Eps.001 幼馴染が、今でも、儚い。
『今年も満開の桜が咲き誇る京都、清水寺は多くの人で賑わっています……』
ニュースでも見ながらお昼ご飯を食べようとテレビの電源を付けると、満開の桜を背景にした美しい清水寺の景色が大きなテレビ画面に映る。
「僕たちも見に行ったね、清水の桜」
「うん、懐かしい」
小夜の作ってくれた食事が並んだ食卓で、隣の席でテレビを見ていた彼女に呼びかける。
「また、見に行きたい。よければ今年でも」
そう言いながら、彼女は身体を僕の方に向け、僕の目をじっと見つめながら強請ってくる。
吸い付けられるような彼女の瞳はすごく綺麗で、また懐かしくもあるその仕草に、思わず僕の胸は跳ねてしまった。
この人に魅せられたんだなと、ふと思う。
少し気恥しいが、もはや仕方のないことに思えた。
艶々とした長い黒髪が、すごく美しい。
相変わらず綺麗に整った顔立ちに、透き通った瞳。
昔からずっと、今になっても儚い雰囲気を身に纏う彼女は、今でも桜にすごく映えるだろう。
大切な彼女の願いである。断る理由などない。
「うん。散ってしまう前に必ず見に行こう」
左手薬指にはめられた指輪を大切にさすって、僕はこの幸せを噛みしめるのであった。
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「いってきまーす!」
慣れないスーツに身を包みながらも、嬉々として家を飛び出すと、満開の桜が新入生の合格を祝福するかのように、所狭しと咲いている。
今日は、僕ー天道大輝にとって、念願の入学式が執り行われる日だ。
浪人し、1年遅れて春を迎えた僕にとって、穏やかな気持ちでこの美しい桜を眺められることはこの上なく幸せなことであった。
本当に、京都の春は綺麗だ……。
小さいころからずっと、それ自体は幼馴染から常々聞いていた話ではあったが、一人で初めて見るこの景色には改めて感動してしまう。
僕の実家は関東の方だったので、京都に来る機会なんて修学旅行くらいしかなかった。
しかも、修学旅行なんてなかなか春には行けない。よって、この春の京都を生で見るのはこの春が初めて、ということになる。
とはいえ、京都の大学に合格したので、これからしばらくはずっと、この景色を見ていられる。
折に触れて幼馴染の京都愛に触れてきた僕にとっては、このこともまた、大変幸せなのであった。
そんなことを思いながら、入学式の会場へと歩みを進めていく。
入学式は大学から若干離れたところで執り行われるようで、今の一人暮らしをしている家は大学に近いため、少し歩くことになった。
ちょうど5分ほど歩くと、まだ会場までは距離があるものの、少しずつ周りにスーツ姿の新入生と思しき人が増えてくる。
その中に混じるように、塾のアルバイトの宣伝やら、地元の新聞社の記者やらが彼らに声をかけていた。
そうして騒がしくなってきた人波に従って進んでいくと、今度は大きな桜の木が植えられた大通りに出る。
そしてその先に見えたのは大きなホール。会場はもう、すぐそこのようであった。
桜並木の下では、新入生とその保護者達が写真撮影をしていた。
中には新入生同士で写真を撮っている人たちもいる。
ー同じ高校で集まっているのだろうか。
関東の比較的規模の小さい高校から合格した僕にとっては関係のない話だと思って歩いていると、ふと見慣れた人影を見つける。
長らく会っていなかったから、正確には、見覚えのある、なのかもしれない。
数か月ぶりに見た、長い黒髪の、今にも溶けてしまいそうな儚い雰囲気を纏った少女。
満開の桜に目を奪われながら、なぜかスーツ姿で一人、桜の木の下で立ち止まっている。
呆然として僕も彼女を眺めていると、彼女が突然振り返る。
僕を視界に入れるやいなや、目をぱちくりさせた彼女は、まるで幽霊でも見えたかのような反応をしてみせた。
目を見開いては、すぼめてを繰り返し、そしてじっと僕を見つめていたかと思えば、そろりそろりと近づいてくる。
「もしかして、大輝くん……?」
「ああ、そうだよ」
やっぱり本人か……と思って驚いていると、あの日のように彼女はまた僕に飛びついてくる。
「わ!大輝くん……!まさか、こんなところで会えるなんて……!」
「それはこっちのセリフだよ。なんで新入生じゃないのにこんなところにいるのさ」
「いやぁ、桜が満開だって聞いて、見たくなってさ。家がここらへんなの」
仕方ないでしょ?と言わんばかりの目で、子供っぽく声を弾ませて答える。
いや、だからといってスーツを着てるのは意味わからんだろ……。
そう思って、彼女にそれを尋ねようとしたとき、ちょうど会場の方からアナウンスがかかる。
『順番に入場を開始しますので、新入生の皆さんは列に並んでください!』
うぅ……、タイミングが悪い。
もう少し久しぶりの再会を味わっていたかったのに。
そうして彼女の方を見ると、なぜかスマホの画面を見ては、急いで何かを操作している。
「あ、あのさ、ライン交換しよ!終わるの待ってるからさ」
あぁ、そういうことか。確かに小さい頃はスマホなんて持っていなかったし、以前再会した時もそんな暇はなかったから彼女の連絡先も知らなかった。
僕も急いでスマホを取り出しては、連絡先を交換する。
『順番にならんでくださーい』
またアナウンスが耳に入る。
「じゃあね、また連絡して!」
「うん!まってるから!」
急いで飛び出す僕に彼女は手を振って見送るのであった。
短編『花火大会に静寂を』が前日譚となっておりますので、よかったら併せてお読みください……!
(勿論、本編だけでもお楽しみいただけます!)




