第三十八話
翌日、秀樹が登校すると栄二と佐伯と中津が寄ってきた。
「おはよう秀樹」
「おいっす」
「よぅ」
笑顔の三人に秀樹が挨拶を返す。
「おっす、嬉しそうだな」
満面笑顔の栄二が秀樹の腕をバンバン叩く、
「なに言ってんだよ、秀樹だって笑ってるよ」
「当たり前だぜ、クロエに会えるかも知れないんだからな」
「うん、ネピアに会えると思うと嬉しくて顔が歪んじゃうね」
互いの顔を見てにやける二人の間に中津が入る。
「俺たちを忘れるなよ、今度は勝つぜ」
「そうだな、勝って借りを返してやるよ、なんせ足の怪我も治って万全だからな」
佐伯が屈伸をしてアピールだ。
秀樹が佐伯の肩にポンッと手を置いた。
「お前らが一緒だと安心だぜ、勝ち負けはともかく人類存続派の神様だろ? 中津と佐伯と東條さん全員そうだよな」
「ああそうだ。だから秀樹が負けても安心していいぜ、前のゲームもラッキーイベントでお前らが先に宝玉を揃えなければ俺たちが勝ってたかも知れないからな」
「たらればは言いたくないがラッキーイベントが無ければ間違いなく俺たちが勝ってたぜ」
中津が厭味ったらしく言った。
そこへ東條がやって来る。
「そうよね、不死身なんて卑怯なもの使わないと勝ちは無かったわね」
秀樹が厭そうな顔を向けた。
「何が卑怯だよ、能力は神様から公平に貰えただろ、俺たちは不死身を選んだだけだぜ」
「そうだよね、恒夫が不死身にするって言った時は戸惑ったけど結果オーライだよね」
栄二は笑顔のままだ。また向こうの世界にいけると考えるだけで嫌な事は何も頭に浮んでこない。
「それで城道の件はどうなったの? 」
心配そうに東條が訊いた。
「ああ……あれか…… 」
ニヤッと意地悪に口元を歪ませる秀樹の隣で栄二が声を出して笑い出す。
「あはははっ、あれはね」
絶対に話すなと頼んでいた恒夫の言葉を無視して秀樹と栄二が面白可笑しく経緯を話した。
話を聞き終わると中津がボソッと呟く、
「そんな事してたのか……ヘンタイらしくないぜ」
「だから言っただろ、考え無しに遊び回るヤツじゃないって、やるじゃないか見直したよ」
スポーツバカの佐伯は自分の事のように嬉しそうだ。
東條が何とも言えない表情で考え込む、
「あいつ……優しいところあるんだ……何でヘンタイなのよ、まともなら私だって避けたりしないのに………… 」
三人を見て秀樹がニヤついたまま口を開く、
「恒夫はマゾっ気があるからな、捨てられた犬や猫の気持ちがわかるんだぜ」
「動物好きだからね、家に遊びに来た時もゲームやらずに飼ってる猫と遊んでたよ、僕じゃなくて猫と遊びに行っていいかって電話して家に来るくらいだよ」
栄二は始終笑みを絶やさない。
「まあいいわ、城道の件は了解したわよ、私も寄付を手伝うわ、ヘンタイだけに良い格好させられないからね」
東條は安心したような笑みを見せて言うと秀樹と栄二に向き直る。
「今度のゲームは負けないわよ、なんたって佐伯が万全の態勢だからね」
「前と同じ双六らしいからな、次は旨くやるぜ」
「俺も不死身を貰うぜ、不死身に魔剣を貰って不死の勇者になってやる」
中津と佐伯も不敵な笑みを浮かべた。
「俺たちも簡単には負けないぜ、なんたって前回の勝者だからな」
負けじと言い返す秀樹の隣で栄二が楽しそうに話し始める。
「でもさ、またゲームが出来るなんて夢のようだよ、人類のためとか敵味方関係無しに楽しもうよ、魔法の世界で冒険が出来るんだよ」
「そうだな、折角選ばれたんだ。楽しまなきゃ損だぜ」
中津が大きく頷いた。オタを軽蔑していた頃とは別人のようだ。
「あっ、聞くの忘れてた。今度のゲームに勝てば何が貰えるんだ? 」
思い付いたように言った秀樹を見て佐伯が顔を顰める。
「お前そんな事も聞かなかったのか」
「へへっ、ゲームが出来るってだけで舞い上がってたからな、それで何が貰える? 神様が願いを叶えてくれるのか? 」
秀樹が振り向くが栄二も聞いていないので話せない。
黙り込む栄二の代わりに中津が教えてくれた。
「前回と同じだ。神様が願いを叶えてくれる。但し今回はポイント制で上位30番まで願いが叶う、つまり30人の願いが叶うんだ」
「ポイント制か……そういや個人参加も出来るってヘカロさん言ってたな」
「うん、個人参加だけど僕たちにはチームを組んで貰うって言ってたよね」
顔を見合わせる二人を見て東條がやれやれという様子で口を開く、
「呆れた。詳しい話しも聞かないで参加を決めたのね、やっぱりあんたたちどこか抜けてるわ、同じチームじゃなくてほっとするわよ」
「30位以内に入ればいいんだ。前回よりチャンスがあるって事だぜ」
佐伯が余裕の笑みだ。
教室に恒夫が入ってくる。
「おっす」
「おはよう恒夫」
軽く手を上げる秀樹の隣で栄二が挨拶をするのを見て中津たちも振り返る。
「おいっす。見直したぜ城道」
「聞いたぜヘンタイ、寄付してるんだってな」
「余計な心配したわよ、隠れてコソコソしないで話しなさいよね、それと私も寄付してあげるから場所を教えなさいよね」
ニヤつく三人を見て恒夫が厭そうに顔を顰める。
「話すなって言ったよな」
「俺は話すぞってこたえたぜ」
「心配して聞かれたら嘘付けないだろ」
悪い顔で笑う秀樹の隣で栄二がおべっか笑いだ。
「まったく…… 」
溜息をつく恒夫を見て東條が優しく声を掛ける。
「でも見直したわよ、寄付してるなんて思いもしなかったわよ」
恒夫がじっと東條を見つめた。
「東條も寄付するって言ってたよな? それじゃあ、俺に寄付をしてくれ」
「何? まだお金欲しいの? 」
顔を曇らせる東條の正面に恒夫が立つ、
「金じゃない、女王様になって俺をビシバシしばいてくれ、俺に愛の鞭を寄付してくれ」
「なっ……何言ってんのヘンタイ!! 少しでも見直した私がバカだったわ」
頬を赤くして怒鳴る東條の前で恒夫が体をくねらせる。
「おおぅ、いいぞ、その蔑んだ目、ぞくぞくする。あのゲーム以降妙に優しくなったからな、そんなんじゃ俺は感じないんだ。だからもっと俺を罵ってくれ、その可愛い手で殴ってくれ、平手打ちでもいいぞ、俺を……俺を滅茶苦茶にしてくれぇ~~ 」
やってくれと言うように両手を広げる恒夫を見て東條がブルッと震える。
「ひぃいぃ~~、本物だわ、本物のヘンタイよ! 」
低く悲鳴を上げながら体を反らすと秀樹に振り向く、
「どうにかしなさい江藤、ヘンタイの飼い主でしょ」
「飼い主って……無理だぜ、恒夫なんて飼えるわけない、ヘンタイだけは治らないぜ」
「保護者から飼い主になったね、って言うか恒夫は人扱いされなくなったね」
嫌そうに顔を顰める秀樹の隣で栄二は苦笑いだ。
恒夫がニヘッと嫌な笑みをした。
「飼い主……東條が俺の飼い主になってくれよ、靴でも何でも嘗めるぜ、東條のバター犬にしてくれ、一日中でも嘗めるからさぁ…… 」
言いながらふらふらと近付く恒夫に東條が近くにあった椅子を持ち上げた。
「それ以上近付くな! 本気で殴るわよ」
「椅子か……流石に死んじゃうな、でも東條に殺されるのならいいかなぁ…… 」
恍惚の表情で足を止めない恒夫を秀樹と栄二が慌てて押さえた。
「止めんか! マジで殴られるぞ」
「不死身じゃないんだからね、椅子なんかで殴られたら本当に死ぬよ」
佐伯が東條の持ち上げた椅子を奪い取る。
「東條さんもダメだぜ、殴るなら教科書くらいにしとけよ」
「そうだぜ、ヘンタイ殴り殺して捕まったら割に合わないぜ」
中津も弱り顔で止める。
「わかったわよ、ヘンタイを近付けないでよね」
東條が怖い顔をして秀樹と栄二を睨む、恒夫に言っても無駄なのはこの場の全員が理解している。飼い主である秀樹に怒るしかない。
「恒夫はここに居ろ」
秀樹が恒夫の腕を掴んで自分の横に引っ張った。
栄二と挟んで恒夫を捕まえたのだ。
「それでゲームの話しなんだが…… 」
秀樹の言葉を恒夫が遮る。
「ゲーム、ゲームってお前らいい気なもんだな、本当にわかってるのか? 」
「何がいい気なんだ? 」
秀樹が横から恒夫の顔を覗き込んだ。
「まったく…… 」
溜息をつくと恒夫が話を始める。
「前のゲームと同じ双六だ。一番にゴールしたものじゃなくてポイント制で勝敗が決まる。詳細を聞いてないから確実じゃないが後からゴールしたものが勝つって事もありうる。つまり単純に宝玉を取り合ったイベントよりも難しくなるって事だ」
向かいにいた中津が何だというように鼻を鳴らす。
「そんな事は承知だ。逆に有難いよ、運より実力が物を言うって事だからな」
「そうだよな、前は一番先にゴールしたヤツだけだったけど今回は30人だぜ、確率が上がって嬉しいぜ」
呑気に言う秀樹を隣から顔を顰めた恒夫が覗き込む、
「確率は下がってるぜ、前のゲームは十八人の6チームだ。6分の1で勝てた。だが今回のゲームは何人参加するんだ? 何十もしくは何百人分の三十人が勝ちだぜ」
恒夫が中津に向き直って続ける。
「実力が物を言うっていう中津の意見には同意する。だが勝てるのか? 俺たち人間以上の力を持った他種族が参加するんだぞ、本物の魔法使いや剣士たちと戦う事になるかも知れない、能力やアイテムを貰っても勝てるかどうか、しかもヘカロさんの言い方じゃ少なくとも百人以上はいるぜ、その中の三十人に入らないと勝てないんだぞ」
中津と東條と栄二の顔色がサッと変わった。
スポーツバカの佐伯と秀樹は今一わかっていない様子だ。
「望むところだぜ、勝負は強敵相手じゃないと面白くないからな」
「佐伯の言う通りだ。他種族に俺たちの力を見せてやろうぜ」
自信満々に言う佐伯の向かいで秀樹も笑顔で同意する。
二人を見て恒夫が薄い頭を掻き毟る。
「面白いとか力を見せるとか、その前に瞬殺される事も考えておけよ、相手が本物の魔法使いで上級魔法でも使われたら不死身能力貰っても殺されるぞ」
「そうだな、ヘンタイの言う通りだ。甘い見通しは止したほうがいいな」
険しい顔をして同意する中津を見て恒夫が頷く、
「人類の存亡という課題じゃ中津たちも仲間みたいなものだから忠告しとくぜ、相手が強い時は戦わずに棄権しろよ、ポイント制なら無理をするのは愚策だぜ、それと貰える能力に不死身があれば誰か一人は選択しとけよ、そいつを囮にして戦う事が出来る。切られたり焼かれれば物凄く苦しいが30秒ほど我慢すれば痛みは消える。もっとも上級魔法を使う相手や想像を超える力を持ってる相手じゃ無駄だろうけどな」
顔を顰めた中津が口を開く、
「それくらい俺もわかってるぜ、ヘンタイのくせに上から目線で言うな」
「へいへい、中津は賢いからな、んじゃ言いたい事は言ったから」
軽く手を振ると恒夫が自分の席に戻っていった。
ゲームが厳しいものになるかも知れないとわかって秀樹と佐伯が神妙な顔になっている。
「恒夫がアドバイスするなんて珍しいね」
マジ顔の栄二に向かって秀樹が頷く、
「それほどヤバい事になるかもって事だろ……俺より彼奴の方がリーダーに向いているんじゃないのか? 」
中津がニヤッと口元を歪めながら秀樹の肩を叩く、
「どっちにしろ詳しい話を聞いてからだ。ヤバいゲームでも止めるなよ」
「当たり前だ。実際には死なないんだからな、やれるだけやってみるぜ」
秀樹もニヤッと笑ってこたえる。
授業開始のチャイムが鳴って各自席に戻っていった。




