12話 スカウト
変革の時が始まって数年後にヨーロッパで起きた事件で、何段も位階を上げた、たった1人の人間に軍の1師団が壊滅させられた有名な話がある。
その他にも上位者に集団が蹴散らされたり半殺しにされた話は数多くあり、世界の常識では数の力は脅威という考えはそのままに、飛び抜けた個は時として数を歯牙にかけないという考えが新たに追加された。
そしてその新しい世界常識が日本にも浸透した変革の時から半世紀ぐらいの時代、再びとある人種が全国的に復活を遂げた。名をツッパリという
流石にリーゼントヘアでは無いが、やる事や立ち振る舞いは完全にそれであり一時世間を騒がせた。何故彼らが復活したかというと、抗争まがいの乱闘を日夜行う化石の様な硬派なツッパリがリンチにあっている時、第2位階に位階を上げてしまった事に端を発する。
位階を上げた硬派なツッパリは、別次元の様に強くなった肉体を得て、街を統一そしてその後も死闘を繰り広げ市や県を統一、その頃には次の位階へ上がっておりもう平警官では止める事の出来ない域にまで達しており、とうとう全国を統一。
子供やお年寄りに優しく強い硬派なツッパリはネット社会で拡散され若い世代のヒーロー的存在へと昇華された。
そんな彼が高校卒業時にヒーローインタビューかの様にスマホを向けられる中で、放った一言「俺の後についてこい」というセリフが一大ブームを巻き起こしツッパリ文化再炎。
残り半世紀たった今、熱は冷めてツッパリ文化が縮小した今でも治安悪い…いやツッパリがいる街は全国各地に根強く残っており、凛と灰が訪れた吉田町もツッパリ文化が残る街の1つだ。
そんな街のとあるスーパーで真面目にレジを打ち笑顔でバイトに勤しむ赤髪の青年葉山一は流れて来た客を見て必死になって読み込んだマニュアルを思い出していた。
彼の前には灰髪金眼の少年と黒髪ロング長身のモデルの様な美女が、半泣きの高校生の襟首を掴みながら2本のコーラを持って来たのだ。
「本当にこの人?」
「はい。間違い無いです」
「よしっもういい、お前は帰れ」
「はい、この度は喧嘩を売ってしまい申し訳ありませんでしたー」
凄いスピードでスーパーの外に出て行ったチャラ男を見送った灰は、レジカウンターの奥にいる赤髪の男に向き直る。
「…」
「…あぁ、俺たちは」
「言うな、わかってる。もう少しで上がらせてもらうから外で待ってろ。」
言いたい事を言ってコーラのラベルを読み込んだ葉山一は、次の客へ対応し始める。凛と灰の2人は顔を見合わせ取り敢えず待つ事を決め、スーパーの前にあるベンチに座る。
数十分後、スーパーのバイトが終わった葉山一が出て来る。彼の服装は、上は赤いジャージで下はスエットパンツ姿でとてもラフでいて素行の悪さが伝わってくる。
「よくこんなの雇ったな店長」
凛がこんないかにもヤンキーな外見の奴を雇っているなと感心するが、葉山には侮蔑に聞こえたのか凛相手にも凄む。
「あっ、テメェ、店長の悪口いうんじゃねぇよぶっ飛ばすぞ?!」
「ん?悪かった。お前の店長は仏の心を持っている」
「えあ?わかればいいんだよ」
「…なぁ、凛本当にコイツと俺組まされるのか?」
「大丈夫だ。胡桃の調べで強さだけは保証されている」
「他の部分は?!」
「なに2人でだべってんだ?!此処じゃなんだから場所は変えさせて貰うぜ」
バイト先の前でスカウトするのもなんだので、葉山の提案を受けた2人は、数分歩いて先にある川の河川敷の下まで来る。
「…河川敷の下なんて俺初めて来た」
「私もだ」
「おいなに河川敷に関心してんだ。やるんだろ?かかってこいや」
2人してドラマやアニメで出て来る場所に関心を示していると、葉山に呼ばれて振り返る。
2人が振り返ると赤のジャージを脱ぎ捨て黒のTシャツ姿の葉山がファイティングポーズを取っていた。
((なんで?))
葉山は2人を自分に喧嘩を挑んで来たツッパリだと考えていた。2人の頭に疑問マークが浮かぶが葉山の中ではチャラ男を締めながら現れた奴が自分に顔を貸せと言ってやる事と言えば喧嘩なのだ。しかし、ツッパリ文化など知りもしない2人には全く伝わらない。
「私達は…お前を舎弟にしにきた」
「ほぉ、この俺をか…」
「なに言ってんの?」
だが、数秒もすれば誤解されているなど誰でもわかる。凛は誤解を解こうと口を開きかけて最高な考えが浮かび止める。
誤解を解くよりこのまま話を進めれば間近で葉山一の戦闘が見れそうだと、一瞬でその考えに至った凛は、邪悪な笑みを浮かべて未だ混乱して訳を1から話そうとする灰を止め、2人を喧嘩させてみる事にしたのである。
「いけ灰あんなヤンキーやっつけろー」
「はぁ?!お前本当なに言ってんの?!」
「御託はいい、構えろ」
「?!」
凛の無茶振りに戸惑う灰だったが目の前で構える葉山一が出す殺気とも違う純粋な闘志が出す何かに当てられ咄嗟に構える。その瞬間葉山が、距離を詰め右の大振りを繰り出す。
灰は難なく右の大振りを受け止めるが、流れる様な動作で回し蹴りが飛んで来てそれを慌てて避ける。
「危なっ?!」
「やるじゃねぇか!!」
続いて飛んで来る拳や足技を第2位階の身体能力に任せて回避する灰は戦い慣れた動きに舌を巻く。そして、技を放つ葉山も雑な避け方にも関わらず未だにまともな一撃が入らない事に驚愕する。(コイツ凄く対人戦闘に慣れてる。喧嘩慣れってやつか!!)
(ガキの癖になんだこの身体能力?!まさか位階を上げてるのか?!)
灰の身体能力の高さから連打では拉致が開かないと攻撃を止めた葉山は距離をとる。
「認めるよお前強いな。位階上げてんだな」
「っ?!」
「動きを見ればわかるさ、お前が第2位階ならこっちも手加減する気はねぇ全力で行かしてもらぜ」
暗に今までは全力じゃなかったという葉山は手を前に出すと「渦巻け」とたった一言喋る。だが、数秒後彼の言葉が嘘じゃ無い事は誰の目から見ても明らかになる。何故なら彼を台風の目の様にして風が渦巻き始めたからだ。
あっけに取られている灰を他所に凛は遠くから胡桃が集めた情報が正しかった事を確信する。
(やっぱり胡桃の情報通りだな。葉山一は魔術使いだ)