして怒る姿が益々可愛い。
小学生のようなラグの態度に恒夫が安心して話を始める。
「ああ、ごめん、ラグさんが可愛かったから」
「変な事いうな、あたいに何の用だ? 」
「俺とチームを組まないか? 天使も言ってただろBやCグループはチームを組んだほうがいいって、だから一緒にイベントクリアしていかないか? 」
笑顔で話す恒夫をラグがジロッと疑いの目で睨む、
「お前人間だな、あたいは人間は信用しない、人間はズルくて悪い奴ばかりだぞ、人間と手を組んだって邪魔になるだけだぞ」
「俺は騙したりしないよ、ラグさんが可愛いから、仲間にするならラグさんのような強くて可愛い人がいいって思ったから……ラグさんが組んでくれるならポイントの取り分は6対4でいいよ、もちろんラグさんが6だよ、だからさ…… 」
気に入ったのか恒夫が譲歩して提案するがラグは胡散臭そうに睨み付ける。
「煩い、向こうへ行け、お前が行かないんだったらあたいが行く」
取付く島もなくラグはトトトッと走り去った。
「あぁ……一寸待って………… 」
惜しそうな恒夫の肩が後ろからポンッと叩かれた。
「ナンパ失敗だな」
バッと振り返ると秀樹と栄二がニヤニヤ笑っていた。
「褐色のケモ耳かぁ~、可愛いね、僕の好物だよ、でも恒夫はああいう娘もいけるんだね、てっきり年上だけかと思ってたよ」
「女王様だけじゃなくロリも有りかよ、ヘンタイに磨きが掛かってきたな」
二人を見て恒夫が嫌そうに話を始める。
「んだよ、そんなんじゃねぇよ、強そうだから仲間にしようと思っただけだ。魔法のペンダントしてただろ、たぶん能力も魔法力貰ってるぜ、中級魔法使いだ。運動能力が高くて魔法も使える。いい戦力になるって思っただけだ」
ムッと怒る恒夫の顔を秀樹が覗き込む、
「ペンダントか……よく見てたな気付かなかったぜ」
「誰彼構わず声かけるかよ、役に立ちそうなの選んでるぜ、強いだけじゃなくて俺たちと連携を取ってくれそうなのをな」
感心する秀樹の向かいで恒夫がムッとしたままこたえた。
栄二がチラッと秀樹を伺う、
「でも本当に可愛かったね、褐色の肌が元気いっぱいっていう感じでネピアとは違った魅力があるよ、それに胸も大きかったし」
「おおぅ、おっぱい凄かったな、旨く行けば最高だったのにな」
おっぱい星人の秀樹が声を一段高くするのを見て恒夫の顔から怒りが消えていく、
「ったく……お前らこそナンパ気分じゃないかよ」
頬を緩める二人を見て恒夫が呆れたように吐き捨てた。
「はははははっ、お主ら人間か? あれじゃな、3バカトリオというヤツじゃな」
楽しげな笑い声に振り返ると着物姿の幼女が秀樹たちを見ていた。
「振られても仕方ないのぅ、相手は気紛れ猫じゃからな」
笑いながら幼女が近付いてくる。
肩の上くらいまでのストレートの黒髪に優しそうな目をした幼女だ。
姿は人間と全く同じに見える。
身長は135センチくらい、幼児体型なので胸はペッタンコだ。
「え!? 君もゲームに参加するのか? 」
栄二が思わず声を掛けた。
秀樹はもちろん恒夫も顔に驚きを浮かべている。
三人の中で一番気の小さい栄二が思わず声を掛けるくらいに場違いに見えた。
「当たり前じゃ、勝ちは儂のものじゃぞ」
幼女がニッと笑う、危険なゲームに出るとは思えない可愛い笑みだ。
「いくら何でも子供は不味いだろ」
秀樹がキョロキョロ辺りを見回す。
幼女の担当天使に話しを聞こうと探すが見当たらない。
ムッと怒った顔で幼女が秀樹の腕を叩く、
「儂を子供扱いするな! これでもお主よりずっと上じゃぞ」
「僕たちより年上って……スギナちゃんが? 」
栄二の顔に更に驚きが広がっていく。
幼女のような姿なのに年寄りみたいな話し方だ。
年齢もそうだが何の種族なのかも分からない、分かっているのはバッジに書いてあるスギナという名前だけだ。
「そうじゃぞ、儂は木の精霊じゃ、何百年も生きた霊木から生まれた妖怪じゃぞ」
「木の精霊か……Aクラスって……スギナちゃんが? 」
「マジかよ……どんな力持ってるんだ? 」
驚く栄二の隣で秀樹が思わず訊いていた。
「能力を迂闊に話すわけはないじゃろ、真剣勝負じゃぞ」
当たり前だがこたえてくれない。
改めてスギナを見る。
バッジには名前の下にAと書いてあった。
獣人や人間などとは違う特殊な力を持っているものたちがAクラスだ。
「んん!? 」
視線を感じて恒夫が振り返る。
軽食やドリンクが取れるようになってるテントの陰に誰かがサッと隠れるのが見えた。
「女か? 」
「お主も気付いたか? 」
恒夫を見てスギナは愉しそうに口元を歪めると小声で続ける。
「人間の女じゃぞ、後から来た二人をつけて追ったようじゃな」
「俺じゃなくて秀樹と栄二か…… 」
「余り良い気を感じん、気を付けたほうがいいのぅ」
「良い気か……まあいいや、それはそうとスギナちゃん」
恒夫がスギナに体ごと向き直る。
「俺とチームを組まないか? 」
スギナがニッコリと楽しげな笑みのまま口を開く、
「悪いがお断りじゃ、儂は強いからのぅ、序盤は個人で進む、簡単なイベントばかりの序盤戦でポイントを分けるなど非効率じゃ」
「そうなのか……誰か俺と組んでくれる人居ないかなぁ~~ 」
恒夫が大袈裟に肩を落とす。
半分演技だ。優しそうなスギナの気を引こうとしたのだ。
スギナが演技を見抜いたようにジロッと見上げる。
「当然じゃ、周りを見てみぃ、他種族で人間と組んでおるヤツなどおらん、能力が低いからだけではないぞ、基本的に人間を信用しておらんのじゃ、身勝手で自分のことしか考えん人間など嫌われて当然じゃ」
秀樹たちが辺りを見回す。
何人かの人間が集まってチームを組んでいるのが見えるが人間だけだ他の種族は一人もチームに入っている様子はない。
「 ……そうだよな、地球の支配者って感じで好き勝手やってるもんな、スギナちゃんやラグさんが嫌うのも当然だな………… 」
今度は演技では無い本心から寂しそうに呟いた。
睨んでいたスギナの表情が緩む、
「儂は別に嫌ってはおらんぞ、儂は日本の四国生まれじゃ、昔は人間の友達も沢山居たものじゃ……じゃが最近の人間はダメじゃな、身勝手でものを尊ぶ事を知らん、じゃからここ二百年は友達もおらん」
「ありがとう、スギナちゃんが人間を嫌いじゃないって言ってくれた事だけで嬉しいよ」
恒夫は自分から離れていった。
その後ろ姿をスギナがじっと見つめていた。
秀樹が声を掛けて追いかける。
「恒夫……一寸待てよ、勝手に動くなって」
「じゃあね、気が変わったら仲間になってよね」
ペコッと頭を下げて栄二も二人を追った。
「城道恒夫か……変わったヤツじゃのぅ、じゃが悪いやつではなさそうじゃ」
去って行く三人を見てスギナが呟いた。




