第十三話「サイコロを振る」
全6グループの参加者の代表がサイコロを振っていく、1から6までの数字の書かれた普通の四角いサイコロが二つだ。
つまり二つのサイコロだから2から12までの数字が出ることになる。
双六は全部で30マスなので6と6の合計12を3回出せばゴールできるが宝玉を三つ集める事も必要なので最低3回は途中で止まってイベントをクリアしなければならない。
宝玉が足りなければゴールでサイコロを振った数だけまた逆に戻りそこでイベントを行なってまたゴールを目指すという事になる。
戻ってから進んで一度イベントを終えた同じマスに止まったからといって同じイベントとは限らない、旨くいけばサイコロを4回回して途中三つのイベントをクリアして宝玉を三つ集めてストレートで勝利する事も可能だ。
参加者全員が揃ってサイコロを振る事はもう無いだろう、この先は各自の止まったマスでイベント終了後にサイコロを振るのだ。
途中いくつかのグループと同じマスに止まってサイコロを同時に振る事はあっても全員が同じマスに止まる確立は殆ど無いに等しい。
ゲームに参加している全6グループは次の通りだ。
1番グループ、普通の大学生といった様子の男二人に女が一人のチームだ。
2番グループ、中津と佐伯と東條のチームである。全員草部高校の二年生だ。
3番グループ、チャラ男三人組のチームだ。歳は秀樹たちと同じくらいである。
4番グループ、何かのサークル仲間らしいリア充大学生の女二人に男が一人のチームだ。
5番グループ、秀樹と栄二と恒夫のオタクチームだ。草部高校二年の17歳である。
6番グループ、頭の悪そうなDQNの男二人と女一人のチームだ。
1番から順番にサイコロを振っていく、中津が出した目は3と2の合計5だ。
秀樹たちの順番が来た。
5は出るなと祈りながら秀樹がサイコロを振る。
中津たちと一緒の所に止まって同じイベントをするなどは御免である。
「よかった…… 」
秀樹が胸を撫で下ろした。出た目は3と4の合計7だ。
「7か……あいつらと一緒だな」
恒夫の見つめる先にチャラ男三人組がいた。
「始めから他のグループと同じイベントか、どうなるんだろうね」
「心配するなよ、魔法の銃もあるし、あいつらになら勝てそうだぜ」
心配そうな栄二の背中を自信ありげな秀樹がポンッと叩いた。
最後に不良グループがサイコロを回すと大天使キケロが参加者全員を前に発破を掛ける。
「ここから先は担当天使に従ってイベントを行うことになる。では各マスへ進んでくれ、諸君らの健闘を祈る」
キケロに一礼すると天使ヘカロが秀樹の前に立った。
「では行くとしよう」
ヘカロが言うと秀樹たちが白い光に包まれる。
空間移動の魔法だ。
「ここは? 」
秀樹たちは小さな村に続く道の前にいた。
隣にチャラ男たちとその担当天使もいる。
「では今回のイベントの説明をする。あの村はゴブリンに狙われている。ゴブリンを退治して村から宝玉を貰う、もしくはゴブリンが持っている宝玉を奪う、どちらかで宝玉を一つ手に入れればイベントクリアだ。村の依頼をきいてゴブリンを退治すればイベントクリア後に村でゆっくりと休める。退治しないでゴブリンの宝玉を奪うだけなら閉鎖的な村人たちは村に入れてもくれないだろう、どちらを選ぶかは君たちの自由だ。期限はこちらの世界で四日だ。期限内に終わらなければ時間切れでイベント失敗だ。早く終われば残り時間が休みとなる。近くの町や村に行って休む事も可能だ」
チャラ男グループ担当の天使がイベントの説明を終えた。
天使ヘカロが付け足すように口を開く、
「今回は二つのグループが同じイベントに参加する。協力するのも争うのもどちらでも構わない、宝玉は村とゴブリンが持つもの合わせて二つある。争わなくとも一チーム一つずつ手にする事も可能だが独り占めして一挙に二つ得る事も可能だ。双方よく検討してくれ、ではイベントスタートする」
「一つ質問いいですか? 四日以内にクリアできたら残りが休みになるって事は失敗もしくはギリギリだと休みも取れないって事ですか? 」
小さく手を上げた恒夫を見てヘカロがフッと笑った。
「そういう事になるな、今回のゲームではイベントに使う期間は全て四日間だ。早くクリアできれば休みを多く取れる。逆だと休み無しで次のイベントに向かうことになる」
「運だけのゲームじゃなく実力もきっちりいるって訳か、全く碌でもないゲームだぜ」
今回? それじゃ他にもあるって事か……、
顔を顰める恒夫の左右で栄二と秀樹も厭そうな表情だ。
「何かあると思ってたよ、夢の中だから現実には死なないといって悠長にしていられないってことだね」
「場合によっちゃハードスケジュールになるって事か、結構面倒臭いゲームだな」
三人を見てヘカロが楽しそうに続ける。
「棄権するかい? 実際には死なないといっても怪我をすれば痛みを感じる。精神的にやられたら実生活にも影響が出る。恒夫くんが言った通り碌でもないゲームかも知れないよ」
「どうする? 俺はどっちでもいいぜ」
恒夫が左右にいる栄二と秀樹に訊いた。
「ここで止めたら本当のヘタレになるからな」
「僕も止めないよ、勝ち負けよりも中津を見返してやりたいって本気で思ってるからね」
考えるまでもないと言うように秀樹と栄二が続けてこたえた。
「ふふふっ、それでこそ選んだ甲斐がある。ではイベントスタートだ」
天使たちが消えた。
ここからは秀樹たちだけでイベントクリアを目指すのだ。
「ゴブリン退治か、ゴブリンの持つ宝玉だけを狙うか……あんたらはどうするんだ?」
秀樹がチャラ男グループに訊いた。
「さあな、どっちにするかは村に行ってから決めるぜ」
チャラ男のリーダーらしき男がこたえると村へと歩いて行く、
それもそうだと秀樹たちも村へと歩き出す。
「ゴブリン退治すれば村を上げて歓迎してくれるだろうからゆっくりと休めるな、寝る所も食物も全部ただで大歓迎だぞ、可愛い村娘といい事も出来るかもな、ゴブリンなんてモンスターじゃ下っ端だし戦いの練習に丁度いいしゴブリン退治選ぼうぜ」
歩きながら恒夫が前を行くチャラ男たちにも聞こえるように大声だ。
村に入ると直ぐに村人たちが集まって来た。
小さな村だから老若男女あわせて二百五十人ほどしかいないが年頃の可愛い村娘が十二人ほどいた。
娘のレベルは結構高く美人が揃っている。
「おお勇者様じゃ、勇者様お願いがありますじゃ」
チャラ男たちを見て村人が歓声を上げた。
チャラ男たちは魔剣を持った勇者に魔法の杖を持つ魔法使いとゴーレム使いの三人だ。
勇者の格好をしているチャラ男に村長が話しを続ける。
「勇者様ゴブリンどもを退治してくだされ、このままでは食物や金だけじゃなく娘まで餌食になりますじゃ、どうか村を救ってくだされ」
「任せろ、俺たちが退治してやるから安心してくれ」
チャラ男のリーダーが即答すると村娘たちがチャラ男たちに抱きついて大歓迎だ。
『本当ですか勇者様? 嬉しい、勇者様ステキですわ、ああん勇者様好きになりそう』
娘たちが口々にお世辞を言って褒めそやす。
中には本気で惚れた目をした娘も居る。
「ははははっ、任せろ、ゴブリンなんて直ぐに退治してやるぜ」
目敏く一番美人の村娘を見つけるとチャラ男のリーダーがその腰に腕を巻きつかせて抱き寄せた。
他の二人も村娘を抱いて顔をニヤつかせている。
村に入る時に聞いた恒夫の話しと可愛い村娘を見てチャラ男たちは即座にゴブリン退治に決めた。
初めの町で金を盗まれて食費や宿賃を節約したい思いもある。
旨くいけば宿や食べ物だけでなく村娘と遊べると考えた様子である。
「では勇者様こちらへ、詳しい話しを致しますじゃ」
村長に連れられて娘を両腕に抱いたチャラ男たちが村の奥へと入っていく、村人たちは勇者を見てすでにゴブリンが退治されたかのように安心顔だ。
私服にライフル銃を引っ掛けたゲリラのような格好の秀樹たちは完全に無視された。
秀樹と栄二が顔を見合わせる。
「アウトオブ眼中だな、どうする? 」
「仕方ないよ、どう見ても勇者に見えないもんね、これじゃ盗賊と同じだよ」
二人を余所に恒夫が目の前を去っていく中学生くらいの少年を一人連れてきた。
「ゴブリンについて教えてくれないか? 少しだけ話しを聞かせてくれ」
恒夫が硬貨を二枚握らせると急ぐ様子だった少年が話しを聞かせてくれた。
話によると村から少し離れた東にある山にゴブリンの巣があるとの事だ。五十匹くらいのゴブリンがいて村の畑を荒らしたり泥棒をするという、最近は昼間でも姿を見せるようになって娘が攫われないか心配している所だったと教えてくれた。
口早に説明すると少年は一目散に走っていく、その先にチャラ男たちが迎えられた村長の家らしき村で一番大きな屋敷が見える。
「いいなぁ、今頃あの家で女の子たち抱きながらご馳走食べてるんだろうな」
羨ましそうに栄二が呟いた。
「仕方ないぜ、俺たちは所詮オタってことだ。それよりどうする? 」
自身も羨ましそうに見ていた秀樹が恒夫に視線を向けた。
「どうもこうも、ゴブリンから宝玉を奪うしかないだろ、五十匹だ。思ったより少ないから安心したぜ、スタート地点に近いから難易度も低いんだな」
恒夫が怠そうに寝袋などが入ったリュックを担ぎ直す。
「そうだな、今さら俺たちがゴブリン退治するって言っても相手にされないだろうしな」
「そういう事だ。五十匹全部相手にしなくていいから楽だぜ、あいつらがゴブリン退治するのと同時に仕掛ければ十匹ほどの相手だけで済むかもしれないからな」
口惜しそうな秀樹と違い恒夫はいつもの飄々とした態度だ。
村娘の中に好みのお姉様タイプが居なかったのだ。
「十匹なら僕たちだけでも大丈夫だね、魔法の銃もあるし、買った鎧で攻撃もある程度防げるだろうし、さっさと終わらせて近くにある町に行こうよ、ヘカロさんに聞いたら三時間ほど歩けば行けるって行ってたよ、村は諦めてそこで休もうよ」
栄二が元気に言った。
どうにかクリアできそうなイベントに安心したのだ。
「三時間も歩くのか……野宿するよりましか、それじゃ、どこか休める所探そうぜ」
疲れたように言うと秀樹が村の近くの岩場へと歩いて行く、チャラ男たちは今頃村娘と楽しくやっているんだろうなと想像しながら秀樹たちは岩場で一泊した。