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Life 夢の軌跡  作者: 伊藤ヲカシ
第1章
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9話 帰り道

 初めてのモンスタードロップを獲得した灰は、その後も3時間にも渡り深度1エリアの探索を続けていた。


 位階が1つ上がっているとはいえ、灰はルーキーで経験が圧倒的に不足している為、様々なモンスターと戦いで小さな傷を身体のあちこちに付けていた。


 先程から少ないインターバルでモンスターと連続戦闘をしていた為、疲れが出ているのか肩で息をしながらそろそろ帰りを意識しながら歩いていた灰は嫌な予感がして頭上を見上げる。


「ハァハァ、ッ!!」


 眼前に迫ってくる粘性の何かを視認した灰は慌ててバックステップをし距離を取る。すると先程立っていた場所に粘性のモンスタースライムが落ちて来る。


 灰は地上での凛とのミーティングを思い出しながら地に落ちたスライムを踏み潰す。スライムは爆散した様な感じに飛び散り絶命したのかエーテルに還り始める。


「ふーッ!、休む暇がねぇな」


 安心したのも束の間で灰の耳が新たに接近して来たモンスターの音をキャッチし嘆く。数秒後、奥の通路から「「「キィ、キキィ」」」と、甲高い声を発しながら人間の生き血を欲して自身の牙を突き立てようとレヴィバットの群れが正面から迫る。


 灰はボクサースタイルの構えを取り一息に連打を繰り出す。放たれた拳は一斉に来るレヴィバットを正確に撃ち落としていくが、2匹撃ち漏らしその牙を服越しに突き立てられる。


「ッ!!ラァ!!」


 鈍い痛みが右腕と右肩を襲うが怯む事なく、左腕で払い落とし踏み潰す。辺りを見渡しモンスター達がエーテルに還っていくの肩で息をしながら見届けた後、絶命したレヴィバットから2つモンスタードロップしたレヴィファングを拾う。

 

「ハァハァ…そろそろ帰るか」


 灰は社長の凛に渡された紙に書かれた納品数を埋めようと頭に入っている範囲で潜っていたが、初見で経験も足りていない上にソロの灰は、体力をかなり消耗しているのである。


 帰り道での戦闘も想定し、此処で引き返す選択をした灰は、胡桃と勉強した内容を思い出す。


『いい灰君、過去から現在に至るまで所属関係なく多くの冒険者が同業者の死傷率を下げる為にと取られた方策の1つに、アビス庁新宿分室へと1部のマッピングデータを提供しそれを冒険者なら無償で閲覧できる様になってるの』

『マジか、なら今回俺が探索する場所はその閲覧できる場所か?』

『残念ハズレー。閲覧できるルートを使う時の正解は帰還の時です』

『えっ、なんでだ?』

『えっとね、みんな閲覧出来るルートを正道って言うんだけど、正道はみんな使うからモンスターとの取り合いが起きるの、だから探索は本来、正道から若干外れた所や独自に発見した所で探索する人が多いみたいなの。だけど帰り道、迷った時や疲れた時なんかは、皆んな楽して帰りたいから正道を探すの。そこには多くの冒険者が、通るからモンスターも少ないし、アビス庁が太鼓判を押したルートだから皆んな安心して通れるの』

『へぇー』

『へぇーじゃなくて、しっかり覚えて!!』

『えー』

『えーじゃない』


 胡桃との授業を思い出しうっすら笑いながら灰は『正道』を目指して歩き始める。

「今はこの辺だから、多分あっちだな」


 バックパックから取り出した地図を見ながら今まで入って探索して来たルートを思い出し逆算した灰は右の通路を歩き始める。


 幸い進む先にモンスターは居らず少し蛇行するなだらかな坂の巌窟の通路を進む。警戒は必要ではあるが、戦闘自体がない為比較的早く進んでいくと一本道になり奥に正道として有名な鍾乳洞坂を発見する。


(暫く連戦だったから今の内に正道に出たいな)


 灰のそんな甘えた考えをアビスは察知したのか2、3メートル先の岩壁が小さく割れて丸い何かが2つ浮き上がってくる。


(ッ!!不味いこれは!!)

 

 モンスターがどうやって増えるのか、それは中のモンスターが生態系を築き繁栄しているからではない。


 灰の目の前にある卵の様な物が個体によって大小様々だが、突如として壁や天井、地面などのアビス内の凡ゆる場所で生え孵化するからだ。


 壁から生えて数秒も経たずして灰の前方にある卵は、中から音を立てて破壊され中にいたモンスターが解き放たれる。


 殻から解き放たれたモンスターの名は石鱗リザード全長1メートル程ある、名の通り石の鱗を持つトカゲだ。壁によじ登り奇襲して来る事もある硬くて素早い手強いモンスターだが、そんなモンスター2体が殻を出て最初にやった事は威嚇行動だった。


「これから帰るんだ。邪魔すんな」


 灰は走り出し石鱗リザードの2体に突っ込み右腕を振り上げる。石鱗リザードも迎撃する気なのか口を大きく開けるが、既に遅く頭上に飛び上がった灰よって頭蓋を叩き割られる。

 

「やっぱり、イッてぇーな!!」


 グローブ越しでも石鱗は硬く右手が少し痛むが、両手で身体を支えて胴を捩り蹴りを入れる。残ったもう1匹の石鱗リザードの首を折る。


「ッーーーーー!!」


 蹴りを入れた左足を押さえながら、痛みに耐える灰は、エーテルに還っていく石鱗リザードを恨めしそうに眺める。


(こいつら、硬すぎなんだよ)


 暫くの間痛みで立ち上がれなかった灰だが、数分もすれば痛みも引いたのか立ち上がり正道の方に歩き始める。


「すげー」


正道にでると鍾乳洞坂があり、有名なだけあってか天然の鍾乳洞が幻想的な空間を作り、疲れていても灰の冒険心をくすぐった。


 そこからは特に問題なく灰は自分以外の多くのパーティを組んだ冒険者達の後に続く形で地上まで登っていき、初めてのアビス探索を終えたのだった。


「カエル臭い」


帰還早々車の中で凛に言われた言葉は、辛辣だった。

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