第十四話「初めてのイベント」
ゲームの説明や前準備などが終わりやっと本番といったところです。
飽きずに読み続けてくれている方々に感謝です。
次の日、チャラ男グループのゴブリン退治が始まった。
チャラ男のリーダーは剣術力と魔剣を持った剣の達人の勇者で他の二人は魔法の力に魔法の杖を持った中級魔法の使える魔法使いと素早く動ける駿足の力にゴーレムを持ったゴーレム使いというバランスの取れたパーティーだ。
ゴブリン五十匹相手なら楽勝である。
二人の村人を案内にチャラ男グループはゴブリンの巣がある東の山へと進んでいく、その後を隠れるようにして秀樹たちが追って行った。
秀樹の目的はゴブリンが持っている宝玉だ。
出来るだけ戦わずに手に入れるためにチャラ男がゴブリンの相手をしている隙を狙って奪おうと考えていた。
魔法の杖を持っていて低級魔法が使える秀樹はともかく栄二と恒夫は弾に限りのある魔法の銃しかモンスターに有効な武器を持たない、普通のアサルトライフルも二つあるがハッキリ言って牽制くらいにしか使えない、敵に倒されて傷付いても直ぐに再生して絶対に死なない不死身の能力だけが秀樹たちの最大の力であり心の拠り所である。
大きな山の中腹にゴブリンの巣穴があった。
村人の若い男二人は勇者の戦いを見届けるためか帰らずにチャラ男たちの後ろについていた。
チャラ男たちから少し離れた藪の中に秀樹たちが居る。
三人とも町で買った鎧を身に着けていた。
大きなクモのモンスターが出す糸を編んで作った鎧だ。
つまり特殊繊維で出来た鎧である。
軽くて丈夫で銃弾や剣や槍などの物理的な攻撃を防ぐ事が出来るが魔法攻撃には無力という普通の鎧だ。
恒夫が魔法の銃に弾を込める。
「5発ずつ持っとこう、俺がデン弾三つとヒ弾二つ、栄二がデン弾二つとヒ弾三つだ。俺はデン弾使うから栄二はヒ弾使えよ、どっちかの魔法が効かなくても対応できるからな」
「了解、ヒ弾込めたよ、ゴブリンなら魔法が効かないなんて心配無いだろうけどね」
栄二が中折れ式の魔法の銃に弾を込めながらこたえた。
デン弾とは電撃攻撃の出来る電気魔法が入った弾でヒ弾は炎攻撃が出来る炎魔法が入った弾の事だ。
1発十万ギギルもするので試し撃ちはしていないが武器屋のオヤジによるとデン弾は当たった場所の半径3メートルほどに稲光が走りそこに居るものに雷が落ちる。
ヒ弾も半径3メートルほどの範囲に居るものに炎が襲い掛かるという恐ろしい武器である。
一つだけ注意があった。
魔法使いの使う魔法と違い相手を区別できないので攻撃範囲に居れば味方でも被害に遭うとの事だ。
「穴の中では使うなよ、穴の中に居るゴブリンは俺が倒すから、栄二と恒夫はアサルトライフルだけにしとけよ、魔法銃で俺たちまでやられるなんて御免だからな」
秀樹が自分のライフルを恒夫に渡す。
「エアガンみたいに軽いならいいけど、実物は重いから厭なんだよな、モンスター相手じゃ30発マガジンなんてすぐに無くなるし…… 」
「いいから魔法銃は腰に下げてこれを握ってろ、穴の中じゃ絶対に魔法銃は使うなよ」
面倒臭そうにライフルを受け取る恒夫に秀樹が釘を刺す。
用意の整った秀樹たちが藪の中で様子を伺う、チャラ男たちがゴブリンの巣穴へと近付いていく、
「俺たちも行くぞ」
前に出ようとした秀樹を栄二が止めた。
「ちょっと待って! 」
いつの間に掛けたのかサトリ眼鏡を掛けている。
人間は元より動物の考えている事がわかる魔法アイテムだ。
「ほらあそこ」
栄二の指差す先、ひょろ長い木の枝に小さなサルのような動物が2匹いてチャラ男たちをじっと見ていた。
「聞こえる……ゴブリンに殺されるって言ってる。ゴブリンはもう囲んでるって……気付かないなんてバカな人間だって言ってるよ」
「聞こえるって、あのサルの心の声か? サトリ眼鏡の力か…… 」
足を止めた秀樹がサルと栄二を見比べるように見た。
「情報の真偽を確かめるために町で使ったけど……人間以外にも本当に使えるんだね」
「囲まれてるってゴブリンにか? クソッ 」
持っていたライフル銃を肩に掛けると恒夫が魔法銃を構えて辺りを警戒する。
「僕たちじゃないよ、離れてて良かったよ、僕たちは気付かれてないみたいだよ」
「チャラ男たちか……栄二、恒夫、ライフルで森の中を掃射しろチャラ男がやられたら俺たちも困るからな」
恒夫と栄二が魔法銃をしまってライフルを構えた。
チャラ男たちの後ろについていた村人の男二人に後ろの藪からゴブリンが飛び掛る。
タタタン、タタタン、軽快な音とともにアサルトライフルの小さな弾が村人の後ろから襲い掛かろうとしたゴブリン目掛けて飛んでいく、
「うわぁ、勇者様~ 」
村人が叫んでチャラ男に駆け寄った。
その後ろで弾の当たったゴブリンが倒れている。
この程度でゴブリンは死なない、すぐに起き上がって弾の飛んで来た方を睨むが秀樹たちは既に姿を消していた。
辺りの藪からゴブリンが出てきてチャラ男たちを取り囲む。
秀樹たちは穴の近くの藪まで移動している。
ここでしばらく様子を見てゴブリンの隙をついて穴に入って宝玉を奪う作戦だ。
チャラ男とゴブリンの戦いが始まった。
取り囲むゴブリンは二十匹くらいだ。
他に穴の前に十匹くらいのゴブリンが戦いを見学するように見ている。
残りの二十匹はまだ穴の中に居る様子だ。
「バキュームスラッシュ! 」
逃げてきた村人の前で勇者であるチャラ男のリーダーが魔剣を振った。
「グヒーーッ 」
一度に3匹のゴブリンが上半身と下半身に分かれて倒れた。
チャラ男のリーダーが持つ魔剣は風を操る風の剣である。
実際に魔剣の刃は当っていない振ることによって真空状態の刃が飛んで切ったのだ。
魔法使いのチャラ男が魔法の杖をゴブリンに向けた。
「次は俺の番だな、ハラペーニョファイヤー 」
魔法の杖から火炎放射器のように炎が噴出しゴブリンを焼いていく、
「ギヒィ、ギヒヒィー 」
8匹のゴブリンが丸焼けになって倒れた。
仲間がやられるのを見て1匹が慌てて穴の奥へと走っていく、穴の前で見ていた残りが加勢するようにチャラ男を取り囲むゴブリンと合流した。
また勇者が剣を振る。
隣に立つ魔法使いの杖から炎が噴出す。
あっという間にゴブリンが倒されていく、片手で数えられるくらいしか残っていない。
穴の中から騒ぐ声が聞こえて残りのゴブリンが出てきた。
十七匹くらいだ。
後三匹ほどが穴の中に居る様子である。
新しく出てきたゴブリンと残っていたゴブリンの合わせて二十三匹がチャラ男たちを取り囲み戦いが始まった。
今がチャンスだと秀樹は藪から飛び出して穴の奥へと入っていく、
「クサッ、臭い! 真夏のオタショップよりも臭いぞ」
恒夫が思わず声を出す。
穴の中はすえたような匂いに動物の糞尿の匂いが混じりオタイベントなどで少々の悪臭にも慣れた秀樹も鼻で息をするのを止めるくらいに強烈だった。
「シーッ、黙ってろ外の奴らに見つかったらどうする」
静かにしろと秀樹が口に指を立てて恒夫を睨みつける。
そのまま恒夫を先頭に奥へと進んだ。
恒夫が前で秀樹が真中で栄二が後ろだ。
背の低い恒夫は一番前でも邪魔にならない、不意に攻撃されても後ろに居る秀樹が反撃できる態勢だ。
一番後ろの栄二は秀樹の援護だ。
前に進むと広場に出た。
ゴブリンたちの寝床だろうか? そこから二つの道に分かれている。
秀樹が耳をそばだてると右の穴からゴブリンたちの気配がした。
三人は無言で顔を合わせて頷くと右の穴へと進んでいく、穴の奥に4匹のゴブリンが何かを守るようにして立っていた。
「サンダーボール! 」
魔法の杖を向けて秀樹が呪文を唱える。
サンダーボールは電撃系の魔法だ。
野球ボール程の大きさで青い雷光を走らせバチバチと音を立てた電気の塊である。
ゴブリンなど感電死するほどの威力がある。
バチバチと稲光を走らせて倒れるゴブリンの脇を通って恒夫が歩いて行く、
「おい気を付けろよ」
心配そうに声をかける秀樹や栄二にお構い無しだ。
二人はいつでも恒夫を援護できるように魔法の杖やライフルを構えたままである。
「おう、あったぞ、これだろ宝玉って? 」
恒夫が拳くらいの大きさの虹色に輝く玉を拾い上げた。
ゴブリンにとっても宝物だったらしく宝玉は岩を刳り貫いた台の上に飾るように置かれていた。
宝玉の右には食べ物が入った大きな箱があり、左には金貨が入った小さな箱が置いてあった。
金貨に気付いた恒夫がニヤッといやらしく笑う、
「ほらよっ、秀樹持ってろ」
恒夫が宝玉を放り投げた。
秀樹が慌てながら魔法の杖を持った手と反対側の手で宝玉をキャッチする。
「何すんだ! もっと丁寧に扱え、強い衝撃与えたら壊れるって言ってただろ」
「落としたくらい大丈夫だってヘカロさんも言ってただろ、それより金貨も貰っていこうぜ、三十万ギギルくらいはあるぜ」
言うが早いが恒夫は箱に入っている金貨を無造作に掴んでポケットへと押し込んだ。
「僕たち本当に盗賊みたいだね」
「これしか選べなかったんだから仕方ないだろ、ゴブリンなら俺たちにも退治できたよな」
情けないという様子の栄二に秀樹も弱り顔で言い訳だ。
「三十万ギギルあれば町でたっぷり遊べるぞ、村娘みたいな素人はいないけどな」
「ゴブリンが盗んだ金だけどな……まあいいか、さっさと逃げるぞ」
金貨で膨れたポケットを叩く恒夫に秀樹が呆れ顔を向けるとそそくさと逃げ出した。
三人が穴を出ると戦いは終わっていた。
チャラ男の周りにゴブリンが輪を作るように倒れている。
気付かれないようにその場を離れようとした秀樹をチャラ男のリーダーが見つけた。
「お前ら……ドサクサに紛れてゴブリンから宝玉取ったんだろ」
「俺たちにゴブリンの相手させてずるいぞ、いくらか金置いてけよ」
チャラ男が魔剣と魔法の杖を振り上げる。
足を止めた秀樹が戦う意思はないというように魔法の杖を横に向けて軽く手を上げた。
「バカ言うなよ、ゴブリンに囲まれてるの助けてやっただろ、お前ら気付いて無かっただろ、教えてやらなきゃ村人二人は殺されてたぜ、お前たちも怪我してたかもな、ゴブリン退治も出来て村人も無事で大手を振って村に帰れるだろが、これで貸し借り無しだぜ」
秀樹の隣で恒夫が魔法の銃を見せた後でチャラ男たちに向けて構えた。
「それでもやるってんなら俺たちも相手するぜ、これは魔法の銃だ。お前たちも知ってるだろ始めの町で売ってたの買ったんだ。こんなとこでやりあってお互い怪我したらこの先どうするんだ? お互いイベント成功したんだぜ、今回はそれでいいだろ」
チャラ男のリーダーが魔剣を下げる。
「ゴブリンの事を教えてくれたのは確かだからな、今回は貸し借り無しでいい、でもまた俺たちを利用するような事をしたら次は本気でやりあうぜ」
リーダーの話しを聞いて魔法使いも魔法の杖を下げた。
「別に利用したんじゃないぜ、俺たちのイベントをやっただけだ。お前らはゴブリン退治だろ俺たちはゴブリンから宝玉を奪う事だ。お互いイベントをクリアしただけさ」
じゃあなと言うように手を振ると秀樹は藪の中へ消えていく、チャラ男はゴブリンの穴を調べてから村へと戻った。




