【29-2】
「レイジにいちゃーんっ!待ってぇ!」
「コラッ、エイジ!にいちゃんって呼ぶなって言ってるだろ!」
「ゴメン…にいちゃん」
「だから!……まぁいい。で、何だ?」
「キキねえちゃんから聞いたよ。どっか遠い所に行っちゃうって…」
「ああ、そうだ」
「ぼくも連れてって!」
「ハハハ、無理だよ。危ないからお前はキキ様とお留守番だ」
「えぇぇぇ、イヤだなぁ…にいちゃんと離れるの」
「エイジ…。お兄ちゃんがいない間、キキ様をしっかり護るんだぞ!」
「ああ!にいちゃんも"お兄ちゃん"って言ったぁ!」
「あっ……。ハハハ、エイジの勝ちだ…」
「やったぁ!これでぼくも"お兄ちゃん"だ!」
「そうだな。じゃあしっかり頼んだぞ!"お兄ちゃん"」
「うん!まかせといて!」
レイジのギルドには三人しかメンバーがいない。
ギルドマスターのキキ。そしてレイジとエイジの兄弟。
ゲーム時代は、新参でありながらも構成メンバーは多く、
中堅ギルドではあった。
ただ、こちらの世界に取り込まれたメンバーがたったの三人だけだった。
実はこのような内情を抱えているギルドは少なからずある。
たまたまメンバー総出でダンジョン攻略中だった場合もあれば、
たまたま装備の確認をするためだけに一人でログインしていた者。
たまたまゲームもしたことがない弟に、自分の勇姿を見せるためにギルマスと三人だけでダンジョンを攻略中だった場合もある。
キキは皆をまとめる"だけ"の象徴的存在だったため、戦力としてはほとんど役に立たず、こちらの世界でのギルド運営は、実質、レイジが行っていた。
こんな訳もわからない世界で、血の繋がりがある弟と離れるのは不安だったが、
ギルドのためには働かなければいけない。
会議の際、JJと桜の言葉にドキッとしたのは実はマコトよりもレイジだった。
ギルドの内情を知られてはいけない。知られる前に、何とかメンバーを増やさなければ、と。
そのためには、何としてもこの作戦で成果をあげる必要があった。
レイジこと、勇者ゼロスにはこのような事情があった。
集合場所は街の入口。
先に着いていたマコトと"モンスター"はその光景をぼんやり見ていた。
「兄弟なのか…。あんな小さい子までこんな世界にな…。可哀想に……」
「……」
ゼロスが弟と別れを済ませやってきた。
「や、やぁ…マコト。もう来てたのかい」
お兄ちゃん姿を見られたと思ったのか、バツが悪そうだ。
「お?勇者ゼロスか!今回は宜しくな!」
何も見てなかった体をとることにした。
「こちらこそ」
ゼロスがモンスターに目をやる。
「今日もまた強そうなモンスターだな…」
「まぁ、ボディーガードのようなもんさ」
「…前にも思ったんだけど、召喚魔法って街でも有効だったか?」
「(そ、そこを突いてくるか…)」
実は無効だった。
「…これから旅をする仲間だから正直に話すが、特殊なアイテムを使っていてね。街でも召喚状態をキープ出来るんだ」
「へぇ、そんなアイテムがあるのか…」
「ああ。ソルティキャットさんに造ってもらったんだ。それ以来の付き合いだよ」
「……」
召喚の話は嘘だったが、アイテムの話は本当だった。
醜悪な容姿の《魔窟王》が自由に街を歩けるのは、ソルティキャットこと潮が、特殊なアイテムを造ってくれたからだった。
「やっぱり凄いなぁ《バスター》は。そんなことが出来るなんて…」
「そうだな…」
「…」
「ところで気は変わったか?」
「…ん?何の話だ?」
「《ソード&ローゼズ》に入るって話…」
「ああ、そのことか。…いや、変わらないよ」
「そうか…」
寂しそうな顔をしている。
「《ソード&ローゼズ》はいつでも歓迎するぞ」
ゼロスは手の甲を見せるいつものポーズを見せてきた。
「ああ、気が変わったらな…」
もう馬鹿にする気持ちはなかった。




