20話 新米冒険者生活1
灰髪の少年がシアンの体表をした中型犬程の大きなカエル型モンスター、シアンフロッグの酸液を蛇行走りで躱して3匹殴り飛ばすが、4匹目迄には手が回らず後ろに通してしまう。1匹後方にいる新たな仲間に撃ち漏らしが、接近している事を伝える。
「1匹そっち行ったぞ!!」
「わかってる!!『風打ち』」
赤髪の魔術使いは杖の先端を風で纏わせた木製の両手杖をヤンキーが釘バットを振るうかの如く振り回す。風を纏った両手杖の部分がシアンフロッグを吹き飛ばす。
勢いよく吹き飛ばされたシアンフロッグは岩壁に激突し、暫くすると命尽きたのか身体が崩れ、エーテル
に還り始める。
エーテルに還って行く光景を眺めながら赤髪の魔術使いは大きく息を吐き、張り詰めた緊張を解く。
「おっ、2つもドロップしたぞ。ラッキーだなハジメ」
「気抜きすぎだ!!カイ」
アビス、地殻変動と共に東京の新宿に突如発生した天然の迷宮。アビス内部には、尽きる事の無いモンスタードロップ、鉱石、植物を始めとした多くの資源が、眠っている。
そんな人類の新たな資源をアビスから持ち帰る為、探索会社パキラ所属の灰髪の少年灰と同じく赤髪の青年ハジメは、今日も今日とて深度1エリアの浅層を探索していた。
「しかし、4月に入ってもう1週間半だが、本当に間に合うのか?」
「さぁ?、一々数えてたらキリがないから、途中で数えんの辞めちまったもんな。帰ったら聞いてみようぜ」
あのヤクザの事件の後、凛と雇用契約を結んだハジメは、直ぐに冒険者の登録を済ませ、ハジメの風魔術を活かした装備を購入した。
ハジメが先程シアンフロッグを倒す為、風を纏わせていた桃の木から作られた両手杖、『桃杖』を始めとした動きやすく改良された魔術師の服だ。
そして簡単な知識を頭にいれ、4月に頭にはアビスデビューを果たしたハジメは、現在はカイの学校の授業が終わり放課後になれば、バイクで迎えに行き、2人でほぼ毎日アビスに潜るという日常を送っていた。
「それにしてもよ。凛さんは、一体何者なんだ?」
「まだ行ってんのかよ。何者でもいいだろあんな性悪女」
「お前なー、仮にも上司にそんな事いうんじゃねぇ。」
モンスタードロップを回収した2人は巌窟エリアの探索を再開させた。段々とこのエリアに慣れ始め大した怪我をしなくなった事もあり、接敵するまでの間歩きながら雑談する事がしばしばある。
だが、カイがしつこいと感じる程、度々ハジメは凛が何者なのか知りたがっているのだ。
凛の事は信頼してるし、未だ実害が出てないとはいえ、大事な家族がどんな人に守られているのか知りたいという気持がどうしてもあるのだ。
それに家を護衛してもらってる関係で偶にハジメは護衛の黒服の男達とすれ違うのだが、皆只者ではないと感じさせる程の強者である事から純粋に出自が気になるのだ。
「まぁ、機嫌が良さそうな時にでも聞いてみろよ」
「…そうする」
凛の出自などはなからどうでも良いカイに軽くあしらわれ、不満そうな顔をしつつもハジメは一先ずその疑問を胸の内に閉まっておく事にした。
2人はその後も納品リストにあったモンスターを積極的に狙いつつ、自分達なりの戦術と連携、効率を模索してその日の探索を終えた。
2人が探索会社パキラのオフィスに戻ると、電話で対応に追われる胡桃と不機嫌そうにノートパソコンと睨めっこしながら仕事をしている凛の姿があった。
2人は恒例のシャワーを浴びて着替えると、胡桃も電話を終え、凛もキリが良さそうなのを確認してお茶とお菓子を準備し始める。
「御二方お茶にしませんか?」
「ありがとう葉山君、じゃあ貰おっかな」
「うむ。糖分を補給は大切だ!!是非休憩しよう」
ハジメがお盆に乗せたカップとお菓子を配って回りオフィス内がまったりとした空気になる。カイは宿題をしながらアビス内でハジメと話していたモンスタードロップの数を質問する。
「胡桃さん」
「ん?、」
「俺達って今どのくらいモンスタードロップ集めたのか気になって」
「なんだ?自分達で集めたくせに、おぼえてないのか?」
「ウルセェ、お前に聞いたないだろ」
「ププ、バーカ」
「て、てめぇ!!」
途中で凛に弄られ相手にしないよう、カイは、生意気な事を言い突き放すが、結局凛の煽りに耐え切れず怒らされる。といういつもの戯れを他所に胡桃はパソコンに記載された数をハジメに教えていた。
「
モンスタードロップ
・石鱗リザードの石鱗×100 38/100
・シアンフロッグの皮×200 86/200
・ジャイアントスパイダーの糸×5 0/5
・スライムのかけら×160 92/160
採取物
・黄色輝石×3 0/3
とこんな具合だねー」
「もっと頑張らないとっすね」
「うん、でも命あっての仕事だから無茶だけはしないでね」
「は、はい!!無、無茶にならない程度に無茶頑張ります」
「フフッ、なにそれー」
テンパリながら変な事を言うハジメが面白かったのか、コロコロ笑う胡桃。ハジメの方も胡桃の笑顔と変な事を言って笑われた事の二重パンチで顔をタコの様に真っ赤に染め上げる。
((なんて分かりやすいやつなんだ))
戯れ合いを辞めた2人は並んでハジメのわかりやすい恋心を見破り、呆れつつもなんだかんだで社内で好きな人も出来すっかり馴染んだハジメの姿にホッとするのだった。




