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召喚聖女は我儘らしい?  作者: 一理。


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18/18

それぞれの事情

最終話です。


——侯爵令嬢ローザリンデ・ヴェッセリーのその後——



 あの夜会から二か月が経ち王宮は大分落ち着きを取り戻してまいりました。


 夜会から遅れること一日、聖女様たちの業績は民衆にも広く周知され、民衆はお祭り騒ぎのように熱狂いたしました。

 いえ、実際民衆が王宮前広場に殺到し、それを鎮めるために聖女様やダンジョンで戦った方々のパレードが決定いたしました。

 聖女様が一か月後にベンマルク王国に旅立たれるという時間のない中でのパレードの準備は本当に大変でございました。

 はい、わたくしも準備のお手伝いをさせていただきました。

 夜会で国王陛下がわたくしの事を随分褒めてくださいましたので、わたくしには縁談の申し込みが沢山ございました。でもわたくしはその縁談をお断りして今は王妃様の政務のお手伝いをさせていただいています。

 吐く息も朝晩は白くなる季節、二台のオープン型馬車に分乗された聖女様とジークベルト殿下、ボニファティウス様、ヴォルデマール様、そして書物を手にしたままのライオネル様、それを取り囲むように騎馬で行進する赤髪の騎士様を始めとした屈強な騎士の方々に民衆は寒さも吹き飛ぶほどの歓声を贈りました。ボニファティウス様の魔術で民衆に季節外れのお花のシャワーが降り注いだ時が一番の盛り上がりでしたわ。


 そしてその熱狂も落ち着き、聖女様や赤髪の騎士様が遠い国に旅立って一か月、久しぶりに、本当に久しぶりにわたくしはジークベルト殿下にお茶にお招きいただきました。


 サロンに到着するとジークベルト殿下はわざわざ立ってわたくしを出迎えてくださいました。

 

「ローザリンデ、いや、ヴェッセリー侯爵令嬢、すまなかった」

「いいえ、ジークベルト殿下、頭を上げてくださいまし」


 それは何の謝罪でしょうか、婚約を白紙撤回したこと?それとも。

 ヴェッセリー侯爵令嬢と呼びかけられたことに寂しさを感じます。


「今から思うと私はヴェッセリー侯爵令嬢に甘えていたんだな」


 ジークベルト殿下はしみじみと仰いました。


「確かにあの時は心に余裕がなかった。だからヴェッセリー侯爵令嬢と向き合うことを後回しにしてしまった。君の心を無視した。それでも君は私を信じてくれていると疑わなかったんだ。母上に言われたよ、信頼も親愛も永遠ではない、常に向き合う努力が必要だと。私が勝手に君の心を蔑ろにしたのに君は私をずっと信じてくれている、なんて君への甘えだったんだな」

「いいえ、わたくしもジークベルト殿下に謝らなければいけませんわ。わたくしは最後までジークベルト殿下を信じ切ることが出来ませんでした。目の前に見えるものにしか見ることが出来ず、殿下のお言葉を信じませんでした。聖女様を守る、聖女様の手伝いを誠心誠意努める、そんな曖昧な言葉でも殿下がどんなに真剣に仰っているか、その瞳の奥にある決意に気づくことが出来ませんでした」

「だからそれは私が——」

「もう止めにいたしましょうジークベルト殿下」


 私が微笑むとジークベルト殿下も「そうだな、過ぎたことだ」と微笑んでくださいました。

 ええ、過ぎた事。

 ジークベルト殿下は聖女様をどう思っていたかは打ち明けてくださいませんでした。わたくしが殿下のお言葉を信じることが出来なくなったのは、噂や殿下たちが聖女様とずっと行動を共にしていらしたからという事ばかりではありません。ジークベルト殿下が聖女様を見つめるその瞳の中に聖女様への思いがあふれているのを知ってしまったから。

 ジークベルト殿下が打ち明けてくださらなかったようにわたくしも殿下には申しません。わたくしはジークベルト殿下が好きでした。嫉妬に狂って聖女様をこの国から排除しようと画策するほどに。

 そうです、あの時のわたくしは嫉妬で色々なものが見えなくなっておりました。社交界の秩序を守るため、傍若無人で非常識な聖女様を王太子妃にさせないため——ジークベルト殿下から聖女様を妃にしたいと聞いたわけでも、聖女様からジークベルト殿下を好きだと聞いたわけでもありませんでしたのに。

 そんな馬鹿な私を国王陛下は守ってくださいました。


 ええ、過ぎた事。

 その言葉に馬鹿な私の胸はまだ痛みます。

 ジークベルト殿下にとってはもう過ぎた事、二人で切磋琢磨した思い出も、わたくしに愚痴を言って甘えてくださったことも。いただいた花束の春の花の香り、初めての視察で二人で眺めた黄金の小麦畑、雪のちらつく日に掛けてくださった外套の暖かさ、全てはもう過ぎた事。


 わたくしは時間をかけてこの想いを昇華していこうと思います。









——召喚聖女鷹峰凛香のその後——

 

 時間は少し戻りベンマルク王国に旅立つ少し前。


「うーん、持っていく物はこれで全部?」

「はい、後はリンカ様のドレスですが」

「ドレス、着なくちゃいけないかなあ」

「なるべく締め付けの少ないドレスを選んでいますわ」


 アナベルとなんやかんや準備をしていると侍女さんがテオが来たと教えてくれた。侍女さんたちはあの夜会の後、手のひらを返したように愛想がいい。


「テオ!」

「忙しいか?」

「ううん、大丈夫、テオは?」

「ああ、引継ぎも一段落した」


 侍女さんがお茶の準備をいそいそとしてくれる。なんだかなあ、まあいいや。

 

 私が国王陛下に頼んだこと、それはベンマルク王国に行ってみたいという事だった。

 私が未だに納得していない事、あっちの世界から有無を言わせず強制的に召喚されたこと。

 今ではジークやボニーや騎士や魔導士の人達、大切な人がたくさんできたし、何より私はこの世界でテオに会えた、それはとても幸運なこと。でも家族にはもう二度と会えないし、家族がどんなに私の事を心配していても無事だよの一言も伝えられない。

 だから今後、私のように強制的に連れて来られる人がいなくなればいいと思う。

 何をどうしていいかわからない。だけどまた数百年経ったらこの世界のどこかにダンジョンが出現して結界に穴が開くかもしれない。その時にそれしか手段が無かったら聖女召喚が行われるんだろう。

 異世界からわざわざ人を拉致らなくたってこの世界の人が結界補強の呪文を使えればいいと思う。

 なんでかわからないけど呪文はこの世界の人に聞き取れないし、紙に書くこともできない。

 だけど私はその手段を探したい。

 だからとりあえず聖女様が現れたことがあるベンマルク王国に行って調べてみたいって思ったんだ。

 ベンマルク王国に前の聖女さんの子孫がいたら何か手がかりが掴めるかもしれない。


 この世界の厄災はこの世界の人が何とかすればいい。だからもうこの世界の人になった私が頑張る。

 雲をつかむような話だけどね。


 最初は一人で行くつもりだった。一人って言っても本当の一人旅なんてできないからそこはベンマルク王国まで連れて行ってくれる人を王様にお世話してもらおうと思っていたけれど。

 テオは任務で私を守ってくれているんだし、テオとはお別れだと思っていたけれど、テオが家族になろうって言ってくれた。——騎士団を辞めてまで。


 結局テオは退団できなかった。

 王様にお願いした私の希望は少し形を変えた。

 まず、私たちの功績を発表することで私はかなり有名人になってしまう。

 もちろんテレビなんて無い世界だから私の顔を国中の人が知っているなんてことにはならないけれど、まったくの保護なしで外に出すのは危険すぎると言われた。

 そうして私は外交特使っていう身分を貰うことになった。テオは騎士団に在籍しながら私の専属護衛っていう任務に就くことになった。


「護衛と護衛対象の婚姻は禁止しておらぬぞ」


 王様は片目を瞑りながらそんなこと言っていた。


 ベンマルク王国に行くのは私とテオの二人だけじゃ無い。

 なるべく少人数にしてもらったけどね。

 まず、メイドが一人、最初は三人って言われたけど、そんなに要らない。遠い国まで連れていくのは可愛そうだし。これはアナベルがついて来てくれる。

 それからテオのほかに護衛が二名、オルグとロニー。知っている顔でホッとした。

 あと王宮の官僚が数名、その内の一人がなんとライだった。

 ライって官僚じゃないよね、って思ったけどライは数年前に王宮官僚としてベンマルク王国に行っているんだって。

 みんな遠い国までついて来てくれていいのかな? ってアナベルに聞いてみた。

 もじもじしながらオルグの方を眺めてる。

 ああ! そういう事? そう言えば護衛の希望者を募った時に真っ先にオルグが立候補したってテオが言っていたっけ。


 ライは?


「僕はリンカがいる所ならどこにでも行くよ。僕はね、イシュリエ神様を研究しているんだ。イシュリエ神様の文献、イシュリエ神様の遺跡、イシュリエ神様の伝説、イシュリエ神様が結界を張って魔獣の世界とこの世界を隔ててくださった、ダンジョンはその結界に触れられる場所かもしれないと思ったからダンジョンにも興味を持ったし、今回、イシュリエ神様の結界の一部を見ることが出来た。ダンジョン最下層のあの青く光る壁は素晴らしかった。そんな僕が今一番興味があるのはイシュリエ神様に実際に会ったことのあるリンカなんだ」


 いつもは気が向かないと喋らないのに息を荒くしながら長々と喋るライ、なんかちょっとキモかった。


 そんな訳で人選はすんなり決まったけど他にも色々準備があるんだって。余所の王国に行くのに手ぶらでって訳にもいかなくてお土産も沢山持っていくらしいし。それは宰相さんが色々手配している。


 テオとお茶を飲みながらそんな話をぽつりぽつり。

 ああそうだ。


「テオって領地とか貰ったんだよね、放っておいてもいいの?」


 テオは陞爵して伯爵様になった。ちょっとだけど領地も貰ったんだって。没落して王領になっていた元ツァイス男爵家の領地。


「ああ、俺は領地経営なんてできないし、任せる親族もいない。だから引き続き王宮で管理してもらうことになっている」


 そうなんだ。

 今回の旅の途中、テオの領地にも寄ることになっている。そこにあるテオの家族のお墓にテオと結婚することを報告して近くの教会で結婚式をあげようって話をしてる。


 ボニーなんかすごく怒っていたけどね、「僕が出席できないじゃないか!」って。

 それでもジークとボニー、ヴォル、三人とも結婚祝いをくれた。花嫁さんが被る綺麗なベールとか高そうな首飾り、テオとおそろいの腕輪、カップ、何故か木彫りのカップルの熊、可愛いけどね。




 



 そして出発の朝、私はまた泣いている。

 王宮なんて堅苦しくて嫌だった。誘拐犯のしきたりなんか守ってやるもんかって思っていたし、淑女になんてなれない。

 それでも大事な人がたくさんできた。

 ここはもう私の知らない国じゃない。みんなが魔獣に襲われて滅亡しても関係無いなんて思えない。


 ジーク、ボニー、ヴォルとハグをした。

 国王陛下や王妃様、ローザリンデさんも見送ってくれる。


「いつか帰ってくるんだよね」


 うん、そうだよボニー、ここはもう私の故郷だから。だから必ず帰ってくるから忘れないでね。



 




 結婚式前夜夢をみた。

 家族がお茶を飲みながら私の事を話している。

 お父さん、お母さん、お兄ちゃん、穏やかでちょっと寂しそうな顔。

 伝えられたらいいのにな、私は元気です。この世界で愛する人に出会って明日その人のお嫁さんになるんです。


『我が夢枕に立って伝えよう、見事役目を果たした褒美じゃ』


 人の話を聞かない女神様、お願いします————

 




————(おしまい)————





 

お読みくださりありがとうございました。

ブックマークやお星さま★をいただけるととってもとっても嬉しいです!

よろしくお願いします!!


更に数年後の話もちょこっと書けたらいいなと思っていますがまだ未定です。

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