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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
122/158

第百二十二話 「熊男ギガル」

 ギガルと話をしていたスギナがくるりと振り返る。


「秀樹たちの元へ戻るぞ、向こうには16匹ほどおるからの」

「わかったぞ、せっかくペンダント見つけたのにこんにゃ所でやられて堪るかだぞ」


 元気にこたえるラグの言葉を聞いてギガルの目がギラッと光る。


「見つけた? 本当か? 」


 マジ顔で訊くギガルを見て恒夫はしまったと思った。


「本当だぞ、にゃんたってあたいら優秀だからにゃ」

「本物か? 似たようなペンダントなら俺たちも三つばかり見つけたぞ」


 胸を張るラグに聞き返すギガルの前に恒夫が出る。


「そんな事より今はシャドウドッグだ。秀樹たちの所へ早く行こう」

「そうじゃな、世話になったな、マーサたちにも宜しくいっておいてくれ」


 不穏なものを感じたのかスギナも急ぐように恒夫の手を取った。


「では行くぞ、ラグは先頭じゃ、恒夫を守ってやれ」

「わかったぞ」


 歩き出そうとした三人をギガルが呼び止めた。


「一寸待て、ペンダントを見せてくれ」

「俺たちは持ってない、ペンダントは…… 」


 恒夫が気を利かせて秀樹が持っている事にしようとしたのをスギナが止めた。


「ペンダントは儂が預かっておる」

「なん!? スギナちゃん何を言うんだ」


 慌てる恒夫を見てギガルが大笑いする。


「がははははっ、持ってるのか、丁度良い、がははははっ」


 ピタッと笑いを止めるとギガルがマジ顔でスギナを見つめる。


「俺たちより先に見つけるなんてな、どういう方法を使った」

「儂の力で探した。Aクラスじゃぞ、お主らの及ばぬ力を持っておる」


 嘘をつくスギナを恒夫がじっと見つめる。


「にゃに言ってんだツネが…… 」


 後ろから本当の事を言おうとするラグを恒夫が押さえて止める。

 じろっと二人を見た後でギガルが続ける。


「まぁいい、そんな事よりペンダントを見せてくれ」


 熊のように大きなギガルをスギナが睨み返す。


「嫌じゃと言ったら? 」

「がははははっ、力尽くで見るだけだ」


 ギガルが笑いながら大きな手を振り下ろす。


「繰蔓! 三重壁」


 スギナの手からサッと伸びた蔓で編んだ壁がギガルの攻撃を防ぐ、同時にラグが恒夫を抱えて後ろに跳んだ。


「にゃん? お前やる気か」

「がはははっ、ペンダントをよこせ、そしたら死ななくても済むぞ」


 笑いながらギガルも後ろに跳んだ。

 スギナと距離を置いたのだ。


「ラグ、此奴は儂が相手をする。恒夫を頼んだぞ」


 ギガルと対峙したまま振り向かずに言うスギナの背に恒夫が声を掛ける。


「何で持ってるなんて言ったんだ? 秀樹たちと合流してそのまま逃げて山を降りればよかったのに…… 」

「ヤツは俊足を持っておる。先に秀樹たちの元へ行けばどうなる? 」


 責めるように言った恒夫の顔が強張っていく、


「な……そうかヤバかったな、ごめん」

「うむ、特に菜穂は味方じゃと信じ切っておるからの、隙をついて真っ先に殺されるぞ、菜穂の死で冷静さを欠いた秀樹や栄二が勝てる相手ではない、じゃからここで儂が相手をする」

「ごめん、俺の考え違いだ。秀樹たちを危険にさらす所だった」


 スギナの優しい声を聞いて恒夫が素直に頭を下げた。


「わかればよいよい」


 話している間もスギナはギガルから目を離さない。


「ギヒヒヒッ、流石Aクラスだ。隙が無い」


 構えたままギガルも攻撃してこない、傭兵として経験豊富なギガルは相手の力量を把握している。スギナを強敵とみて慎重になっていた。


 いつでも抱えて逃げられるように恒夫の腰に手を回したままラグが口を開く、


「裏切るつもりかクマ、約束したぞ、手を出さないって、早い者勝ちだって」

「ギヒヒッ、言ったよな勝手にしろって、俺は約束してないぞ、マーサが勝手にやっただけだ。死にたくなければペンダントを置いていけ」


 黄色い牙を見せてギガルが楽しそうにこたえた。


「にゃんだと! お前にゃんかあたいがボコボコにしてやるぞ」


 逸るラグを抑えて恒夫が質問する。


「マーサさんは知ってるのか? それともあんたの独断か? 」

「マーサ? いけ好かない女だ。偉そうに命令しやがって……だから俺はチームを抜ける事にした。もう少しでゴールだ。俺一人でポイントを稼いで絶対に勝ってやる。ギヒヒヒッ」


 ニヤリといやらしく笑うギガルを見てスギナが顔を顰める。


「成る程の、独断というわけじゃな、それとも独断というようにしておきたいのか……どちらにせよこのまま見過ごしてはくれそうも無いのぅ」


 スギナの話を聞いてギガルの目がギラッと光った。

「がははははっ、どっちでもいい、どうせ貴様らはここで死ぬんだ」


 ギガルがバッと動いた。

 神様から貰った俊足の力を使っているので恒夫の目で追えないくらい素早い。


「にゃっと! 」


 ラグが恒夫を抱きかかえて近くの木の枝に飛び乗った。


「うわっ、うわぁ~~ 」

「煩いにゃ、暴れると落ちるぞ」


 驚く恒夫の顔を爆乳に押し付けて黙らせると下にいるギガルを睨み付ける。


「それで全速か? そんにゃの止まって見えるぞ、俊足の力を貰ってそれにゃらあたいに勝てないぞ」


 ラグの挑発にギガルの顔が赤くなる。


「なんだとクソ猫が! 手足もいで犬っころの餌にしてやるぜ」


 怒鳴るギガルの体に植物の蔓が巻き付く、


「単純じゃの、儂を忘れとるぞ」


 スギナの右手から伸びた蔓がギガルの体を締め付けていく、


「ぐぅ……ぐぐぅ……ギヒッ、ギヒヒヒッ 」


 苦しげに呻いたと思ったら直ぐにニヤリと笑い始めた。


「がははははっ、こんなものが効くかよ」


 ギガルが笑いながらスギナの蔓を引き千切った。


「遣りおるのぅ、1本とはいえ儂の妖力の籠もった蔓を切るとは大したものじゃ」


 感心するスギナと違ってラグが驚いて大声だ。


「にゃん、凄い馬鹿力だぞ、ちびっ子の蔓を引き千切ったぞ、怪力を貰ったあたいと同じくらいか、それ以上だぞ」

「ぱっ、ぱぅっ! 」


 変な息遣いをした恒夫がラグの爆乳から顔を離す。


「クマだからなスピードはラグより遅いがパワーは段違いだ。ラグが怪力でパワーを補ったようにクマはスピードを俊足で補ってるんだ」


 説明する恒夫はラグのおっぱいが気持ち良くて真っ赤になっている。



 ギガルが動いた。

 ラグのいる大木に突っ込んでいく、


「にゃにゅ! 」

「うわっ、わぁあぁ~~ 」


 ギガルの体当たりで大木が倒れていく、叫ぶ恒夫を抱えてラグがバッと地面に降りた。


「がははっ、ぶっ殺してやる」


 そこへギガルが襲い掛かる。


「ぐぅ……くそっ、またかよ」


 ギガルの上げた左腕と腰に植物の蔓が巻き付いていた。


「単純じゃの、また儂を忘れておるぞ」


 スギナの小さな体の何処に力があるのか3メートル近いギガルの動きが止まっていた。


「くそっ、Aクラスのチビが…… 」


 蔓を巻き付けたままギガルが振り返る。

 その背にラグの蹴りがぶち当たった。


「にゃははっ、間抜けにゃ! 」


 つんのめるように前に倒れたギガルを見てラグが大笑いだ。


「ぐががぁ~~、クソ猫がぁ~~ 」


 ばっと上半身を起こしたギガルの姿が変化していく、鼻先が伸び顔全体に毛が生えてきて体も膨れたように一回り大きくなっている。

 普段の姿も人間よりクマ成分が多いのだが今のギガルはクマそのものだ。


「猛獣モードじゃな」


 険しい顔のスギナの向かいでギガルが腰と左腕に巻き付く蔓を難無く引き千切る。


「猛獣モード……獣人が本気を出したって事かよ」

「クマが本気で怒ったぞ」


 ビビる恒夫を抱えるラグは余裕の顔だ。


「がおぉおぉ~~ぅぅ」


 ギガルが口を大きく開け、黄色い牙を見せて身震いするようにして咆哮をあげた。


「怖ぇ…… 」


 ヒグマそのものといった姿に恒夫は完全にビビっている。


「心配にゃいぞ、ツネはあたいが守ってやるからにゃ」


 何処から自信が湧くのかラグは始終楽しそうだ。

 ギガルがラグと恒夫を睨み付けると一回り大きくなった5メートル近い巨躯を震わせて大笑いする。


「ガハハハハッ! 覚悟しろよ、この姿になったら理性が利かん、貴様ら全員バラバラにしてぶっ殺してやる」


 クマそのものといったギガルの手足に植物の蔓が絡まっていく、


「力はともかく頭は足りんようじゃな、仲間と一緒ならともかくお主1匹で儂に敵うと思うてか? 」


 スギナの両手から伸びた蔓がギガルの四肢を捕らえていた。


「ギヒヒヒッ、チビを忘れてたわ」


 黄色い牙の間から涎を垂らしたギガルが振り返る。


「先に死にたいか! 」


 引き千切ろうと蔓を引っ張るギガルを見てスギナがニヤッと意地悪顔で笑う、


「切れんじゃろ? 先程より強く気を込めておるからの」

「ぐっ、ガハハハハッ、俺を捕まえたつもりか? 貴様も動けんだろうが! 」

 ギガルが蔓を引っ張った。


 先程は動かなかったスギナの体がじりじりとギガルに引っ張られていく、


「スギナちゃん」


 心配そうに声を上げる恒夫を見てスギナがニコッと微笑んだ。


「大丈夫じゃ、クマのくせに馬鹿力じゃぞ」


 まだ余裕があるのかボケるスギナを見て恒夫は一安心だ。



 前にいるギガルを無視するかのように猫耳をピンと立てたラグが恒夫の右で構えた。


「犬が来るぞ」

「犬ってシャドウドッグか? 」


 恒夫には気配さえ感じないがいつでも撃てるように魔法銃を握り締めた。


「4~5匹来おるの、厄介じゃの」


 ギガルを捕らえていた蔓を近くの木に縛り付けるとスギナが手を離す。


「ガハハッ、そんな木で俺の動きを止められると思うなよ」


 ギガルが手足を振り回すと縛り付けていた木が抜けていく、妖力を込めているのでスギナの縛った蔓は切れていない、木と繋がったままだ。


「気付いておらんのか? バカクマじゃ」


 呆れるスギナの前でギガルが蔓で繋がった木を振り回す。


「ギヒヒヒッ、ぶっ殺してやるぜ」


 スギナが括り付けた木を武器にしてギガルが突っ込んでくる。

 その時、右の藪からシャドウドッグが数匹飛び出してきた。


「なに!? クソ犬が! 」


 2匹のシャドウドッグがギガルに襲い掛かる。

 残りの3匹が恒夫たちを囲むように周りを回っている。


「ハラペーニョファイヤー 」


 ラグが牽制するように近くの藪を低級魔法の火で焼いていく、


「暫く時間は稼げそうじゃの」


 シャドウドッグを相手に木を振り回すギガルを一瞥するとスギナがバッと跳ねるようにして恒夫の傍にやって来る。


「犬はあたいが何とかするぞ、ちびっ子はツネを頼むぞ」

「了解じゃ、魔法を使うんじゃぞ、火や電気なら倒せるからの」


 二人の間で恒夫がマジ顔で話に割り込む、


「俺の事は気にするな、スギナちゃんはギガルを倒す事だけを考えてくれ、自分の身くらい自分で何とかするから…… 」


 スギナが恒夫の腕をポンッと叩いた。


「何を格好つけておる。お主に敵う相手ではないじゃろが、儂に任せておればいい、熊と犬など同時に相手しても余裕じゃぞ」

「魔法銃があれば俺だって…… 」


 反対側の腕をラグが掴んだ。


「ダメだぞ、そんなもんが当たるほど犬っころはノロマじゃにゃいぞ」

「ラグの言う通りじゃ、秀樹や菜穗のように二人掛かりで仕留めていくならともかく、お主一人で出来る敵ではない……そうじゃの、ラグの援護をしてやってくれ」


 マジ顔の恒夫を見て溜息をつくとスギナがラグを見つめる。


「それでよかろう」

「わかったぞ、でも無茶したらダメだからにゃ」

「わかった。ラグの援護に回る」


 作戦が決まり、ラグが3匹のシャドウドッグに向かって行く、恒夫はその場を動かずに魔法銃でラグの援護だ。

 スギナはギガルの相手である。



 ギガルとシャドウドッグが戦っているのを見てスギナが思わず声を出す。


「ほう、1匹倒したのか、魔法や妖術を使わずに倒すなど大したものじゃ」


 2匹いたはずのシャドウドッグが1匹しかいない。


「ガハハハハッ、クソ犬など食ってやったわ」


 黄色い牙を見せて豪快に笑うとギガルが手足に絡まった蔓を引き解いた。

 振り回しているうちに緩んで外す事が出来たのだ。


 隙とみたのかシャドウドッグが背後から襲い掛かる。


「クソ犬が! 」


 背中に牙を立てるシャドウドッグにギガルが体を捻って噛みついた。

 ギガルの背から牙を離すとシャドウドッグがもがきだす。


「なんじゃ? 食っておるのか…… 」


 スギナの目の前でシャドウドッグがギガルの口の中へと吸い込まれて消えていった。


「なんてヤツじゃ、パワーだけで何も能力は持っておらんと思っておったが魔物を食っても平気とはとんでもない腹を持っておる」


 驚くというより呆れるスギナにギガルが振り返る。


「ガハハハッ、昔から腹は丈夫でな、貴様も喰らってやろうか」


 ギガルがグワッと牙を剥いて威嚇する。



 少し離れた所ではラグが3匹のシャドウドッグと戦っていた。


「ヒュンヒュンキィ~~ック」


 ラグがケリを入れるとシャドウドッグが霧散して消えていく、


「何してるんだラグ! 魔法で攻撃しろ」

「にゃははははっ、忘れてたぞ、ついうっかり蹴り入れてたぞ」


 怒鳴る恒夫を見てラグが大笑いだ。

 その後ろに先程消えたシャドウドッグが現われる。


「ファイヤーボム! 」


 ラグが振り返り様に低級魔法の炎を出す。

 それを見ていたのか、もう1匹のシャドウドッグが横から迫る。


「ラグ! 」


 叫ぶと共に恒夫が魔法銃をぶっ放す。


 ラグの炎魔法が当たったシャドウドッグが爆発するようにして燃えていく、横から襲い掛かろうとしたシャドウドッグは魔法銃の弾が当たる前にスッと霧のようになって逃げた。

 恒夫の撃った魔法の弾が地面に落ちて青い雷光をあげる。

 電気魔法のデン弾だ。

 雷光からバッと跳んで離れるとラグが振り返る。


「助かったぞツネ、魔法使った後だから一瞬動きが遅れてたぞ、もう一寸で引っ掻かれる所だったぞ」

「援護は任せてくれ、残り2匹だ。1匹ずつ片付けていこう」


 魔法銃の弾を詰め替えながら恒夫が言うとラグがニッと可愛い笑みを見せた。


「了解だぞ、あたいとツネは相性バッチリだぞ」


 笑顔のラグの後ろからシャドウドッグが向かってくるのが見えた。

 恒夫が咄嗟に魔法銃を構える。


「ラグ後ろだ! 」


 魔法銃を撃つと同時にラグがバッと恒夫目掛けて走り出す。


「ハラペーニョファイヤー 」


 ラグが恒夫の脇を通りながら魔法を使う、


「なん!? 」


 咄嗟に振り返った恒夫の目に炎に焼かれるシャドウドッグが映った。


「後ろに居たのか…… 」


 恒夫の顔が恐怖に引き攣っている。

 全く気配を感じなかった。

 ラグがいなければ確実にやられていただろう。


 思い出したように恒夫が前に向き直ると炎魔法のヒ弾で藪が燃えているだけだ。


「くそっ、俺の方は逃げられた」


 お互いの後ろから襲い掛からんとしたシャドウドッグを攻撃したのだ。


「にゃははっ、気にするにゃ、ナイス援護だぞ」

「射撃は自信あるんだけどな、魔法銃は本物の魔法よりワンテンポ遅れるからな」

「にゃへへっ、あたいとツネの二人で倒したんだぞ、後1匹だからにゃ」


 悔しげに言う恒夫の背をラグが慰めるようにポンッと叩いてくれた。



 ガサガサと藪を踏み散らす音が聞こえて恒夫が魔法銃を構える。

 ラグが鼻をヒクヒクさせて恒夫の持つ魔法銃に手を当てた。


「秀樹たちだぞ」

「恒夫ぉ~~、ラグちゃぁ~~ん、無事かぁ~~ 」

「スギナちゃん、大丈夫なの~ 」


 藪の向こうから秀樹と菜穂の大声が聞こえた。


「大丈夫だ。俺もラグもスギナちゃんも無事だ」


 大声でこたえると恒夫が続ける。


「近くにシャドウドッグがいるから気を付けろ」

「なにぃ! まだ居るのかよ」


 秀樹の愚痴が返ってきた。


「ファイヤーボム! 」


 会話している間にラグが3匹目のシャドウドッグを倒していた。


「にゃははははっ、犬っころの気配は消えたぞ、近くにはいにゃいから安心だぞ」


 楽しそうに笑いながらラグが駆けてきた。

 抱き付いてくるラグの頭を撫でながら恒夫がまた大声を出す。


「心配無い、この辺りのシャドウドッグはラグが倒した。そっちはどうした? 」

「デカい声出すなよ」


 前の藪を掻き分けて秀樹たちが出てきた。


「なんだ。もう来てたのかよ」


 秀樹の顔を見て安心したのか恒夫が声のトーンを落とした。


「俺たちの所にいたシャドウドッグが消えたから恒夫の所に行ったのかと慌てて来たんだ。でも余計な心配だったようだな」

「10匹くらい倒したよね、それでも後10匹くらいはいたから恒夫がヤバいって慌てて来たのに……イチャついてるんだもんな」


 ラグを抱き寄せている恒夫を秀樹と栄二がじとーっとした目で見ている。

 菜穂が意味ありげに笑いながら口を開く、


「お邪魔だったかしら? 」

「ちちちちっ、違うからな、さっきまでシャドウドッグと戦ってたんだ。ラグに助けられてそれでしがみついていただけだからな」


 顔を真っ赤にした恒夫が大慌てでラグを引き離した。


「にゃんだよ、お前ら邪魔だぞ、これからいい事する所だったんだぞ」


 悪戯っ子のようにニヤッと可愛い笑みを見せてラグが言った。


「ちょっ、ちょちょちょっ、ちっ、違うから、違うからな」


 恒夫は顔どころか全身真っ赤にして完全にテンパっている。


「あははははっ、恒夫くんって結構ウブなんだ」

「ヘンタイの癖にこういうのはまるっきりダメだからな」

「変な店でお姉さんとは凄い遊びする癖にね」


 大笑いする菜穂の隣で秀樹と栄二が呆れ顔だ。


「そんな事より大変だ」


 真っ赤な顔をした恒夫が気を取り直すように軽く頭を振って話を続ける。


「熊男のギガルが敵になった。俺たちがペンダントを見つけたのを知って奪おうと襲ってきやがった。今スギナちゃんと戦ってる」


 ギガルと聞いて菜穂の顔色がサッと変わる。

 菜穂が恒夫の腕を引っ張って訊く、


「なんで……どういう事なの? マーサさんは? 」

「落ち着けよ、マーサさんたちはいない、ギガル単独だ。このイベントが終わったらチームを抜けるつもりらしい、ギガル一人の考えか、マーサたちの考えか、それはまだわからん」

「マーサさんがそんな事するわけないでしょ! ギガルが勝手にしてるのよ」


 菜穂がヒステリックに叫んだ。

 マーサの事は心から信用してるらしい。


 近くで甲高い大声を聞かされて首をすくめる恒夫の隣でラグが菜穂の頭をペシッと叩く、


「大声出すにゃ、マーサは近くにいにゃいぞ、クマだけだぞ、ちびっ子が熊を倒せば全部わかるぞ、だから落ち着くにゃ」

「マーサさんはいないのね、よかったぁ~~ 」


 落ち着いたのか菜穂がラグに頭を下げた。


「ごめんなさい、一寸吃驚したから…… 」


 恒夫が何とも言えない表情で菜穂を見つめる。


「俺も悪かった。謝るよ、現状ではギガルの独断だと思う、だから安心しろ」


 ラグが菜穂の腕を引っ張る。


「ちびっ子の所へ行けば分かるぞ」


 ラグに引っ張られて菜穂が歩き出す。

 菜穂の剣幕に臆していた秀樹と栄二も後に続く、最後に歩き出した恒夫が秀樹の耳元に顔を近付ける。


「菜穂はマーサの事を信じ切ってる。もしマーサが敵に回ったら菜穂はどうするんだろうな? 覚悟は決めとけよ」


 耳元で話す恒夫を見て秀樹が立ち止まった。


「何が言いたい? 菜穂が裏切るって言いたいのかよ」

「何か隠してるって言っただろ、俺たちに話さないのか話せないのか知らんがな、その為に何でもやるって感じだぜ、勝つためには何でもするって言ってるだろ、裏切りでも卑怯な事でも何でもやるって事だろ」

「お前な! 言っていい事と悪い事があるぞ、菜穂の今までの行動に嘘があるかよ」

「今までは今までだ。俺たちより良い条件があればそっちに行くって言ってんだ。勝つためなら何でもする女なんだからな」


 秀樹が恒夫の胸倉を掴んだ。


「お前! 菜穂の事そんな奴だと思ってたのかよ、命懸けで戦ってきた仲間だろが」

「菜穂は俺たちを利用する事しか考えてない、俺がそういう考えだからわかるんだ! 俺は秀樹と栄二とラグとスギナちゃんしか仲間だと思ってないよ……後はクロエたちや中津たちくらいだ。今回知り合ったギリーさんやバッグスさんは良い友達になれるとは思うが今は利用できると思うから金をやったり飯を奢ったりしたんだ。上辺だけの付き合いってヤツだ。菜穂もそんな感じがするんだよ」

「てめぇ! 」


 今にも殴り掛かりそうな秀樹を栄二が慌てて止める。


「止めなよ秀樹、恒夫もだよ、仲間を疑うなんて止めようよ」


 泣き出しそうな栄二の心配顔を見て秀樹が恒夫の胸倉から手を離す。


「チッ、今はこんな事してる場合じゃねぇ、早く行くぞ」


 ラグたちを追って秀樹と栄二が走り出す。


 恒夫が襟元を直して秀樹の背を見つめる。


「俺はお前らやラグを勝たすためならどんな事でもするぜ……卑怯な事でも何でもな」


 ボソッと呟くと恒夫も後を追って走り出した。



 スギナとギガルが戦っている所へラグと菜穂がやって来る。


「操蔓! 打根」


 スギナが手から伸ばした植物の太い根を鞭のように使ってギガルに迫る。


「ガハハハッ、そんなものが俺に効くかよ」


 ヒグマそのものといった猛獣モードのギガルが波を打つようにしなやかに迫ってくる植物の根を手で叩き落とした。


「ギヒヒヒッ、バラバラにしてやるぜ」


 ギガルの姿がスッと消えた。

 姿を消す事の出来る影マントを使ったのだ。

 スギナがばっと左に飛び退くと両手を突き出す。


「繰蔓! 三重壁」


 手から伸びた植物の蔓が織物のように重なり壁を作っていく。


 バシッ! 空気を振動させて壁が凹んだ。


「ガハハッ、やるじゃないか」

「そう殺気立っておれば見えんでも全部わかるぞ」


 スギナがくるっと後ろを向いた。


「ガハハハハッ、流石だな、こんなもの役にたたんか」


 スギナの目の前にギガルがばっと現われた。

 左から襲い掛かった後で直ぐに後ろに移動したのだがスギナには全てお見通しだとわかり影マントを脱いだのだ。


 二人を見て菜穂が大声を出す。


「止めて! スギナちゃんもギガルさんも止めてよ」

「お主は下がっておれ、何を言っても無駄じゃぞ、此奴は初めから約束など守るつもりが無いのじゃからな」


 スギナが背を向けたままでこたえた。

 菜穂の隣でラグが笑い出す。


「にゃははははっ、無駄だぞ、止めとくにゃ菜穗、見てみろよ猛獣モードだぞ、クマが本気になってるぞ、ちびっ子大丈夫か? あたいが手を貸してやろうか? 」

「間に合っておる。猫の手を借りるほど忙しくはないぞ」

「にゃははははっ、猫の手だって、まだまだ余裕だにゃ、そんじゃ見学させてもらうぞ」


 大笑いするラグを菜穂がキッと睨み付けた。


「何言ってんのよ、あんたは黙ってて」


 スギナと向き合っていたギガルが菜穂に視線を合わせる。


「ガハハッ、マーサのお気に入りか、魔法で援護などしやがったらお前から先に殺すぞ」

「殺すって……マーサさんは? マーサさんの命令なの? 」


 青い顔をした菜穂が不安気に訊いた。


「マーサ? 知らんな、あのクソエルフならクソ犬どもと戦ってたぜ」


 黄色い牙を見せてニヤッと笑うギガルにスギナが右手から根を伸ばす。


「操蔓! 打根」

「ガハハッ、効くかよ」


 根を叩き落としたギガルにスギナが左手を向けた。


「繰蔓! 笹刃」


 笹の葉で出来た刃が無数に飛んでいく、同時に右手を振った。


「葉っぱで俺が倒せるか! 」


 両手で笹刃を叩き落とすギガルの背に木の根がぶち当たる。


「ぐがぁっ! 」


 つんのめるようにしてギガルが倒れた。

 仕留めようとスギナが両手を向ける。


「繰蔓…… 」


 スギナの前に菜穂が飛び出した。


「止めて! スギナちゃん止めてよ、ギガルさんも止めて! 話し合いましょうよ、マーサさんは何処なの? みんなで話し合えば………… 」


 両手を広げて止めようとする菜穂の後ろでギガルがムクッと起き上がる。


「クソがっ!! 貴様ら全員、ぶっ殺してやる」


 充血した目を猛らせてギガルが両手を上げた。

 菜穂に向かってギガルが腕を振り下ろす。


「招き猫! 」


 ラグが右手をくるっと回すと菜穂がふわっと横に跳んだ。


「にゅっと! 」


 ラグが倒れそうになる菜穂を抱きかかえて近くの木の枝に飛び移った。

 ギガルの振り下ろした手が先程まで菜穂の立っていた地面を抉る。

 この間、僅か八秒ほどの出来事だ。


「繰蔓! 六重縛り」


 スギナが両手から伸ばした植物の蔓がギガルの体に巻き付いた。


「ぐぅ……ぐががぁあぁ~~ 」


 蔓を解こうとギガルが暴れる。


「無駄じゃ、お主の力では切れん、儂の特別製じゃからの」


 両手で植物の蔓を引きながらスギナが見据えた。

 両腕を体と一緒にグルグル巻にされたギガルがもがいて唸る。


「ぐががっ、こんな草で俺が……ぐがががぁ~~ 」

「大したものじゃぞ、六重縛りを使うなどこのゲーム初めてじゃぞ、正にバカ力じゃ」


 暴れるギガルに合わせて蔓の繋がった両手を振りながらスギナが感心するように言った。

 ギガルが動きを止めた。


「ぐぐぅ……ガハハハッ、切れんならさっきみたいに振り回すだけだ」


 ギガルが体を捻って走り出すが三歩ほど進んだだけだ。


「ぐぅ……なっ、なん!? 」


 先程スギナに蔓を巻き付けられた時に木を2本も振り回したギガルが今は動けない、足に力を入れたままギガルが振り返る。


「無駄じゃ、幾らバカ力でも山を動かす事など出来んじゃろ、今の儂は山と同じじゃぞ」


 スギナの着物の下から幾つもの太い木の根が地面に刺さっていた。

 ギガルの顔から笑みが消えた。


「きっ、貴様は……Aクラス……これ程とは………… 」

「な~にを言っとるんじゃ? この程度、儂の力の3分の1も出しとらんぞ、今はゲームで抑えられとるからのぅ、本当の力なら30分の1も使っておらんぞ」


 余裕の顔でボケるスギナを見てギガルの顔がみるみる青くなっていく。

 木の上にいたラグが菜穂を抱えたままポンと降りてきた。


「ちびっ子の力もわかんにゃいのか? クマはバカだにゃ」


 ラグに抱えられている菜穂は何が起きたのかわからずきょとんとした表情だ。

 スギナが振り返る。


「ナイスじゃぞ、流石リーダーじゃ」

「にゃへへへっ、菜穂は大事にゃ仲間だからにゃ」


 照れ笑いするラグから菜穂がバッと離れる。


「なんで……何でこんな事になったのよ、何でなのよ! 」


 菜穂が叫んだ。ギガルだけでなくスギナやラグに訊いていた。

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