第二十話「次のイベントへ」
昼前に集合場所へと着くことが出来た。
どこかで見ていたのか天使ヘカロはネピアを連れていることには何も言わない、町で買ったアイテムと同じ扱いなのである。
ゴーレムも出したままだ。
2メートルのSサイズにして荷物運びをさせている。
文句一つ言わずに金貨の詰まった重い袋や寝袋や着替えなどが入った荷物を運ぶゴーレムを見て秀樹は三百万ギギルなど安い買い物だと思った。
秀樹がサイコロを振る。
1と3で合計4が出た。双六のマップで言えば今いるのが7マス目だから11マス目に進む事になる。
「11マス目ならまだ簡単なイベントだ。半分の15マス目から本格的なイベントが始まると考えていい、では次のマスに進もう」
天使ヘカロに連れられて秀樹たちは11マス目に進んだ。
11マス目に来た秀樹の顔が嫌そうに歪んでいく、中津がいたからである。
中津たちはサイコロを振って2と4の合計6を出して5マス目から六つ目の11マス目に来たのだ。
「うわっ何その娘、可愛い、猫娘か? どうしたんだ? 」
嫌がる秀樹たちを余所に中津が馴れ馴れしく声をかけてきた。
「拉致監禁ね、あんたたちとうとう犯罪者ね」
「秀樹たちも成功したみたいだな、俺たちももちろん成功だ。その娘どうしたんだ」
東條と佐伯も興味津々な顔でネピアを見ている。
佐伯に手を上げて『よう』という感じで挨拶すると秀樹が口を開く、
「人聞きの悪い事言うなよな、ネピアはボディガードとして雇ったんだ」
「ボディガードって……そんな事いいの? 」
東條が振り返って担当天使に訊いた。
中津や佐伯も振り返って注目している。
天使がいいとこたえると前に向き直ってネピアを観察するように見つめた。
「いいんだ……いいなぁ、ネピアちゃん可愛いなぁ~、そんな奴らより俺たちのボディガードにならないか、いくらで雇われたんだ? 十万ギギルくらいなら払うぜ」
厭らしく口元を歪める中津の前でネピアが栄二に抱き付く、
「あたしは六百万ギギルだにゃ、それと許可証の三百万ギギルにご飯と泊まる所だにゃ、でも払ってくれてももうダメだよ、だってあたしはエイジとラブラブだもん、エイジが助けてくれたから一緒にいるもん」
獣人は羞恥心が少ないのか栄二の事が好きだからか平然としている。
抱き付かれた栄二が真っ赤な顔で恥ずかしそうである。
中津が『どうして栄二なんかと』という顔をしている隣で東條が大声を出す。
「六百万ギギルに三百万ギギルって……どういう事なの? 」
「所持金は一人三十万ギギルだろどうしたんだ秀樹? 」
佐伯も吃驚した顔で訊いた。
一人三十万ギギルで三人合わせて九十万ギギルがゲーム開始時の所持金である。
九百万ギギルは10倍だ。
どう考えても短時間に増やせる金額ではない。
秀樹が『どうする? 』と言う顔で恒夫を見つめる。
「それは秘密だ。ゲームは始まってんだぜ、手の内を明かすような事するかよ」
「そうそう、恒夫の言うとおりだよ、ゴブリンが持ってた一千万ギギルを盗んできたなんて言えないよね」
ニヤッと意地悪く笑う恒夫に続いて栄二が嘘をついた。
「ゴブリンから盗んだのか、なんて奴らだ」
「盗むなんてまったくお前ららしいな、その金でネピアを買うなんて最低だな」
中津と東條が非難するように言った。
秀樹が『うまいこと誤魔化したな』という顔で恒夫と栄二を見たあと口を開く、
「ああ最低だと思うぜ、でもネピアを助ける事にもなるんだ。東條さんが考えているようなネピアの嫌がる事なんてしてないしな、ネピアも納得しての事だぜ」
「お前ら勝手な事言うにゃ、あたしは奴隷として売られてたのを助けてもらったんだよ、エイジだけじゃなくてツネオやヒデキに感謝してるぞ、エイジは優しくてあたしは本当に好きなんだからにゃ、だからゲームが終わるまで一緒にいるんだよ」
栄二に抱きつきながらネピアが東條を睨みつけた。
奴隷がどういう扱いを受けるのかネピアも知っている。
奴隷から解放してくれるという秀樹たちはネピアから見たら神様みたいなものである。
「ネピアがそう言うなら別に文句無いわよ……でも一つだけ言っとくからね、信じきってるようだけどそいつらダメ人間だからね、特に城道はヘンタイだから気をつけなさいよ」
少し臆しながらも東條が言い返す。
何か一言言わなければ気が済まないタイプらしい。
「それは知ってるにゃ、ツネオはドヘンタイのダメ人間だってエイジもヒデキも言ってたからな、でも頭ツルツルで面白いにゅ」
笑いながら振り返ったネピアを見て恒夫が嬉しそうに体をくねらせる。
「そんなに褒めるなよ、可愛い女が二人で褒めるなんて……俺に惚れてんなら付き合ってもいいんだぜ東條」
「褒めてない!! 誰が付き合うか! お前と付き合うくらいならゲジゲジと付き合った方がマシよ、全くどういう神経してるのよ」
東條が叫ぶようにして言った。
眉間に皺を寄せて本気で嫌がっている。
「イヤよイヤよもいやらしいって言うだろ、俺とエッチな事しようぜ」
「するか! 厭よ厭よも好きのうちでしょ! お前の場合は厭どころかダメって拒絶だ」
「そんな事言うなよぉ~~、ゲジゲジと3Pでもいいからさぁ~ 」
「近寄るな気持悪い! ゲジゲジと2匹でやってろ」
東條の前でクネクネする恒夫の肩を秀樹が掴んで後ろにやる。
「ダメ人間か……まあ恒夫がヘンタイってのは本当だけどな、まあいいや、それじゃあ中津たちには次のイベントで俺たちより上だって事の見本を見せてもらおうぜ」
非難されても秀樹は動じない、逆にどうやって金を手に入れたのか嘘が旨くいって安心していた。
まだ手の内を明かすわけにはいかないのだ。
「にゅははははっ、ツネオ面白いな、本当にヘンタイだにゃ」
「恒夫はいつもああだからね、ネピアも真面に相手したらダメだよ」
大笑いするネピアに弱り切った顔で栄二が言った。
次のイベントの説明が始まる。
11マス目は荒れた大地だ。
砂漠とまではいかないが緑は少なく大きな木は生えていない、5メートルほどの木がまばらに生えていてあとは半分枯れたような黄色の草が木の周辺に少し生えているだけで地面の大半が岩や固い土が剥き出しである。
そんな荒地に一箇所だけ緑溢れる場所があった。
湖のあるオアシスだ。地下から湧いているので晴天が続いても枯れる事はない、この土地で水は貴重なのは見ただけでわかる。
その湖の所有権を巡ってリザードマンとダークエルフが争っていた。
横に長い楕円の湖を囲むように森があり、その左右にリザードマンとダークエルフの住処である村がある。
エルフだけでなくリザードマンも湖の水を使って農業を行い食物を生産していた。
水だけでなく魚や他の動物などを獲ることが出来る貴重な食料調達地でもある。
つまりこの辺りで生きていくには湖はなくてはならないのだ。
大きな湖なら争いは起こらないだろうがオアシスにある湖は縦2000メートル横4500メートルほどの楕円をした小さいものである。
枯れる事は無いとはいっても晴天が長く続くと目で見て分かるくらいに水位が下がり2回りほど湖が小さくなる。
争いが起こるのは決まって湖が小さくなった時だ。
お互い相手が水を使い過ぎだと思っている。
相手がいなければ水を独り占めしてもっと繁栄できるとも考えていた。
イベントは争っているリザードマンとダークエルフのどちらかに味方して勝利に導き争いを収めよとの事だ。
リザードマンとダークエルフの双方が一つずつ宝玉を持っているので勝利させれば礼として貰えるという事である。
天使ヘカロが説明に付け足す。
「方法はどのようなものでも構わない、戦ってもいいしゲームか何かで勝敗を決めてもいい、リザードマンかダークエルフか、どちらかが湖の主導権を握るかを明確にする事が今回のイベントだ。負けた方を追い出すのではない、主導権を握ったものが水の使い方や魚の捕り方などのルールを作ると考えていい、今回は宝玉は一つずつしかないので当然どちらかについて君たちも争う事になる。だが例外が一つだけある。リザードマンとダークエルフの双方が納得して話し合う事になれば双方から一つずつ宝玉をもらえるかもしれない、ここで失敗して宝玉を得られなくともまだ先はあるのだ。だが死んだらゲームから排除されてゲームオーバーになる。よく考えて行動してくれ、ではイベントスタートだ」
説明を終えた担当天使たちが空高く飛んで消えていった。




