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Life 夢の軌跡  作者: 伊藤ヲカシ
第1章
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19話 家族会議



 灰とハジメが葉山家に帰って来るとボロボロの2人を見てずっと帰りを待っていたニコを始めとした兄妹達は狼狽する。


「今までに見た事無いぐらいボロボロだけど大丈夫お兄ちゃん?」

「ああ、かすり傷だ」

「な訳ないでしょ?!手当てするから早く手洗いうがいして!!」


大人しく言う事を聞き手洗いうがいを済ませリビングに入るとダイニングテーブルを境に凛と向かい会うように大人2人組が座っていた。


1人は顔立ちは何処となくハジメに似た顔をした中年男性でもう1人は赤髪の30代ぐらいの女性だ。灰は恐らく2人がハジメ達の両親なのだろうと推測する。

(ハジメの母さん若っ?!えっ本当に6児の母?)


 灰の予想は当たっていたのか隣にいたハジメが両親を見て露骨に顔を歪める。

「母ちゃん、父ちゃん、帰ってたんだ。お帰り」

「ハジメあんた床に座んな」

「はい、」

 ハジメの母親からの命令に近い言葉に不穏な何かが混ざっている事を察したハジメは元ヤンキーなのか疑わしい程従順に従う。

「灰、お前は私の隣へ来い。お前の口から今回の事の顛末を聞かせろ」

「わかった」


 灰は凛の隣に座ると今回の件がどういう経緯で起きて、ヤクザの下っ端を2人を返り討ちにしたのか喋り始めた。


 数分後静まり返えるリビング、皆少し顔を俯き暗い顔をしている。それが、ハジメには今後の葉山家の先行きが悪い事を考えている様に感じる。


「あ、母ちゃん、父ちゃんその俺…」

「お前、身体は大丈夫なのか?」

「へ?あぁ」

「ならいい…一先ずお前が無事で本当に良かった。なぁ母さん」

「当たり前だろ?!私はクソ真面目なあんたがツッパリ止めるって言ったのに連絡もよこさずに変な奴に絡まれたなんて聞いたから心配で心配で」

「か、母ちゃん。泣いてんのか?」

「泣いてないっ!!」

 怒られるだけでなく殴られる覚悟を固めていたハジメの想像とは違い、自分の身体を心配する父と涙を押さえ込めず嗚咽を漏らす母親に心底驚く。


だが、一方で灰の隣に座る凛は頭を抱えて青い表情を浮かべていた。


「ど、どうしよう、報復されるー。私の会社起業したばっかなのに、なんでこんなに壁にぶち当たるのぉー?!」

 いつも冷静で飄々としている凛が今までに見せたことが無いくらい狼狽する姿をみせ、隣にいた灰はいつも困らされている為愉快な気分になる。

「なんでお前ヤクザにっ!!…お前今笑ったか?」

「笑ってない」

「笑ったよな」

「笑ってない」

「笑ってた」

「笑ってない」

 文句を言おうとして、不意に首を横に向けた凛は、口角を上げニヤニヤと自分を見つめていた灰を目撃し、葉山家とは違い一瞬で不穏な空気になる。


「っていうか、お前なんでヤクザに喧嘩売ったんだよ!!」

「お前が連れ戻せって言ったんじゃねぇか」

「ハジメ連れて逃げれば良かっただろ?!」

「しょうがねぇだろ、あっちにも第2位階いたんだから」

「くっぅ、…」


 凄く悲しそうな凛をさて置き、葉山家の内での大喧嘩は起きなかったが、今後の事を話し合わなければならない。何せ相手はヤクザ今も昔もメンツに重きを置く業界だ。当然その報復を警戒し対策を立てなければならない。

 

 リビングのダイニングテーブルでは、凛と灰をゲストに緊急家族会議を開始した。議題はヤクザが所属する組からの報復問題。


 最も簡単なのは、遠くに引っ越す事だとニコが主張し、兄妹達は次々に秘蔵の貯金箱やお年玉を出し合う。ハジメは直ぐに辞めさせようとするが、他の代案が全く思い浮かばず、苦い顔を浮かべるしか出来ずにいる。


 そんな葉山家のなけなしのお金の出し合い合戦は、ゲストによって終わらされた。


「ハジメ君が内の社員になる事を条件に報復に対する強力な護衛をつけます」

「あの、それは具体的にどういう?」

「私の…実家の力を使い家周辺を護衛させます。安心してください。全員位階を上げた精鋭です」

「はぁ?!おまえ、そんな話聞いてないぞ」

「言ってなかったからな。本来頼る気もなかった力だ。私も不本意だが今回は実家の力を借りる」


 灰はもっと追及したがったが、葉山家の中という事もありちゃんとした説明は後に回す。葉山家もハジメを冒険者にするのか、ニコが凛から貰った会社の詳細や雇用の際の色々が載った書類を広げ議論していた。


 ニコの丁寧な説明の下概ね知りたい事が知れた葉山夫妻は、1人今も正座するハジメの方を向き「ハジメ、お前はどう考えているんだ?」と本人の意見を聞く。


ハジメは帰る途中に灰に言われた事を思い出し先ずは自分の事を話してみようと考える。悩む素振りなどせず、両親の顔をじっと見つめ覚悟を決め、自分の考えを言う。


「俺は探索会社パキラの冒険者になって、兄妹達の学費を稼ぎたいと考えている!!」

「「「おっけー」」」

 死傷率が多い職業でお世辞にも安全な仕事とは言えない。その為両親からの批判は免れないと考えていたハジメは度肝を抜かれた表情を浮かべる。


「おっけーって、良いのか?俺のこんな我儘を許して」

「『家族は支え合うもんだ』お兄ちゃんがよく言ってる言葉をそっくりそのまま返すよ」


ニコにそう言われてハジメは自身の家族の顔を見渡す。誰一人不満そうな顔をせず、満足そうな表情を浮かべていた。


 ハジメは18にもなって久しぶり号泣するのだった。

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