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Life 夢の軌跡  作者: 伊藤ヲカシ
第1章
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39話 退院と悩み

「先生もう一度言ってください」

「ですから、おめでとうございます。昇階です」

「…おっしゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」

「葉山さん病院なのでお静かに!!」

 位階上昇という待望の診断結果により、病院の診察室にいるにも関わらずハジメは喜びを爆発させる。ハジメを嗜めた看護師さんも言葉は厳しめだが、表情は目尻を下げお祝いしたそうである。


 始末屋デージーの社長花垣トオルとの死闘に打ち勝ち地上に帰還した2人は直様病院に運ばれ、診断結果は2人とも重体。


 怪我の具合から完治には時間が掛かると見られていたが、医者の予想に反して2人の回復があまりに早い為、検査した結果位階が上がっている事がわかったのだった。


 ハジメに関しては一時期命の危機だったのだが、怪我の功名だと診断後から退院日の現在までその喜びの熱は冷めることなく全身を使って大喜びを続けていた。


 無理もない彼にとっては小さい頃から夢である偉大な冒険者になる為、踏み出さなければならない一歩を踏み出す事に成功したのだから。


「もうお兄ちゃん!!此処病院だよ!!うちに帰ってから騒ぎなよ!!ご、ごめんカイ君ウチのお兄ちゃん五月蝿くなかった?」

「…うん」

「カイ君?…って?!お兄ちゃん病み上がりなんだからバク宙しないの!! 傷が開いたらどうすんのさ!!」


 カイの性格ならハジメと一緒に馬鹿騒ぎしてもおかしくないのに大人しく退院準備を整えているのを見て、ニコは首を傾げつつも繰り出され続ける兄の醜態を止めに入る。


 その後ニコの先導の下、3人は病院の駐車場に車を停めていた葉山家の車に乗り込む。


「お母さんお待たせー」

「おっ!!ちゃんと連れて来たねニコ」


運転席で待機していたのは、ハジメ達の母葉山京子だった。京子はニカっと笑いニコに労いの言葉を掛けた後、続いて車内に乗ってくるハジメ達に声をかける。


「おっ、いらっしゃいカイ君久しぶりだねー狭い車でこめんねーでもニコが隣にいるからいいよねー。あっ、あとハジメ退院おめでとう」

「は、はい」「もう!!お母さん!!「えっ、俺雑くない?」


 なんて返して良いのか分からず苦味多めの笑みを浮かべるカイ。その隣で、顔を赤くしてプリプリ怒るニコと最後に雑に扱われたハジメは、兄妹2人して母親に抗議する。


 我が子の講義など意に返さず車のエンジンをかけた京子は、安全運転で車を発進させる。暫くすると車内BGMはひと昔前のラップ混じりのイケイケな曲が流れ始める。


(…イケイケで派手派手だ)

「えっと、ウチのお母さん元レディース総長やってたの」

「…過去もイケイケだった」

「ん?どうしたー」

「なんでもない、です」


カイは思わず背筋を伸ばし、出てしまった言葉を誤魔化していると、京子は話題をハジメの話に変える。


「そっかーじゃあ、ハジメの話聞かせてよー」

「おいやめろ、なんか恥ずかしい」

「なに?あんた恥ずかしい事やってんの?」

「いや、やってねぇけど」

「ならいいじゃん」

「いいんじゃんっておい!!」


 カイは一瞬本当のことを言うか迷ったが、なんか仕事に戻った時も今日の高いテンションでこられると嫌な為、()()盛った話をする事にする。


「ええっと、ではー」

「おいやめろカイ!!なんだその笑みは?!やめろー」


その後カイが喋る度に葉山家の車内では度々ハジメの声が響くのであった。1時間程経ったあと、カイは車から降りて頭を下げる。


「今日はありがとうございました」

「いいのいいの、またお話聞かせてね」

「はい是非!!」


 カイは、ハジメの話を聞けて満足顔の葉山家女性陣と第2位階になったのにも関わらず車に乗っただけで疲弊したハジメに別れの言葉を交わす。


「それにしても本当に此処で良いの?カイ君もうちで退院祝いしようよ」

「すみません。溜まった課題を片付けなきゃいけないので」

「本当いい子!!うちの子にならない?」

「もうお母さん!!ご、ごめんねカイ君またね」

「うん。またね。ハジメもあんまりはしゃぎすぎるなよ」

「もう、そんな元気ねぇよ」


 最後にハジメと軽口を交わした後、パキラのオフィスがあるcoffee cafe白馬の手前で降ろしてもらったカイは、葉山家の車が見えなくなるまで見送りパキラのオフィスに繋がる階段を登り始める。


 入院中もぼやっと考えていたが、漸く1人になった事で色々と考える時間が出来たカイは、階段を登りながら警察や医者に言われた言葉を思い返していた。


『そんな暗い顔しなくても大丈夫だよ安心して。今回の事件は証拠も充分あって完全に正当防衛が適応される。君に何か不利になるような事は無いからね!!』


『こうも短期間で入退院を繰り返されると医者の身としては素直にお祝い出来ません。位階が上がったからと言って過信し、より深くアビスに潜れば今度は取り返しのつかない傷を負うかもしれない。今一度、保護者と話をして穏やかな生活を送る必要があると私は思います』


(そんな事言ったって…俺の手は汚れちまったし、こうする事でしか、金が稼げないんだよ)


 カイは、ふとした瞬間頭の底から湧いてくる人が事切れる瞬間と人1人を手に掛けてしまった罪悪感。更に医者の人達に言われ余裕のある言葉に苛立ちを覚えつつ、オフィスへの扉を開ける。


「あっ、おかえり」

「た、ただいま?」


 ラフな私服姿のリンが、パソコンを打つ手を止めて未だ言われ慣れない言葉をかける。今日は日曜日の為、誰もいないだろうと考えていたカイは内心驚きつつなんとか返事を返す。


「リン?今日休日だろ?なんでいるんだ?」

「私は社長だからな労基は無視できるんだよ。まぁ、そんなことより…なんだ、奢ってやるからちょっとご飯でも行かないか?」


 カイは、いつも頑なに奢るのを嫌がるリンの優しげな言葉に動揺し、その真意が分からず思考を巡らせつつも仕事を切り上げた彼女の後について行く事にした。


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